“ケン”という男の話   作:春雨シオン

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 時系列とか無視して書きたいシーンばっかり書いてるけどまあ、これから特異点修復とかも待っとるわけじゃし………ま、是非もないヨネ!

 感想・評価・ここすきなどしていただけるとパワーになります!よろしくお願いします。


信長の話 其の四:鯨の竜田揚げと京野菜のオードブル

 さて次は……げ、あの将軍の話か。あんま気乗りせんし、先にサルとかミッチーの話をしとくかのう!

 

 サルの話は今更言うまでもないじゃろ?有能な家臣じゃし、くだらない冗談とかも言うしで、中々ワシのお気に入りじゃった。家臣団にもすぐに取り入ったし、ケンの有用さにもすぐに気づきおったわ。ま、一回殺すかとも思ったんじゃけどネ!

 

「え何で?今の流れでどうしてそうなんのか全くわかんないんだけど。」

 

「うむ、それがのう。ワシとケンの仲に嫉妬したのか、それとも出世の邪魔になると思うたのか。ニコニコ笑顔の裏で、殺意がチラチラ見えとったわ。まあ結局、ケンはワシと違って人畜無害な男じゃし、利用した方がいいと気づいたんじゃろうな。それからはもう半ばリアクション芸人よ。ケンもケンで突拍子もないことやりだすから、サルの奴も愉快な反応を見せたもんじゃ。」

 

「へー!なんか今のケンさん見てるとそんな風には見えないけど。」

 

「……若気の至りですよ。」

 

「ふふ、マスター気になるか?気になるじゃろう?そんじゃ、ケンの家臣団に出しおった料理のことを話してやろうかのう!」

 

 

―――――――――――

 

 

 

「あんのクソ将軍!!下手にでてれば調子に乗りおってクッッッッッソ腹立つ!!!」

 

「の、信長様……。誰かが聞いているとも知れませぬ。どうか、気をお静めに……」

 

「やかましいわ!!何言っとるのかさっぱりわからんし、イラつくだけじゃからさっさと下がれ!!」

 

「は、はっ……。」

 

 

 信長は、荒れに荒れていた。天下取りにその威光を利用するため、足利義昭を立てて幕府を再興したまではいいものの、その義昭は信長に高圧的に接し、明らかに見下しているのが分かっていた。信長も機嫌を損ねるわけにはいかず、ひたすら平身低頭してへりくだっていたため、彼女のストレスはマッハで溜まっていった。

 

 

「信長様。荒れておりますな。」

 

「ああ!? ……なんじゃミッチーか。というかそもそも!!お主の方からもあのクソ将軍を何とかせんか!仲介をやったんじゃから、その後の面倒もしっかり見んか!!」

 

「申し訳ありません!この光秀の不徳の致すところにございます!!!」

 

 

 冷静に考えて信長の怒りはかなり理不尽なものだが、この叱責された男……明智光秀にとっては、それすらも己の不手際であった。心の底から信長に心酔し、このお方のためなら自分の命どころか日の本の人間すべてを殺しつくしてもいいと考えるほどだった。

 

 

「ですが、ケンより菓子を預かっております!!私が依頼をした品でございますが、どうぞお召し上がりを!!」

 

「む、菓子、菓子か……。チッ、あやつもワシの事をよく知っておるわ。」

 

 

 呟きながら、信長はケンが作ったクッキーを口に運ぶ。彼女はクリームやカスタードといった、シンプルな甘味を好んでいたのだが、今それを出すと食べるのに失敗した際、キレて家臣の一人や二人斬りかねないというケンのファインプレーだった。

 

 

「……もうよい、下がれ。」

 

「はっ!」

 

 

 光秀は返事をしつつも、心の中では嵐が吹き荒れていた。なにせ、生来真面目が服を着ているような実直な性格である。主君の怒りを鎮められないことを、心の中では非常に不甲斐なく思っていた。

 

 

(―――こうなれば、ケンにまた頼るしかあるまい。)

 

 

 そう思いながら、彼は厨房へと歩みを進める。彼は“信長様の一番の理解者”になりたいと常々感じており、そのためにケンから学ぶべきことは多いと考えていた。そのため話を聞くことに飽き足らず、自ら包丁を取って料理を習い始める始末だ。……自分のやるべき仕事はしっかり終わらせてからこれだというのだから、やはり真面目な男である。

 

 

「ケン!ケンはいるか!」

 

「光秀さま、どうなさいましたか?ひょっとして、クッキーはお気に召しませんでしたでしょうか。」

 

「いや、そんなことはない。信長様は、表面上は怒りをお収めになられたが、やはりイライラが隠せていらっしゃらない。本来は私が何とかするべきことなのに……。情けないことだが、なんとかならぬか。」

 

「……それはやはり、将軍様がらみのことでしょうか。」

 

「間違いなく、な。私とて、奴を何度斬りたいと思った事か。」

 

 

 話を聞いて、ケンは考え込む。やがて、何かを思いついたようで、彼は光秀に一つの質問をした。

 

 

「―――光秀さま。」

 

「なんだ?」

 

「信長様のため、その身も心も捧げる覚悟はおありですか?」

 

「わかりきったことを聞くな。当然だ。」

 

「―――では、お願いがございます。」

 

 

 光秀に何かを話すケン。それを聞いた光秀は思わず正気かと聞きなおしてしまう。無論です、と力強く頷き、ケンと光秀はその時に向けて準備を始めた。

 

 

 

「――――で、これは何じゃ?」

 

 

 

 これ以上ないくらい冷たい目をした信長が、一堂に会した家臣団をにらみつける。いや、正確に言えば主催の光秀を、だ。

 

 

「はっ!信長様に長旅のお疲れをとっていただこうと、私が食事会を執り行わさせていただきました!珍しい食品も多数ご用意しておりますので、お楽しみいただけるかと……!!」

 

 ただ単に理由を説明しただけだというのに、物凄い緊張感である。信長の気一つで光秀が斬られたとしても何もおかしくないほどだ。

 

「い、いやあそれは楽しみにござる!!光秀さまの忠誠と言ったら本当に目を見張るものがあるでござるなあ!!」

 

 空気を払拭するため、努めて秀吉が明るい声をだす。ギリギリのところで信長は踏みとどまったのか、機嫌が悪そうに『うむ』とだけ頷いた。

 

「それでは、料理を持ってこさせましょう。ケン!」

 

「失礼します。」

 

 恭しく礼をしながら、ケンが配膳をする。目を引くのはやはり、たくさんの小皿に囲まれた中心の大皿だ。それぞれの膳に同じように並べられたそれからは、どうしても何かの意図を感じさせた。

 

 

「―――ケン、皆さまに料理の説明を。」

 

「はい。それでは、一皿ずつ説明させていただきます。」

 

 

 ケンがそう宣言してから始まる、料理の説明。この皿はザワークラウト、これはオムレツといい、と次々に興味深い話が為されていく。しかも、どの料理にも京野菜が使われているという嬉しい情報もあった。しかし、目の前に肉を置かれた凶暴な獣を想像していただきたい。獣はお預けをくらい、一体どんな想いであろうか。

 

 

「……くどい!!ケン、お主何のつもりじゃ!!」

 

 

 正解はこうである。だが、ケンはそれにもひるまない。

 

 

「では、最後の品。中心の最も大きな皿にございます。こちらは『鯨の竜田揚げ』です。」

 

「鯨はわかるが……た、竜田揚げとはなんでござるか?」

 

「竜田揚げとは、肉にしょうゆやみりんといった調味料で下味をつけた料理です。そのおかげで肉の臭みがなくなり、非常に食べやすくなります。」

 

 

 しょうゆ?みりん?と家臣の間にざわめきがおこるが、知らないのも無理はない。なにせ、ケンが来た頃にはまだ醤油がなかったからだ。ケンは味噌の上澄みを醤油の代用品として使っており、これがあるのとないのとでは風味やコクが段違いである。

 

 

「そして、鯨という食材にも意味がございます。昔から鯨は捨てるところがないと言われるほどに()()()()()()()動物です。現に、皆様の箸置きも鯨の骨を加工したものとなっております。」

 

「鯨の周りを囲む京野菜の料理も、中心の鯨も。皆さんならば完食していただけると思っております。―――それでは、どうぞお召し上がりください。」

 

 

 手を付ける者は、誰ひとりとしていなかった。ケンの説明から、あまりにも『何かある』という匂いを感じるからだ。その臭さは料理の良い匂いを帳消しにするのに不足はなかった。

 

 

「く、ククク……。ふはははは!!」

 

「!?」

 

「の、信長……様……?」

 

 

 突如大笑いを始めた信長に驚きを隠せない家臣団。ケンは眉一つ動かさないが、どこか嬉しそうな雰囲気が漏れている。

 

 

「ケン!!やはりお主、ワシの一番の理解者よ!惚れ直したわ!!」

 

「ありがとうございます。」

 

 

 あまりに言葉が簡略化されたそのやりとりに、周りはポカンとした表情を隠せない。

 

 

「では、ワシは完食させてもらうとするか。肉も骨も、しゃぶりつくしてくれる。」

 

 

 そう宣言し、勢いよく食事を始める信長。周りもようやくその意図に気づいたが、やはり箸は動かない。いや、動かせない。

 

 

(こ、これは………()()()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 

 京野菜に囲まれた皿は幕府に守られている様を示し、真ん中の鯨は将軍を示す。おそろしいのは将軍を鯨になぞらえていることだ。先ほどケン自身が説明した通り、鯨は肉だけでなく、油・皮・骨・ひげなど、ありとあらゆる部分を利用される。つまり、ケンは暗にこう言っているのだ。

 

 

『将軍の皮の一枚、骨の一片に至るまで、我々が利用しつくしてやる』と。

 

 

 それを理解したからこそ、信長は真っ先に食事を開始した。この時点で信長にとって将軍とは、へりくだりこびへつらわなくてはならない人物ではない。ただ単に、おいしくいただくための“食材”になり果てた。

 

 そしてその問いは、家臣たちにも同時に投げかけられているのだ。将軍を喰らう覚悟はあるかと。京を堕とす覚悟はあるかと。この膳に手を付けるということは、幕府や将軍に弓を引くのと同じ意味であるのだ。

 

 

「そらケン、お主も食べるじゃろ?」

 

「―――はい。いただきます。」

 

「んなっ!?」

 

「そうかそうか!流石ワシの惚れた男よのう。よっし、それじゃワシから褒美あげちゃう!ほれ、あーんじゃあーん。」

 

「あ、あーん………」

 

 

 目の前で睦まじい夫婦のようなやりとりを見せられ、家臣団は絶句する。当然、二人の行為が痛いからではない。一介の料理人が、将軍を敵に回す事に躊躇なく合意したからだ。これでは自分たちの立つ瀬がない。

 

 

「……ワシは食べる!!裏切りを許していただいたあの日から、ワシの主君は信長様ただ一人!!幕府将軍何するものぞ!!」

 

「そ、その通りでござるなあ!そ、そそそそれがしも、いただく……とするで……ござる………。」

 

 

 柴田勝家、そして木下秀吉。両名の宣言から波が家臣団に伝わり、最終的に全ての家臣が鯨を完食した。それを見ながら、黙々と食べ進めていた光秀は改めて信長という人物に打ち震えていた。家臣が将軍を斃すことに乗ったのは信長が主君だからではない。信長が信長であったからだ。後世にカリスマと呼ばれるこの力は、光秀の心を掴んで決して離さなかった。

 

 

「のう、ケン。お主、まっことワシ孝行じゃな。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

 食事を終えた信長は、ケンにしなだれかかる。

 

 

「……信長様?」

 

「………お主の言う通り、ワシももういい年じゃ。」

 

「……そのようなことはありません。」

 

「ケン。」

 

 

 いつになく真剣な瞳。信長の真っ赤な目は、ケンの瞳を捉えて離さない。いつもと違い、潤んで見えた。

 

 

「いつまでも、待たせるな。ワシは……ワシは、お主しか考えられん。お主以外など、死んでも御免じゃ。故に、じゃ。……今日、待っておるぞ。」

 

「……わかりました。」

 

 

 二人の手が、膝の上で握られる。その手がいつの間にか指同士を絡めたものになっていることに、誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

「ノッブ大勝利じゃあ!!所詮幕末のクソ雑魚人斬りサーの姫になんぞ負けるわけないんじゃが!じゃが!」

 

「……ノッブ。」

 

「ん、なんじゃマスター?ワシのウイニングランにお主も並走希望か?まあでも、ワシとケンは最初から最後まで一緒に走るわけじゃけど!なにせ心と体で結ばれた仲、是非もないヨネ!」

 

「あれ、あれ。」

 

「なんじゃもう……ん!?」

 

「……ケンさん。」

 

 そこには、完全に光を失った目をした沖田がいた。刀を抜き、自分の首筋にあてている。

 

 

「私、ね?シたことないんですよ。ずっと剣の事ばっかり考えてきて。女の幸せなんて、知ろうともしなくて。……やっと恋のことを自覚したのも、死ぬ前なんです。そりゃそうですよね。こんな、こんな化け物には……お似合いの結末ですよね……。」

 

 

「沖田………。」

 

 

「やっと……やっと、大好きな人と再会できたと思ったら、その人は他の人と結ばれた後なんて……やっぱり、私化け物だったんですね。恐ろしい怪物から逃げ切って、綺麗なお姫様と結婚するための噛ませ犬だったんですね。」

 

 

「―――わた、私が!人間になれるなんて!付け上がりだったんです!!」

 

 

 涙で大きな瞳をいっぱいにしながら、沖田が悲痛な叫びをあげる。立香が声をあげようとするより前に、ケンが沖田にとびかかる。一瞬で刀を奪って制圧すると、沖田を力いっぱい抱きしめた。

 

 

「違う!そんなことはない!!沖田は、お前は必死に人間であろうとしたじゃないか!それを卑下するな!お前の頑張りを、お前が否定しないでくれ!」

 

「ケン、さん……。」

 

「……お前の頑張る姿が好きだった。病で普通に生きるのも辛いはずのお前が、それでも頑張って生きるのが、この上なく尊く思えた。……俺はお前に、勇気をもらっていた。お前は俺がいたから生きられたっていうけど、それは違う!お前がいたから、あの時の俺は生きられたんだ!お前が必死に頑張る姿が頭の中にあったから、俺も最後まで侍であることが出来たんだ!!」

 

「私のこと、好きですか………?」

 

「ああ!すごく感謝している!!」

 

 

「えへへ、よかったあ……。」

 

 

 沖田がようやく、ケンの背中に腕を回して抱きしめ返す。絵面だけ見れば感動的なシーンだ(パート2)。だが、ケン以外の全員が確かに見たのだ。一瞬だけ信長の方を見て、頬をゆがませた沖田を。

 

 

 ―――瞬間。

 

 

 人々の動きは、真っ二つの陣営に分かれた。沖田の顔をふっとばそうと即座に火縄銃を展開する信長と、なんならケンごと沖田を刺し殺そうとする信勝。沖田の幸せを守るため、即座に抜刀する土方と斎藤。立香、マシュ、そして龍馬は、完全に中立になった。ここですぐに令呪の準備が出来た立香は、優秀なマスターであると言わざるを得ない。

 

 

 結果的には、その令呪が切られることはなかった。

 

 

「ここから濃密な戦の匂いがします!!戦と言ったらこの軍神お虎さんも混ぜなさーい!!」

 

 

 『越後の軍神』長尾景虎。彼女もまた、ここカルデアに召喚され、飲酒あり戦ありの軍神ライフを満喫していた。いきなり部屋に飛び込んできた彼女に流石の沖田も驚きを隠せず、ケンを抱きしめる手を離し、二人は離れた。

 

 

「って、あーーーーっ!!ケンじゃないですか!あなたもようやく私のもとに仕える気になったのですね!あのつるぺたうつけなんてほっといて、今から私の部屋でしっぽりですよ!」

 

「か、景虎さま……お久しぶりです。」

 

「もう!そんな風に堅苦しい呼び方しないでくださいって、生前に言ったじゃないですか!ほら、なんて言うんですか?」

 

「お、お虎さん……。」

 

「キャー!やっぱり覚えててくれたんですね!私いま、すっごく嬉しいです!ゴロゴロニャーン!」

 

 

 ひとしきり騒いだ後、景虎はまるで猫が飼い主に甘えるように、ケンの膝の上に座る。167cmと女性にしては大柄な景虎だが、彼女は何も気にすることなくケンに体をこすりつけて甘える。まるで、()()()()()()()()()()()とでも言うように。

 

 

「……ケンさん。」

 

「どうやら、話してもらう必要があるみたいじゃな?」

 

「……は?信長如きと人斬り風情が何の用ですか?」

 

 

 まさかの3人目。ケンはいよいよ、胃に穴が開くのを覚悟し始めた。もっとも、すべて自分が蒔いた種であるのだが。




「そういえば、ケンさん的に将軍様に弓引くの抵抗あったんじゃないの?」

「いえ、家茂さま以外将軍と思ったことはないので。」

「思ったより思想強めだった……。」
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