音楽とは多種多様なものだが基本は聴く者の心を楽しませ、あるいは癒すものである。しかし、『音楽の国』であるエレジアに集まっている音楽の中にはそうした者とは真逆の破滅を与える音楽が、そうした曲を記した楽譜があった。
その楽譜の名は『トットムジカ』であり、この曲を『ウタウタの実』の能力者が歌う事で楽譜を媒介にして、人の負の感情の集合体である魔王が現実世界に出現する。
遥か昔にエレジアで猛威を振るい、倒された魔王は楽譜にて眠り、音楽を愛する者が集うエレジアだからこそ、その楽譜は地下深くに封じられた。
しかし、現在において『トットムジカ』の楽譜を媒介にしている魔王はゴードンがパーティ中にウタの歌声を国中に聞こえるようにした事で自分を呼び出せる『ウタウタの実』の能力者の存在を感じ取り、その能力で自由になるためにウタの元へとその姿を現したのである。
そして、歌わせようとしたが……。
『(ウタエ……ウタエ……)』
「っ!!」
負の感情の集合体という異常な質量の意思を有するがゆえに物体の『声』を聞く事が出来る程になっている自分の『見聞色の覇気』で無意識に『トットムジカ』のそれを聞いたルフィは瞬時に行動。
己の肉体、あるいは肉体を通じて武器へと『覇気』を纏わせて強化するという『武装色の覇気』を親指と人差し指に纏わせて『指銃――炎撥』を使った。
覇気を纏わせて使用したことで弾丸として放たれる空気圧に強力な摩擦による発火が加わり、炎の弾丸となって飛来したそれは『トットムジカ』の楽譜を燃やした。
確実にウタが歌っていれば災厄を招いていて、それを防ぐ事が出来たとはいえ、そんな事はウタには言えない。
彼女が歌姫として活躍出来なくなるなどルフィにはごめんだった。それならば自分が嫌われた方がましである。
『……もう良い、ルフィなんて知らない。大っ嫌い!!』
実際、彼女の音楽への愛を侮辱したのと変わりない行為をした事で彼女を傷つけて泣かせ、嫌われた。
それは途轍もなく、辛かったが自分以上にウタは辛い思いをしたのだ。償いはどうするか考えようと外に出たルフィであるが……。
「(ウタワセロォォッ)」
「ぐ、あぁ……燃やすだけじゃ、駄目だったのかぁ……」
脳内で何人もの深く暗い声が鳴り響き、それに続いて不快な音が鳴り響くとそれは次第に爆音になっていき、声も又、爆音の中でも聞こえしかもルフィの意識を侵食しながら呼びかけてくる。
彼の『見聞色の覇気』により、『トットムジカ』の暴威を防いだが皮肉にも『トットムジカ』に眠る魔王の意思を読み取るために繋がったそれを逆に利用され、『トットムジカ』の楽譜に代わる媒介、彼を通じてウタに自身の封印を解いてもらうための生ける楽譜であり、人質にされてしまったのである。
「ぅぁぁ、な、舐めるなよぉぉっ!!」
自分の意識を乗っ取ろうと気が狂いそうになる不快な曲を爆音で流しながら、同時に体を侵食しながら猛烈な精神的苦痛を与えつつ、命令してくる魔王に抗いながら空き部屋の中へと入って、鍵を閉めて部屋の中の物を扉の前において誰も入ってこれないようにする。
「ウタには絶対に手は出させない。お前なんか抑え込んでやる……ぐうううっ!!」
そうしてルフィはベッドの中で瞑想を始めて、意識を埋没させて自分に乗り移っている魔王と意思での戦いを始め、それが故に地獄の苦しみを味わい続ける。
そもそも、魔王は負の感情の集合体であり、それも一人や二人、あるいは十人程度というような生易しいものでなくそれを遥かに超えた圧倒的質量だ。
「ぐぅぅ……ま、負けるかぁぁ、がああっ!!」
自分の意識を圧し潰そうとする莫大な意思力と音に必死に抗い、悶え苦しみながらもルフィは抗い、耐え続ける。
自分が負ければ、ウタに危険が及ぶのだ。それに比べれば、今受けている苦痛など何でもない。
『……っ、ルフィ、ルフィなの……!?』
耐えているとウタの声が聞こえてきた。瞬間、狙っている獲物が来たことで魔王は動く。
「ぅ、ぐ……ああああっ……く、来るんじゃないウタ。良いか絶対に来るんじゃなぁぁぁがぁぁぁぁっ!!」
それを抑え込みながら、ウタに部屋に入らないように必死に言いながら、ルフィは唯々、魔王の侵食に耐え続けたのだった……。
2
ルフィの姿を探したウタだが、とある空き部屋で尋常ならざる苦悶の声を上げて苦しんでいるルフィの声にすぐに彼の元へと駆けつけようとしていたが部屋に鍵がかかっていた。
「ベックマン、助けてルフィが!!」
「ウタ、ルフィがどうしたんだ」
何とかしてもらおうと赤髪海賊団の者を探すと副船長のベン・ベックマンを発見。すぐに彼に助けを求めると一緒にルフィの居る空き部屋と行き、彼は武装色の覇気を拳に纏って扉を壊し、扉の前に置かれた物もぶち壊す。
「うぐああああっ、ぐがあああああああっ!!」
「ル、ルフィっ!!」
「こいつは……」
そうして、ベットに横たわりながら何度も叫び続けたがゆえに枯れ果てた声でありながら、なお叫び激しくのたうち回っているルフィの姿を発見する。
堪らずルフィの元へと行こうとするウタであるが……。
「ち、近づくなぁぁぁ……っ!!」
しかし、それは余計にルフィを苦しませることになる。何故なら、魔王はウタを獲物としているのだから……。
「ウタ……がぐううっ!!」
魔王は無理やり、ウタに歌を歌わせようとルフィの体を操って命令しようとしたが、ルフィも無理やり動いて左腕を動かし口元に運んで深く噛み付いた。
「ベックマンさん、ウタを近づけないでくださいっ。此処……あぐうぁぁっ!!」
血を流す程に噛み付いた激痛により、意識の支配権を取り戻すとベックマンにウタを近づけないように言うがしかし、魔王はまた、意識を支配しようとしてくる。
シーツを掴むとそれに必死に噛み付き、言葉を発する事が出来ないようにした。
「待ってろ、すぐに助けを呼んでくる。ウタ、行くぞ」
「いや、ル、ルフィっ!?」
ベックマンはルフィの要求に従い、ルフィが苦しんでいる様子に激しくパニックになっているウタを抱え上げると無理やり連れて一旦、部屋を出る。
「(……やるか)」
自分の体を乗っ取ってウタの元へと行こうとする魔王に抗うために覚悟を決めたルフィは自分の意識を四肢の関節に巡らせ……。
3
ベン・ベックマンはウタを抱え上げつつも赤髪海賊団の船医であるホンゴウの元へと行ったが他の者たちも予兆でも感じたのか集まり、そしてゴードンにも出会った。
そうして再び、ルフィの居る空き部屋へと向かえば……。
「おおお……おおおぉ……っ!!」
ベットに横たわりながら枯れ果てた声で叫び、のたうち回っているルフィだが……。
「こ、こいつ……自分で関節をっ!!」
ホンゴウ他、皆が絶句する。何故なら、ルフィの手足が不自然に伸び切っている。ホンゴウが言うようにルフィは魔王が自分を乗っ取っても意味が無いように四肢の関節を自ら外したからである。
「な、なんてことだ……楽譜を燃やしても魔王は……」
「魔王……ゴードンさん、一体、何のことなんですか教えてくださいっ!!」
ゴードンは『トットムジカ』の魔王の恐ろしさに恐怖しつつ、そもそもこんな事になってしまった自分の迂闊さとそれによって歳幼いルフィが苦しみ悶えている事への激しい罪の意識に言葉を漏らした。
ウタは何か知っている様子のゴードンに問いかけ、ゴードンは『俺にも話してくれ』というシャンクスの声に応じ、『トットムジカ』の楽譜と魔王について話し出す。
「……シャンクス、私歌うよ。魔王を歌でやっつけてやるんだから……それくらいできなきゃ、新時代を作る歌姫になれないよ」
「……ああ、お前がやりたいようにやれ」
ウタはゴードンからの言葉を聞くと覚悟を決めた表情を浮かべてシャンクスに言うと、シャンクスは頷いた。
「ゴードンさん、貴方たちの力も貸してください。モンスターとボンクも」
「ああ、分かった。今すぐに国中の人たちで歌と演奏をさせてもらう」
「やるぞ、モンスター」
次にゴードンと赤髪海賊団の音楽家であるモンスターとボンクに指示をし、ゴードンたちは部屋から出ていった。
そうして、未だ苦しみ続けているルフィへと近づけば……。
「あがぁぁ……ウタ……ああああああっ!!」
尋常ならざる様子で顔を近づけ、歌えと魔王は指示するがそれを抑えようとして苦しむルフィ。
「ええ、良いわ歌ってあげる。その代わり、ルフィと話をさせて」
頬を触ってルフィに憑依している魔王にウタは呼びかければ……。
「ヤ……メ……ロ」
魔王はウタの言葉に従って、一旦、ルフィを解放。
自分ではどうにもできない悔しさ、惨めさに涙を流してウタを止める。
「あのねルフィ、良く聞いて……ありがとう、今まで守ってくれて……」
まずは礼を述べる。そして……。
「でもね、私も貴方を守りたいの。だって、私は守られてばかりのお姫様じゃなくて海賊だもん。それに一緒に新時代を作るって約束したでしょ……だから、信じて」
ウタはルフィへと呼びかけ……。
「オレモ……」
「うん、信じてるよ」
頷き、言うルフィにウタは微笑み……。
そうしてウタは魔王の要求通りに歌い始めながら、自分の能力を使ってルフィの精神を『ウタワールド』という特殊空間へと誘っていったのだった……。