「それじゃあ、とりあえずかいさーん! 二次会参加したいやつは俺んとこな! で、お前はどうよ?」
「オレはやめとくよ。楽しんでおいで、カズ」
ある夏の日の飲み屋街。友人に無理やり参加させられた合コンでだいぶ酔っていた、というか酔わされたオレは、だいぶ気が滅入っていたのだろう。
二次会へと向かう友人に手を振った後、オレは無意識に「瀬田薫」と書かれた電話番号に電話をかけていた。
『やあ、先輩。あなたがいきなり電話をかけてくるなんて珍しいね。何かあったのかい?』
……電話越しに聞こえる君の声が愛おしい。さっきまで非日常空間にいたからか、彼女の声を聞くと安心して。
安心して、っていうか今までずっと張っていた気が緩んだっていうか、まあ、そんな感じ。
「えっと……なんか、今日は涼しいね」
『ああ、夜風が気持ちいいね』
あー、えーと、何やってんだろうな、オレ。何言ってんだろうな、オレ。
いくら瀬田さんの声が聞けて安心したからって、ちょっと気が緩みすぎたのかもしれない。
「あ、ゴメン、その、酔った勢いかも」
「フフ、そうなんだね。でも、飲み過ぎには気をつけておくれよ? 先輩」
「うん、わかっ……って、え、い、いたの? 瀬田さん」
……なんてことを言っていたら、瀬田さんが電話越しでなく目の前にいて。
びっくりしたオレを見て、悪戯っぽく笑う瀬田さんは、今日も綺麗だった。
「実は私もさっきまで近くで合コンをしていたんだよ。奇遇だね」
「ご、合コン!? でも瀬田さん、そういうの行くタイプじゃないよね」
「演劇サークルの子猫ちゃんにどうしても、と頼まれてしまってね。断るにも断りきれなくて」
「そっか、大変だね」
せ、瀬田さんも合コンとか行くんだ……? そう思っていたけれど、ちゃんと特別な理由があったようで安心する。
いや、関係ない部外者のオレがなんでそれで安心してるんだろうね。普通その考えに至るのは親御さんとか彼氏さんでしょ。オレの場合、そのどっちでもないし。
「でも、そうだね……正直言って、あまり楽しくはなかったかな」
「……そう、だったんだ」
「相手の男の人たちに、プライベートな話を聞かれたり、身体を触られたりして。いくら相手側にお酒が入っていたとしても、流石にちょっと、ね」
瀬田さんは苦笑いして、そう口にする。笑顔で隠しているものの、本当は辛そうで。
──もしその時オレがそばにいたら、この子を守ってあげられたのにな。
って、なに彼氏ヅラしてんだオレ! こんな男に守ってあげられたのにな……とか言われても気持ち悪いだけでしょ。だからその、オレは言葉を選んで瀬田さんにこう言う。
「でも、そうだね、良くないと思う。合コンだろうがなんだろうが、女の子の身体を好き勝手に触っていいわけないし」
「フフ、先輩は紳士的だね。モテそうなのに、おかしいな」
「ああ言うのって、ノリがいい人が正義だから。ノリが悪いオレは蚊帳の外なんだよなあ」
──合わないね、オレたち。そう言って、二人で笑う。
正直、さっきの合コンよりも今こうして瀬田さんと二人で話す方がよっぽど楽しいし、安心するし。
瀬田さんも同じ気持ちだといいな。少しでも気持ちが楽になってたらいいな、なんてことを考える。
「ああ、それとね。あの人たちは嫌がる私に無理やりお酒まで飲ませようとしてきたんだよ? だいたい、私はまだ十八歳なのに……って、なんで笑うんだい、先輩?」
「ごめんごめん、みんながお酒飲んでる中ひとりだけジュース飲んでる瀬田さん想像したら、なんかかわいくて」
「むぅ……」
周りがビールやら梅酒やらをごくごく飲む中で、ひとりオレンジジュースのストローを啜る瀬田さんを想像して、思わずにやけてしまう。
瀬田さん自体が大人っぽい見た目と大人っぽい雰囲気をしてるから、余計に。
「……合コンに行くくらいなら、アンモナイト同好会で飲み会をした方が良かったな」
「いやいや、アンモナイト同好会って、オレと瀬田さんしかいないでしょ? それじゃあただのサシ飲みっていうか……」
そんな時、急に瀬田さんの口からオレたちが所属しているサークル、アンモナイト同好会の名前が出てきてびっくりしてしまう。
アンモナイト同好会……オレが入学してからずっとひとりでやってたサークルなんだけど。
こんなサークルに瀬田さんがいるのは、大学に入りたての彼女に「君、アンモナイトに興味ない?」ってオレから勧誘しちゃったのが原因っていうか、ほんと、うん。
なんでこんなすごい子がオレなんかのサークルに参加してくれてるのかはわからないけど、楽しんでくれてるならいいのかな。正直、演劇サークルの方を優先してほしいオレがいるんだけど……
「でも、先輩と飲むお酒は、きっと美味しいのだろうね」
「そんなに変わらないと思うけどな……でも、瀬田さんがそう思ってくれてるのは嬉しいな」
「フフ、そうだ! 私が最初にお酒を飲むのは先輩と一緒がいいな。先輩、私のはじめて、貰ってくれるかい?」
「なんかその言い方よくない!」
軽率にはじめて、とか頼むから言わないでほしい。童貞のオレをからかってるのか知らないけどさ!
瀬田さんはなんていうか、たまに本気か本気じゃないのかわからないことを言うから。その度にドキドキして、心臓がおかしくなる。
「……私は本気なのに」
「……瀬田さん?」
「ああ、いや、なんでも! 夏の熱気に当てられて、少し調子がおかしくなってしまったのかもしれないね」
「そうだね、確かに暑いかも」
なんだか涼しいと感じていた夏の夜も、気づけば暑いと感じるようになって。
──でもそれはきっと、隣に君がいるからかな。
「瀬田さん、これから時間ある?」
「ああ、私は構わないが……いきなり、どうしたんだい?」
「酔い覚ましに、ボウリングでも行こうかと思って」
だからこそ、この時間を終わらせたくなくて。オレはボウリングへと彼女を誘う。そんなオレの手を握り、瀬田さんはフッ、と微笑んで。
──君と二人、夜に溶けていくんだ。
夏のバンドリ祭りすごく楽しかったです!
ありがとうございました〜!