“ケン”という男の話   作:春雨シオン

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 今回、試験的にフォントを使ってみました。もし虫食い部分とかがあったら怖いですけど、しっかりチェックしたのでもーまんたい! ……なはず!

 あ、あとまったく関係ない話なんですが、評価のバーがありがたいことに真っ赤になっておりました。皆さんの応援のおかげです。本当に感謝しております!

 感想・評価・ここすきなどしていただけると力になります!


景虎の話 其の二:とびうおのムニエル ???

 むかーしむかしのお話です。あるところに、とても強い龍が住んでおりました。龍は自分の周りに住んでいる人たちが怖がっているのを見て、どうしたのだろうと思いました。辺りを見回せば、恐ろしく強い虎や凶暴なマムシといった怖い生き物たちが、自分の住処を広げようと争っています。それを見て龍は思いました。

 

『なるほど、この強い生き物たちが原因なのか。なら、守ってやろう。』

 

 龍は時に火を吹き、時に雨を降らせ、人間たちをよく守りました。人間たちは口々に龍のすばらしさや強さを称え、感謝の気持ちをこめた贈り物をしました。

 

 ですが龍は、ちっとも嬉しくありませんでした。当然の事だからです。ただ、納得だけがありました。『自分が彼らによいことをした。だから彼らは感謝した。それだけだ。』それだけとしか、思いませんでした。

 

 

 

 龍はそれからも、人々を助け続けました。人々の龍に対する感謝はますます強くなり、とうとう龍は神様になりました。たくさんの人々が龍の行いを称え、龍の戦いを畏敬し、龍の発言に酔いしれました。龍は『それも当然だ』と思いました。

 

 

 

 

 ある日、龍のもとに一人の男がやってきました。男は龍を見て、大きな声で言いました。

 

『龍神さま、そのように酒を呑んではいけません。お体に障りまする。もしご不満ならば、俺がふさわしい料理を作って差し上げます。』

 

 人々は怒って口々に男を罵りました。『龍神様に失礼な奴だ!』『お前なんて斬り殺してやる!』ですが、龍神はひとまず男に料理を作らせてみました。

 

 するとどうでしょう、男は見たこともない技術を使って、すばらしい料理を作って見せたのです。龍神は、何かをおいしいと思うのは初めてのことでした。男は龍神を見てにっこりと笑い、お気に召しましたかと聞きました。龍神はひとまず男を自分の近くに置き、自分のために料理を作らせることにしました。 

 

 

 

 

 

 

 

「私……ですか?」

 

 ケンは思わず尋ね返してしまうが、これは無理もないことだ。なにせ、織田と上杉というあまりにも大きく重要な同盟を結ぶ条件が、自分の身柄だというのだから。

 

「はい。あなたです。……まさか、断りませんね?」

 

「そういうことでしたら謹んで承ります。ですから、同盟の方は何卒……」

 

「! ええ、ええ!しっかりと、結ばせていただきましょう。」

 

 長尾景虎は笑った。今まで見せたことのない、心からの笑顔であった。そしてその後、ケンは子細を秀吉に報告するも、ここでもひと悶着あった。当然、秀吉に泣きつかれたのだ。『お主がおらんかったら某信長様に斬られちゃうでござる~』というあまりにも情けなく、そしてあまりにも同情を誘うその涙には流石のケンも揺らいだが、結局は同盟の重要性を優先し、ケンは上杉家に残ることとなった。お詫びに怒りをなだめるための保存のきくお菓子を山ほど作り持たせ、秀吉は信長のもとへ帰るのであった。

 

 

 

 そして現在、ケンはというと……

 

 

「ケン~~?今日のご飯は何ですか?」

 

「かげと……お虎さん。あまりそういう猫なで声を出していると、家臣の方々に誤解されてしまいますよ。それから包丁を使っている時は危ないので、くっつかないでください。」

 

「えー、そんなこと言わないでくださいよ。今日は公務ばっかりで、ケン成分が足りないんです!あなたの言うまぐねしうむとかよりも、私にとってはケン吸いの方が健康にいいんですよ!ほらほら、私の体が心配なら大人しくしてて下さい!」

 

「はあ……そんなものですか。」

 

 

 ケンはすっかり虎から家猫と化した景虎にひっつかれながら、何も考えないようにしていた。少しでも意識を料理以外に向けてしまえば、自分の背中に押し付けられる柔らかさや、うなじをくすぐる吐息に反応してしまう。それだけはダメだ。俺はまだ、ねこまんまになるわけにはいかない。ご飯に味噌汁をかけたあの素朴な味を思い出す事だけに集中しながら、ケンは急いで料理を行う。

 

 

「おっ!いい匂いがしてきましたね!これは何ですか?」

 

「今日はいいトビウオが入ったので、とびうおのムニエルです。オリーブオイルの代わりに椿油を使ってみました。」

 

「とびうお!いいですね、早く食べましょう!」

 

「はい、それではお持ちします。」

 

 

 ケンは丁寧に膳を運び、景虎はその後ろをいかにもご機嫌といった様子でついて行く。部屋に入り、ケンは配膳を終えると出て行こうとする。だが、またも手を掴まれてしまった。

 

 

「もう、いつになったら覚えてくれるんですか?あなたがお酒を控えろっていうから、あなたにお酌をさせているんですよ?」

 

「……やはり、俺がやるのですか。」

 

「当たり前です!たくさん呑めないのなら、その分質を高めないといけないでしょう!」

 

「……まあ、そういうことならお付き合いします。」

 

 

 ケンは了承し、景虎の隣に正座する。ようやく彼女も満足したのか、機嫌よく酒を煽る。越後名物のとびうおはやはり美味く、ついつい酒が進みそうになる。だがケンはあくまでゆっくりと酒を注ぎ、景虎の酒量を調節する。少しだけ不満だったが、ケンの横顔を見ているとまあいいかという気になった。

 

 

「……ふう、今日も美味しかったですねえ!それじゃあケン!わかっていますね!」

 

「はい。まあ、じゃあ、どうぞ。」

 

 

 景虎はケンの正座した膝に頭を乗せ、甘えるようにごろんと寝転がった。嬉しそうに頭をこすりつけ、にゃーんと甘えた声をあげる。ケンは躊躇いがちに、その頭をゆっくりと撫でる。

 

 

「ふふ、幸せですね。」

 

「……左様ですか。」

 

「はい。まさか、戦い以外にもこんな幸せがあるなんて思いませんでした。これも、ケンがいてくれたおかげですね。」

 

「それはようございました。私の貧相な膝でよければ、いくらでもお貸しいたします。」

 

「あっ、いいましたね!じゃあ今日は一晩このままでいてもらいますよ!」

 

 

 おお、これが人の心がわからないと評され、家臣らからも神として崇められた軍神の姿だろうか。今そこにいる彼女は、愛する男に甘える普通の女性としか思えなかった。

 

 

 

 

 

 龍神は、いつの間にか男の事をすっかり気に入ってしまいました。男は龍神のために料理を作り、おかげで龍神の体はすっかり軽くなったのです。また、男は龍神のやることを受け入れてくれました。体をこすりつけると優しく鱗を撫でてくれ、頭を近づけると手櫛でたてがみをすいてくれました。

 

 

 男は、初めて龍を見てくれた人間だったのです。それまで周りの人間は、龍の“行動”ばかりを見ていました。

 

 

 男は龍の体を心配し、暖かい料理を作りました。

 男は龍の美しさに感心し、そのことを一生懸命褒めました。

 男は龍の孤独に同情し、その体に精一杯寄り添いました。

 

 

 龍は男との時間があまりに心地よく、辺りを見回すことを忘れていました。だから、気づかなかったのです。遥か遠く、東の方で、煌々と燃え盛る焔があることに。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 ガシャーーーーン!!

 

 

「ひ、ひいい!」

 

「ええい下げよ!!貴様ら、味噌と塩しか知らんのか!こんな不味い飯をワシに食わせるとは、その腕切り落としてくれようか!!」

 

「お、お許しを!お許しください、信長様!!」

 

「の、信長様そのあたりで……。某が別の料理人を連れてきますから……!!」

 

 怒りのままに膳を投げ、料理をめちゃくちゃにした信長は、秀吉の言葉でなんとか刀を抜くのは抑えた。だが刀に触れた手を畳に叩きつけ、そのイライラは誰が見ても明らかだった。

 

(ひぇ~~~どうするんじゃこれえ!ケン、早く帰ってこんか!)

 

 秀吉もビクビクしながら部屋を掃除していた。本来、秀吉はこんなことをする立場ではないのだが、上司の前でこういう良い行いをするのが彼の出世の秘訣である。

 

 

「……サルも下がれ!ワシはしばらく一人になる!!」

 

「は、ははーっ!」

 

 

 待ってましたとばかりにスタコラサッサである。急に静かになった部屋で、一人信長は包みを開く。これは秀吉にケンが持たせた菓子で、お麩で作ったラスクだ。非常に貴重な砂糖をふんだんに使った贅沢なお菓子で、日持ちもするし食べやすい。

 

 

「……ケン。」

 

 

 ワシは、ワシはこんなにも弱い女であったか。ただ一人の男がいなかっただけで、こんなにも不安定になるのか。男など、種さえあれば十分ではなかったのか。否、否、否である。あやつがただの男であるわけがない!あれなるは我が半身、我が両翼!ケンがいなくては生きられぬのだ!

 

 

「……早く、帰ってこい。ケン……。ワシは……ワシは、寂しいぞ……。」

 

 

 ワシの馬鹿息子どもも今は養子に出している。世間を学ばせ、織田を継げるようにしておかねばならん。ワシは日ノ本のために天下布武を敷くつもりではあったが、女の喜びを知ってからは少し考えが変わった。馬鹿息子の中でも、出来のいい方に後を継がせてワシはケンと老後を過ごすのもいいかもしれないと思っていた。あの男は、当然ワシについてくるじゃろうと考えていた。

 

 

「もし……もし帰ってこなんだら。ワシは、上杉も武田も皆殺しにしてくれる。屍の山の上で、ケンの震える体を力いっぱい抱きしめて、唇を奪ってやる。」

 

「ケン。ワシは、お前を逃がさんぞ。」

 

 

 

 

 焔は燃え盛り続けていましたが、それは熱のない焔でした。焔を燃やす薪が、今はなくなっていたからです。焔が燃えているのは、ひとえに龍への怒りからでした。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「ふっ!はっ!」

 

「おお、やりますね!これはこちらも、手加減できません!ハァッ!」

 

 

 ケンと私は、朝起きてから共に打ち合いをするのが日課でした。ケンは料理人であるはずなのにかなりの使い手で、私は狂喜しました。ああ、この人は美味しい料理だけでもなく、私に寄り添ってくれるだけでもなく。戦いでも私を喜ばせてくれるのか。

 

 最初は自分で『薪割り剣術』と言っていたように、ただ振り上げてただ振り下ろすだけのような剣だった。だがそれの、何と強烈なことか。何千何万ではとても足りない鍛錬の果てに練り上げられたであろうそれを、受け止める私の手は喜びに震えた。しかも、それに至るまでの道筋つくりが素晴らしい。足払いや牽制の斬撃、突きなどでこちらの隙を作ろうとしてくる。そしてほんの少しでも隙が出来れば、すかさず薪割りが来る。

 

「あはははははは!!楽しい、楽しいですねケンさん!!」

 

「私は、そんな、余裕は!」

 

 ついつい楽しくなって高笑いしてしまう。私の攻めに何とか対応するケンの緊張した顔は凛々しく、玉のような汗が輝く姿はすごくかっこよかった。思わず気分が高揚して、勝負を決めにいった。

 

 

「くあっ!!」

 

 

 一気に踏み込み、ケンさんの木刀を弾き飛ばす。そのまま懐に飛び込み、襟をむんずと掴む。一気に腰に乗せ、跳ね飛ばすように地面に投げる。ケンさんは受け身をとって、頭を守った。

 

 

「いやあ、あはは。ついつい本気になってしまって……」

 

 

 私はケンさんに謝ったが、ある一点をつい凝視してしまう。私が襟をつかんだせいで、はだけた着物。襟の隙間からは、鍛え上げられて盛り上がった胸と、鎖骨が見えました。激しい運動で出た汗が、しっとりとその肌を湿らせていました。

 

 

 ―――あ、おいしそう。

 

 

「お、お虎、さん……?」

 

 

 ああ、そんな声出さないでくださいよ。そんな困惑したような、怯えたような声。そんな声聞いたら、私……抑えが効かなくなるじゃないですか。

 

 

「お虎さん……!?がっ!?」

 

 

 がぶり。ああやっぱり、鉄の味がするんですね。あんまりおいしくなかった。これならケンさんの料理の方がずっといいです。

 

 

「はーっ、はーっ……。お虎、さん……?どうして、このような……。」

 

「………え? あ、ああ!そ、そんな目で見ないでください!」

 

 

 その目!もうずっと、忘れていたはずのその目!!今までの幸せな夢から、一瞬で私を引き戻すあの目!!私を見る、怪訝な目!理解できないものを見る、怯えた目で!

 

 

「ほ、他の!他の誰から、そんな目で見られても構いません!でもあなただけは!!ケンさんだけは、そんな目で見ないでください!!わ、わた、私を、()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 

 

 ある日、いつものように龍は男と過ごしていました。男は料理が出来るだけでなく、武芸の心得もあったのです。男があんまり強いので、ついつい龍は嬉しくなって、男に噛みついてしまいました。男はうめき声をあげ、ピクピクと蠢いています。血がどくどくと出ていました。

 

 龍は悲鳴を上げ、おろおろと男にすがります。よく見れば傷はさほど深くなく、少し皮膚が切れただけです。痕になるかもしれませんが、命に関わるものではないようです。ですが、男が龍と離れたいというのなら、龍はもう生きていかれません。宝玉のような目からボロボロと大粒の涙をこぼし、傷をペロペロと舐めました。男は黙ってそうさせていましたが、やがて口を開きました。

 

 

 

 

「……お虎さん。お虎さん。もういいですよ。大丈夫ですよ。」

 

「ふぇ?」

 

 

 

 私は必死に、かじりついてしまった傷を舐めていました。医療の心得なんて何もありませんから、それが唯一の出来ることでした。ですが、ケンさんは私の頭を撫でてくれました。

 

 

「なぜこんなことをなさったのかは存じ上げませんし、知りたいとも思いません。ですが、そのような顔はなさらないでください。そんな風に泣かれてしまうと、私まで悲しいですから。」

 

「でも……!でも……!」

 

 

 男は龍の頭を抱き寄せ、いつものようにたてがみをすいてやりました。そうして、何も変わらない優しい声で、『大丈夫、大丈夫』と呟きました。龍はもう、何も考えられませんでした。ただただ男に抱かれたまま、そのまま撫でられていました。

 

 

 ようやく落ち着いた龍は、改めて男の傷を見ました。もうふさがっているみたいでしたが、龍の罪を突き付けられているようで、龍は暗い気持ちになりました。あの頃と比べると、龍はとても感情が豊かになっていました。

 

 

 

「で、でも……!こんなに強く噛んだら、痕が……!」

 

「残るかもしれないし、残らないかもしれません。それに、痕なんてどうでもいいじゃないですか。男子の傷は向こう傷ですよ。……あっ、こ、これはお虎さんが敵とかそういう話ではなく……!」

 

「い、いいんですか……?私、私……!!」

 

「大丈夫です。ほら、そろそろ朝餉を作る時間です!今日も腕によりをかけますから!」

 

 

 

 龍はやっと、男と仲直りが出来ました。やはり男の傷は痕が残ってしまいましたが、男はまったく気にしていませんでした。ですが、龍はそうもいきません。時折隙間から傷の痕が覗くたび、暗い感情になりました。腹の底からこみあげてくる、罪悪感とほの暗い喜び。二つの感情は、龍にとって大事な大事な宝物。男にすら見せることなく、大事にしまっていたのです。

 

 

 

 ですがある日、男はひどく浮かない顔をしていました。この頃には、龍は男の気持ちを思いやることが出来ていましたから、何度も何度も聞きました。どうしてそんな顔をしているのか。何か自分に出来ることはあるか。男は悲しさと嬉しさが混じった顔で、龍に告げました。

 

 

 

「私は、そろそろ帰らなければなりません。」

 

 

 

 驚いた龍が顔を上げ、辺りを見回してみれば、焔は彗星となり、戦国の世を駆け抜けます。男は、星が落とした子だったのです。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「とまあ、こういう事があったわけです。いやあ、あの時のケンさんはすごかったですね!もう心広すぎて大陸かっていう!」

 

「何沖田さんのケンさんに手出してるんですかね……。その時つけた傷の10倍の切り傷を付けますよ?」

 

「は??雑魚狩りサーの姫に何ができるんですか??」

 

「こんの――!!」

 

 

 お互いの武器に手をかけ、一触即発の二人。ケンは慌てて二人を止める。

 

 

「ふ、二人とも落ち着いてください!ほら、俺はもう全然痛くないですから!!」

 

「ねえケンさん。」

 

「お、おお!マスターも何か言ってあげてください!」

 

「その傷さ、今もあるの?」

 

 

「「「え?」」」

 

 

 予想外の立香の発言に、ケンだけでなく女性陣の動きも止まる。立香はそれにも構わず続ける。

 

 

「脱いでよ。」

 

「え?」

 

「いや、だからさ。傷があるのかどうか気になるから、脱いでよ。」

 

 

 そう冷徹に告げる立香の瞳はどこか澱んで見えた。おそらく、ケンと女性陣のシュガーな生活を聞かされて、ちょっと何かのブレーキが壊れたのかもしれない。

 

 

「せ、先輩!?大丈夫ですか!?」

 

「いや、マシュも気にならない?ケンさん、なんかいい体してるらしいし。」

 

「いやまあ、私は減るものでもないですしいいですけど……。でも私なんかでいいんですか?筋骨隆々の男性なら、半裸がデフォみたいなサーヴァントはたくさんいるじゃないですか。」

 

「いやあ、見せようとしないものを見るのがいいみたいな……というか、隙あらば見せようとしてくるサーヴァントの人もいっぱいいるから、あえて見せないものを見てみたいなあって。ほら、きよひーとかさ。」

 

 

「お呼びですかますたあ??♡♡♡あなたのきよひーはここにおります♡♡♡」

 

「あーごめんね。もののたとえなんだ。」

 

「いえいえいつでもお呼びください!♡」

 

 

「なるほど、マスターも苦労されているのですな。語尾にいちいちハートが見えましたよ。」

 

「まあそんなわけでさ。油ものばっかりだと胃もたれするから、ちょっと気分を変えたいなって。」

 

「私の体はとんかつに添えるキャベツですか……?」

 

 

 『まあ、特に面白いものでもないですよ?』と前置きしながら、ケンは少し襟の辺りを緩めた。そしてそれに、熱視線を送るサーヴァントが3名。

 

 

「……あの、信長様にお虎さん?沖田はともかく、あなたたちは見慣れたものじゃないですか。」

 

「い、いやこれはその……何か、ケンが自発的に脱ぐのはちょっと……フレッシュって言うか……そ、率直に言ってワシのハートに討ち入りっていうか!!」

 

「こ、ここここれはただの傷の確認ですから!傷があったらあったで嬉しいし、なかったら傷一つないケンさんを……!!」

 

「もってくれよ、沖田さんの体……!!い、今だけは!口から吐血ではなく鼻からならオッケーですから!」

 

 

「……童貞?」

 

「あの、マスター?令呪三画使うほどの価値は多分私の体にはないですよ?それでもいいんですか?」

 

「いいからいいから。はいじゃあどうぞキャストオーフ!!」

 

 

 立香の宣言とともに、ケンはするりと左肩から着物を脱いだ。筋肉で隆起した肩が露出し、この時点で沖田さんが鼻を抑えた。ノッブは耳まで真っ赤になり、お虎さんはしゃーしゃーとうるさい。右の方も脱ぎ、ケンの上半身は完全に露出した。それと同時に、3騎の理性も限界だった。ケンに一斉にとびかかる3騎。だが、その行動を予測している者がいた。

 

 

「令呪を以て以下略!」

 

 

 立香の掌の印が赤く輝き、3騎の動きが雷に打たれたように制止する。

 

 

「ぐ、ぐおお……。カルデアの令呪は強制力はないと教わっておったのにぃ……!!教えはどうなっとるんじゃ教えは!!」

 

「ま、マスター強くなられましたね……!まさか、このお虎さんのスイートステップを見切るとは……!」

 

「というかそもそも!以下略って何ですか以下略って!命令くらいしてくださいよ令呪切ったんなら!」

 

 

 3騎の怨嗟の声を聞き流しながら、立香はケンの体をじっくりと検分する。

 

 

「どの辺り噛まれたの?」

 

「この鎖骨の下あたりですが……。見たところ、痕はないようですね。まあ、全盛期の姿で召喚されるそうですし。私の全盛期は色々混じってるのではないですかね。」

 

「へー……。でもやっぱりいい体してるねケンさん。ほんとにシェフだったの?」

 

「いや、その。二度目の生ではこんな風ではなかったのですが、それ以外では剣を振るい続けましたので。自然とこんな感じになるのですよ。」

 

「ふーん……。ほーん……」

 

 

「あの、マスター?流石にそう凝視されると、その……恥ずかしいのですが。」

 

「あっゴメンゴメン!いやあ、なんか私ちょっとおかしくなっちゃってたみたい。まあ、ケンさんの胸見てたら治ったけど。」

 

「はあ、それはようございました。それなら、マスターがストレスを貯めてしまったときは、いつでもお剥がしください。まあ今はないようですし、改めてお茶を入れましょうか。マスターも緑茶でよろしいですか?」

 

「あっ、ありがとー!じゃあじゃあ!お茶請けもお願いしていい?」

 

「もちろんです。まだまだ話は長いですから、一息入れながら行きましょう。」

 

 

 なお、このやりとりをしていたケンの『休日のお父さん感』と、ケンが服をゆっくりと着なおす際の謎のセクシーさ。そしてマスターに与えられた『ケンいつでもお脱がし権』の嫉妬が3騎にちょっと変な刺さり方をしたらしく、少しの休憩はのぼせた人たちが復活するまで続くのだった。




「ケンさんの胸からはリラクゼーション効果が期待できる……!?これは、何かしらのスキルなのでしょうか先輩!」

「マシュ殿はあまり冗談の通じない方なのですな。私は確かに何度も転生した都合上、剣客としてのスキルと料理人としてのスキルがありますが、流石に胸筋からそういう効果を出すスキルはちょっと……。」

「ボディビルダーの英霊が待たれるね!」

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