大体の者達が寝静まろうとしている夜中、月明かりが『ウォーターセブン』の街を照らす中、一組の男女が歩いていた。
ルフィと彼に自分の正体を知っている風を見せたので接触をしに来たアイスバーグの秘書であるカリファだ。
そして……『ブルーノの酒場』と看板に書かれた酒場に辿り着くと『終業』と書かれていて明かりも点いていない状態であったが構わず、此処までルフィを案内したカリファは裏口へと回って扉に対し、特殊なノックをした。
「……そいつか」
扉を開けて大柄で髪型が牛の角のようになっている男がカリファとルフィを一瞥し、カリファへと問いかけた。
「ええ、そうよ」
「こんばんは、俺はルフィだ……そして任務お疲れ様」
「……どうも。俺はブルーノだ」
ルフィからの挨拶に軽く応じながら、二人を建物の中へと入れる。
そうして店内ではなく、家としての生活空間へと三人は移動しルフィとカリファは向かい合うようにして座り、ブルーノはグラスを二つ用意し、ルフィとカリファの元へと置くと酒を注いだ。
「随分と任務に励んでいるようだな、手慣れてるのが分かる」
「……長くはやっているからな」
「そうね、数年にはなるかしら」
ルフィの言葉にブルーノは淡々と言い、カリファは苦笑する。
「さて、それじゃあとりあえず世界のために頑張っている者どうしの出会いに乾杯」
「乾杯」
ルフィが言うとカリファは苦笑して、グラスを打ち合わせると自分の口元へと傾け、中身を飲む。
「うん、美味い。ありがとう、ブルーノさん」
「……」
「それにしても貴方、私達の事を知っているにしては警戒しないのね」
「敵意も無いのにどう警戒しろと? 貴女達がそういうつもりならもっと別の方法で、かつ巧妙にやるだろう」
興味深げに言うカリファに対しルフィは苦笑しつつ、机を指で九回叩いた。それはカリファ達が所属する部隊の番号をルフィなりに表現したものだ。
「それは勿論……」
「とはいえ、状況自体は気になるけどな。貴方達とは別の部隊も居るのもあるし、自己責任だがロビンを連れているとあれば……それにしては俺たちの方にアクションが殆ど無いのはクザンさんのお陰だろう?」
「ふふふ、流石にあの『英雄ガープ』の孫で三大将に鍛えられている期待の新人だけはあるわね。その通りよ」
ルフィの言葉にカリファは頷いた。
「それにしてもよっぽど気にいられてるみたいね。あの青キジが態々、うちの長官に『麦わら旅団』になんであっても手を出すな、出したら氷漬けにするって脅したそうだもの。だから、緊急で貴方達に手を出さないよう厳命されたわ」
「あの、ビビりようは正直、笑えた」
カリファとブルーノはそれぞれ愉快気に笑いながら、言う。
「クザンさんには面倒かけちまったな……」
クザンが変わらず、自分の面倒を見てくれた事にルフィは感謝した。
「まあこっちとしてもアラバスタをクロコダイルの魔の手から救うのは勿論、色んな海賊団を倒したりして世界の治安を救っている貴方達に悪戯に手出しはしたくないわ。ただでさえ、アラバスタのお姫様もいるし」
カリファは本心からの言葉で言い、苦笑して見せる。
「それはありがたい。ひとまずは懸念が消えたよ……正直、こうして海を渡りながら色んな国や町へと旅をするまであんた達の部隊の行動は間違っていると思っていたんだ」
『……』
ルフィの話にカリファとブルーノは真剣に聞き始める。
「闇の正義なんて矛盾しているし……なによりどんな悪党だって殺しだけはしちゃ駄目だなんて思っていた。未熟な考えだろう?」
「……いや、考え自体は正しい」
「理想は大事よ」
ルフィからの自嘲にブルーノとカリファはそう言葉をかけた。
「ありがとう……で、実際航海の旅をする中で見てきたよ。国や町で只々、平和に暮らす人たちを自分の我欲を満たすために食い物にしている悪党たちを何人も……それで思った」
ルフィは目を瞑りながら、思い返し……。
「当然、『殺し』は許されない事だがその上で時にはそうしなければならない事もある。現実は清濁併せ呑むものだって……だから決めたよ、平穏に暮らす者を貪ろうとする奴みたいなどうしようもない悪党はちゃんと考えた上で必要だと判断すれば殺し、その行為による罪はちゃんと背負って生きる事を」
「……うちに欲しいな」
「本当にそうね……心から敬意を表するわ、ルフィ君」
「光栄だ」
ブルーノとカリファはルフィの考えを聞き、敬意を込めた表情を浮かべ言葉を贈る。
「さて、それじゃあ夜も遅いしそろそろ帰る事にする。良い酒と時間をありがとう」
ルフィは酒を飲み干すと懐から幾つかのベリーを出す。
「お代なら……」
「奢る約束だったから受け取ってくれ。それとカリファさん、付き合ってくれてありがとう」
断ろうとするブルーノに対し、ルフィはカリファの方を向きながら言う。
「ふふ、こちらこそよ。不思議と貴方といる雰囲気は楽しかったわ。流石は旅団の団長ね」
「嬉しい言葉をありがとう……お礼と言っちゃあなんだが、出来る範囲で貴女達の仕事を手伝うよ。古代兵器の設計図を手に入れたいんだろう?」
『っ!?』
部屋を出ようとしながら、問いかけたルフィの質問にカリファとブルーノは驚愕する。
「ふ……ふふふ……あははは。本当に私達の仲間になって欲しいくらいだわルフィ君。それじゃあ、よろしく頼むわね」
「ああ、任せてくれ」
参ったとばかりに笑うカリファへとルフィは笑みを浮かべつつ、言うと部屋を出て酒場の外へ……。
「さぁて、世界政府の諜報機関を相手に巧く立ち回らないとな」
そう、ルフィは呟きながら思考を回し始めるのだった……。