楽園異聞録 ~ Metaverse地上編外伝 作:μtos
2025年2月26日 レイアウトを公式準拠に変更&細かい文章校正
★当作品はSEGA様の大人気アーケード音楽ゲーム『CHUNITHM』の二次創作作品です
★この物語には、版権オリキャラ、拡大解釈などなど、オリジナル要素が多量に含まれています
★原作とは違う年代/世界軸での物語です。なのでほぼオリキャラしか出てきません
★世界観の基礎基本は原作から引用していますが、数百年先の未来でのお話なのと、自己解釈や欲望をふんだんに使っているので殆ど独自の世界観で構成されています。原作知らなくてもほぼほぼ大丈夫……だと思います(一応めちゃくちゃにざっくりとした振り返りは入れています)
★作者自身の独自解釈や自由な発想、そして欲望の下、制作されています
★原作の書式や書き方をリスペクトして書いています。なのでみなさんがいつも読んでる小説やSSよりも特殊な構成です
★ぐ だ ぐ だ で す
★作者自身は原作であるSEGA様とは一切関係ありません。私は只のしがないチュウニズマーです
特に『版権オリキャラアレルギー』がある方は今すぐこのページから離れることをお勧めします。原作から引っ張ってきたゲストキャラはいますが、基本うちのオリキャラしか出てきません。心が寛容な人だけ、よろしくお願いします。
私は元々自分の想像を具現化することが苦手な人間です。
まだまだ発展途上なので、所々拙い部分や雑な部分があるかもしれません。
それでも見てくれるモノ好きな方だけ、ハーブティーでも嗜みながらどうぞ。
【イラスト】
通常
トランスフォーム(準備中)
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1.命運を託された王子「これから先は様々な困難が待ち受けている。運命が僕達に味方してくれることを、切に願っているよ」
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名前:バージル・ゲルフ
年齢:18歳
身分:第一王子
所属:バヴァリアコロニー
規律:秩序・善
イメージ曲:Mirrorwall / BlackY
スキルシード:コンボエクステンド
トランスフォーム:賢明なる導士 バージル
――夜。
いつもはもう寝ている時間なのだが、今日はなんだか眠れなかった。
ほんのりと灯りが照らされている車内で、窓を開けて風を浴びる。
……今宵は星空がよく見える。
どこまでも続く星空は、僕らの旅立ちを祝福しているかのように思えた。
「んん……」
「はあ……全くこいつは、ぐっすり寝てやがるな」
ふと、人の肩に頭を乗せながら隣で眠っている友人に目をやる。
いつもうるさくて馬鹿まっしぐらな彼だが、こいつの寝顔を見ていると、本当はなんも変わらない普通の人間なんだなと思えて、溜息が出てくる。
「全く……そんな無防備に寝てたら死んじまうぞ。敵に遭遇したらすぐに追い払わなきゃいけなくなるんだからな」
安らかに寝ている友人に起こさない程度の声をかけて、その頭を優しく撫でた。
事実、僕はずっとこいつと一緒にいられるというわけではない。バヴァリアコロニーの王子としての責務があるからだ。
彼について行ってるのはそのついでのようなもので、本来の仕事とは別。
ヴァチカンの教会で物資の提供や他都市との連携について話をしないといけないし、シスターとも作戦を立てなおさないといけない。
領主の嫡男であるということだけでどれだけの責任がのしかかってくるのか……一般市民として生きてきた彼にはきっとわからないだろう。
父さんが承諾してくれたおかげで、唯一無二の親友と今こうして行動を共にしているのだ。
僕にとっては、短い時間でも多分一生の思い出になるだろう。彼の近くにいられるということは、それだけ貴重な時間なのだ。
幸いにも、夜中にドミネイターとの遭遇はなかった。
安全な場所に車を止めてから、カロンさんはそろそろ寝るように僕に促してくれた。
「はいはい、わかりましたよ。……カロンさんもお疲れ様でした。おやすみなさい」
「はい、おやすみ。坊や」
車内の灯りが消える。
そして横で寝ている友人に「おやすみなさい」と静かに言ってから、僕は眠りについた。
―――――――――――――――――――――――――
2.九死に一生「僕が生まれたバヴァリアはシュタウフェンと近隣都市だ。だから、いつ攻め込まれてもおかしくないんだよ」
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バヴァリアコロニーはシュタウフェンコロニーと一番近い距離にある都市である。
かつては隣同士として、シュタウフェン領主のベルモンティ家の者達と友好関係を築いていたのだが、とある大事件がきっかけでその平穏は大きく崩れ去ってしまった。
ブリテン島の方角からやってきた男『モスカ=アミディ・ギッベリーニ』。
彼は戦争の数年後に“初代陛下”の子孫に追放されて没落した旧貴族の末裔だった。
モスカは財産と資材を得るという単純な目的で、部下達と共に当時欧州で一番繁栄していたシュタウフェンを襲撃した。
その独善的な行動理念がかつての旧強硬派(イノベイター)を彷彿とさせたことから、彼らはいつしか『独裁派(ドミネイター)』と呼ばれるようになった。
戦争は2年続き、その間にも周辺のコロニーがドミネイターの侵攻に呑み込まれていく。
そんな中、バヴァリアコロニーは周囲の都市と比べても明らかに洗礼された行動を取っていた。
それもその筈、シュタウフェンが一番の経済力を持つならば、バヴァリアは防衛力。
軍事に関して最高水準と言われていたバヴァリアは、その力を以ってモスカの軍勢を抑え込むことに成功したのだ。
しかし、モスカの死後から3年後。
新たな指導者の台頭により、ドミネイターは凶暴化していた。
その他の都市群は彼らに対抗すべく都市奪還民主派(通称奪還派)を結成し、ドミネイターの魔の手からコロニーを護ることに力を注いでいた。
バヴァリアも奪還派に入り応戦していたが、近隣都市である以上、いつまた攻め入ってきてもおかしくない状況だった。あまつさえ、相手はシュタウフェンを完全掌握したドミネイターの支配者たる悪逆少女『ベアトリーチェ・ギッベリーニ』。
場合によっては弱点を突かれ、壊滅的状況になることも避けられないだろう――。
平穏な毎日が不穏に変わり、焦燥感に苛まれる。
コロニーからはいつもの活気さが徐々に鳴りを潜めていった。
領主であるゲルフ家や彼らが愛するコロニーの住民達は、いつ来るかわからない恐怖に毎日怯えながら生活していた。
いくら綺麗で神秘的な建物と木々が立ち並ぶ清浄な場所といえど、この時代に平然を装えるなんて、考えられなかったのだ。
ベアトリーチェがシュタウフェンコロニーを掌握して以降、友好都市は想定外のスピードで次々と呑まれていた。
窮地に追い込まれ、これからの状況を鑑みた領主は、熟考の末ある決断に至る。
それは、遠地の力を借りること――――。
目をつけたのは、かつて最大の先進地として栄え、今も尚発展を続けている東の地にある都市だった。
人民象徴都市『ネオペルセス』。
機械種の“元”最大都市である、ペルセスコロニーを前身とする都市だった。
ペルセスコロニーはかつての戦争で一度消耗した後、滅亡級都市兵器として改造され真人達を葬っていったが、“初代陛下”を始めとするモーニア一族の手が掛けられた今のネオペルセスは、昔の面影など全く消え失せている。そして彼らの意向によって機械種は一部を除き管理権限を剥奪――つまり、ほぼ真人が統治している状態である。
バヴァリアは戦争以降の大改革期に“初代陛下”の指示によって建設されたコロニーの為、ネオペルセスとはお互い親交が深い友好都市だ。
つまり、信頼に値する。
干渉しにいったとしても問題ないだろう。
向こうに知人がいるという腹心の部下の話を聞いた領主は、早速その知人の男へ会いに行った。
ネオペルセスを訪れた領主とその部下は、当時の真人代表である『イオタ・モーニア』の下を訪れ、現在の周辺の状況とその趣旨を伝える。彼は事態を把握し、力を貸すことを快諾した。
そして、領主の部下の様子を見たイオタは「そうとあらば丁度いい。ある人を紹介したい」と、ある男をこの場に呼び出した。
その男は機械種だった。
燃える炎のような髪と眼帯……そして翡翠の瞳を携えたその容姿は、書物にて語られる古き英雄を彷彿とさせるものだった。
イオタ曰く、彼は自分に代わって今後ネオペルセスの全権大使を務める者だという。
男も真人達に敵意は無いと主張し、味方であることを証明した。
男の名は『ゼノン・ヴァンジェーロ』。
部下が信頼していた、旧人類と真人の完全なる味方を名乗る機械種。
そして、いずれ領主の嫡男であるバージルの親友となる『ハンニバル・アリギエリ』の父親だった。
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3.邂逅「最初はウザいと思っていたけれど、今では、もしアイツと出会ってなかったら――なんて考えてしまうな」
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バージルはバヴァリアコロニーの領主の子供として、一番最初に受け入れられた存在だった。彼は両親の下で手厚い養育を受け、やがて3人の弟分にも恵まれた。
父親の意向によって、バージルはゲルフ家の嫡男――そして正当な領主継承者としての英才教育を受けさせられることになった。
文学、言語学、歴史学、数学、科学、哲学、社会学、そして護身術や、剣術。バイオリンの稽古――――。
まるで旧時代の貴族の暮らしをそのまま模倣しているかのような修練詰めの毎日。
普通の人間ならばすぐに無力感に苛まれるだろう。
しかし、バージル自身はそれが苦であるとは決して思わず、むしろ自分が一番になるために必要なことだと考えて積極的に取り組んでいた。
後継として相応しい者になろうと熱心に努力するその姿に、周囲の人間達の期待はますます高まっていた。
彼の優秀さはコロニー全体に知れ渡り、いつしか民衆からは『希代の天才』と呼ばれるようになっていた。
そんなある日――バージルが10歳になった時期のことだった。
屋敷内で父親が開いていた、息子である自分の誕生日パーティー。
今日の主役であるにも関わらず周囲に馴れ合えなかったバージルは、二階のベランダで夜景を見ながら風を浴びていた。
「はぁ……全く、どいつもこいつも馴れ合ってて、嫌な気分だよ……」
白のタキシードに身を包み、手にはシャンパンの入ったグラス――。
自分のためにパーティーを開いてくれたことに感謝しているものの、何年経っても見た目の変わらない大人達とは暢気に絡みたくない。
今の彼には、独りで夜風を浴びているほうが心地良いと感じていた。
そんな時だった。
「なぁ――」
「――っ!? 誰だ!?」
他人の声が耳に入ったバージルは、咄嗟に後ろを振り向く。
すると目の前には……自分と同じか少し年下くらいの見た目をした、夕焼け色の髪の少年が突っ立っていた。
自分を広間へ引き戻しに来たのだろうと警戒していたバージルだったが、目の前の少年は手を上げて、敵意は無いと明言している様子だった。
「なんだよそんなにピリピリすんなって。俺はお前を引っ張り出しに来たわけじゃない」
「……は?」
「あっははは! やっぱお前おもしれぇな! 隣、いいか?」
「え……」
「いいかって聞いてるんだよ。俺はあの場所が嫌だからこっちに来たんだ」
「あ……なんだ、君もそうなんだね。……いいよ。勝手にどうぞ」
「ははっ、ありがとな」
見ず知らずの他人に自分の隣を譲ることを最初は抵抗していたが、“自分と同じ”であることが分かると心を許した。
二人で夜空を眺めていると、夕焼け色の髪の少年がふと呟く。
「俺さ……星を見るのが好きなんだ」
その一言にバージルは少し反応した。『星が好き』という自分と同じような趣味を持っていたからだ。
「この世界はさ、本当はすごくちっぽけな箱舟みたいなものらしいんだ。でもほら、空の向こう側に行けばありえないほど大きな世界がそこら中に広がっているんだぜ。その世界が無数の光になってこうやって綺麗に群れを生してる。ほんと不思議だよな」
バージルはそんな少年の一言に、思わず吹き出してしまう。
「ぷ――あっはは!」
「な、なんだよ。どうした急に……」
「あーいや、僕と考えてることがどこか似てるなぁって」
それは、一見全然違うような自分達二人の、ほんの些細な類似点。
隣の少年は自分と正反対の振る舞いをしているように感じるのに、なんだかどこか分かり合える気がして、気づけば彼は少年のことが気になってしまっていた。
「あ、そうかそうか! お前もお星様が好きなんだな! じゃあ好きな星座の話とか、色々教えてくれよ!」
「いいよ。――じゃあその前に、君から僕にもひとつ、教えてもらってもいいかな?」
「何を?」
「君の名前だよ。教えてくれたら僕も教えてあげる」
「名前……名前か――」
すると、夕焼け色の髪の少年は顎に指を当てて「いいのかな。教えちゃっても……」と、少し考えるような素振りを取った。もしかしたら急に聞かされて困惑させてしまったのかもしれないと思ったバージルだが、その返答は割とあっさり返ってきた。
少年はひとつ頷くと、バージルの目を見て答えを返した。
「ハンニバル――俺の名前は、ハンニバル・アリギエリだ。お前は?」
「ありがとう。……知ってると思うけど、僕はバージル。バージル・ゲルフだよ」
「わかってる。今日の主役の王子様だろ? 改めてよろしくな」
「うん。よろしく」
こうして握手を交わす二人。
それからしばらく、お互いのことについて楽しく話し合っていた。
これが、お互いにとって唯一無二の親友との出会いだった。
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4.束の間の牧歌「予言書の英雄がこの時代に……? ということはもうじき世界は――」
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時が経ち、バージルは通っていたアルメニアの名門大学を卒業した。
その後、父親からは一度戦士になることを勧められたが、真人としての使命に忠実でいたい彼は、戦場に身を投じることは暫く考えさせてほしいと断った。
「父さん、僕は戦場に身を捧げるよりも、まずは真人として地上環境の再生や復興活動に尽力したいと考えております」
「ほう……? それは何故かな?」
「確かに脅威から身を守ることも大切ですが、防衛の方面に力を入れすぎるあまり、地上環境をまた逆戻りさせてしまってはいけないと考えているからです。環境に慣れ合えぬ旧人類の先人達は、今もまだこの大地に生きている。あの大戦以来、彼らとはもう戦争はしないと約束したでしょう? だから僕は、少しでも力を添えてあげたい……そう考えているんです。共存を誓い合った種族として」
その意見は確かに納得できるものであった。
使命を捨てて大地を枯らしてしまえば、また400年前の状態に戻ってしまう。バージルは真面目な人物だ。そんな安易に、使命を放棄したりはしないだろう。
父親はそれを了承した。
「……そうか、わかった。そこまで言うならば、君を地上環境管理を主とする機関に配属しよう」
「ありがとうございます」
「ただし……何かあったら、君にはすぐに戦場に向かってもらう。それでいいかね?」
「構いません。むしろ、自分から来るかもしれない――いや、自分からいきます」
「わかった。……何かあったら、またいつでも来なさい」
「はい」
こうして話をつけたバージルは、父親の執務室を出ていった。
――
――――
事実、この大地は戦争から400年経った今でも、その間に復活した旧時代の種族である『妖精』との紛争によって地上環境が逆戻りしつつある。
現在でこそ“殆どの”妖精種はブリテン島に隔離されているものの、自分達真人は彼らとは絶対的に相容れない立場にある。不戦の契りなんていうものも結ぼうとしたところで絶対に受け入れない。そのような種族が彼らなのだ。
故に、妖精種との睨み合いは今でも続いている。
クリスティアコロニーにある『とある機関』の代表である混血種がなんとか収めようとしているものの、大きな進展はない。
それでも、やることには意味がある。やらなければ何も進まずただ朽ちていくのみ。
地上環境再生を生業としている真人らの仕事は自分達の使命を守り環境復興を加速化させることであり、誠実な性格であるバージルはずっとその仕事をしたいと夢見ていた。
自分達の役目を最後まで貫くことこそ、地上環境を整備する真人達の仕事なのだ。
父親に許しを貰って以降は、未開拓地の環境再生と旧人類種の活動支援に力を注ぐようになったバージル。
ある日、彼は一面に広がる砂漠と枯れた木々を目にする。
「はぁ……全く。“初代陛下”が崩御なされてから300年経った今でも、こうやって手も足も付けられていない土地があるものなんだね」
「カスピ大地溝帯と並んで空気や化学汚染がとにかく凄い地域でしたし、あまつさえ妖精達がまた荒らしたこともあって、振り出しに戻ってしまっていますからね。ここら辺は特に……」
「それでも、ゆっくりと時間をかけて段々と良くなってきているんです。先人達が働いてくれたお陰かもしれませんね……このように」
側にいる仲間の一人は、そう言ってバージルに測定器の数字を見せる。完全消滅とまではいっていないものの、その値が下回りつつあることが伺えた。
「普通の旧人類種の方々ではまだ対処できないということでしたので、ここは我々の出番……というやつですよ、バージル様」
「そうだね……ていうか、いくら僕が王子の身分だからといって、そんなにかしこまらなくてもいいのに」
「そんなに気にしなくていいですよ。好きで呼んでますから」
「あぁ、なんだ。それなら、好きにしていいよ」
「恐悦至極です」
王子であるにも関わらず、同じ仲間たちは積極的に自分に話しかけてきてくれる。
普通の人間と変わらない他愛ない話をしながら、仕事を真っ当する。
バージルの一日は、いつもこうして始まっていた。
旧人類種の都市に物資を輸送するときにも、彼らは自分達を快く受け入れてくれるようになっていた。
かつてお互いに牙を剥いていた旧人類種だったが、今ではすっかりその面影も消え失せている。
過去を振り返らず、手を取り合って前を見て歩く。
自分達の働きによって周囲の人達が安心している顔を見るだけで、バージルは大きな喜びと幸福を感じていた。
――
――――
しかし、ある出来事を境にその生活は一変した。
某日。
いつになく市街地がざわついていることを奇妙に感じたバージルは、自室のガラス張りの窓からその様子を伺った。
バヴァリアコロニー市街の大きなテレビジョンに、一斉に映し出された、金髪の青年の顔。
穏やかな目と普通の人間とは思えないような端正な出で立ちは、街を歩く者達の視線を一瞬にして集めていた。
そして、画面の向こう側の青年が、口を開く。
「私の名前は『ペトロ』……『ペトロ・ベルモンティ』。聞いての通り、かつてのシュタウフェンコロニーを統治していた領主の家系の末裔でございます」
(シュタウフェンの元領主の末裔……!? 父さんから話は聞いていたけれど、一体何を……)
占領されたシュタウフェンコロニーの元領主の末裔――その言葉を聞いた街の住民達のざわつきはより一層大きなものになっていく。バージルもまた、シュタウフェンコロニーの元領主の名を聞き、戸惑っていた。
「今この世界に生きる全種族の皆さまに、お伝えしたいことがございます。その為に今日はこのエンピレオ宮殿から電波を独占させて頂きました」
そしてペトロは後方を一瞥して「皆様、どうぞこちらに」と、静かな声色で誰かを呼ぶような素振りを見せる。
すると、後ろにある幕の向こう側から数名の男女が現れた。人数は恐らく6、7名程。
そのどれもが、自分達とは明らかに異質な雰囲気を纏っていた。
外の騒音がより強くなっていく。
するとペトロは「皆様どうか静粛に」と、その場を宥めた。どうやら現地にも集まっている人間が何名かいるみたいだ。
神のように、穏やかでいて威厳を感じるような彼の一言によって、その場は再度静まり返った。
そして、ペトロが口を開く刹那――自分の部屋の扉を急いでノックする音が聞こえた。
何かおかしいと思い怪しんだバージルは「何か用か?」と、扉の向こうの人物に入室を許可すると、小間使いのメイドが息を切らして飛び出してきた。
「そ、そんなに息切らして大丈夫か? ……一体どうしたの?」
「お、お父様が……バージル様をお呼びでございます……」
「父さんが……?」
「急いでください! 早く!」
「え? わ、わかった……」
メイドに急かされるまま、部屋を後にするバージル。
丁度同時刻、外では世界を揺るがす出来事が起こっていたことを、彼も後に知ることとなった。
「予言の英雄が目を覚ます時が来た。我々都市奪還民主派はこれより、全敵対勢力に対して反撃を開始することをここに宣言する。各都市は現時刻を以て速やかに周辺の調査にあたり、防衛網の構築や攻撃準備をするように」
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5.剥き出しになった澱み「これは一体……こんなの、放っておいたらいずれバヴァリアも……」
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僕が招かれた執務室には、このような事態になっているのだから当たり前だろうと言わんばかりに、三人の弟達が先着して待っていた。
「……集まったな、では話を聞いてくれ」
父さんの言葉に、弟達はそれぞれ違った反応を見せる。
その後、父さんから我々都市奪還民主派に行動開始命令が出たことと、バヴァリアコロニーがシュタウフェンコロニーへの派遣調査を命じられたことを伝えられた。
現地に行くのは、僕と弟達全員だという。
ここで、1つ下の弟が質問した。
「お父様、質問が……」
「何だね?」
「十天の方々から我々にシュタウフェンコロニーへの派遣が命じられたのは、恐らくバヴァリアがシュタウフェンと一番近い場所にあるからだと思われます。ですが、もし本当に現地に入るとしても、あまりに危険すぎます……」
彼が言ったことはごもっともだ。僕も同じことを考えていた。
弟の質問に、父さんが反応する。
「うむ。確かにお前が言った通りだ。このコロニーは彼らの領域と隣り合わせ。だからこそ我々に任務を与えたのだろう。だが……」
そして、父さんは優しく微笑んで答えた。
「安心しろ。シュタウフェンには安全区域と危険区域が教会から指定されている。我々が調査するのは安全区域だ。下手なことをしなければ奴らの餌食になる心配はないだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
弟が納得した様子を見せると、父さんも納得したように頷いた。
こうして一連の説明が終わった後、父さんが気を取り直して口を開く。
「さて、君たちにはこれから現地へと向かっていただくのだが……安全圏とはいえ、何せ敵の本拠地周辺だ。いつ攻撃を仕掛けられても対応できるように、武器はしっかりと持っていくんだぞ。いいな?」
「はい!」
僕達は揃って返事をした。
――
――――
執務室を出た後、弟達が僕に話しかけてきた。
「今回は兄弟全員で仕事か~、何気に初めてだよな」
「そうですね」
「まあ普段ボク達は別々の仕事に就いてるからね。特にバージルお兄ちゃんは」
「まあね……僕の仕事は戦いとかそういうのと丸っきり無縁だし」
「真人としての使命を大事にする……フフッ、兄様らしいですね」
「でもさ~、勿体無い気がすんだよな~。だって兄貴強えじゃん! ああやって刀でバッサリ、最高にカッコイイし!」
「ちょっと、そんなこと言うのは兄様に失礼では?」
「え? そうかな~」
「あはは……大丈夫だよ、ありがとう」
……弟に自分の実力のことを言われると、少し気落ちしてしまう。
戦闘行為自体があまり好きじゃないからだ。
しかし今回は危険度が桁違いだ。武器を必ず持ち込まなければいけない。
『あの子』をまた使うことになるのはどうしても避けたいのだが……それもまた、致し方ない。
そんなことを考えながら、招集の帰り際で僕は弟達と会話を交わしていた。
――
――――
自分の部屋に着いた頃、弟達と別れた僕は部屋に入り、ゆっくり扉を閉める。
そして、気を落ち着かせるようにゆっくりと息を整えてから、ベッドの下にある大きな縦長のアタッシュケースを取り出した。
ケースを開き、光も写さぬ黒い刀身を携える、蒼く輝く長い剣を手に取る。
「……これからまた君の世話になるとはね。『アロンダイト』」
長剣型兵器『アロンダイト』。
これは、15歳の誕生日の時に父さんが僕にプレゼントしてくれた刀剣だった。
父さんの特注品であり、僕自身にしか扱えないという『彼』。
ドミネイターとの防衛戦で一度使ってから戦いの道から離れていた僕は、それ以来この子の世話になっていなかった。
それでも、今の自分に頼れるのはこの子しかいない。
僕は気を引き締めると、アロンダイトを自分の腰に帯刀する。
「……では、よろしく頼んだよ」
そして『彼』を優しく撫でると、蹄を返し、都市の外へと出向いた。
――
――――
弟達と合流し、シュタウフェンコロニーの安全圏へと足を踏み入れる。
予想通りだ。やはり周辺は、紛争によって完全に荒れ果てていた。
「……あーあ、やっぱこんな感じか」
「見て終わりじゃないんだよ今回は。気を引き締めて行こう」
「はいはい」
想定内でつまらないと言わんばかりの態度を示す三男を宥め、僕達は各自分かれて行動を開始した。
僕は安全区域と危険区域の境目の調査にまわっていた。
放棄された民家に入ると、遺棄された死体があちらこちらに散らばっている。恐らくだが、長らく足を踏み入れられていない場所なのだろう。なんとも劣悪な空気が漂う場所だ。
「死体処理がされていないじゃないか……白骨化した屍があちらこちらに――ん?」
攻撃を受けたと思われしきとある建物を調べ始めると、ふと小さな紙が目に留まった。
「これは何だ? 誰かの手紙……?」
数ヶ月経っているのか、少しばかり煤けているように見える。
何かが書かれているのを見た僕は、ゆっくりとその紙を取り出し、内容を確認する。
内容は、誰かへの手紙のようだった。しかし読み進めていくと――――。
(なっ!? これは…………)
僕は思わず目を丸くした。
下に重ねられていた、もう一枚の手紙。
そこには、あまりに惨い事実が書き綴られていた。
そういえば、この建物に入ってから、嫌な悪寒がする。
手紙から目を離して前を見る。すると――――。
左右にある倉庫棚には、まるで積まれたように人の死体が折り重なっていた。
もうこれだけでも流石に逃げてしまいそうなのだが、意を決して一歩一歩足を踏み入れ、周囲の様子を確認する。
死体の殆どは腕や足を出したまま横たわっており、そのどれもが不思議と傷口が開いていなかった。
つまり、血痕が無い。
(弾丸も血の痕も無い。それなのに妙な悪臭がする。ということは……)
もしかしてと思い、ゆっくりと天井を見てみる。するとその中央にシャワーの散水板が取り付けられているのが視界に入った。
ここから導き出される答えは――。
(……!! やっぱりそうだ。これは毒ガ――!?)
――間違いない。これは化学実験による集団虐殺だ。
僕がそう判断した瞬間だった。
なにか人影が見えたような気がした。恐らくドミネイターの戦士だろう。
周囲を警戒し、いつ仕掛けられてもおかしくないように、アロンダイトを構える。
僕自身の推測によれば、数は恐らく2、3人。
しかし、暫く警戒を続けていると、いつの間にかその気配は消え去っていた。
それでも、暫くここにいては危険だ。
そう判断した僕は、早々にこの場から退散することにした。
バヴァリアに帰った後、僕は走って父さんのもとへ向かい、コロニーの衛士になることを嘆願した。
―――――――――――――――――――――――――
6.決断「父さん、僕にこの都市を護らせてください!」
―――――――――――――――――――――――――
昔、大学に通っていたときに教授から教えてもらった話がある。
僕達真人は、元々旧人類種が企んだ『ある計画』によって生み出された実験体の成れの果てらしい。『らしい』というのは、あまり周囲が口に出してはいけない話だから、大学の教授がマイルドな言い方に変えていただけなのだが。
真人の歴史は、500年以上も前から続いている。
それでも、始まりの経緯については教授は授業中には教えてくれなかった。
気になった僕は放課後、教授に教えてほしいと頼み込んだ。
やはりそう快く承ってはくれなかったが、たとえどんなに惨い事実だとしても知っておきたかった僕は、本気でお願いした。
結果、僕は無意識に口を抑えるほどの話を聞いてしまった。
普通の人が聞けば全身が震え、背中をなぞられるような、恐ろしい話。
僕の体調を心配した教授は「これ以上話すのは良くない。初代陛下から罰が当たる」と言って話を途中でやめた。
――でも、僕は話を聞いて、後悔なんてしなかった。むしろ、この時に聞いておいてよかったと感じたほどだ。
教授が話してくれた過去の惨事は『あのような過ちを二度と起こさせない』という想いの灯火を、僕の心に焚き付けてくれた。
先程の調査で訪れた建物は、きっと収容所だったのだろう。
可哀想な人達だ。
勝手に捕まえられて自由を縛られ、劣悪な環境下で家畜のようにただ生かされ、最期には実験の餌食にされ――――
許せない。
“ああいうの”は、この世で三本指に入るくらいには嫌いなものだ。
帰りの輸送車両の中で手紙を読み返しているとき、僕は決意した。
必ずこの戦争を止めると。
バヴァリアコロニーの住民達を、絶対あんな目に遭わせてたまるものかと。
――
――――
調査から帰った僕は、車両を降りて早々、走って父さんの執務室へと向かった。
扉を急いでノックし、父さんの声が聞こえた瞬間すぐに思いっきり扉を開ける。
僕にしては珍しいと思ったのか、父さんは口を開いて驚いていた。
「ど、どうしたんだバージル。お前がそんなに気を取り乱しているなんて珍しいじゃないか……」
そして、開口一番に僕は言った。
「父さん……」
「……」
「僕に、バヴァリアコロニーを護らせてください!」
「バージル……」
「僕を衛士にしてください! コロニーの住民達の命を、僕に預からせてください! お願いします!!」
必死なあまり『命を預からせてください』と口走ってしまった。
しかし、本気であることに変わりはない。
僕は父さんに頭を下げて嘆願した。
一瞬の静寂。
重々しい空気に包まれる中、父さんはそんな僕の様子を見て面白かったのか、声をあげて笑い出した。
「ははは……もういいよ、顔を上げなさいバージル」
いつも厳格な父さんが、穏やか言い回しで僕に話しかけている。
それを不思議に思いつつ、僕は頭を上げて父さんの顔を見た。
「よかった。君がそう言ってくれるのを、ずっと待っていたよ」
すると父さんは席を外して僕の前に立ち、口を開いた。
「生憎、私は身体にガタが来てしまったものでね。今まで君の代わりに骨を砕いて軍隊を纏めてきたが、もう限界なんだ。だから――」
父さんが僕の目を見据える。
「今のバヴァリアには、優秀な君が持つ統率力と戦闘能力が必要なんだ。私の後継として、これからも働いてくれるかい?」
「父さん……」
そうか。……そうなのか。
薄々感じてはいたけど、やっぱり父さんは、もう限界なんだ。
あのとき僕を衛士に配属しようと強く推していたのは、もう父さんには――自分自身の力ではコロニーを護りきれないと判断したから、兄弟の中でとりわけ優秀と言われている僕の力を信頼し、後を任せようとしてくれていたんだと、僕は父さんの気持ちを理解した。……優秀だと思われてるなんて、ちょっと照れくさいけど。
「はい。このバージル・ゲルフ、必ずやバヴァリアを護ってみせましょう」
だから次は、僕がみんなを護るんだ。
託されたからには、もう後には退けない。
僕は覚悟を決めて、父さんから夢を受け継いだ。
――
――――
衛士になった後は、毎日の仕事の量は以前よりも倍近く増えた。
王子様らしい生活がこうしてまた再開したわけだが、こんなに恵まれているのもきっと、日々の努力の賜物なのだろう。
親友であるハンニバル――バルが時折電話越しに背中を押してくれるおかげで、どんなにつらいことがあっても乗り越えられた。
そんなある日。
バヴァリアコロニーのゲート周辺を巡回していた際に、ある迷彩柄の車が近くを通りかかったのを見つけた。
その車はコロニーを通り過ぎるのかと思いきや僕の方に引き返してきて、何だか妙な挙動をしているなと思った。
不審に思った僕は、話を聞こうとその車に近づいた。
「そこの貴様、何者だ? 現在このコロニーにて客人の通行は許可されていないぞ」
「え? な~んだ残念~。こちとら用事があって来たのに――お?」
「はい?」
「おお~~!?!?」
車内にいたのは、赤い髪を伸ばし、虹色に光るサングラスをかけた妙に派手な女性だった。しかし、女性は僕の顔を見るな否や、途端に興奮したような反応を見せた。
「え、ど、どうかし――」
「そうだよ! キミだよキミ~! キミに会いたかったんだよ王子様!」
「えっ……ぼ、僕!?」
バルをペルセスからフィレンツェに送る為の輸送ドライバーを務めるカロンさんと合流したのが、ちょうどその時だった。
僕は目当てがまさか自分だったとは思わず、無意識に大きな声が出てしまった。
――
――――
まぁ僕はそんなこんなで、気づけばバルの護衛を任されることになっていたのだ。
追加の仕事を頼まれたのは、屋敷のテラスで父さんやカロンさんと三人で紅茶を嗜んでいた頃だった。
「ごめんなさいね領主さん。道中通過していくからって、こんなことまで追加で頼んじゃって――あ! このお菓子美味しそ~!」
「やれやれ……いいんだよカロンさん。コイツも長らく友人と会ってないんだ。丁度いい機会だと思うよ。バージルもアイツに会いたいだろう?」
「えぇ、まぁ、その……お二人とも、わざわざありがとうございます」
「お前が望んでいるならそれでいいさ。――さて」
父さんはティーカップを置くと、真剣な面持ちで僕の方に向き直った。
「バージル、これからお前が何をすべきか、わかっているな?」
「はい。ネオペルセスの戦士――ハンニバル・アリギエリの護衛ですね?」
「あぁ、そうだ。――そして、お前にはもう1つ頼みたいことがある」
「ん? ……なんでしょうか?」
「聞き流すんじゃないよ、少年。むしろ、こっちの方が本命かもね」
カロンさんはそうだらしなく僕に横槍を入れる。
友人の護衛以外にも頼みたい仕事とは、一体何なのだろうか。
疑問に思いつつも、僕は父さんの話に耳を傾けた。
「バヴァリア王子――――あぁ、いいや、簡単に言おう。……バージル、お前にはハンニバルの護衛とは別に、とある場所に出向いてもらいたい」
「とある場所……ですか。何処へ向かえばいいのでしょうか?」
「ヴァチカンコロニーだ」
「『セントピーター教会』……君達のような管理者身分等の一部の人しか知らない単語でいえば『糾弾教会』って言えばわかるかな?」
「あ……」
父さんが命じたのは、ヴァチカンコロニーへの派遣だった。コロニーの名前を聞いた時にはピンと来なかったが、『糾弾教会』という単語をカロンさんから聞いて納得した。
糾弾教会といえば、奪還派を支援する3つの重鎮のひとつに数えられる組織だ。名前くらいは聞いたことがある。
「おや? どうやら納得したみたいだね」
「でも、何故あの場所に僕を? 何をしたらいいのかさっぱり……」
「それを今から言うんだ」
父さんはそう言って任務の概要を説明した。
僕に命じたのは、ヴァチカンコロニーの大聖堂に居を構える組織『糾弾教会』に出向き、そこの首領である『ソフィーア・アクィナス』という人物と会合してきて欲しいということだった。つまり、ハンニバルとは道中で別れなければいけない。
「此度の決戦は大規模な作戦になることが予想される。教会や他組織との連携が重要になるだろう。これには、奪還派は勿論、バヴァリアコロニー全体の命運が掛かっている。良くも悪くも、全てはお前とシスターの行動次第だ」
コロニーの命運が掛かっていると聞いて、一層気を引き締めないといけないと感じた。
しかし、ソフィーア・アクィナス様は気難しい人物だと聞く。自分が彼女と分かり合えるのか心配になってきた。そして、ハンニバルのことも――。
そんな僕の様子を見兼ねて、父さんやカロンさんは優しく声をかける。
「そう不安にならくていい。彼女は話を聞かない人ではないからな」
「アンタがいなくても協力してくれる連中が頑張ってくれるから大丈夫さ。お友達のことも、バヴァリアのこともね」
二人の言葉を耳にすると、魔法に掛けられたように落ち着きを取り戻せた。
「……他の弟達がいないこの場だからこそ言えることだが、お前は私の子供のなかで一番優秀だ。第一王子として、私の代わりに頼んでくれないだろうか」
――そうだ。僕は第一王子。領主の後を継ぐ子供。
だったら、それらしく仕事を全うするまでだ。
「……はい。任せてください」
僕は真剣な眼差しで首を縦に振った。
―――――――――――――――――――――――――
7.過去の記憶・アルヴィール「初代陛下とその仲間が邂逅した場所……か。彼らは実際、どんな人だったんだろうなぁ」
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眠りから目を覚ますと、車は既に動いていた。
起きた様子をバックミラーから確認したカロンさんは、僕に声をかける。
「おや、ようやくお目覚めかい? 王子様」
「遅くなってすみません……おはようございます」
「よっ、バージル、おはようさん」
昨夜隣でぐっすり寝ていたバルも、僕より先に起きていた。
寝起きで意識がはっきりとしていない中、眩しい陽の光に眉をひそめつつ、現在地を確認する為に僕は車窓から外の様子を見る。
視界に映ったのは、砂漠地帯の寂れた都市。バヴァリアやネオペルセスのような華やかな情景とは打って変わったような景色が、僕の目には映し出されていた。
カロンさんと共にバルを迎えに行った時も、このような市街は通過したことがある。
しかし、高度に発展した華やかな場所で育った僕は、未だにその景色を見慣れていない。
こういう場所はいつどこで何回見ても、新鮮な気持ちになるものだ。
見慣れない景色に暫く見惚れているなかで、窓越しにその様子を観察してみるが、どうやら都市の中に人はいないようだった。
すると、僕の様子を悟ったのか、カロンさんが口を開いて僕に話しかけきた。
「おや、王子様。今どこを走っているのか気になるのかい?」
「はい、まぁ……」
僕は素直に肯定しておいた。
「ふむ……そうかい。もしよかったら、この地に纏わる昔話でもしてあげようか?」
「……え? いいんですか?」
「そりゃ勿論。というか、君たちのようなご身分となると、必ず知っておかなくちゃいけないくらい重要な話さ」
昔話を突然持ちかけられた僕は思わず困惑したが、僕も歴史を学んできた人間である以上、そのような話は気になる。
「それなら、是非お願いします」
「俺も聞きたい聞きたい!」
「少し長くなるけどいいかい?」
「構いません」
「オーケー。……それじゃ、こっちもなるべく手短に纏めるようにするから、きちんと聞くんだよ」
バルも興味津々といった様子だったため、二人で一緒に彼女の話を聞くことにした。
カロンさんの話によると、ここは『アルヴィールコロニー』というかなり歴史のある都市らしい。
アルヴィールのような中東に点在する都市はかつての覇権戦争の中心地となった場所であり、そしてこのコロニーは、伝説の大英雄である"初代陛下"と3人目の仲間が共に邂逅した場所でもあるらしい。
“初代陛下”とは、この地上の生命の覇権たる地位を奪い合う三つ巴の戦いに終止符を打ったと伝えられる、僕達の世代の祖先『ソロ・モーニア』様のことである。
しかし、戦争を止めたのは別の誰かという人もいる。
だからみんなはあえて彼の名前は言わず“初代陛下”様と呼ぶようにしているんだ。
ソロ様は、戦争を悪化させた魔女である『バテシバ・アヒトフェル』の子供のうち、彼女自身から産み出された存在――つまり『実子』である。
……というのも、バテシバはかつて『魔女』ではなく、『聖女』と呼ばれていたらしい。当時の真人には本来の人類種のような生殖能力が無かった。それを求めて完全なる人類となることを望んだ一人の真人の男が、度重なる実験の末、彼女を生み出したという。
生まれた少女は旧人類種と同じく、生殖能力を持っていた。
そして、男は企んだ。
バテシバを母体として、今後全ての真人を彼女から生み出すと。
真人達はそんなバテシバを未来の希望の象徴として崇め奉り『聖女』と呼んだ……というのが始まりらしい。
男が死に、バテシバが指導者の後を継ぐと、その歪んだ思想によって戦争は悪化した。
彼女がソロ様を産んでから暫くして凍結睡眠に入ると、その信者たちが今度は彼女のクローン――つまり『複製』をつくり始めた。戦況が切迫している現状では、すぐに後釜を用意せざるを得なかったのだろう。
そうして生まれた真人達が、バテシバの子供として扱われるようになったという。
なにか余計なことを植え付けられたのだろうか、『複製』達は実子であるソロ様を殺そうと追いかけ回していたらしい。
戦争嫌いだったソロ様はへライア城から逃げ出し、同じ志を持つ仲間を集めて平和な地へ向かおうと旅に出た。
アルヴィールコロニーは、その3人目の仲間と初めて出会い、そして握手を交わした場所だという。
「その人は随分目立つ出で立ちをしていたけど、知識と経験は豊富だったらしい。元々は初代陛下をへライア城へ連れ戻す為に追ってきた追跡者のひとりだったんだが、彼の話に感銘を受けてそのままついて行くことにしたんだと」
「派手な見た目……カロンさんみたいな人だったのかなぁ」
「ははっ、それはどうかなハンニバルくん。……でも、もしあたしがその時代から生きていれば、実際に会ってみたかったな〜とは思うよ」
「そういえば、なんで初代陛下は命を狙われていたんでしたっけ?」
「……さぁね。本当のことはあたしにもわからない。まぁ普通に考えてみれば、自分達の身分が危うくなるからだったんじゃないかな? 正当な継承者が生まれたことで、自分達がどうなるのかわからない。聖女の真の継承者である彼を玉座に据えればどうなるのか……安定するかもしれないし、混乱する可能性だって考えられるんだ。神にも悪魔にもなりうる、人智を超えた存在。そんな少年を、奴らは放っておくわけにはいかなかったんだろう」
「…………」
「でも実際の彼は“当たり”だった。“大当たり”まではいかなくとも、彼は世界の破壊者ではなく、世界の平和を望む賢明な人に育った。人っていうのは、実際会ってみると結構マシに見えるものさ。噂や上辺っつらだけで判断するものじゃないよ」
――ソロ様が争いの無い世界を望む、心優しい人物で本当によかった。
彼らが平和への道を探していたから、今の僕達があるんだ。
カロンさんの話を聞いて、初代陛下達が遺した想いが、改めて僕の心に深く染みた。
――そんなことを考えていると、突然外から銃声音が聞こえてきた。
「おやおや、何事かね」
カロンさんが様子を伺う。
すると、大勢の武装集団が車の進行を阻害するように道を塞いでいるのが確認できた。こちらを見て威嚇射撃を繰り返していることから、恐らく敵だろう。
「あらら、これじゃ前に進めないよ」
「どうしますか? カロンさん。一度外に出て見てきましょうか」
「あぁ、頼んだよ」
カロンさんはその場で車を止め、僕達二人は車を降りた。
―――――――――――――――――――――――――
8.聖地からの援軍「うるさい兄妹だな……でも、案外悪くないかもしれない」
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バルと共に車から降りると、武装集団のリーダーと思しき人物が僕たちに対して口を開いた。
「動くな。ここは我々の管理下に置かれている。我々の許可なしにここを通ることは許されん」
「……我々は欧州の管理組織に招集が掛けられている為ここを急いでいる。通してもらえないだろうか」
見るからに怪しい集団だ。恐らくドミネイターだろう。
恐らく通してはもらえないだろうという見当はついているが、僕はとりあえず答えを返してやった。さて、連中の返答は――。
「……それはどうかな。ここ周囲一帯は我々の土地だ! ベアトリーチェ様のご意思に従わぬ者は即刻排除する!」
結果は、この通り。こいつらはやっぱりドミネイターの手先だ!
「チッ、やっぱりそうか……仕方ないな。――バル、いいよね?」
「あぁ、やっちゃおう」
奴らがこちらに向かって先制攻撃を仕掛けてくると、僕達二人は互いの目を見て頷いた。それを合図に素早く剣を鞘から抜き、市街地の被害を減らすために戦闘領域を展開/隔離。戦闘を開始した。
「よし……いくよ、アロンダイト」
「カリバーン、ガラテイン。目を覚ませ!」
『――駆動要請承認。グリッドを展開します』
僕達は剣を鞘から抜いて早々兵器を起動させ、自身の機動力、動体認識力を引き上げた。そして瞬く間に駆け抜け、舞い散る花びらのように敵を斬り裂いていく。
僕が持つ『アロンダイト』や、バルが持つ『カリバーン』と『ガラテイン』のような刀剣型の音素兵器は、銃型や弓矢型のような高威力の一撃を出せる他にも、使用者の身体能力や潜在能力を極限まで引き出す力も持っている。元々はかつての戦争で帰還種が使っていたモノが起源で、それから年月をかけて改良され続け、今の性能に至っているという。
一振りに使うか、自己強化に使うか――どのように使うかは、使用適性者にすべて委ねられる。
身体強化の効果時間は無限だが、その時間が長ければ長い程武器自身や使用者に掛かる負担は大きくなる。最悪の場合……死ぬこともある。
だから、短時間で勝負を決めなければいけない。
周囲の雑魚を一掃すると、僕はリーダーと思しき男を炙り出した。
「……見つけた」
「ひっ!? なんだお前ら……や、やめろ!」
「バージル、そっちは頼んだ!」
「よし……一撃、一瞬で決めてやるっ!」
僕は足を踏み込んで跳躍し、男に接近。その身体を一瞬にして切り裂いた。
剣を鞘に納めると、男は崩れ落ち、倒れ伏した。
「……これで全部か?」
「一応、ここにいる連中は片付いたかな」
敵は全員倒した。これで障害はいなくなっただろう。
そう思った瞬間だった。
弾丸が、僕のすぐ近くを通過したのだ。あと少しずれていれば確実に頬をかすっている位置だった。
「あーあ、結局またカッコよくとどめを刺せるチャンスを奪われちゃったな……ん? どうした、バージル」
「気を抜かすな。まだ誰かいる」
「あーあ、外れちゃったァ。あと1ミリくらい位置がずれていれば確実にお命頂戴していたんだけどなァ」
「っ――!? どこにいる!?」
弾が通過した右側からこの場に似合わぬ陽気な声が聞こえた。恐らく位置は、右側の通路にある建物のどこかだろうか。
「はーい! ここだよここォ~!」
しかし当の犯人は、建物の屋上から割とあっさり顔を出してきた。おまけに、気づいてくれと言わんばかりに大きく手を振っている。
体格に合わない巨大なスナイパーライフルを携えた派手な髪色の少女のようだが、尖った耳を持っている。その他の装備的にも、ドミネイターの手先と見て間違いないだろう。
女は無邪気に手を振っている様子だが、遠くから見てもあの笑顔からは不気味なオーラを感じるものがあった。
「さっきのコッソリ見させてもらったけどさァ、アタシの兵士達を一瞬でダウンさせるとか、君達さっすがじゃーん! マジ気持ち悪いわァ~、最悪ゥー!」
女は上から目線な言葉をぶつぶつと言いながら、慣れた手つきで次弾を装填。そして、こちらが油断している隙に早速狙い撃ちをしてきた。
「――うわっ!?」
僕は咄嗟に避けたが、狙われた位置は思いっきり目の前だった。
短時間で正確に狙い撃ちできることにもまず驚きだが、そんなふうに腰を抜かしている間にも、気づけば女は次の攻撃に備えていた。
話しかけても無駄だろう。感じる殺気が半端じゃないし、相手の実力は相当なものと見た。
第一、相手は純粋な妖精だ。“こちら側”の一般常識が通じる相手ではない。
止めるならば実力行使でこちらから迎撃して、追い出すしか他ないが――。
「……チッ! 距離が遠すぎる。このままじゃ確実にやられるかもしれない……」
「バージル、ここはいっそパラダイムシフトを使って――」
「いや、ダメだ。今そんな易々と使っていい状況じゃないだろう? 下手に動いたら、撃たれて死ぬかもしれないんだよ?」
「でも――」
唯一太刀打ちできるとしたら、あの女と同じく遠距離攻撃が得意な狙撃手のほうが最適だろう。しかし、こちらにはライフルを扱える者がいない。
女は家屋の屋上にいる。バルの言う通り、武器の投擲によるパラダイムシフトならばあるいは追いつけるかもしれないが、それでは身体的なリスクがあまりにも大きすぎる。
しかし、この場で女を追い出さなければこの先は進めないも同然。
どうすればいい――――そう考えているときだった。
「お待ちなさーい!」
遠くから別の女の声が聞こえてきた。
目の前にいる派手髪の女とは違う、凛とした声。
声が聞こえた次の瞬間、派手髪の女が立っている位置よりも遠い場所から、銃弾が女の近くを通過したのが見えた。
それに驚いた派手髪の女は不利を察したのかどう見ても焦っている様子で、気まずい顔をして弾が飛んできた方向を見やった。
女は何かをブツブツ呟くと身支度を整え始めた。どうやらこの場から逃げようとしているようだ。
すると、女の逃走を阻止するように、左側からもう1つの銃弾が女を狙って飛んできた。
間違いない。あれらは狙撃手の弾丸だ。
「待ちなセニョリータ! お前に首には賞金かけられてんだ。生きて帰れると思うなよ!」
左からは若い男の声が聞こえてきた。
肝心の女の方は銃を抱いて身体を縮こまらせている。怯えながらも他の方角を見て他に敵がいないことを確認すると、僕達の方を見て叫んだ。
「……コホン。――今回の勝ちは君たちに譲ってあげる。次は絶対殺すから、覚えてなさいよね! それじゃ、ばいばーい!」
陽気な笑顔で気味の悪い言葉を並べると、女は手を振ってそそくさと退散していった。
女が去ってから暫くすると、向こう側から先程の狙撃手と思しき二人の男女がこちらに駆け寄ってきた。
「チョリーッス! 二人ともダイジョブ?」
「ケガは無い?」
二人は先程逃げ出した女のように、抱えているライフルに似合わぬ派手な出で立ちをしていた。
青年の方は赤のメッシュを入れた金髪、こちらに挨拶してきた少女の方は茶黒の髪に青のメッシュを入れている。
そして、お揃いのタトゥーをそれぞれ左右別々の頬につけていることから、二人の間には何かしら親密な関係があるのだろうということが伺えた。
「先程は助けていただきありがとうございます」
「どもども~!」
「あの嬢ちゃん、結構前から“こっち”で指名手配されてるドミネイターの凄腕スナイパーでね。騎士団長様からの命令で、オレ達のほうで動向を追っているんだ」
「そうだったんですね――え?」
――“騎士団長”……?
「ん? どしたのどしたの?」
「あぁいえ、お二人はどこから来たのかと思いまして――」
「おやおや、やっとこさ合流できたみたいだね」
「カロンさん!?」
僕が二人へ気になったことを質問しようとした時、カロンさんが車から降りて僕達のもとへと歩いてきた。
「バージルくん、それにハンニバルくんもお疲れ。道を開けてもらえて助かったよ」
「お、ちゃんカロじゃーん!」
「無事で何よりっスね」
「やれやれ、お前さんたち兄妹は相変わらず息ぴったりだ」
「えっへへ……」
カロンさんの一言に二人はニコニコと笑う。カロンさん自身もこの二人とはどうやら知り合いのようだ。
「それじゃ、二人共自己紹介よろしくね」
「りょりょりょ~! ――オレはパオル。パオル・ラウィニアだ」
「あたしはフランチェスカ! パオルお兄ちゃんの妹だよ!」
「オレ達は騎士団長であるボナヴェントゥール様からハンニバルくんの護衛を仰せ遣わされた、バルディアコロニーが誇るエリートスナイパーさ! とりまよろ~!」
「はい。これからよろ――え? バルディアって……」
パオル・ラウィニアと、フランチェスカ・ラウィニア。
衛士とは思えない派手な身なりをした二人が、奪還派の中枢都市・バルディアから来た精鋭であるということに僕は驚きを隠せなかった。
そんな僕を見て二人は相変わらず笑っている。
「えっへへー! 驚いただろー?」
「そんなことより早く早くー! 道も開いたんだしもっとアゲていこうよ! 全速前進! ウェーイ!!」
「ウェーイ! よいちょ!」
「……やれやれ、うるさいお客さんだ……」
……それにしてもこの兄妹は、やたらと空気を読まない言動を僕達に対してとってくる。
これで本当に旅路が順調に進むのだろうか……そんな不安を抱えつつも、僕達は二人を車へ迎え入れることにした。
けれど――なぜだろうか、不安だらけの旅路に灯りを照らしてくれるようなこの感じは、嫌いじゃなかった。
チュウニズム公式サイト→https://chunithm.sega.jp/
次回更新→不明(最短で5月かな? 理由は2,3,4月は原作の更新が立て続けにあるかもしれないので。原作の更新があるであろう月は基本更新しないのでご了承ください)
*
正直あんまこの話は気に入ってない。恐らく当時話を書きなれていなかったからといって矛盾点をなくすことを優先してしまったあまり、結果的に面白味が薄れてしまった気がしてる……。まぁ変な人しかいないこの世界線で比較的常識人枠なバージルらしいかなといわれたらそうかもしれませんが。
あと、編集前に読み直したとき、あ~ハンニバルくんの設定失敗したなと今更思うのでした……。
今書いてるやつはこんな昔より良くなっていると思うので、そこそこ質のいい話をお届け出来そうです。次回はカロンさんの話になりますがこれも2年前からの産物なので、多少変なところはあるかもしれない……かな?