『音楽の国』であるエレジアへやってきた『赤髪海賊団』は当初、一日宿泊するだけの予定だったが、かなり長引いた。
それは『トットムジカ』の魔王に媒介にされ、更には乗っ取ろうと侵食までされたのに必死に抵抗した事でダメージを受けたルフィの療養のためだ。
まず、精神と体力的に深く消耗していたルフィが目を覚ますまで数日かかった。
更に魔王の侵食に悶え苦しみながら叫び続けた事でずたずたになった声帯の手術と経過観察にも数日かかった。
音楽の国であるため、声帯など音楽家にとって重要な部位の治療に力を入れていたため、ルフィの声帯は自然回復を待てば良いレベルにまで回復できたのである。
そうしてようやくこの国を出る事となり、エレジアの港にて……。
「ルフィ君、本当にすまなかった」
「もう何度も謝ってもらいましたし、いろいろと世話してもらったので十分ですよゴードンさん。そもそもゴードンさんに悪いところなんてないんですから」
国民全員と共にルフィたちの見送りに来た国王であるゴードンは自分が迂闊にも国中にウタの歌声を広めた事で城に封じていた『トットムジカ』の楽譜を刺激し、惨状を招く可能性を生じ、しかもウタにその罪を負わせてしまう可能性があった事とその代わりにルフィに対して地獄のような苦しみを与えた事を気に病んでいて、ルフィに対しては何度も謝っているし、出来る限りの事を必要以上にした。
今回も謝ってきたのでルフィは苦笑して自分の気持ちを伝える。
「……本当に君は優しい子だ……そして、魔王を倒してくれてありがとう。ルフィ君、ウタ君、そして『赤髪海賊団』の人たち……良ければ、これからも訪れてほしい。そのたびに国を挙げて歓迎させてもらう」
そう、告げると音楽と共に『また来る』と言って旅立つルフィたちに向けて音楽を送りながら、見送ったのであった……。
2
エレジアからフーシャ村へと帰還するために赤髪海賊団の海賊船である『レッド・フォース号』に乗っての航海中……。
「ねぇ、ルフィ……」
「なんだよ、ウタ……」
ウタはルフィに質問をすることにする。
これをエレジアの人たちが知ってしまえば自分の想像以上にゴードンは特にショックを受けるから今までしなかった質問を……。
「もう、聴こえないんだよね? 歌も演奏も」
『!?』
ウタの質問の内容にモンスターとボンク以外の者たち全員が驚いた表情を浮かべた。もっともウタは質問の形ではあるが、エレジアの滞在中、何度も自分にモンスターとボンクの二人にも協力してもらったのでルフィが音楽においての聴覚を失っている事は間違いない真実だと知っている。
気づく切っ掛けとなったのはルフィに対し、思いついた歌を披露した際に今まで事細かに感想を言ってくれたのに、嘘をつく際の仕草をしながら曖昧な感想だけを言った時だ。
そして、モンスターとボンクに協力してもらって楽器で大きな音を鳴らした時もルフィはまったく、無反応だった。
ならせめて『ウタウタの実』の能力による世界で聴かせようとしても、その能力すらルフィには通じない。何故なら、ウタウタの実の能力は歌声を聴くのが絶対の条件であり、歌声が聴こえない、あるいは聴かない者には何の影響も及ぼさないのだ。
そう、よってルフィは音楽の全てが聴こえ無い事は真実だと証明出来てしまう。
「……気づいていたんだな……ああ、そうだ。唯の声なら聴こえるんだが、歌や演奏は一つも聴こえない。流石は魔王だよな、しっかり呪いを残していきやがった」
ルフィは苦笑すると真剣な表情で言う。この『音楽』における聴覚消失は治療とかそういうのが無理なものだと感覚的に理解しているのでゴードンや医師たちにも言わなかったのだ。
「っ!!」
そして、ルフィからの返答にウタは堪らず、抱き着いて胸に顔を埋めながら涙を流し、ルフィも辛い表情を浮かべながらウタを抱きしめる。
そう、これから先……ウタにとっては一番、自分の歌声を届けたい者に届けられず、ルフィも又、自分が好きな者の歌声を聴く事が出来なくなってしまったのだ。
「……」
「ちくしょう……なんで、こんな……」
「あんまりだろうがよ……」
シャンクスは口を噛み締めながら、拳を握り……ベックマンは文句を言い、項垂れる。ヤソップも世界に向けて毒を吐いた。
他の船員たちもそれぞれ、沈痛な面持ちになる。
ウタがルフィをエレジアまでの航海に誘う数日前、楽しみにしていた姿やエレジアについて当初、ルフィもウタも楽しそうにしていたからこそ、このまま二人にとって良い思い出になると思っていたのに……。
それがこんな残酷な仕打ちを自分たちにとっては家族であり、娘のウタとウタを優先しているがなんだかんだ、懐いてくれているルフィが受けるなど誰が思おう……。
自分たちが居て、何もできなかった無力感や自噴を感じずにはいられない。
「ごめんな」
「……ルフィは何も悪くないよ……私がもっと……うっく、ふ……うわああああっ!!」
ルフィは謝るしか出来ず、ウタは答えながらもとうとう泣き出してしまう。
「……お前の方こそ、悪くない」
ルフィはそんなウタを更に深く抱き締めながら、背中を摩る。ウタを泣かせてしまった無力感に口を噛み締めながら……。
そんな二人の様子にまた、シャンクスたちは心を痛める。
そうして……。
「……ルフィ、悪魔の実の能力は成長させられるんだって……だから、私はもっともっと成長して、必ずルフィに歌声を届けるよ。だから、待ってて」
「ああ、俺も『見聞色の覇気』を成長させて何とかできないか努力してみる……ウタ、俺たち二人に乗り越えられない試練は絶対に無い。あの邪悪な魔王すら浄化できたんだからな……そうだろう?」
「……うん、私たちは最強だもんね……」
「ああ」
そうして二人はこの苦難を乗り越えようと誓ったのであった……。
そういう事でトットムジカの魔王を浄化したルフィとウタでしたが……ルフィは『音楽』に対しての聴覚が犠牲になりました。
流石は負の感情の魔王、別の形でルフィやウタ、赤髪海賊団を曇らせるとは……。
『音楽の国』に行ったら、音楽を奪われるという結果に……。
自分の不注意で歳幼い少年であり、自分の国を救ってくれた英雄に地獄の苦しみ与えてしかも、後遺症まで与える事になったとかゴードンさん、これ知ったら下手したら自殺しそうな気もする……。