──右、左、後ろ、前!
三百六十度、全方向から無数に迫ってくる敵を俺は華麗に撃ち抜く。
我ながら本当に惚れ惚れするよ、このエイム捌き。画面内のキャラに自分を重ねて、優越感に浸る俺。
で、コイツが最後の敵ってワケか。でも、コイツはきっと俺の敵じゃないな。その証拠に──!
画面全体に表示されたVICTORYの文字を見て、俺はガッツポーズをする。
「テ◯ーダのエイムとチ◯ポ気持ちよすぎだろ……ッ! あ、いや、ティー◯はまずfpsしないか」
うん、なんかアホなこと言っちゃったけど、部屋には誰もいないしいいか。
さて、祝杯をあげるためにコーラでも取りに行くか……と席を立ち上がったら。
「……レディがいる前でその、男性器の名前を言うのはやめたほうがいいと思うよ」
何かおぞましいものを見るような目でこちらを見ている薫がいた。いや、マジで。
〜
「……なんで薫がいんの?」
「君の家に遊びに来たんだ……でも、そうしたら、君が画面の前でその、男性器の名前を叫んでいたものだから」
「◯ンポって?」
「怒るよ」
結論。fpsゲーで調子に乗ってチン◯と叫んでいたらそこに瀬田薫がいた。
苦い顔でこちらを見つめる薫の顔を見たら若干青くなっていて。あ、多分本当に嫌なんだろうな。マジで嫌なんだろうな。
「……ごめんって……で、なんで薫は俺の家に遊びに来たの? 薫が楽しめるようなもの何もないけど」
「ああ、実はついさっきうちの冷房が壊れてしまってね……やむを得ず君の家に来た、というわけさ」
「どうしてやむを得ず俺の家に来るのか全然わかんないけどそっか」
うんそっか、よくわかんないけどそうなんだね。わかったわかった。
でもまあ、俺んち電気代なんて全く気にせずガンガン冷房効かせてるから、少なくとも俺にとってはユートピアだ。きっと、薫も同じだと思うな。
冷房が効いた部屋でコーラ飲みながらゲームするのは至高だって、シェイクスピアも言ってたよ、多分。
「……これは何だい?」
「それ? 普通のよくある家庭用ゲーム機だけど」
「どんなゲームが遊べるんだい?」
そんなことを考えていたら、薫は俺の部屋に置いてあるとあるものに興味を示していて。俺が遊びたいなら遊ぶ? と聞くと、薫は嬉しそうにうなずくものだから。
そんな薫を連れてリビングに向かって、ゲーム機のコードをテレビに繋ぐ。
「じゃあ、とりあえず初心者向けと名高いまんまるピンクの発見伝でもやるか」
「ああ、楽しみだね! ところで、この機械はどうやって動かすのかな?」
「……え、そこから?」
え、コントローラーの操作方法すらわかんないの? この王子様。
いや、今までよくそんなんで生きてこれたな、薫。左スティックが移動、Aボタンが決定を表すことを知らないまま生きて来れた人間なんてお前くらいしか見たことないよ。
……え、普通は知らない? いや、俺は常識だと思ってるんだけど。
とりあえず薫には基本の基本を教えて、一番簡単なはずの最初のステージをやらせてみたのだが。
「薫、お前ゲームクッソ下手だな!? お前が死にまくるせいでせっかく貯めたコインがガンガン減ってくんだけど!?」
「すまない……立ちはだかる壁が私の行手を阻むのさ」
「いや壁っていうか穴だろそれ。お前がいるの、まだ一面の一ステージだろ? そこで落下死したの何回目だよ」
「七十九回目だね」
いや七十九回、七十九回目って。普通そんな死ぬ? むしろ狙って落ちてるだろこの回数は。
やばい、このままだとせっかく貯めたコインが全部パーになる。いやマジで。それを阻止するために、俺は薫からコントローラーを奪い。
「いい? 俺が1Pやるから薫は2P! 1Pが死ななきゃゲームオーバーにはならないから、このゲーム」
「……おや、このかわいらしいバンダナをつけた子猫ちゃんが私かな?フフ、楽しみだ……って、気づいたら君の隣にワープしていたよ?」
「残念だったな薫。俺が1Pになったからには俺の言うことを聞いてもらうぞ!」
「……変なことはしないよ?」
──いや現実でじゃねえよ。ゲームの中でだよ。
薫の通常営業っちゃ通常営業のド天然発言に呆れながらも、俺たちはどんどんステージを進んでいく。
「よっし、ボスもこのまんまるピンク様がやっつけてやる! だから上手くサポートしてくれよな、薫!」
「あ、ああ……でも君、残り体力が」
「……あーうん、回復するの、忘れちゃったんだよね」
だが、ボスステージになった時、俺が回復トマトを食べるのを忘れたせいで体力ギリギリでボスに挑むことに。
あとちょっとのところまでは削れたのだが、そのあとちょっとが削れない。
そんな体力ももうギリギリの俺に、回避不能攻撃を撃ってくるボス。
やばい、避けられない──!
……その時、薫が操作するバンダナよちよちの槍が、ボスを貫く。
「薫、お前……」
「フフ、まんまるピンクちゃんをサポートするのがバンダナよちよちちゃんの使命だからね。君を守れてよかったよ」
「……なんかその、美味しいとこだけもってかれた気がして嫌なんだけど」
でもまあ、薫のおかげで助かったよ。あのままじゃ絶対負けてたし。
こう言うことができるのが協力プレイの強みなんだよな。なんていうか、久しぶりにこう言う感覚を味わった気がする。
──こういうのって、案外みんな卒業しちゃうもんだからさ。
「ちょっと疲れたし、コーラでも飲んでちょっと休憩するか。薫もコーラでいい?」
「ああ、構わないよ。夏の日に冷房の効いた部屋でしゅわっとした炭酸が弾けるコーラを飲む……なんて儚いんだ!」
「あ、やっぱり薫もこれ好き?」
やっぱり、夏に冷房が効いた部屋でコーラを飲むのは至高だって認識は共通なんだな。
キンキンに冷やした缶を開けて、薫と俺、二人分のグラスにコーラを注ぐと、氷と炭酸の音が広がって、爽やかな気持ちになる。
「ぷはぁ、うめ〜〜〜!!!」
「ああ、本当にね。でも、そうだね……このコーラは君と飲むからこそ美味しさを増すのかもしれないな」
「お、言ったな? か〜お〜る〜。お前はまたクサいこと言いやがって! でもまあ、確かにその通りだけどさ」
でもま、コーラって誰かと分け合って飲むのが一番美味しいんだよな。
普段からコーラをひとりでガバ飲みしてる俺だけど、それだけは断言できる。いやまあ、コーラはひとりでガバ飲みしても美味しいんだけどね?
「さてさて……それじゃあ、ここからは俺のショータイムの時間だな!」
「ショータイム? 何をするんだい?」
「8ボールパズル! これで俺と勝負しようぜ!」
さて、コーラも飲み終わったことだしゲームを再開しよう。俺は、一番得意で一番大好きなミニゲーム、8ボールパズルで薫に挑む。
いや、薫に挑むって言い方はちょっと違うかな。薫に遊ばせてあげるって言ったほうがいい感じ。
まあ、相手はどうせ薫だし……ちょっとぐらい手加減してやるか、と思った矢先。
YOU LOSE!
「……は?」
「どうやら、私の勝ちのようだね」
……いや嘘だろ。強すぎんだろ。いつの間にか俺も本気でやってたし、でも負けた。
だからかな、隣の薫のドヤ顔がすっごい腹立つ。殴りたい、このドヤ顔。
「……もう一回!」
でも、負けっぱなしは悔しいから俺はもう一度薫に挑む。そうして、また薫に負ける。
それを繰り返して、繰り返して。気づいたら、夜になっていて。
「いや、なんで全然勝てないの……? 俺、8ボールパズルが上手いことだけが取り柄だと思って生きてきたのに、その自信ごと薫に打ち砕かれて泣きそうだよ」
「あと一歩私に及ばないだけで、君の指さばきも大したものだよ。誇るといい」
「くっそ〜、なんか上から目線なのがくやし〜!」
もう何十回目かの勝負の後、そんな会話をして二人笑い合う。
そんな時、ノックと共に母さんが入ってきて俺にこう言った。
「それにしてもあんた、今日は本当に楽しそうにゲームしてるわね〜。薫ちゃんが付き合ってくれてよかったわね」
「うるさいなあ、母さん。別にゲームが好きなのは今に始まったことじゃないじゃん」
「違うわよ、私が言いたいのはそんな話じゃなくて」
俺がそう言うと、母さんはひどく呆れた顔をして。
そのまま薫に向かって、こう話し始める。
「ねえ薫ちゃん、うちのバカ息子ったらねえ、友達がいないくせに誰かと遊ぶゲームばかりやりたがるのよ」
「そう、なのかい?」
「だから遊ぶ相手がいなくて可哀想だと思ってたけど、これからは薫ちゃんがいてくれるから安心ね」
「……は? 何言ってんの? 母さん」
なんか急に意味不明なこと言ってるんですけど、うちの母親。
いや、たしかに俺は友達いないくせに友達と遊ぶゲームばっかり好きになるけど、別に薫はそれと関係な──。
「それにしても、彼女とゲームで遊ぶなんてやるじゃない、あんた! 見直したわよ」
「……かの、じょ?」
「それじゃあ、母さんは今日は父さんと買い物に出かけてくるから。あ、別にイチャイチャしてもいいけど、ご近所さんの迷惑じゃないようにするのよー!」
「いや、母さん、なんか勘違いしてるから、俺と薫はただの──」
俺がそう言い切る前に、家を出て行ってしまう母さん。
残された俺たちは、なんだか微妙な雰囲気に包まれていた。
「えっとその、まあ、あの人の言うことは気にしないで」
「あ、ああ……」
……どうしよう、さっきまであんなに続いていた会話が続かない。
ああ、もう、なんであんな爆弾投下してどっか行っちゃうんだよ、俺の母さんは!
そんな時、薫が俺にこう聞く。君のお母様からは、私が恋人に見えたのかな、と。その質問に、俺は。
「多分、ね。あの人、すぐ勘違いするから。距離が近い異性見つけると、すぐカップルだ! っていうタイプの人」
「そう、なんだね。ところで、お母様に私たちの関係を恋人と間違われた時……君は、どんな気持ちだった?」
「別に……嫌ではなかったけど、薫に迷惑かなって思った」
「迷惑じゃない、って言ったら?」
……薫は俺の顔を覗き込んで、そう聞いてくる。
迷惑じゃない、とか言われたりなんかしたらさ、俺が言うことなんてひとつだろ。
「そういえば、薫の家、まだ冷房つかないんだっけ」
「……そう、だね」
「それならさ、このまま一緒にいてよ」
……そんな俺の言葉に、薫はにこりと笑って頷く。
夏の夜、冷房が効いた部屋で美少女とゲーム三昧。そんな夢みたいな時間は、これからも過ぎていくんだ。