楽園異聞録 ~ Metaverse地上編外伝 作:μtos
執筆時期は2021年12月。公開は2022年12月29日。
2025年2月25日 レイアウトを公式準拠に変更&細かい文章校正
★当作品はSEGA様の大人気アーケード音楽ゲーム『CHUNITHM』の二次創作作品です
★この物語には、版権オリキャラ、拡大解釈などなど、オリジナル要素が多量に含まれています
★原作とは違う年代/世界軸での物語です。なのでほぼオリキャラしか出てきません
★世界観の基礎基本は原作から引用していますが、数百年先の未来でのお話なのと、自己解釈や欲望をふんだんに使っているので殆ど独自の世界観で構成されています。原作知らなくてもほぼほぼ大丈夫……だと思います(一応めちゃくちゃにざっくりとした振り返りは入れています)
★作者自身の独自解釈や自由な発想、そして欲望の下、制作されています
★原作の書式や書き方をリスペクトして書いています。なのでみなさんがいつも読んでる小説やSSよりも特殊な構成です
★ぐ だ ぐ だ で す
★作者自身は原作であるSEGA様とは一切関係ありません。私は只のしがないチュウニズマーです
特に『版権オリキャラアレルギー』がある方は今すぐこのページから離れることをお勧めします。原作から引っ張ってきたゲストキャラはいますが、基本うちのオリキャラしか出てきません。心が寛容な人だけ、よろしくお願いします。
私は元々自分の想像を具現化することが苦手な人間です。
まだまだ発展途上なので、所々拙い部分や雑な部分があるかもしれません。
それでも見てくれるモノ好きな方だけ、紅茶でも嗜みながらどうぞ。
ハンニバル・アリギエリ STORY
【イラスト】
通常
トランスフォーム(準備中)
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1.未完の大器、小さな約束 “恐れることはない。 宿命は取り上げられることはない。 それは贈り物なのだ”──ダンテ・アリギエーリ
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コードネーム: ハンニバル・アリギエリ
年齢:16歳
所属:人民共和象徴都市『ネオぺルセス』
種族:真人と機械種のハーフ
規律:中立・善・金
イメージ曲:焔 -MAGMA- / SOUND HOLIC feat.Nana Takahashi
スキルシード:ゲージブースト
トランスフォーム:才血の神刃剣士 ハンニバル
――黄昏時の公園。
二人の幼い子供がブランコに座っている。
ひとりは空と同じ髪色の少年。もう一人は長い金髪の少女。
少女は泣いていた。
その少女を、少年が優しく慰めている。
近くを通り過ぎる人達には、きっとそういうふうに見えていることだろう。
「大丈夫だよ。君がいつも家の人達からいじめられていたとしても、俺が傍にいてあげるから」
「うぅ……ぐすっ……ほんと……?」
「うん。ほんとだよ」
ふと、少年が懐から何かを取り出した。
それは、煌々と輝く装飾品のようなもの。少年が首に提げている緑色のそれと同じだが、取り出したのは紫色のものだった。
少年は、紫色に輝くそれを少女にそっと手渡す。そしてその手を、ぎゅっと優しく握った。
「俺はもうすぐここを離れなきゃいけないけど――その代わり、何か嫌なことがあったらこのペンダントにおいのりしてね。きっと君を護ってくれるよ」
「会えなく……なっちゃうの……?」
「ううん。そんなことないよ」
少女の疑問に対して首を横に振ると、少年は右手の小指をそっと差し出した。
すると少女の左手を勝手に動かして、その小指を自分の小指に絡めた。
少女は困惑しながらも、少年の目を見つめる。
「きっとまた会える。もし君が心を壊してしまったら、その時は俺が助けに来るからね」
「……ほんとに?」
「ほんとだよ」
「絶対?」
「絶対だよ。絶対に絶対。全力で君を護るって、約束する」
ふたり遠く離れてしまっても、“似た者”同士、ずっと通じ合っていようね。
大きくなったら、絶対に再会しよう。
それは、少年が少女と交わしたとても小さな約束だった。
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2.レテの傷跡「これなるは、愛と平和の結晶が奏でる神聖なる喜劇である」
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幾年月前――。
この大地の自然界では、弱く小さな生き物は淘汰され、世界で一番逞しく強い生き物のみが支配力を誇示することを認められていた。
無力な生き物から順に屠られる……さながらどんどん収納されていくマトリョーシカのような世界。
その大地に突如として現れたのは、神に似せられ、神によって祝福され知恵を得た存在『人間』だった。
彼らは驚異的な速度で種を拡散していき、やがてすべての生命を支配するまでに至った。
進化していく種、発見されては実用化されていく技術……世界は彼らの手によって、都合よく設計されていった。
しかしその裏で、地球環境は悪化の一途を辿っていた。
人類種が文明を発展させるにつれ、副産物で生まれた様々な毒は清らかだった川の水や緑の森を汚染していき、それらを生み出した人類でさえももがき苦しむようになっていった。
やがて彼らは『地上環境の再生が成し遂げられなければ自分たちに未来は無い』と悟り、そんな世界の片隅で発狂した一人の科学者は、人類を救済するための新世界『メタヴァース』と人類の未来を管理する新たな神を創造した。
あまりにも壮大すぎるその計画は天国か地獄かの二極の結末を辿らざるを得ないものであり、自らの過ちを反省せぬ愚かな人間達はぞろぞろと狂人の下についていった。
その結果は、一目瞭然だった。
新たな神として解き放たれた『彼』――神祖エクレールは『地上再生を成し遂げるには人類種そのものを排除しなければならない』という判断を下し、人類を殲滅しようと動き始めたのだ。
当然、神の判断に異を唱えた者は頭角を現し、最終的に彼らは神を殺すことに成功する。
それでも、断罪は止まらなかった。
狂人が創造した仮想世界『メタヴァース』より来たりし72の巨大な軍勢は人類をあっという間に屠り、大地の片隅に追いやったのだ。
特にそのうちの一柱は天地を丸ごと創り替える力を誇示し、最後に置き土産として『旧人類』に似せた新たな人類種を大地に解き放った。
それが『真人』である。
真人は地上再生という目的の為だけに生み出された存在であり、合成人間であるため感情も成長も無く、普段は機械種に一括管理されて使命の為に命を燃やしていた。
彼らには、自分の意見を主張する資格などなかった。与えられた台本通りに、ただ『役』を演じるだけ。
アドリブなんぞ一切許されない、堅苦しい舞台装置。
そんな彼らが旧人類種の真似事をし始めたのは、仮想世界の神々が統率力を失ってからのことだった。
感情を与えられたことによる、足枷からの解放と思想の明確化。
これにより真人種の派閥は、仮想世界からやって来るであろう『究極の種』にすべてを委ねる者達『穏健派』と、地上の支配権は我々にあり、仮想世界の概念も自分達を好き勝手弄んできた機械種も全て滅ぼすと豪語する者達『強硬派』に大きく分かれた。
彼らの戦いは仮想世界から『究極の種』――帰還種が地上に到着したのを皮切りに本格化し、まず再生炉のあるイオニアコロニーを始めとして、多くの都市が帰還種をつけ狙う強硬派勢力によって侵攻/奇襲されていった。
12人いた帰還種は争いに巻き込まれて1人だけとなり、穏健派勢力は生き残った帰還種を守護しながら、強硬派勢力の圧倒的な戦力差から怯え逃げ惑う日々が続いていた。
やがて争いは激化する。
強硬派の指導者『エイハヴ』によって生み出された魔女『バテシバ・アヒトフェル』は、エイハヴ亡き後にこの星を巡る人類の種を全面的に破却することを宣言し、その影響で真人は帰還種や機械種など、全ての生命を敵に回してしまった。
穏健派は僻地に追い込まれ、帰還種と機械種は手を組み真人と対立。戦争は勢力争いではなく、種族間同士の地上の覇権を賭けた戦いへと変貌した。
その間に現れたのは、聖なる心を持つ数少ない調停者達。
中でも頭角を現したのは、帰還種の生き残りである少女『レナ・イシュメイル』と『メーネ・テルセーラ』。
彼女らがイノベイターと奮戦した数年後に出現したのが、第二次帰還種の『ミスラ・テルセーラ』――そして、今もその伝説が教訓として語り継がれる真人の神『ソロ・モーニア』だった。
彼らのような世界を調停する資格を持つ者――『英雄』は世代が変わるごとに出現していき、やがてその働きよって破却の危機は逃れ、滅亡と争いの種は世界中から掻き消された。
大きな犠牲と永い争いの果てに、真人と帰還種……そして旧人類種と機械種がお互い『不戦の契り』を結んだことによって、世界は新たな時代に突入する。
しかし、そんなものは一時的な処置に過ぎなかった。
暫くの間種を消すことは出来ても『完全消滅』という未来を見通すことは出来なかったのだ。
必然なのか、それとも誤算なのか……。
『ソロ・モーニア』という人類の王の死後から300年経った世界で、新たな争いが幕を開けようとしていた。
*
これは、“オリジナル”の時空とは少しずれたところにある、神秘に満ち溢れた世界を舞台とした神聖なる戯曲である。
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3.『自由』の郷「比較的平和な秩序を保ち続けてきた極西の大陸だったが、その平穏は一人の男の手によって崩落した」
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ネオペルセスより遥か西の大陸・欧州。
此処にはネオペルセスに次ぐ発展を遂げた大都市が集中している。
お互い距離があったことから情報の伝達には大きな差が発生しており、派遣されていた機械種の数も極端に少なかった。
そのお陰か、この地を中心に活動していた真人達は東部の地のように争うことなく、自分達の力で手を取り合って大地を開拓していた。
当時の彼らには旧人類種や機械種に対する拘りや心の隔たりというものが存在せず『どんな境遇を持っていても共生する』という、清くそして暢気な心を持った者が大半を占めていたことから、大きないがみ合いや争いが発生することも無かった。
しかし、その平和は時を経て一人の男の手で破壊された。
男の名は『モスカ・アミディ=ギッベリーニ』。
彼の祖先はオリンピアスコロニーに住んでいた旧強硬派の旧貴族の末裔だった。
戦争後、祖先は“初代陛下”の子孫の手によって追放され、ブリテン島のカンタベールコロニーに漂着。以後はそこに居を構えるようになったという。
ある日、モスカは欧州にある豊富な資源と優秀な設備に目を付け、それを根こそぎ奪おうと企む。
彼は自身に仕えている部下達を率いて、当時特に栄えていたシュタウフェンコロニーに侵攻を開始した。
彼の優秀な作戦能力や統率力によって軍勢は都市の厳しい監視体制を運よく潜り抜け、暫くしてシュタウフェンコロニーはあっという間に陥落。
以後、周辺の都市はモスカを中心に置いた勢力によって侵略/制圧され、その監視下に置かれることとなった。
モスカらの奇襲によりシュタウフェンコロニーの旗は焼き焦がされ、周囲の都市が彼の手によって次々と占領されていく。
その過激さや横暴さからかつての強硬派《イノベイター》を彷彿とさせる彼らは、後に『独裁派《ドミネイター》』と呼ばれるようになった。
突如現れた謎の勢力……ドミネイターによって苦しめられた当時の先住民達は、モスカらに反抗し居場所を取り戻そうとレジスタンス軍を立ち上げ、行動に出た。
そして彼らがモスカを殺害したことによって戦況は圧倒的有利となり、このまま押し切れば都市は奪還できる……誰もがそう考えていた。
しかし、そんな夢はすぐに終わりを告げた。
まるで彼の死に応えるように、その跡継ぎが出現したのだ。
レジスタンス側の反撃体制は後継者たる少女の手によっていとも簡単に崩されてしまい、ドミネイターに反抗した全ての真人達は、次々と処刑か拷問に出されていった。
新たな指導者が掲げる暴政に周辺の都市は手も足も出ず、かといって向こう側からも無駄な手は一切出してこないことから動きも読めないため、長らくの間ギスギスとした睨み合いだけが続いていた。
あれから数年が経ったある日。
フィレンツェコロニーに拠点を置いている集団『仙星十天』のリーダーにして、かつてシュタウフェンの領主だったベルモンティ家の現当主である『ペトロ・ベルモンティ』から、「世界を救う変革の英雄が覚醒した」という報せが各地に伝えられる。
『変革の英雄』とは、真人とそれに対立した者の意志を受け継ぎ、秩序混沌善悪を統べる絶対王者として数百年前の予言書に記された世界の救世主。
そして、ペトロが率いる仙星十天の十人こそがその『変革の英雄』の候補者達によって結成されたものである。
独裁派《ドミネイター》と呼ばれるようになった派閥の指導者たる少女もまた、その大いなる力を欲していた。
長い間停滞していた彼らであったが、この報を受けて再度侵攻を開始。
侵略を受けていないコロニーはこれを好機に、英雄を守り都市を奪い返す立場として都市奪還民主派(通称:奪還派)を名乗り、糾弾教会を筆頭とする欧州諸都市は反撃体制を着々と整え始めた。
イタリア半島では主戦力であるバルディアコロニーを中心に、サルデニアコロニー、ジェノバコロニー、ヴェニスコロニーなどの奪還派諸都市は同盟を結んで共闘関係を確立。反撃に転じる為の包囲網の形成へと打って出た。
一方の糾弾教会は直属の衛士を中東に点在するコロニーへと派遣し、両勢力の偵察を開始。更には遠い北の極地にも支援を要請し、各都市は水面下で決戦に向けて準備を進めていた。
その中でもシュタウフェンと近い場所に位置するバヴァリアコロニーは、遥か東の地にある大都市『ネオペルセス』と友好関係を結んでいたことから、我らの切り札とも呼べる二人の戦士を召喚した。
それが真人と機械種の血を引く少年『ハンニバル・アリギエリ』、そして彼の友人『バージル・ゲルフ』である。
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4.少年ハンニバル「俺、いつか親父みたいになりたい! そのために立派な衛士になって、この世界を護るんだ!」
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俺はハンニバル。ハンニバル・アリギエリ!
去年この人民共和象徴都市『ネオぺルセス』の衛士に入ったばっかりの16歳大学生!
性格は『いつでも明るく、前向きに』がモットー!
武器は『カリバーン』と『ガラテイン』。二刀とも昔、俺に剣術を教えてくれたカッコイイ“師匠”から貰ったものなんだ!
親父はこのコロニーの上位管理者をやっている機械種で、おふくろは俺よりめちゃくちゃ強いベテランの衛士。……おふくろのほうは今仕事を休んで家事に専念しているけどな。
まぁ、おかげ様で俺はみんなからちやほやされまくってるってワケだ! 「憧れてます!」って直接言ってくる後輩までいるくらいにね。
刀剣の二刀流使いなんて珍しいからなのかな、みんな変わった目で俺を見てるけど……悪いこと言うような奴らはほんの少数だし、みんな俺に良い期待を寄せてくれてるから、毎日頑張れてるんだぜ!
そして、そんな俺も親父に憧れていて、将来は親父みたいな立派な人になって、この世界を護りたいって考えてるんだ!
……なんて、ちょっと欲張りすぎかな。でも、夢はでっかくなんちゃらりって、よく言うだろ?
そういうことさ。
――とは言っても……。
「あ゛ーーー!!! また最下位から3番目だ……絶対親父に怒られる……」
肝心のお勉強は、この有様。
俺は実際、大学に通いながら衛士をやっているっていうご身分なんだけど、歴史学と理系以外の科目はぜんっぜん苦手で、いつも赤点取る度に先生に叱られて補習行き。
あ、授業はちゃんと受けてるぜ?
頭に入らないだけでさ――え、家で勉強しないのかって?
そ、それを言われたら流石に……あっはは……。これがバレたら親に叱られるから、内緒だぜ?
――
――――
と、考査が散々だった俺はいつも通り家に帰らず、お仕事が終わった後に遠回りして帰ることを選択するのであった――。
まぁ、いつもこんな感じさ。だって叱られたくないんだもん。当たり前じゃん!
「はぁ……今回もホントに散々だったし、家に帰りたくねぇなぁ……」
『そんな落ち込むことないだろ、バル。語学はダメだったかもしれないけど、今回も数学と世界史で3位以上取れたんだからいいじゃないか』
「バージルはポジティブでいいよなぁ……」
『何言ってんだよ。いつものお前だってバリバリのポジティブ思考じゃないか。いつものカチカチ頭の元気はどうした? ん?』
電話越しに会話しているのは、俺の昔からの親友であるバージル。住んでいるところは、ネオペルセスの遥か西方にあるバヴァリアコロニー。
バヴァリアは、俺が住んでるネオペルセスとお友達――つまり友好都市の関係を築いてるんだ。上位管理者の親父とバヴァリア領主のおじさんは昔から仲が良くて、その縁で俺とバージルは幼い頃からの馴染み。
でも、ここ数年は都市奪還民主派――通称奪還派とその敵である独裁派《ドミネイター》の緊張状態が続いているみたいだから、最近はお互い会えないままでいるんだけどね。
……俺もまた会いたいよ。
だって、昔から友人として付き合ってくれているのはバージルくらいしかいないからさ。
“他人より多少苦労して生きてきた”俺にとって、アイツこそが本当の親友で、両親に次いで2番目くらいに大切な心の拠り所なんだ。
『――お前も大人になってきたんだし、僕がいなくても案外やっていけてるだろ? こっちもこっちで毎日せかせかと頑張ってるんだからお互い様だよ。元気出せって。それじゃ』
「あ、え!? ちょ、ま――……また勝手に切られちゃった。忙しいのかなぁアイツは……」
ここ最近は多忙なんだろうか、バージルは一言二言話してから電話を即切った。
「はぁ……もう一度お前に会いたいよ、バージル……」
俺はふと足を止めて、黄昏色の空をぼーっと眺める。
あーそうそう。俺はいつか、外の世界を自由に旅してみたいんだ。
“縛られることに慣れている実、縛られることが嫌い”な俺にとって、コロニーの外に出られない生活というのは相当退屈だし、何より苦しい。苦行といってもいいくらいにね。
外側に出られないことを簡単に諦める虚無主義者のような人間ではないし、こうやって頑張って生きてきた結果衛士になったんだから、外に出られるチャンスはいくらでも期待できるってものさ。夢は簡単に捨てられないよ。勿論、親父みたいに強くなるってのも忘れてないぜ?
はやくコロニーの外側に出て、一刻も早く友達と会いたい――。
そう思いながら、どこまでも続く広い空を仰ぐ。
ふと、瞬きした瞬間だった。
雲ひとつ無い夕焼けの空に違和感を覚えた俺は、突如出現した黒い影に視線をやる。
(ん? なんだあれ……)
――大きな鳥のような『何か』が、空を迂回している。
そう視認した直後――。
「……お? なんだなんだ? 電話か……?」
携帯していた通信機から突如着信音が鳴り出した。俺は通信機を手に取り、番号を確認する。
(これ……もしかして本部から? でも今日はもう訓練や見張りの当番は終わった筈……どうして……)
――もしかしたら緊急で何かあったのかもしれない。
そう思いながらも気を引き締め、通信を許可する。
電話は監督官からのものだった。
その内容は、ネオペルセスに所属する全衛士は至急本部まで来て欲しいという緊急要請だった。
――監督官から呼ばれた以上、やるしかない。
俺は踵を返し、すぐに本部へと直行した。
先程まで黄昏の空に飛んでいた大きな影は、気づけばどこかへと消え去っていた。
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5.開いた古傷、蘇る地獄「俺が遠征任務に!? やったー! ……え? 親父から伝言?」
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本部に呼び出されたハンニバル少年は、真人の監督官から『再び動き出した独裁派勢力がこちらへと向かって来ている』という報を聞く。その場に集まっていた衛士一同は動揺し、場がざわめき始める。
フィレンツェに居る名のある真人『ペトロ・ベルモンティ』が声明を上げたことについては以前から聞かされていたものの、ネオペルセス所属の衛士に対しては待機命令が下されており、余程のことがない限り外に赴くことは禁止されていた。
しかし今回改めて全招集がかけられたということは、ようやくペルセス自ら動かなければいけない事態になってきたのだろう。
話は当然、独裁派がペルセスに接近しているという報せだけでは終わらなかった。
監督官は「静粛に」とその場を一喝し、地上の現在の状況を淡々と話す。
1つ目は、暗殺された指導者の子供……彼女を後釜とした独裁派《ドミネイター》が更なる暗躍を企む可能性が浮上し、それによって地上全体の更なる影響が懸念されているということ。
そして2つ目は、彼らに侵略されたシュタウフェンコロニーがある、遥か遠く離れた西側の大陸に関すること。
「お前達に以前話した通り、西の大陸にあるシュタウフェンコロニーは独裁派勢力によって制圧されている。そして向こう側の奪還派所属の都市群は、フィレンツェに居を構えるペトロという男が声明を発表したのを皮切りに反撃へと打って出るための準備を着々と進めている。……ここまではわかるな?」
ハンニバル含む衛士一同は、声を揃えて返事をした。
「……聞き覚えのいい子達だな。それでこそ象徴都市の衛士たるもの」
監督官は気を取り直して話を続ける。
「このままでは、“初代陛下”が我々と交わした不戦の契りは愚か、独裁派の連中の暴走によって奪還派は追い詰められ、更なる被害の拡大は免れない」
そして、監督官は声を張り上げて言った。
「――そこでお前たちには、各部隊に分かれて戦況の偵察及び支援を行ってほしいのだ」
奪還派の援護とドミネイターらの偵察……それこそが、ここに呼び出された目的だった。
実情、相手と自陣の戦闘力差は目に見えて明らかであり、彼らの侵攻や奇襲などで発生する度重なる紛争によって奪還派の人員はその数を急激に減らしていた。ネオペルセスはまさに彼らにとって最後の切り札だった。
この都市は本来機械種の都市であったが為、ここに居を構える真人も勿論、彼らの徹底的な管理によって生活を保証されている。
しかし、昨今の現状やこれから発生する被害を考慮して、都市の管理者たる機械種は『ハイメ=ハル・モーニア』を中心とする真人らに軍隊の司令権を讓渡した。
真人に司令権が渡ったペルセス陣営は今後の戦いに備えて、周辺を徘徊するドミネイターを監視する偵察部隊と、西の大陸の奪還派諸都市の援護に回る遠征支援部隊の2つの部隊を編成。これは即ち、象徴都市自ら都市の外に赴くということだった。
各衛士に配属先が割り当てられていく中、ハンニバル少年は西の大陸に赴く遠征支援部隊へと配属された。
つまりこれは、コロニーの外に出られるということ。
(よっしゃ〜! やっとバージルに会えるんだな!)
ようやく願いが叶ったと思った少年は、その場で静かに喜んだ。
――
――――
緊急招集が終わると、同僚達は各自その場を去っていく。
ハンニバル少年も帰ろうとした直後、監督官から大きな声で呼び止められた。
「ハンニバルくん」
「は、はい!?」
驚いた少年は素っ頓狂な声を出してその場でつまづいた。
何をされるかわからないし、もしかしたら今日のことでまたお叱りがあるのではないかと恐怖する少年。
「お父様――お前の親父さんから伝言が」
呼び止めた目的は、父親からの伝言だった。そっと胸を撫で下ろすハンニバル少年であったが、これで安心できた訳ではない。面倒臭い相手からの連絡となると、余計に不信感が募る。
「……何のことですか」
内心面倒に思いながらも、少年は渋々内容を聞き出す。
「『世界を巡って英雄になれ』と」
「…………」
「いきなりで申し訳ないとは思うが、まぁ詳しいことは親父さんから聞いてくれ。以上だ」
監督官はそう言ってその場を去っていった。
「『世界を巡って英雄になれ』……? 一体いきなりなんだってんだよ……」
あまりに突然のことに少年は困惑しながらも、とりあえず父親から話は聞こうとその場を去っていった。
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6.課せられた使命「なぁ、教えてくれよ親父。誰もが生まれてくることに理由や目的があるのだとしたら、俺は何なんだ?」
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自分が親父からいつも高望みされていることはわかっていたし、そんなかっこよくて強い親父に憧れてもいた。それでも『英雄になれ』なんていうのは最初は冗談かなんかだと思って、頭の片隅に置いていた。
子供の頃から、『一人前になれ』とか『強くなれ』とかそんなことばっかり言われてきたし、年を1つとるにつれその言いぐさも流石に嫌気がさしてきていた。というか、もうなんか言われすぎて慣れてしまった。面倒くさい、うざい。ということ以外、何も感じなくなってしまった。
確かに、俺には何かの素質がある。それは自覚している。
それでも――それ以前に、心の中に何か大事なものを忘れているような気がしていたのだが、それは何年経っても何回考えても、何が何なのかわからなかった。
――誰もが生まれてくることに理由や目的があるのだとしたら、俺は何なのだろう。
気になって気になって仕方なくって、毎日そんなことばかりをぼーっと考えていた。
無論、親父みたいな立派な存在になりたいという夢は持っているし、今も諦めていない。
しかし、何故だか、不思議と満足出来ていなかった。昔っから自分の心の中に大きなものが抜けている感じがしていた。
――もしかしたら俺は、親父に追いつくことだけが目的ではないんじゃなかろうか。その先にあるもっとでっかい何かを掴み取る日が来るのではないだろうか。
そうやって、いずれ自分の身に何かが迫るだろうという予感だけは、密かに感じていた。
――
――――
「……ただいまー」
家に帰ってリビングに顔を出すと、そこには親父がいた。
「ご苦労さん。監督官から話は聞いたかい?」
気が向かない俺は、無言で首肯して返した。
「そうか。ならよかった」
当然、これだけじゃないんだろう?
面倒なことに遭うのは目に見えている。
本来ならば早く部屋に戻って着替えて飯食って眠りたいところなのだが、まだ話は終わっていないだろうと親父の態度から察した俺は、足を動かさずにその場で不貞腐れていた。
「そうやっていつまでもそっぽ向いてないで……話をするから、こっちへ来なさい」
――やっぱりな。
俺は言われた通り、親父が座っている向かい側の席に座った。話を聞く時には人の目を見るなんてのも、しょっちゅう言われてきたことだ。
早速、俺は思っていたことを切り出す。
「……なんなんだよ一体。所詮タダの遠征支援任務だろ? 俺だけ早めに出るとかいきなり言われたって……」
「……そう言われるとは思ってたよ」
親父にしては、質問の返答が妙にストレートだった。不思議だと思った俺は疑い、眉を顰める。
「……気分転換に、少し昔話をしよう。だが何にせよ、これからのお前にとってすごく重要なことだ。それくらいは興味あるだろ?」
「え? ま、まぁ……」
親父は昔話をしようと言って、話を切り出した。
突然何が始まるんだ……と言わんばかりの困惑を顔に出してしまったが、昔の話には興味がある。粛々と耳を傾けるとしよう。
これは、とある予言の話だ。
この世界が危機に瀕した時、『星』と『神器』を携えた『変革の英雄』が誕生し、災害を滅ぼすという。
その『英雄』は真人の血とそれに対立する者の意思を携え、世界を統括する権利が与えられているらしい。
『英雄』の器たる者は10人存在し、『星の輝きが揃う』ことによって、血は覚醒するという。
そして、その10人の中から選ばれた1人だけが、秩序混沌善悪総ての規律を司り、世界を救う『英雄』になる資格を与えられる。
選ばれし『英雄』が誕生したとき、世界は真の『永遠』になる。
……とかなんとか。
「今現在伝わっている話はここまでだ。100年くらい前まではもう少し詳細なことが書いてあったらしいが、その文献も誰かに焼かれて、殆ど燃えカスになって消えちまったらしい。……まぁ、それが何の話だってお前は思うかもしれないがな。大昔から伝わってる話だし、俺もあまり覚えていない」
「……」
突然小難しい話を聞かされても何が何だか分からなかったので、何も関係ないだろうと思って聞き流していた。しかし――
「実はこの間、フィレンツェコロニーにいるベルモンティ家の方と会ってね。お前のことが気になっているらしい。“お前と同じ境遇”の方なのだが、『是非貴方の息子さんに一度お会いさせてくれないか』と申し出てきたんだ」
「へぇ……まさか、ソイツへ会いに行ってきて欲しいからここから出て行けと?」
「簡単に言えば、そんなものさ。ただ、こちら側に悪意はないということは理解してほしいな」
当然、俺も機械種という対立意思と真人の血を携える者のひとりだ。
どうやら親父は俺にそのペトロという人のところへ行って試練を果たし、『英雄』とやらになって欲しいらしい。悪気はないとしても、機械種らしいその理不尽さは歴史の授業で聞かされた通りだ。
「……詳細は俺から話すことは出来ないが、まだ大人でもないお前にとっては過酷な旅路になることは間違いないだろう。どうだ、行ってくれるかい?」
「えーっと……」
突然「覚悟は決まったか?」みたいなことを言われても、まだよく分からなかった。
「まぁ、突然言われてもわからないだろうな」
すると、親父は俺の手を握って、目をじっと見据えた。
「“俺達”はお前に戦争を――いや、世界を救ってほしいんだ。フィレンツェの候補者達はお前と似た境遇の持ち主が大勢いる。そして、奪還派の連中はお前のような人間が来るのをずっと待っているんだ。それに――」
親父は俺の胸のあたりを指さした。
「俺やメイリアから代々受け継がれてきた『神』と『英雄』の意思がお前の身体には宿っている。その縁が、きっと道を切り開いてくれる筈だ」
「親父……」
険しい旅路に立ち向かうということは、それ程重要なことなのだろう。
例の場所へ向かうには、都市の外側の紛争地を通過しなければいけないらしい。監督官にも言われた通りだ。
「俺もメイリアもお前を信じている。神様はきっと、味方してくれるはずだ」
そもそも俺は衛士の身だ。英雄だのなんだの関係なく、何としても戦争を終わらせなければならない。
もし俺が、親父の言う『英雄になる資格』を持っているのだとするならば、その力を必要としている人達のもとへ行かなければならないのだろう。
「お前は、我々ペルセスが持てる唯一無二の希望の切り札なんだ」
親父だって俺を信じて背中を押そうとしてくれているはずだ。家族や大事な人達の為にも、期待に応えないといけない。行ってみる価値はありそうだ。というか、行くしかない。
――決めた。
「……あぁ、わかった。俺、その人のところに行ってみるよ」
俺は口を開いてキッパリと答えを返した。
親父は満足したのか、安心した顔で頷いた。
「……一応聞いておこう」
親父は一息間を入れると、また真剣な顔をして俺に尋ねてきた。
「もう一度言うが、これは決して楽なことでは無いということは肝に銘じておいて欲しいな。あと、お前は他の衛士達とは別で動いてもらうことになる。それもわかっているな?」
「うん」
腹括ってるんだから当然だと、俺はすぐに首肯した。
「あとは……そうだな」
「ん? なんだよ」
「お前のことだ……一人だと心許ないだろう。カロンという知り合いの女に車を出してもらう。バヴァリアの領主とも話は進めてあるから安心しろ」
――ん?
バヴァリアの領主、てことは……。
「え? もしかして……」
「あぁ、どうやらバージルも、お前に同行したいらしい」
――よっしゃ~!
「本当にいいのか!? ありがとう親父!」
「礼を言うならバージル本人に言えよ? 俺はそれを承諾しただけだからな」
うわぁ~!
すごく嬉しいし、感謝しかねぇよ!
バージルも手伝ってくれるなんて……最初から一緒なら頼もしい限りだぜ!
何せアイツは天才だし、超ラッキーじゃん!
「えっへへ……なんだか申し訳ないな。こんなに気遣ってもらっちゃって」
「当然だろ。お前一人だと崖にそのまま突っ込んでさよならしそうだからな」
「あー? なんだって!? 親父のくせしやがって、ふざけんなコノヤロー!!」
「あっははは……ごめんごめん」
そうやって笑いあいながら、ふざけあいながら、他愛ないやり取りを交わしている、親父と俺。父と子。
これも暫く無いんだろうなと思うと、少し寂しくなる。
――もし旅路から帰ってきて成長した俺を見たら、親父はどう思うのだろうか。
ふとそんなことを思ったのだけれど、今は考えても仕方がないか。
まずは残り少ししかない、この時間を大事にしよう。
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7.一際輝く一等星「覚悟は決まった。何れ来るどんな一手にも、抗ってみせるさ」
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――夜。
荷造りを済ませた俺はおふくろが淹れてくれたカプチーノを片手に、ベランダで雲ひとつない星空を眺めていた。
これから行く末のわからない旅路に出るのだから、落ち着ける筈がない。
気紛らしに友人と通話でもしようと、自分の携帯電話を取り出してみる。
一番付き合いの長いバージルにでも――と思ったけど、アイツはいい子ちゃんだから今頃は多分寝ているだろうし、もし掛けたとしても「話は明日」とか言われそうなのでやめておいたほうがよさそうだ。
この時間でも怒らなさそうな奴といえば……ソルデルロくらいしかいないだろう。
ソルデルロは極西に住んでいる衛士だ。アイツがこっちに派遣されてきた時に一緒のチームになって、そんでヤケに積極的に話しかけられてきたのが始まり。少しお互いについて話をし合っていたときに意気投合して、それからの仲かな。
付き合いはそれ程長くなく、むしろ一年前からという割と短い方だ。
この時間帯にも絶対アイツは起きてるし、仕掛けても問題無さそうだろう。
思い切って電話を掛けると、ストレートに応じてくれた。
『おやおやハンくん。こんな夜中にどうしたんだい? もしかしてカノジョでも出来た〜?』
「ちげーよ。……ったく相変わらずだなお前」
ソルデルロは割とフランクな奴で、気を許されたと判断した相手にはすぐ渾名をつけるタチだ。最初はウザいなと思っていたけれど、絡んでいくにつれそんなことすらどうでもよくなって、今では遠慮なく付き合える相談相手になっている。
『冗談だよ冗談~……んで? ご用件はなあに?』
「あぁ……ちょっと落ち着けなくてな」
『なんだそんなことか。もしかして、明日研究発表のプレゼンでもあるのかな?』
「違う」
『アッハハハハハ! ……わかってるよ。ついに行くんだろ? 外へ』
「あぁ、ほんとにうれ……――え!? なんでそんなこと知ってるんだ!?」
俺がフィレンツェコロニーへ向かうことをソルデルロが知っていたことに、驚きを隠さずにはいられなかった。でもアイツは確か特別階級の戦士だった筈。そう考えると納得いくだろう。
ソルデルロはそんな俺が面白おかしかったのか、愉快に大笑いした。
しかし、世界の根本に関わるような一部の人間にしか知らないようなことを認知してるって、一体何者なんだ?
恐る恐る聞いてみたが――――。
『内緒。今の君が知る必要はないさ。時が来たらカミングアウトしてあげるよ』
と言われて、教えてくれなかった。
それより――と、彼は話題を元に戻していく。
『君はこれから遠い旅路に出るんだ。外へ出ればいろんな現実を目の当たりにするかもしれない。緊張するのも無理はないさ』
ソルデルロは一息入れて『いいか? よく聞いておくれよ』と一言促すと、現状についての説明を始めた。
曰く、ペルセスの外側では独裁派本陣が水面下で最終決戦に向けた準備を進めており、向こう側の戦士達もぽつぽつと周辺を出歩いているらしい。
……まるでファンタジー小説によくある『村の外には危険な魔物がうじゃうじゃいる』設定を彷彿とさせる状況だ。改めて整理してみると、頭が痛くなってくる。
外に出た瞬間、鉢合わせになるのはほぼ確実とみていいだろうと、ソルデルロは私解を述べた。
「そうか。まぁそんなドライブ気分でいられるようなものではないよなぁ……」
『そんな余裕ぶっこいてたのかい!? 全く君は暢気な僕ちゃんだ……』
事実、外に出られるというだけではしゃいでいたのは間違いないが、まさかここまで周辺が緊迫しているとは思っていなかった。突っ込まれるのも……まあ当然といえば当然かな。あはは……。
『でも心配すんな。フィレンツェの近くにあるヴァチカンのボスも君達に力を貸すつもりらしいし、向こうからも2人の衛士が途中で合流してくれるらしいからね』
彼からはバヴァリアの他にも、西側から力を貸してくれる都市が多く存在するという話を聞いた。そしてどうやら道中には合流予定の衛士が付近を巡回しているらしい。
しかも、随一のプロフェッショナル集団と言われているヴァチカンの騎士修道会が力を貸してくれるというのであれば、道中の安全は約束されたも同然だろう。
だってあのヴァチカンだぜ!?
近所にある旧強硬派の最大都市・オリンピアスコロニーの連中にも恐れられているというあの……!
「なんだか申し訳ないな。こんなに接待させてもらっちゃって」
『だって“君”だからね。仕事を断らない奴はいないよ。そう焦る必要も無い。時間は有限だけど、お陰様でまだ時間稼ぎ出来るだけの余裕はある』
『だから安心して行けよ』と、ソルデルロは電話越しに宥めた。
『そんなことより――』
「ん? なんだ?」
『せっかくだしこんな真面目(しんめんもく)な話は置いておいて、もっと気楽にどうでもいいこと話し合おうぜ?』
「アッハハ……そうだな。そういえば最近――――」
こうしてしばらく雑談を交わして笑いあった後、『頑張ってね』と一言貰ったあとに。お互い電話を切った。
冷たい風が吹く中で、ふと、夜空を見上げ仰ぐ。
快晴に煌めく、数多の星々。
俺の目は、その中で一際輝く十の星を捉えた。
腕を伸ばし、中心に輝く赤い星を掴むように強く拳を握ってみせる。
あたかも強大なる脅威に『そこで待ってろよ』と煽り立てるように、天に向かって俺は微笑んだ。
―――――――――――――――――――――――――
8.最果てへと至る決意「さようなら、ペルセス」
―――――――――――――――――――――――――
翌日の夕方。
長年世話になった家へ別れを告げて、コロニーのゲートへと向かった。到着した時には、すでにバージルや親父が俺を出迎えてくれていた。
「バージル~~~!!!」
バージルが視界に入って早々、俺は彼のほうに走って両手を掴んだ。やっとまた会えたのだ。嬉しくて仕方がなくて感情を抑えられなかった。
アイツは最後に会ったときとほとんど変わっていない。
その一方でバージル本人は――。
「お前……」
「ん? どうかしたのか?」
「かなりデカくなったな……」
久しぶりに会ったからだろうか、俺に困惑しているようだった。
「……でも嬉しいよ。久しぶりにお前の顔が見られたからな」
それでもやっぱり再会できたことは嬉しいみたいだ。安心した俺は「俺も嬉しいよ!」とすぐに言葉を返した。
すると、ゲートの方角から女性の声が聞こえてきた。
「おーい! ジル坊、噂のハンニバルくんってのはその子かい?」
「そうですよ!! はやくこっちに!!」
バージルが手を振って呼びかけたので俺はその方向をちらりと見た。しっかし――。
(うっ……!? なんだあの髪色とファッション……目に悪いぞ……)
歩いてきた女性は、やけに浮かれた格好をしていた。
ウェーブがかった赤い髪に虹色のサングラスを掛け、唇には圧倒的に濃い赤い口紅を塗り、ビビットカラー強めのカラフルな服装を着込んでいる。
そして、彼女のうしろにあるキャンピングカーも、購入当時はホワイト一色だっただろうと思しきものが派手な色のステッカーやスプレーで盛大にデコられていた。
良く言えばセレブのようで、悪く言えばアバンギャルドで奇抜……そんな感じだ。まあとにかくギラギラしている。
「ふ~~ん……成程。この子が……」
女性は俺の近くに来ると、虹色のサングラスを掛けたまま俺をジッと見据えた。香水のキツイ匂いが鼻を刺激して顔が引き攣りそうになったが、なんとか表情が出ないように我慢した。
やがて満足するとなにか納得したように微笑み、そして俺の肩を2回叩いた。
「あっはっはっは! なんだなんだ、なかなか可愛いじゃないかい。メイリアさんはいい男の子を産んでくれたね」
彼女からおふくろの事を言われて、なんだか照れくさくなってきた。
――ん?
待てよ?
なんでおふくろの名前を知ってるんだ?
あの人は俺が産まれた頃から衛士の仕事を休んで家事に専念してるはず……もしかして知り合いだったりする?
いや、いくら何でもそれだったら大物じゃあ――――だって超エリートと知り合いだなんてどう考えても……。
「おっと、紹介を忘れていたね。この人が僕達と一緒についてきてくれるカロンさんだよ」
「…………は?」
……え? バージル、マジ??
この人が……父ちゃんやおふくろと知り合いの……?
俺はわけがわからなかったので二度見した。
「なーに変なとぼけっつらしてんだい坊や。……あ! まさか、あたしが可愛くてたまんな――」
「んなわけあるかよ……その最先端行き過ぎてるファッションセンスからあなたの名前が思い浮かばなかったんじゃないんですか?」
バージルが「そうだよな、バル」と突然聞いてきたので、「お、おう……」とぎこちなく相槌を打った。
「そうかな~そんなに派手かい?」
――少なくとも今の大人はそんなマブいものを好んで着ないと思います。
そう思っていると、カロンさんは俺の頭を2回ポンポンと軽く撫でて、陽気に挨拶をした。
「ま、そんなことはどうでもいいじゃないか。とりあえず、途中までよろしく頼むよ」
俺は戸惑いつつ、「よ、よろしく頼んます……」と返した。
「さてと……揃ったところだし、とりあえずうちのキャンピングカーにおいでよ。荷物の整理とかしないといけないしね」
「ついてきなよ」とカロンさんに言われた俺達は、後ろをついていく。
その道中でバージルは、バヴァリアでの事情やこれからのこと、そしてカロンさんといつどこで知り合ったのかということについて話をしてくれた。
バージルはペルセスへと向かう前日にカロンさん本人とたまたま会ったらしく、その時から色々と話を聞いたらしい。俺の親父やおふくろのこととか、過去の話とか、とにかく色々。
「へぇ~……ていうか、前日に会ったってことはもしかして……」
「あぁ。アイツの車に乗せてもらってここまで来た」
「えぇ!? あのケバい車に――」
「しっ、声が大きいぞ。聞こえたらどうすんだ……」
「――ん? なんか言ったかい坊や」
「いや、なんでもないっす……」
「ちょっとカラスが飛んできてびっくりしただけです」
「ふ~ん……ならいいや。気を付けるんだよ」
まさかあの車に乗ってきたなんて予想外過ぎた俺は、思わず反射で大きな声を出して驚いてしまった。
「しかしおかしいな……僕が乗ったときにはまだ普通だったような……」
バージルは、最初にあの車を見た時にはあそこまで派手ではなかったと言った。目がおかしくなったんじゃないかと一瞬疑ったが、どうやら本当らしい。
「もしかして彼女は――――」
「おーい! なに二人で仲良くお喋りしてんだい? すぐに出発しなきゃいけないんだから、もたもたしてないで、はやくー!」
バージルと喋っていると、カロンさんから呼ぶ声が聞こえてきた。早く来いと促された俺達二人は、急いで車の所へ向かった。
荷物を積み終えて車に乗ろうとした矢先、カロンさんが大きな声で誰かを呼んでいることに気が付いた。
あれは――俺の親父だ。見送りにやってきたのだ。
「やぁ、ゼノンさん。お久しぶりだね」
「こちらこそ、お前も相変わらずだな」
「はは、とんでもない。呼んでくれてありがとさん」
カロンさんに挨拶した後、親父は俺の方を見た。
「■■■■」
「――え?」
「必ず強くなって帰ってこい」
「親父……」
親父は、久しぶりに俺を“本名”で呼んでくれた。そして「必ず強くなって帰ってこい」と励ましてくれた。
実際、家にはデリケートな事情があって、俺は本名を名乗れない。
この『ハンニバル・アリギエリ』なんて名前もパチモンだ。
だから、親父が久しぶりに本当の名前で呼んでくれて、すごく背中を押されているような感覚になった。
そんな親からの一言に心打たれた俺は、溢れてくる涙を拭いながら「ありがとう」と返した。
みんな俺を信じてくれているんだ。いつか強くなって親父やおふくろにギャフンと言わせてやろう!
「はは、急に泣くなって。こっちまで悲しくなってきてしまうだろう」
「うぅ……親父、ありがとう…………俺、強くなって帰ってくるからな」
「うん。その意気だ」
親父が俺に背中を向けさせると、気を落ち着かせるかのように肩に手を置いた。
「さあ、もう行きなさい。強くなって、必ず戦争を終わらせるんだ。父さんとの約束だぞ」
親父は俺の背中を押して、気合を入れてくれた。
「ははっ、ありがとさん。――それじゃ、行ってくるよ」
「あぁ、行ってらっしゃい」
俺が車に乗ると、なにか忘れ物をしたのか、父さんは俺を呼び止めてきた。一体何なのだろう。
「これ、お前の母さんからだ。今日は忙しいからこの場にはいないが、代わりに預かってきた」
すると親父は、俺の手に小さいものを差し出した。
それは、おふくろが俺に作ってくれたお揃いのピアスだった。
「お前のことだからどれだけ動いても余裕だろう。御守りみたいなものだ。持っていきなさい」
母親からも後押しされているなんて、なんだか少し笑ってしまう。
俺が「わかった」と頷くと、車のエンジン音が鳴りだした。
我が子の旅立ちを見届けるように微笑みながら、親父は傍から後退していった。
車が動き出すと、親父に向かって笑顔で手を振った。
親父もそれに応えるように、手を振って見送ってくれた。
派手だった車の色は、いつの間にか綺麗な迷彩柄に変わっていた。
――
――――
黄昏時。
自分の髪の色と同じ、夕焼けの空。片耳につけたピアスが綺麗に光る。
窓から身を乗り出し、その美しい景色をぼーっと眺めていると、一機の戦闘艇とすれ違ったような気がした。しかし、飛んで行った方向を見てみると何もなかった。
自分の錯覚か、それとも空が記憶を見せているのか――。
ま、今はそんなこと考えても仕方ないか。
(親父、おふくろ、そして、支えてくれたみんな……今までありがとう。さようなら)
小さくなって見えなくなるまで、俺は故郷の街をその目に焼き付けていた。