『ウタウタの実』の能力者はその歌声を聞いた者の心を意識の中だけの架空の世界である『ウタワールド』に取り込むことが出来る。心を取り込まれた人間は現実の世界ではなく、能力者が望んだ世界で生きているような気になるのだ。
そして、この世界を接点とする事で『トットムジカ』により、呼び出す事が出来る魔王は現実世界に君臨することが出来る。
今、その魔王にとって絶好の機会が来た。
楽譜に代わって、自分の声を
しかし、容易く乗っ取れる筈が個人の意識でありながら自分に激しく抵抗してみせたために焦ったが結局、目論見は成功し『ウタウタの実』の能力による世界に来れた。
後は今、憑依している人間から離れて目の前で歌っている『ウタウタの実』の能力者へと憑依し、意識を乗っ取って自分を呼び出す『トットムジカ』を歌わせれば良い。
そうしてルフィから離れようとした人間の負の感情の集合体、正確には歌を愛する人々の負の感情の集合体である魔王だが……。
「待てよ、散々人の体で好き勝手しといて用が済んだら、はいさよならなんてできると思ってんのか? それに将来の歌姫が歌っているんだ。最後まで聞けよ」
ルフィが意思の力、『覇気』で押さえつける。
現実の世界では魔王に干渉しづらいために苦しませられたがここは意識の世界であり、曲がりなりにも土俵は同じ。
故に干渉が出来た。
『(!?)』
魔王は集合体という圧倒的質量の自分を超える意思を有し、それで自分を拘束しているルフィに恐怖しながら逃れようとするがルフィの拘束は緩まないし、緩む訳が無い。
何故なら、目の前では歌っているウタが居て、彼女に手を出させないために彼の覇気は高まり続けているのだから……。
「(!!)」
そして、押さえつけられている魔王に更に干渉が行われる。それはウタの歌声に込められた音楽を愛する者の愛であり、正の感情。
歪み切ったとはいえ、そもそもは『寂しい』、『もっと認められたい』、『誰かに見つけてほしい』という感情が原点である魔王にとってはとても響く歌である。
更にウタを接点に現実世界に居るエレジア中の音楽家が奏でる演奏と歌が魔王へと響き干渉……その醜く歪んだ姿が幻想的であり、神秘的で美しい音楽の王の姿へと変わっていく。
「良い姿になれて良かったな。似合ってるよ」
魔王の感情が綺麗な感情に代わったのが繋がっているので強く感じる事が出来たルフィは音楽の王へと呼びかけながら、ウタが歌い終わったので覇気による拘束を解く。
「今まで寂しかったんだね、悪さをしないなら此処に居てくれて良いから」
ウタも音楽の王に近づいて、言うと音楽の王は頷いた。
「流石は歌姫だ……魔王を歌で浄化するなんて」
「ふふ、でしょ……ルフィ、もう二度と一人で抱え込むような事をしないで。私はルフィと一緒に……」
近づいてきたルフィの言葉に誇らしげな笑みを浮かべるがすぐに悲し気な表情で呼びかける。
「ああ、もうしない。約束するよ。俺が間違ってた……ごめんな、ウタ」
「私の方こそ、ごめん……大好きだよ、ルフィ」
「ああ、俺もだ」
そうして、ルフィとウタは抱き締め合いながら口づけしたのだった……。
2
ウタワールドから現実――歌を歌い終わると同時にルフィの傍でウタが眠り、苦しんでいたルフィの様子が平穏となった事で解決したのをゴードンやシャンクスたちが悟ると一旦、シャンクスはウタをルフィから離し、ホンゴウとベックマンが極限の疲労からか深く眠りきっているルフィの外れた関節を素早くはめ、血が流れている左腕の傷跡を消毒し包帯を巻いた。
そうして寝かせるとシャンクスは眠っているウタをルフィの傍に置いた。
「『トットムジカ』の魔王を何とかするとは……ルフィ君もウタ君もどちらも本当に凄い」
「ああ、俺が認めた男と俺の娘だからな」
ゴードンはルフィとウタに対し、どちらも賞賛しシャンクスは誇らしげに言った。
そうして、エレジアの歴史において今日、エレジア崩壊の危機を防いだルフィとウタは『魔王』を倒した英雄と歌姫として語られるようになる。
ただ今回、魔王は確かに犠牲を与え、悲劇の『爪痕』を残していた……。
残念ですが、エレジア編はめでたしめでたしではすみません。