九十八話
その日、突然この世界において衝撃的な事が起こった。
それが起こったのは海軍本部がある『マリンフォード』。
十字の中央と四方に丸をあしらった世界政府の旗は『偉大なる航路』と東西南北の海、それら五つの地域と百七十の加盟国の結束を意味している。
これに唾する事は世界への反逆として危険視され、海賊に研究者、革命家、いかなる思想を持つ者にせよ、反乱分子として討伐の対象になる。世界政府の意思の元で治安維持にあたる海軍は『絶対正義』の象徴だ。
しかし、そんな海軍本部にて警報が鳴り響く。
「……前もそうだったが、ますますいかれとるな」
「ああ、いかれとるよ」
慌ただしく戦闘配置につく海兵を見つつ、センゴクとガープが言う。
二人の目の前で港に停泊していた軍艦が音を立てて、軋み始める。
なんと数千トンの船が水を滴らせながら海面から浮き上がったのだ。他にも横倒しになる船や逆さまになって空中で磔になる船もある。
艦隊の船全てが海軍本部の上空で宙吊りの状態になったのだ。
「能力は衰え知らずじゃのう」
「【フワフワの実】は中々に厄介だ」
センゴクとガープには異常現象を起こしている者の正体が分かっていた。
二人と海兵たちがなすすべもなく自分たちの船を仰いでいるとあたりが薄暗くなる。
太陽を隠したのは巨大な帆、忽然と空に船影が現れる。
その船体は木材でも鉄でも無い岩盤で構成されており、島から作られた空飛ぶ船であった。
その船が地響きを起こしながら本部の天守を掠めていき、空中に引き上げられた海軍艦隊の只中へ進んでいく。
「海賊王ゴール・D・ロジャーが死んで二十年……今更、何をしに現れた」
海賊旗を掲げた空飛ぶ島船の主にガープへ語り掛ける。
「もう、お前の宿敵はいないぞ、シキ」
センゴクも又、語り掛ける。
そう、島船の主は腰よりも長い獅子髪で頭の上には事故で船の舵輪が刺さっている老人のシキだ。
一度、インペルダウンに投獄されたが脱獄のために海楼石の足枷を自ら両脚ごと切断し、名刀の二刀を義足としてもいた。
そんなシキは笑みを浮かべると手を振り払う。すると宙吊りになっていた海軍艦隊が次々と落ちていく。
海面に叩きつけられ、真っ二つに大破する。水柱が上がり、高波が浅橋に押し寄せる。埠頭の施設に船が落下し、武器庫の火薬に誘爆して黒煙が上がった。
通りすがりの奇襲によって、十数隻の艦隊が海の藻屑になるという甚大な被害をもたらしたのだ。
「大人しく伝説になってりゃいいものを……」
空を移動する島船に対し、海兵の砲撃は通じない。
島船はゆうゆうと海軍本部を去って行った。それを見送るしか出来ないガープは歯噛みしながら言う。
「今更、世界に復讐する気か……」
こうして海軍本部を奇襲してみせたシキは更に東の海を荒らしていったのだった……。