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ケンはマーリンからモルガンの居城とその人生とを教わると、すぐに馬に飛び乗って走りだした。彼があとほんの少しでもその場にとどまっていれば、モードレッドは実際には何ともないことがわかったはずだろうが、人が誰かを深く想う心に比べれば、そんなことは些事であろう。それに遅かれ早かれ、モードレッドの寿命のことを知れば、ケンはこうしただろう。
さて、馬を駆るケンは森を抜け、山と谷とを一つ越え、二つ越え、馬を全力で駆けさせたにもかかわらず、日が暮れようかという頃に、ようやくモルガンの住まう城にたどり着いた。城壁はぼろぼろに朽ち、長い年月が過ぎたことと、誰も管理をしなかったことが察せられる。だというのにこういう古い建物にはつきものの、壁に絡みついて天へと伸びる蔦の類は一切見当たらない。せめて緑でもあれば多少はマシな彩りになると思うのだが。灰色の石の壁からは生命の温度を感じられず、ケンは思わずマーリンからの情報を疑ってしまう。
「ここが、モルガンの住む城……。」
ケンはここまで必死に走ってきた友の背から降り、彼を十分に労った。近くの澄んだ湖でたっぷりと水を飲ませ、青草の茂る場所に杭を打ち、手綱を長めに固定してやると、再び城の門の前に戻った。背中に背負った大鍋に、カリバーンの他に持ってきた刀とが当たって音を立てる。本当はもっと日本刀に近いものが欲しかったのだが、とてもではないが時代を先取りしすぎた代物だった。今ケンが佩いているのは、ただ単に細くて薄くなった、安っぽいロングソードのようなものだ。だが在る物で何とかするのはいつものこと、ケンは覚悟を決めて門戸を叩く。
「私はアーサー王の料理人、名をケンという!! モルガン様のご子息、モードレッドのことで話がある!! 誰かいるのなら、この門を開けてくれないか!!」
木製の扉を力いっぱいに叩き、ケンは誰かがいるという望みをかけて声をかけ続ける。マーリンからの情報によれば、彼女は魔術で大抵のことを一人でこなせるため、召使いや兵士といった城には当然存在する者たちまで排除し、孤独に過ごしているのだという。もしどうしようもなければ門をぶち破るつもりでいたが、それをやって心象を悪くするのもいけない。ケンはモルガンを倒しにきたわけではなく、モードレッドを治してもらうために来たのだから。
「―――! 開いた……。」
その気持ちがモルガンに伝わったのか、はたまた自らの
―――そこは、ひどく静寂に満ちた場所だった。人間どころか、ネズミや虫のような小さな命すら感じられない冷たい場所だった。もしモルガンが本当に、ここでたった一人で暮らしているというのなら、精神に異常をきたすのではないかと思うほど淋しい場所だった。
だが決して油断してはいけない。現在のブリテンよりも遥かに神秘が薄く、魔術のレベルが下がった時代であっても、結界二十四層、魔力炉三機、猟犬代わりの悪霊、魍魎数十体、無数のトラップ、廊下は一部異界化という完璧な防御を敷くことが出来るのだ。
爆弾によって儚く散ったそのトラップたちのことはともかく、ケンはこれからこの城を、真っ向から後略せねばならない。はっきり言って無謀―――否、死にたがりとしか思えない。もし本当に攻略するつもりがあるのなら、足踏み一つ間違えてはいけない。
「……マーリン、信じるぞ。」
だがこの男、魔術の知識はゼロである。この城に足を踏み入れることが出来ただけでも喜ぶべきことだが、ここから先どこにどんな罠や仕掛けがあるのかなど、まったく見破れない。ならばどうするか?
「―――ッ!!」
―――真っすぐ、突っ走ったのだ。
一歩目、二歩目までは何も起こらなかった。だが三歩目を踏み出した瞬間、前方から無数の魔術の矢が飛来する。ケンの視界は赤く染まり、その無数の矢が体中を貫き、残らず貫通していった。悲鳴を上げ、倒れ伏すケン。一歩も動くことの出来ない男を見て、魔女は何を思うのか―――。
――――――――――――――――――
「―――何だ? あの男は。」
虫の声すら聞こえない古城。その一室で、妖妃モルガンはピクリと形のいい眉を動かした。彼女は千里眼こそ持たないが、遠見の魔術なら素晴らしい技術を持っている。ブリテン島全てをすっぽりと覆うほどに影響範囲は広く、もし彼女が王であったならば、あらゆる反乱の芽は一瞬で摘まれることだろう。惜しむらくは、現実には彼女こそが反乱を起こす者だということだ。
「……カリバーンを奴が抜いた時、真っ先に仕えんとした者がいたと聞くが、奴がそれなのか?」
彼女が覗き込む水鏡の中には、忙しそうに働く精悍な青年が映っていた。畑を耕し、家畜の世話をし、市場に繰り出しては買い物をする。とてもではないが、重臣の働きには見えない。仮に奴が最初の臣下だったとしても、取り立てて美点もない、普通の人間なのだろう。
やがてその男は厨房へと行き、モルガンが初めて見る野菜を調理し始めた。手際よく行われる職人芸というのは、見ているだけでつい時間が過ぎていってしまうもの。モルガンはつい男によって着々と料理が完成していく様を眺めてしまっていた。
「……こんなことに時間を浪費してしまった。くだらない。」
モルガンは本来の目的を思い出し、水鏡が映す対象をアルトリアに切り替える。あの完璧と呼ばれる王の、ほんの少しでも欠点や弱点を探るのが目的だ。
「……何だ、あれは?」
そこに映ったのは、彫刻のような温度のない顔をした完璧な王などではない。ふにゃふにゃとした笑顔で食事の配膳を眺めている女性だった。それを行っているのは例のあの男であり、手には目で見ているだけで食欲をそそる、美術品もかくやという皿の数々。
(あれが完璧な王……だと?)
目を離すことが出来ないまま、モルガンも配膳の様子を眺めていた。カトラリーをアルトリアの前に並べる男の手に、アルトリアがそっと手を重ねる。それを男はパッと跳ね除ける。
(……王のくせに、拒絶されたのか? 威厳というものはないのか?)
そしてそのまま、何故か男もテーブルの反対側の席に着く。アルトリアが神に食前の祈りを捧げ、男は両の掌を合わせて何かを呟いた。男の方の祈りはすぐに終わったようだが、アルトリアの事を待っているのか食事に手を付けることはしない。最低限の礼儀はあるらしい。
そのまま食事が始まり、アルトリアは男と談笑しながら食事を進める。アルトリアは上気した頬で、男と皿とを交互に見つめ、この世の全ての幸せを享受したかのような気の抜けた顔を晒している。こんな、こんな奴に私はブリテンを奪われたのか。
怒りで指先が震えるのを感じながら、モルガンはさらに厳しく監視を行うこととした。アルトリアと、自分が送り込んだ最も高い駒であるモードレッド。両名の監視を続けていると、衝撃のものを目にしたのだ。
「馬鹿な……!! 何故、あの忌まわしい剣があの男のもとにある……!!?」
そう、カリバーンだ。カリバーンが折れたという噂が流れた時、モルガンはほんの少しだけ、それによってアルトリアが求心力を失わないかと期待した。もっともすぐにエクスカリバーが現れた上、モルガン自身も何らかの対策を予見していたため、落ち込みはしなかった。
だがそのカリバーンが、例の男を選んでいたというのなら話は別だ。実のところ、モルガンはカリバーンに触れたことすらなかったからだ。モルガンが挑む前にアルトリアが剣を抜いてしまい、その話は一瞬にして人々に広まった。もはや誰も、アルトリア以外の王を認める雰囲気ではなかったのだ。
……いや、正確に言えば彼女の王権を認めないものたちはいた。モルガンはそれを大々的に示すことはなかったが、モルガンの夫でありガヴェイン卿やアグラヴェイン卿の父親でもあるロット王をはじめとする12人の王たちなどだ。
だが、モルガンは自らの夫である彼に対し、特に何かをすることはなかった。ロット王がアーサー王に反旗を翻すと聞いた時も。彼がペリノア王と戦い、戦死したと聞いた時も。彼女はただ、『そうですか。』と言っただけだという。人々はこの振る舞いを、夫の死に対して何も感じない冷血だとも、いつ死ぬかわからぬ騎士の妻として、理想的な女性だとも言った。だが、真相はどちらでもない。
モルガンにとって、彼はどうでもいい人間だったのだ。自分の色香に惑わされた、凡百の人間の中の一人でしかなかった。故にもう、覚えていない。鋼のような筋肉を纏った、逞しい腕で押し倒されたことすら覚えていない。ただ彼が常人より遥かに強かったため、子を産む種としてはちょうどよかった。ただそれだけのこと。ロット王が負けたところで何の問題もない。自分の手でキャメロットを崩し、アルトリアから王位を奪い取るまでの事。
―――話を戻そう。モルガンはモードレッドが手に取ろうとしたカリバーンが、男のもとに滑って移動するのを見た。王の資格のない者には決して引き抜けないというあの剣は、男を主として認めているように見える。
(選定の剣が選ぶ人間は、一人だけではないのか……!? もしあの男もカリバーンに選ばれているのだとしたら―――!!)
ひょっとしたら、自分にも王の資格があったのかもしれない。ブリテンを手に入れることが出来たのかもしれない。
いつの間にかモルガンの拳が水面を打ち、水鏡を破壊していた。飛び散った水飛沫で濡れた服が苛立ちを加速させる。
「―――あの男は、アルトリアの止まり木にして王の資格を持つ者。生かしてはおけない。」
ここまで嫌というほど見せつけられた、アルトリアの幸福な生活。執務をこなし、美食に舌鼓をうち、仕事が終われば愛する
そのためにも、あの男。ケンという料理人は、必ず殺さなくてはならない。奴がいるだけでアルトリアの精神が安定する上、王と王妃がそれぞれ不倫をするという仮面夫婦まで成立させている。さらに、アルトリアを斃したとしてもあの男が蜂起する可能性がある。カリバーンを掲げれば、求心力は十分だろう。
「料理人というお前の人生に、ふさわしい終わりをくれてやろう。 ―――“内側から」
呟きながら、モルガンは左手の掌を宙に向ける。すると手のひらの上に、ぼうと赤黒い光球が現れた。
「―――壊れる”」
光球を握りつぶすと、まるでトマトが潰れたような音と共に、大量の血が噴き出した。これはモルガンの行使する魔術の中でももっとも簡単な部類のもので、対象の体の中に魔力の爆弾とでも言うべきものを仕込み、爆破することで内側から爆裂させるという凄惨な殺し方だ。
並みの人間ならば―――いや、並みの魔獣ならばこの程度の魔術でも確実に仕留められる。そこらの魔術師が組んだ防御ならば、あっさりと突破してのけるだろう。だが、水鏡の中に映るケンには、何の異常も感じられない。
「―――やはり、防御の術式はかかっているか。マーリンが向こうにいる以上、その可能性は把握していた。」
そう、ほとんどの敵を何の危険もなく葬り去れるであろうこの魔術による攻撃すら、モルガンにとっては小手調べでしかない。なにせ、相手には魔術師の頂点にして自らの師、マーリンがついているのだから。腹立たしいことに――――本当に、腹立たしいことに、マーリンの魔術は一流という言葉では言い表せないほど完成されている。キングメーカーである奴はおそらく、ケンをアルトリアのバックアップにしているであろう。であれば、魔術による暗殺に対する防御も察しがつく。
「まあいいだろう。奴を殺すチャンスなどいくらでもある。それこそ、自分からやってきてくれるようだしな。」
床にこぼれた誰のものとも知れない血を、魔術によって温度もなく蒸発させながら、モルガンは呟いた。彼女の見つめる水鏡の先では、ケンが急いで馬に乗っている。走り出した方角と、突然倒れたモードレッドから判断して、おそらくはこの城を目指しているのだろう。
「城の防御を突破してここまでたどり着いたのなら、私が直々に殺してやろう。 ……ああ、なんだか楽しくなってきた。私の城、どうか楽しんでくださいね? 久方ぶりのお客様―――。」
魔女は声もなく、ただ口元だけで笑った。その笑顔が嘲りを含んだものなのか、それとも無垢なるものなのか。誰にも、知りようはなかったのである。
―――――――――――――――
「かっ……! く、ぁああぁぁああっ……!!」
石でできた冷たい階段の上。ケンは今、殺虫剤を噴霧された虫のようにうずくまって呻いていた。その理由は単純、モルガンの魔術をもろに喰らったからだ。
「いき、てる……!! う、生きてる……! 俺はまだ、生きて……!!」
体中に魔術の矢を受け、ケンは全身に穴を空けられた痛みにもだえ苦しんでいた。だが、その体から一滴として血は出ていない。マーリンの言葉を思い出し、何とか段階を踏みながら立ち上がった。
「『君に魔術は効かないよ』か……。真実で嬉しいが、出来れば後半部分は間違ってて欲しかった……。」
ケンはモルガンの城に来る前、一つの助言を受けた。その時の言葉をすべて、以下に記すとしよう。
『ああ、モルガンの魔術は超一流だとも。でも心配いらない、君に魔術は効かないよ。』
『私にプライドなんてものがあったとしたら、君のことが憎くて仕方なかったかもしれないけど、まあ無いからね。だけどモルガンにとってはそうじゃないかもしれないから、そこは重々気を付けてくれ。』
『ああそれと、魔術が効かないとは言ったけど、それは“傷つけることが出来ない”という意味だ。魔術によってけがを負ったり、死ぬことはないと断言できる。まあ、喰らったら死ぬほど痛いと思うけどね。』
「文字通り、死の痛み……。何度も喰らえば、痛みでショック死するかもしれないな……。」
ガクガクと震える足と、痛みを恐れて逃げようとする弱い心に鞭を打ち、ケンは再び前に進む。そこからは本当に地獄と言えた。死霊魔術で作られた骸骨兵たちはまだいい方で、網目状のレーザーで出来た壁のようなものが迫ってくる回避不能のトラップや、魔術の矢と物理の矢が入り混じった矢の雨など、殺意をひしひしと感じる罠たちを時に躱し、時にその身に受け、のたうち回った。
それでも彼はただひたすらに前に進んだ。罠が苛烈さを増す度に、これはきっとモルガンのもとに近づいているのだと考え、軋む足を前へと進めた。焔に身を焦がされては倒れ、雷をその身に受けては声も出せぬ痛みに悶えた。
ケンは何度も、何度も、自分の体から鮮血の噴き出す幻影を見た。自分の体がありえない方向に曲がっている激痛を見た。実際には何ともない体に、どちらが真実なのかわからない、根源的な恐怖を見た。
それでも、それでも彼は前に進んだ。幾度となく死の痛みを感じながら、それでも彼の足は止まらなかった。その苦悶に満ちた道行きは、孤独な魔女の心に届くことはなかったが、一人の気楽な花の魔術師の、興味を引くには十分すぎた。
――――――――――――――――――
「おやあ? 別のボクがやけにご執心な子がいると思ったら、いつの間にか面白そうなことをしているね。ちょこっと調べさせてもらおうかな。」
「ふむふむ? モードレッドを短命の定めから救うために、モルガンの城に単身乗り込んでいったと……。え、何それ面白すぎない? それであんな、何度も何度も死に至る罠にかかって悶えてるんだ。」
「あ、今度は極寒の冷気の中に放りこまれた! ひどいな、北極なんか比じゃないぞ! さっき業火に巻かれたばかりだっていうのに、あっちのモルガン君は容赦ってものを知らないのかな? まあでも、熱さの後に冷たさっていう芸術点は高いよね。100マーリンポイントをあげよう。そしてそれを喰らった苦悶の表情の君には4500マーリンポイント!! そこから止まらずに歩き出したことでポイント倍だあ!! 10000マーリンポイントでボクがストーカーになるから頑張ってね。」
「冗談はさておき、これは中々どうして、性癖にクリーンヒットする子がいたものだ。しかもこれ、えーすごいな!
「マーリン? さっきから一人で、何をぶつぶつ言っているんだい?」
「大したことじゃないよ、アーサー!! ……これはしばらく、退屈しないで済みそうだね。今は別のボクが一緒にいるから顔を合わせにくいけど、彼が死んだら会いに行くのも面白そうだ。」
―――――――――――――――――――
ケンは進む先で部屋を見つけてはノックをし、返事が返ってこなければドアを開けた。外れのドアを引くたびに罠が作動し、ケンは死の痛みを味わった。酷く非効率な方法だったがしかし、それしかケンには手段がなかったのだ。
「……諦めない、諦めないぞ。必ず、会うんだ……。」
満身創痍になりながら、なお傷一つついていないケン。体はなんともなくとも、精神はボロボロになってしまっている。それでもすがりつくように扉に手をかけ、ほとんど倒れ込むようにノックを行った。
――――そしてようやく、待ち望んだその声が聞こえた。
「―――よくここまでたどり着きました。入りなさい。」
「――! やった……! ついに、見つけたんだ……!!」
涙ぐみながら、ケンはドアを開いた。その先にいるのがどんなに恐ろしい人物でも構わないと思った。ケンの城の探検は、ここでようやく終わりを迎えることが出来たのだ。
―――だが、それが良くなかった。扉の先に待ち構えるのは、歴史に名を残した
「―――え?」
ケンが見たのは、こちらを向いている無数の剣。湖の穢れた部分だけを掬ったかのような、本質的な嫌悪感を感じる色の魔力で構築されている。そして何より、今まで見てきた中で最も冷たい、絶対零度の瞳。
「―――簡単に終わらないように。」
モルガンの手がひときわ大きく輝いたかと思うと、武器たちが一斉にケンに向かって飛来する。いや、それだけではない。撃たれた次から次へと補充され、ケンの肉体を貫き続けていく。魔力の炸裂する轟音はあるべき悲鳴をかき消し、ただ苦痛だけを押し付ける。
―――そこにあるのはまさしく、圧制だった。民草の声に耳を傾けることなく、ただ自らのやりたいように行われる政。ようやく全ての武装が撃ち込まれたとき、そこにいたのは男ではなく、無数の武器が撃ち込まれた剣山。もはやケンの姿などどこにも見えず、おぞましい雰囲気だけを感じる物体であった。
「―――心配せずとも、本気ではありません。」
モルガンは先ほどまでの冷たい声とはうって変わって、ひどく楽し気な声を発した。まるで少女が、新しいおもちゃを手に入れたかのように。
「久しぶりのお客様で、浮かれてしまったようです。まだ聞こえているかどうかはわかりませんが、次が最後です。安心して喰らってくださいね。」
「では―――」
ニコニコと笑顔を浮かべたまま、モルガンは再び手を掲げた。見れば、剣山の上から一際巨大な槍が迫っている。目を凝らせばわかることだが、その槍はかの聖槍・ロンゴミニアドに瓜二つだ。
「―――堕ちよ。」
最終通告が為され、穢れた聖槍が剣山を貫く。それに反応したかのように、全ての武装が光を放ち、轟音と共に爆裂した。その爆風からモルガンは障壁で身を護りつつ、物体があったはずのその場所を見つめ続けた。普通の人間なら―――いや、もはや円卓の騎士たちでさえも葬りかねないその猛攻を受けたのだ。もはや原型を留めるどころか、塵一つ残らなかったとしても不思議ではない。
―――それは、果たして喜ぶべきことなのだろうか。
「―――流石に私も驚きました。いくら工房を破壊しないよう手加減していたと言っても、あれを受けて肉の形を留めますか。」
「あなたは、やはり――――ただの人間ではないようですね。」
ケンは、何も答えなかった。体中に血は滲んでいたが、自分のすぐ側で爆発が起きたとは、到底信じられないほどの軽傷だった。彼が何も言わなかったのは痛みのショックで気絶していたのか、それとも自分の体の変化に呆然としていたのか。物言わぬ口の代わりをするかのように、心音だけが空しく響き渡るのであった。
「いやあ、あれはひどかったですねえ。死ねないのが逆に辛くて、終わりがないんですよね。」
「……。」
「そ、そのように思いつめないでくださいマスター。今の私はほら、ピンピンしてますし……。」
「私の姉が、本当に……。こうして目にするとまた、新たな感情が湧き上がってくるものだ。カルデアに召喚されたらただじゃおかないからな。」