それは、夏の日。なんてことない、夏の日。ただ、例年よりも気温がちょっと高いだけの夏の日。
そんな日に俺は、近くのコンビニに買い物に出かけていた。自動ドアの前には、見知った少女がひとり立っていて。
「薫もコンビニ?」
「ああ、学校帰りに涼みに来ていたんだ」
「そっか、まだ薫は学校あるんだっけ。一足先に夏休み満喫しちゃってゴメン」
「私は構わないよ。かのシェイクスピアいわく、王者に安眠なし、とね」
そう言って少女……薫は髪をかきあげフッ、と笑ってみせる。
薫はこんな暑い日でもいつも通りで安心したよ、ほんと。その涼しげな顔が羨ましいって言うか。
「それにしても、今日は暑いね」
「たしか、三十五度だっけ。もうアレじゃん、こんなのサウナの中じゃん」
でもまあ、側から見れば俺は薫とたわいもない会話をしているように見えるが、正直本当は気が気じゃなかった。
……今の薫は学校帰り、つまるところ制服姿で。半袖のシャツが、薫の肌に汗で張り付いて、彼女の華奢なボディラインを強調していた。
それから、妙に大人っぽいデザインのそれも、しっかり透けていて。健全な男子高校生の俺には、刺激が強すぎる。
「ちょっと買うもの買ってくる」
俺は薫にそう言って、逃げるようにコンビニ店内に入った。
〜
多分、必要なものは大体買った。これさえあれば、今日は乗り切れるだろう。なんか足りないものがあれば、明日スーパーにでも出かけて買えばいいし。
レジに並んで買えば終わり……そんな時、目に入ったのは白い棒アイス。どうやら期間限定のフレーバーらしく、ミルク味の風味が楽しめるらしい。
……白い、棒アイスか。気づいたら俺はそれを手に取っていて、そのまま会計を済ませていた。
いやでも、別に俺棒アイスとか好きじゃないんだよな。第一知覚過敏持ちだし。だからこそ、俺はその棒アイスを、外で謎のポーズを決めている彼女に差し出した。
「ありがとう、君は気が利くね」
彼女は俺からアイスを受け取ると、そのままパッケージを開ける。そこから、まるで雪のような色合いの棒アイスが顔を出す。
薫は一言、いただきますと口にするとそのまま棒アイスに舌をそわせる。あまりにも上品にそれを舐めるものだから、彼女のぷっくりとした舌に、無意識に目がいってしまう。
ああ、なんで棒アイスなんか買って渡したかな、俺。ほんと、自分で食うわけでもないのに。そんなんじゃ、まるで……
「このあいふはほへもおいひいね! ひみもひとふひほうはい?」
ああ、でも、そんなこと考えてるのは俺の方だけなんだろうな。無邪気な顔でアイスを差し出してくる薫を見たら、もう何も言えなくて。
かじるとしみるから、俺も薫と同じようにアイスをペロ、と舐める。すると、甘くて、冷たい感触が口に中に広がって。
いや、当たり前なんだけど、よりそれを感じるって言うか。もうなんか、夏の暑さでおかしくなってるんだろうな。
俺がアイスを食べている間、薫は何やら俺の買った品々をごそごそ調べていたようで。
「アレは買わなかったんだね」
「……アレってなんだよ」
「こんな暑い日にすることといったら、ひとつだと私は思うけれど」
……いや、アレってなんだよ。っていうかしれっと人のレジ袋勝手に漁んな、馬鹿。
いや、アレってなんなのかわかんねえし。俺がそう言うと、薫は目を伏せてこう返す。女の子にそんなこと言わせないでくれ、と。
そのまま薫は俺の耳に顔を寄せると、妖艶な声でこう囁く。
──私の制服越しに透けた肌を見ていたんだろう?
──あえて私に白い棒アイスを舐めさせたんだろう?
──君は、えっちだね。
彼女がその言葉を口にしたのなら、もう最後。気づけば、俺の理性も、白い棒アイスも、ドロドロに溶けていた。