楽園異聞録 ~ Metaverse地上編外伝 作:μtos
2025年3月08日 レイアウトを公式準拠に変更&細かい文章校正
★当作品はSEGA様の大人気アーケード音楽ゲーム『CHUNITHM』の二次創作作品です
★この物語には、版権オリキャラ、拡大解釈などなど、オリジナル要素が多量に含まれています
★原作とは違う年代/世界軸での物語です。なのでほぼオリキャラしか出てきません
★世界観の基礎基本は原作から引用していますが、数百年先の未来でのお話なのと、自己解釈や欲望をふんだんに使っているので殆ど独自の世界観で構成されています。原作知らなくてもほぼほぼ大丈夫……だと思います(一応めちゃくちゃにざっくりとした振り返りは入れています)
★作者自身の独自解釈や自由な発想、そして欲望の下、制作されています
★原作の書式や書き方をリスペクトして書いています。なのでみなさんがいつも読んでる小説やSSよりも特殊な構成です
★ぐ だ ぐ だ で す
★作者自身は原作であるSEGA様とは一切関係ありません。私は只のしがないチュウニズマーです
特に『版権オリキャラアレルギー』がある方は今すぐこのページから離れることをお勧めします。原作から引っ張ってきたゲストキャラはいますが、基本うちのオリキャラしか出てきません。心が寛容な人だけ、よろしくお願いします。
私は元々自分の想像を具現化することが苦手な人間です。
まだまだ発展途上なので、所々拙い部分や雑な部分があるかもしれません。
それでも見てくれるモノ好きな方だけ、カフェオレでも嗜みながらどうぞ。
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1.幻想を運ぶ渡し守「『アーケロン』は両親が遺してくれたあたしの大切な相棒。コイツとなら、何処へだって行ける気がするんだ」
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名前:カロン・エレクトラ
年齢:外見年齢28歳
種族:旧人類と妖精の混血種
職業:(表)輸送ドライバー/(裏)魔法使い
規律:中立・善
イメージ曲:Tie / おとめ
スキルシード:コンボエクステンド
「はぁ? なんだって? ペルセスからフィレンツェまであんたの息子さんを連れていけと?」
『あぁ、そうだ。急な依頼で申し訳ない』
パリスコロニーのとある喫茶店の一角。
そのテラスで一際目立つ装いをした一人の女性が、足を組んで電話を耳に当て、誰かと話をしている。
鮮やかなワインレッドの長髪に虹色のサングラス。サイケデリックで奇抜な色の服装に、赤いハイヒール。
美しき芸術都市として旧時代から有名なパリスコロニーだが、その女性が放つ雰囲気は、他とは明らかに一線を画していた。
女性の名は『カロン・エレクトラ』。
普段は欧州を中心としてタクシードライバーを営む一般市民として生活している。
しかしその奇抜な印象からわかるように、彼女はただのタクシードライバーではないということが伺えるだろう。
「はぁ、全く……このパリスコロニーに行きついてから悠々自適な暮らしがようやくできると思ったのに、もうそんな時期かい」
『ペトロが声明を出したことはお前も知っているだろう? 彼も俺の息子に会いたがってる。だから――』
「いや、嫌がってるワケじゃないんだ。ただ――」
『ただ……?』
「……フフッ、久しぶりに腕が鳴る仕事が降って来たなぁと思ってさ。こっちに引っ越してから、聖夜祭や年末年始くらいしか長距離移動の輸送はなかったからね」
『なんだ、そんなことか。ということは……手伝ってくれるということでいいな?』
「あぁ、そりゃ勿論さ。古い馴染みの頼みなんだ。ましてやこんな現状で、断らないワケがない」
『ありがとう。君にしか頼めないと思っていたからね。助かるよ』
「こちらこそ! ……あ、でも料金は頂くからね」
『承知の上だ。それじゃあ、頼んだよ』
「は~い」
二人は電話越しにそうやり取りを交わして電話を切った。
カロンは席を立ち上がり、背を伸ばす。
「さーて! 久しぶりにあたしのマイカーを動かしてみようかね!」
カロンはそう言って喫茶店を後にした。
――
――――
自宅に帰った後、カロンは早速ガレージのシャッターを開ける。そしてそこに置いてある二台の大型車のうち、布を被せてある一台に着目した。
ニヤリと口角を上げたカロンは、被せてあった布を思いっきり剥ぐ。
するとその中からは、派手な色でカスタマイズされた、元は白色と思しき派手な車両が姿を見せた。
そしてビビットカラーで彩られた塗装に一際『Acheron』という手描き文字が余計に目立っている。
「フフッ、お久しぶりだね、相棒」
カロンは手をはたきながらそう言うと、懐から小さな杖のようなものを取り出した。そして、車にむかって杖をクルクルと回す。
「――――――」
ヒトには解せない言語で何か呪文のような言葉を唱えると、光の雨が車を包んだ。すると――。
「……うん。これなら目立たずに済むでしょ」
派手だった車の塗装は、綺麗な緑の迷彩柄へと姿を変えた。
妖精の血を引く者として魔法の心得もあるカロンは、このように対象の姿を自由自在に変えることが出来る。そしてこの魔法使いとしての一面は、彼女の裏の顔でもあった。
杖を懐にしまい、車両に一通り異常が無いか確認し終えると、カロンは満足そうに腕を組んで愛車を見つめた。
「よし、元気で何よりだね。それじゃ、荷物を積んだら早速出発しようか!」
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2.半人半精「半分は妖精だからね。これでもかなり長生きしてるのさ」
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あたしの話よりもまずはこの世界の事情を知らない連中の為に、少しだけ昔の話をしよう。
かつて、この大地は荒れ果てていた。
地上環境を再生させるために人の手によってつくられた無機物の神々は、結果的に人々を根絶やしにし、新たな人類を創造した。
それが『真人』。
当時の真人は自然を蘇らせるためだけにつくられた、有機の機械のような存在だった。
しかし、『もうひとつの世界』で起こった異常により、神として君臨していた『機械種』から『心』を教わってしまう。
ここで、真人達は理解した。
自分達の境遇を、自分達の運命を。
神に管理される世界など、あってはならないと。
機械種に憎悪を持つ者達は手を組み、かつて様々な生物が共に生きてきたこの大地を我が物にしようと反乱を起こした。
そして『もうひとつの世界』から新たな人類が足を踏み入れたことで、支配権を巡る争いは激化。
最終的にこの大地が誰のモノになるかなんて、誰も知らないし、知ろうともしなかった。
しかし、その戦争は一つの輝ける星の手によって、総てが丸く収まったんだ。
現世代の祖先――――“初代陛下”こと『ソロ・モーニア』様の手によって。
“初代陛下”は争いの絶えない世界を平和にすべく同じ志を持つ仲間を集め、この地に再び舞い降りた『神』と共に、皆の夢と希望を背負って戦争を調停した――と言い伝えられている、真人達にとって特別な御方だ。
彼が即位されて以降、各種族は不戦協定を結び、争いの大元だった機械種はペナルティとして、一部を除いて管理職の立場から消えていった。
こうして地上は『神』が夢見た世界となり、小さな争いは数あれど、大きな争いは暫くの間起きなかった。
『妖精種』が、復活するまでは。
始まったのは、“初代陛下”が亡くなって暫く経った後のことだった。
大陸から遠く離れたブリテン島にて、湖から泡が大量に出るなど変な挙動をしているという話題が現地で持ち切りになっていた。
その挙動は日が経つにつれ勢いを増していき、やがて湖付近を散歩していた住民が行方不明になったというニュースまで流れ込んできたという。
ミンスターコロニーの調査団が調べに行ったけど、全員戻ってこなかったらしい。気になって見に行った野次馬連中も、戻ってきた人は誰もいなかった。
これ以上行方不明者を出すわけにもいかなかったミンスターのお偉いさん達は調査を停止。すると数日後に、湖周辺から真っ赤な炎が燃えあがっているのが確認された。
それから謎の勢力は群を成して物凄い勢いでブリテン島のコロニーを燃やし、住民たちを――特に真人を襲っていったらしい。
ヒトと大差ない見た目ながらも人工子宮から生まれず、親も持たない。尖った耳を持ち、ヒトを超えヒトを襲い、湖から自然発生的に湧いて出てくる。
その特徴が旧時代に滅びたはずの“とある”種族と完全に一致していたことから、古代の学者達は彼らを、当時に存在していた種族である『妖精』の新世代種と断定した。
ブリテン島の湖から復活した妖精達は、やがて大軍を率いて大陸へと上陸。各地のコロニーを火の海にし、その事件はやがて“初代陛下”の子孫であるモーニア一族の耳にも入った。
一族率いるアルメニアコロニーの都市防衛軍は制圧に入ったものの、彼らはかつてのイノベイターの面影すら感じられないくらいに弱体化していた。予想外の事態で迎撃は失敗だらけ。おまけに例の守護神様がどっか行っちゃったおかげで、もう滅茶苦茶。
そこで、一度切断していた『もうひとつの世界』との接続を再直結させて、制裁を受けていた機械種達を監督官等の管理職に復帰させたことでなんとか安定化までは持っていけたらしい。
そんでもってモーニア兄弟の子が“伝説の剣”とやらを携えて、そのひと振りでやっとこさ妖精は追い出せたんだと。
前置きが長くなってすまないね。とにかく、あたしの母さんは当時前線で戦ってた妖精の魔女だったんだ。
母さんは負けた時に仲間とはぐれて逃げ遅れた妖精のひとり。見つかったら真人達に殺されるかもしれないから、びくびくしながら各地を逃げ回る生活が暫くの間続いたんだと。
“暫く”ってのは、父ちゃんに出会うまでだな。
母さんがアルメニアの騎士に捕まりそうになったところを、とある一人の学者が庇ったんだ。その『学者』っていうのが、あたしの父ちゃんだ。
母さんは父ちゃんに引き取られて、旧人類種が大半を占めるコロニーで生活することになった。
それから二人は互いに打ち解け合って、ついに結婚。
その間に生まれたのがあたしってワケさ。
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3.魔法の車・アーケロン「相棒はあたしの思い出の結晶。両親が遺してくれた、夢を運ぶ車」
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この世界で魔法が使えるのは、妖精、もしくは妖精の血を引いている者、妖精の血を飲んだ者、そして一等級の『魔力炉』……『ディバインハート』を持つ『仙星十天』のメンバー達だけ。あたしは母さんが妖精だったから、その血続き。
一口に魔法といっても、まぁ色々ある。月火水木金土を操る定番の七曜属性系から、身体能力を向上させたり低下させたり、あたしみたいに、ヒトの感覚や精神に干渉する魔法とか、とにかく沢山の種類がある。
あたしが得意としている魔法は『視覚催眠』。物体そのものじゃなくて、人に見える視覚を騙す錯覚の魔法。いわば、ガワを別物にする――対象を別のモノに見えるようにするというものさ。
とはいっても、あたしは学者のような人じゃないから一言で言い表すのはとても難しいんだけどね……。能力には時間制限もあるし、気づいたら効果が切れていた~なんて時もしょっちゅうある。
“魔法”という概念は、400年くらい前迄の世界では幻想のなかだけで語られていて、実在しないものだったらしい。
そして本格的に普及し始めたのは、妖精種が大地に復活した後。戦争に敗北した時、逃げ遅れたりわざと残留したりした妖精達が、その存在をこの世界に広めて浸透させていったんだ。あたしは逃げ遅れた母さんから生まれたから、魔法が使える真人としては割と初期の人間さ。
そうそう、あの覇権戦争当時でも魔法を使ったといわれている真人の言い伝えはあるけど、情報が断片的過ぎて正確性は無いんだよね。果たして本当だったかどうかは、あたしにもわからないよ。もしそうだったら……その人達はあたし達の大先輩ということになるかもね。
両親からは、色んなことを教わったよ。
母さんは魔女だったから、魔法を教えてもらった。あの人は属性系が得意だったし、あたしもちょっとは使える。まぁ、あまり大きな魔法は専門じゃないから流石に使えないんだけどね。
父ちゃんには、車で色んな場所に連れていってもらった。あの人は学者だったから、通過した場所やコロニーの昔話をいつもベラベラ喋ってた。当時まだ小さかったあたしは、そんな父ちゃんの話を聞かされるのもいつもうんざりしていたけど、あの時色々喋ってくれていたあの人の気持ちも分からなくはないかなって、今は感じてるかな。
……お互い様だって?
まぁ、言われてみればそうだね。あたしもそろそろ昔の父ちゃんに似てきているのかも? あっはは。
とにかく、あたしの相棒である『アーケロン』は、そんな家族との大切な思い出が詰まった、形見のようなものなんだ。
小さい頃によく連れていってくれた中東の観光地や遺跡は、今でも印象に残ってる。あの広い景色を初めて見た時の衝撃は、一生忘れられないよ。
それがきっかけであたしはドライバーの職に就いたようなものだし、色んな場所に連れていってくれた父ちゃんや、いつも寄り添ってくれた母さんには、心から感謝しているよ。世の中には、あまり外に出してもらえない可哀想な箱入りの子だっているんだからね……それに比べれば、あたしは恵まれていたもんだよ。暮らしはあまり安定しなかったけどね。
両親が亡くなった後も、あたしはアーケロンと一緒に世界をまわり続けた。
オリンピアス旧市街に聳え立つ巨大な復元城、カスピ大地溝帯の大空洞にあるニューネメア古代遺跡。
かつての覇権戦争で中心となった場所も今や立派な人気観光地になっちまって、人もぞろぞろ来てる。写真を撮る人もいるし、ツアー客も大勢で、すごく賑わってる。この世界が今も平和になっている証だよ。
あたしも仕事であっちこっち行き来してるけど、あそこまで賑わっているのは中東くらいだよ。昔は欧州も観光客が沢山いたみたいだけど、今の客層は旧時代の文明に興味がある一部の人くらいで、昔と比べてかなり減っちゃったらしい。旧時代から生きていた人間じゃないから旧人類種の皆さまの事情はよくわからないけど、時代の変化っていうのは、こういうことを言うのかね。
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4.夜空色の王子様「前会った時はあんなに可愛かったのに、今やあの頃から身長まで随分伸びちゃってて驚いたよ……」
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「え~何々……教会に連れてくついでにお友達を同行させてほしいって?」
『その通りだ。息子の護衛であの子も連れてこさせようと考えて領主に相談したんだが、やっぱり一筋縄ではいかなかったみたいだな……』
「そりゃそうさ。今のご時世なんだと思ってるんだい? それに、バヴァリアは相手の本拠地の近場にあるんだよ。アンタも機械種なんだから、いい加減腹括りなよ」
『俺だって腹は括ってる。まぁでも、向こう側もそれくらいピリピリしてるってことだな』
「……これから先、世界はどうなっちゃうんだろうねぇ」
『本当の平穏を手にしたと思ったら、異常事態が発生して逆戻り……だもんな』
「アンタの息子のこと、信じてるよ」
『あぁ、頼んだ』
幾つか言葉を交わした後、あたしは電話を切った。
出発する直前に掛かってきた電話の主はゼノンさん。『お友達』も連れて行くようにとの追加オーダーが入ったから、その子のいるバヴァリアコロニーを経由してあたしはネオペルセスまで向かうことにした。
お気に入りの音楽をかけて、あたしは車を走らせる。
……それにしても、この綺麗な景色はやっぱり格別だな。
欧州のコロニーは300年以上前から旧時代の文明を護り続けてきた場所ばかりだから、そんな理由で戦争に参加しなかった都市も多い。
まぁ強硬派《イノベイター》の連中の大多数はアフリカ大陸から来た真人だったからね。奴らに力を貸していたのは、ゴリツィアやシラクス、そしてオリンピアスくらいさ。
だから、華やかで美しい景色や建築物が、戦火の被害を受けずに今もこうやって残っている。
あたしは欧州の景色が好きなんだ。だからパリスに引っ越した。
彫刻で象られたゴシック建築の大聖堂、水面に浮かぶ城、色とりどりの花や緑が咲き誇る中庭を持つ宮殿。
初めてあの光景を見た時、中東にある無機質な機械都市とは違う――いや、それ以上の何かを感じた。
こんな美しいものに魅了されないほうがおかしいと思うくらいに、あたしの心を鷲掴みにしたんだ。
出発したときも勿論、市街の中心にある道路にドカーンと置かれているあの門を通っていったさ。
どいつもこいつも、旧人類のみんなが遺してくれた大事な遺産ばかり。
初めて見る景色も、昔から通ってきた場所も、相変わらず色褪せない。
中には機械化を推し進めている都市もあるけどね。
でも、欧州の真人は『他所は他所、うちはうち』っていうのを理解している連中が大半だから、機械化を強制したり阻止しようとしたりする奴はいない。優しい人ばっかりでほんと助かってる。毎日平和さ。
と、そんな感じで色々寄り道しながらバヴァリアに到着したのだけれど、ゲートの前にお堅い門番が4、5人くらいいて流石に通れそうにない……かな。
あ、誰か来た。
えーっと、誰だ誰だ……うわ、なんだか嫌な予感。ここの連中のリーダーだったりするのかな……。まぁ、話は聞いてみるか。
――と思ったら、な~んだあの子だったじゃないか!
ゼノンさんが言ってた通りだ。手元には小さい頃の写真しか残ってないけれど特徴は一致してる。
夜空のような黒髪に青い目の男の子。バヴァリアコロニーの第一王子様バージルくん!
最後に会ったのは12歳の頃だったかな? 随分立派になったもんだよ……。
とにかく、そんなこんだでコロニー内部には通してもらえたわけなんだがね。
「うぅ……ぐすっ」
「何泣いてるんですか……」
「いや、あのね……あんなに可愛かった坊やがこんなに立派に成長して……」
「は、はぁ」
「おや、カロンさんじゃないか。……バージルも、彼女を通してくれてありがとうな」
「あら、領主さん。お久しぶりです」
「立ち直り早っ!?」
「なんだいジル坊、あたしの長所だよ。いつまでもなよなよしてる態度じゃあいられないだろ?」
お屋敷に通してもらった時にあたしは感極まって泣き出しちゃった。だって最後に見た時はあんなに可愛い坊やだったのに、今や脚の長いイケメンに育っちゃって……こんなの感動しない方がおかしいじゃないか。
「カロンさんは相変わらずだな。……ゼノンさんから話は聞いている。良ければ一緒にテラスでお茶でも如何だろうか?」
「えっいいんですか!? もう遠慮なく〜!」
久しぶりに領主さんにも会えたし、ついでにテラスでお茶も用意してもらえるなんて、今日はなんて良い日なんだろうか!
――おや?
バージルの坊ちゃんは付いてこないのかな〜?
と思ってたら、彼が足を止めていることに気づいた領主さんが声をかけてくれた。
「バージル、お前も一緒にどうだ?」
「えっ……でも――」
「ハンニバルくんの件とあともうひとつ、話しておきたいことが出来た」
「……そうですか。ではご一緒しましょう」
仕方ないなと言わんばかりの態度を示す息子だったが、それを見ていた領主さんは微笑ましい顔をしていた。
は~まったく真面目くんなんだから。こういう機会は遠慮せずに参加すればいいんだよ!
未だにモヤモヤしてるジル坊の背中を押しながら、あたし達はテラスへと向かった。
――
――――
一通り話を終え、領主さんと挨拶を交わしてからあたしはジル坊を車に乗せて出発した。
欧州を抜ければ、そこから先は砂漠の荒野。中東と呼ばれるこの地域こそが、かつての覇権戦争で中心地となった場所だ。
今も寂れている場所はあるけれど、旧時代と比べれば今も随分活気があるようだった。昔ドライブで連れていってくれた時と、全然変わっていない。
「どうだい、ジル坊。ここが昔“初代陛下”様達が戦った場所だよ」
「…………」
後ろの席に座っているジル坊の様子を伺ってみたが、どうやら彼は窓の向こう側の景色から目が離せなくなっているみたいだった。
「どうしたんだい? そんなにジーっと見て」
「あぁ、いや……なんだか新鮮な感じがして」
「なんだい、アルメニアの大学に通っていたのに、どうしてそう感じるのさ?」
「うーん……そうですね。学生時代は変わらない景色をずっと見てきたから、アルメニア以外の場所を訪れるのは初めてで……」
「へぇ~成程。そういうことね」
そうだ。彼は確か王子様で箱入りだったから、あまり色々な場所に行けていなかったんだっけな。だからここら辺のこともアルメニアコロニー周辺の景色しか知らないわけだ。
うーん、あたしの話に興味を持ってくれるかな……。よし、切り出してみるか。
「それならさ、なんかこう……興味ない?」
「……え?」
「ほら例えば、ここら辺の昔の話とか、伝承とか文化とか――」
「あぁ、それなら興味はあります。僕も元々、歴史には興味がありますし」
「それはよかった。――それじゃ、現地に着くまでの暇つぶしがてら、話を聞いていってくれよ」
ジル坊が昔話を聞く気になってくれていて何よりだ。あたしも嬉しい気持ちになる。
なんつったって、普段の営業時のお客さんはそういうの聞いてくれないし「うざい」とか「うるさい」とか言われちゃうからさ。
……と、そんなことはさておき、あたしは道中で色々な話を王子様にお聞かせしながら、ネオペルセスへと向かって愛車をひた走らせていきましたとさ。……「ひた走る」つっても、別に急いでないけど。ま、焦らずゆっくり行きましょ~。
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5.黄昏色の――「全くあの子も浮かれ気分と来た。でもまぁ、お友達が傍にいてくれる限りは大丈夫そうかな」
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――んで、なんだかんだあってネオペルセスまで到着。無事ハンニバル――ハンくんと合流したってわけだ。
あっち側の家庭事情もあるからハンくんには会ったことなかったんだけど……まぁ〜メイリアさんは随分と元気な男の子を産んでくれたもんだよ。
黄昏色の髪に、お父さん譲りの翡翠色の瞳と、彼にそっくりの端正な顔立ち。
自分達とは生まれから根本的に違うんだということを、この子の容姿から感じさせられたよ。
ま、そんなことは置いておいて、あたし達はゼノンさんと一言二言交わしてから夕陽を背にネオペルセスを出発。
あれから色んなことがあったし、途中でドミネイターの少数部隊に通せんぼされたりもした。
そんな中で出会ったのが、パオルとフランチェスカの兄妹。
二人は奪還派の中枢都市に指定されているバヴァリアコロニーから派遣されてきた敏腕のスナイパーだ。
彼らとは面識があったし、騎士団長のエクトルくんからもこっちに戦力を送る話を予め聞いていた。何にせよ、うちらには遠距離担当の戦力がいなかったから、二人が手を貸してくれるだけでも凄〜くありがたい思いをしたさ。
――
――――
てなわけで、現在はあの二人を入れて5人でドライブしている。
あたしは運転しなきゃいけないから気軽に輪の中には入れないけど、どうやらハンニバルくんは兄妹と意気投合して雑談で盛り上がっている感じだった。
肝心のジル坊はあの二人の雰囲気がちょっと苦手なのか、3人が雑談してる机から外れて、あたしの座席の背に寄りかかりながら進行方向をぼーっと眺めているようだった。
「なんだい? あの子達は楽しそうに話してるじゃないか。入る勇気がないのかい?」
「いや……あの二人の印象がちょっと苦手で……」
「正直でよろしい。……んで? どうして苦手だって思うんだい?」
「なんか……みんなして凄く大事な仕事を任されているのに、こんなに浮かれていていいのかなって……」
「そうかい。まぁ、そう思う奴もいるさ」
「だから、そういう時には自分がしっかりしなきゃいけないなと思いまして」
「その通り。流石優等生様だ」
ジル坊の言う通り、この車にいる連中全員には、重大な任務を任されている。
ハンニバルくんは、英雄候補者として仙星十天のメンバーと合流すること。
ジル坊は、彼の護衛と糾弾教会との連携強化の為の派遣。
パオルくんとフランちゃんも同じく、ハンニバルくんの護衛と中枢都市の防衛。
あたしも同じ。――彼を護ったり、十天の拠点であるエンピレオ宮殿まで運んだり。
見てわかる通り、ハンニバルくんはみんなから期待されている希望の卵なんだ。……いつか『星』になる為のね。
そんな彼を大事なお友達に持っているジル坊の目からも『彼を護り抜きたい』という覚悟が表れているのが、バックミラー越しからでも感じ取れる。
「ジル坊は良いね。自分でそうやって自覚できるんだから」
「……え? 何がですか?」
「さっき言ってたでしょ、忘れたの? こうやってみんなが気を抜かしている時こそ、あんたは気を抜かしてはいけないってことさ。みんな浮かれてたって変だし、裏をかかれたらおしまいになるだろ?」
「……」
「みんなの世話を見てくれる人が誰か一人いるだけでも違う。……まぁ、あんたは真面目に育ったからね。礼儀正しい奴がいて、あたしも助かってるよ」
あの兄妹はあんな性格だし、ハンニバルくんも親に生活を縛られて生きてきたから、結果的に自由を求めるようになった。……彼を“あんなに”縛ってしまったのを、ゼノンさんはきっと後悔しているんだろうな。
そんなイカれたお花畑な連中のなかに、真面目な子が一人いるだけでも違う。ジル坊がいてホントによかったと自分も感じている。
「……ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして。……これからもよろしく頼んだよ?」
「はい。僕に出来ることでしたら、何でもお手伝いしますよ」
微笑ましい回答を聞いたあたしは、ほほくそ笑んだ。
「ところで、早速なんですが……」
「ん? どうした?」
ジル坊が早速、恐る恐る話を切り出してきた。
「もしかして、フィレンツェまで……このまま車で向かう予定を組んで……いらっしゃる?」
「……どうしてそんなことを聞こうと思ったのさ?」
「地図を見ていたら、かなり時間がかかるかと思いまして……」
「な~んだそんなことかい。……心配無用さ。現地には2日3日もありゃあ着く」
「えぇ……」
「ダイジョブダイジョブ~。あたしらもそんな感じだったから」
「ほ~ら、フランさんが言ってるから平気なんじゃない? そんな一週間とか一ヶ月とか掛かんないと思うけど」
「バルまで……ほ、本当かな……」
事実、うちのアーケロンはそんじょそこらの車と違って、ある程度の速度は出せる。
だから行ける。絶対行ける。間に合わせる。
……つっても、毎度スポーツカーみたいな速度を出しているわけじゃないから安心してくれよ? まぁ本気出せばそのくらいの速度も出せるけど……。
「まぁまぁ、そんな話は置いておこうよ。キリがなくなっちゃう」
「あ、そうだね……ごめん、お兄ちゃん」
「平気だよ、謝る必要も無い。オレだって丁度気になってたところだったしね。そういやぁ……」
まわりを宥めたパオルは、あたしに質問を持ちかけてきた。
「これからどこを経由して行くつもりなんスか? 今日はもう夕暮れ時ですし、どこか安心して寝泊まり出来るところに行かないといけないんじゃ……」
「あぁ、それもうちの知り合いが手伝ってくれるからノープロブレム」
「人脈ひっろ……凄いッスね……」
「流石、長い年月を生きてきた妖精って感じだな〜」
あたしは彼らに、これからの動向を説明した。
この車は今現在モスールコロニーに向かって走行中で、到着したら現地で物資の買い出しと宿を借りて寝泊まりする。翌日起床したら宿の朝飯を食って出発し、ダフークコロニーに到着予定のエアロクラフトから物資を貰って、約二名の教会の衛士と合流する。
これがあたしとゼノンさんで練った理想のプランだ。
勿論、ここまで順調にいっているが、全てが上手くいく保証はない。
途中で敵襲や妨害があった場合はルート変更せざるを得ない。
いつどこで何があってもおかしくない状況だから、警戒して進まなければならなかった。
「――以上が今後の予定だよ。みんな、異論はないね?」
「そうッスね」
「問題ナッシング~」
「大丈夫です。……バルは大丈夫?」
「うん」
――よし、みんなオーケーだね。
全員の確認が取れたところで、あたしは引き続きモスールコロニーまでの運転を続行した。
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6.黒い外套と丸眼鏡「あの子は一体――まぁ人も多いから、大して気にすることじゃない、筈……」
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モスールコロニーまでの道のりは、不思議に感じるほど何事もなく進んだ。
都市に入ったあたし達一行は、ホテルの駐車場に車を停めて外へ出る。
あたしにとっては昔何度かお世話になった街だったが、そのリゾート地のような煌びやかな光景は、他の4人にとっては新鮮なようだった。
何せ、みんなの目がキラキラしてるのがよ~くわかるからね。
「うわぁ~! すっげぇ~!」
「寂れた砂漠地帯に、こんな華やかなコロニーが存在しているなんて……」
「ホント、いい時代になったモノっスね」
「ひゃあ~~! すっごーい! 大きな噴水があるー! お兄ちゃん、来て来てー!」
「も〜フランったら、全く……はいはい」
中でも、性格の明るさが目立つフランちゃんはとびっきりわかりやすく興奮しているようだった。
パオルくんはそんな妹に呆れつつも表情を和ませ、彼女に腕を引かれていった。
兄妹の仲睦まじい様子を、あたし達3人は遠目で見ていた。
ふと、ハンニバルくんがジル坊に話しかける。
「なぁ、バージル。お前んとこの弟達とも、あんな感じなのか?」
「いや、あれ程ではないかな……」
「そっか……」
そんな二人の話の輪に割り込むように、あたしもひとつ質問を切り出してみた。
「仲良くしてるとこ、悪いけど失礼するね。……なぁジル坊、あれ程ではないのだとしたら、どんな感じなんだい? 仲悪かったりするの?」
「仲は悪くないかなと、自分の中では考えています。ただ単に、お互いの仕事が別々だからあまり会話を交わす時間が取れていないだけで……」
「やっぱり、忙しいのか?」
ハンニバルくんが問いかけた。
「そうだね。領主の子供だからかな、みんな忙しいんだ」
「なるほどね……」
まぁそんなことなんだろうな……と、あたしは顎に指をあてて納得したように頷いた。
実際、領主の保護下に置かれている真人の少年少女達は皆、領主の子供――即ち後継者として扱われる。即ち“しきたり”がある。その“しきたり”を採用しているコロニーもあれば、特に何も決めていないコロニーもある。
このしきたりが広まったのは“初代陛下”が統治を始めてから暫く経った時代からであり、この制度自体の歴史も比較的新しいものだ。
バヴァリアコロニーは崩壊したペルセスの代わりにアルメニアコロニーと親密な関係を結んでいたことから、この制度を積極的に採用した。
だからジル坊やその兄弟はいつも忙しくしているのだ。互いにお話をする時間だって、今は取れていないことだろう。
と、そんなこと考えていたら時間があっという間に過ぎてしまう。
観光するのもいいけれど、まずは買い出しに行かなきゃ。
「さて、日も落ちてきたことだし、それぞれ買い物に向かいましょうか。……二人共、兄妹を呼び戻してきてくれ」
「はーい。――おーい! 買い物行くぞー! 戻ってこーい!」
――
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ハンニバルくんが手を振って兄妹を呼び戻すと、あたし達は個々のエリアに散らばって買い出しに向かった。
一人になったあたしは、発展したコロニーを見て物思いに耽る。
(はぁ、全く……このコロニーもまぁ随分、立派になったもんだねぇ)
戦前や旧時代では、モスールコロニーは寂れた都市だったが、戦争が終わり本格的な整備が進められてからは物流に特化した場所へと発展したという。そして今やこの辺では、カラージュコロニーに次いで2番目の商業都市にまで成り上がってしまったんだとか。
いやはや、時の流れや運命っていうのは、数奇なものだね……。
そんなことを考えつつ、あたしは買い出しを続ける。
モノを売りに出してる屋台の店員とも時折話を弾ませながら、順調に店を渡り歩いていった。
奥に進むにつれ、人も多くなってくるし、動きも複雑になってくる。
物資を落とさないように気を付けつつ、あたしは慎重に足を進めていた。
ふと、あたしの右肩に誰かがぶつかった感覚がしたような気がした。
誰かなと思い後ろを振り向くと、黒い外套を身に纏った誰かが、道に落とした赤林檎を拾っているのが視界に入った。
先程ぶつかったのは恐らくこの子だろう。
そう思ったあたしはその子のもとへと引き返し、大丈夫かと声をかけて、手を差し伸べた。
「さっきはごめんよ。大丈夫かい?」
「あ……はい……」
声を掛けると、その子が顔を上げた。
切り揃えた前髪と、黒のボブカットの髪型。そして極めつけは、地味な丸眼鏡。
顔立ちや髪型だけ見れば男とも女ともつかないが、声を聴いた限り少年のようだった。
だが、地味な丸眼鏡をかけていて挙動が落ち着かないあたり、華やかなモスールコロニーとは相容れないような“異質”な雰囲気を放っていた。
「あ、ありがとうござい、ます……では……失礼します!」
「あ、待って! ……って、行っちゃったか」
少年は落とした林檎を片付けると、あたしの手を取って立ち上がり、咄嗟にその場を急いで離れていった。
「……結局あの子、何だったんだろうな。観光客だとは思うけど」
それでも、あの子が放つ雰囲気は只者ではなかった。
華やかな街並みに似合わぬ地味な見た目ということもそうなのだが、それよりも、あの子の顔を見た瞬間に自分の身体が一瞬重くなった感覚の方が気になって仕方が無かった。
買い出しを終えた後、あたしがボーっとしていたのをハンニバルくんが心配してくれていたが、問題ないと答えておいた。それが申し訳なかったあたしは、今日はそれ以降、平常心を保っているように――いつものように振舞っていた。
それでも――大したことではないと他所に置こうとしても、脳裏にはあの子の背中がずっと焼き付いて離れなかった。
――嫌な予感がする。
それが妙な違和感の正体だったということに気が付いたのは、あたしがベッドで眠りに就く直前のことだった。
――
――――
月明かりが照らす外。ホテルの建物の前には、黒い髪の青年が、丸眼鏡を光らせて立っていた。
「……見つけた」
――ハンニバル達の寝室……その一点だけを見据えて。
―――――――――――――――――――――――――
7.ワイルド・スピード「しつこい連中だね。それじゃ、あたしも負けじと気合入れていこうじゃないか!」
―――――――――――――――――――――――――
「いつまでボサっとしてるんだい。朝だよ! ほら、ハンくんも早く起きい」
「んん……なんだ、もう朝か……」
早朝。
一番乗りに起床したカロンから一斉に起こされた一行は、身支度を整えると宿屋の食堂に行き、オーナーが用意してくれた朝食を嗜んだ。
「んま~! なにここのトースト、超うめぇ!」
「全く、興奮してるからって勢いでのど詰まらせるんじゃないぞ、バル」
「あ~、そんなことわかってるから心配しないでいいのに~」
「ハハッ、お前さんたち良い食いっぷりじゃあないか。若い連中はいいもんだよ」
「ありがとうございます。オーナー」
「あーいやいや、こちらこそ。西の王子様に飯が振舞えるときたもんだからつい気合入っちまってよぉ!」
「ほんと、たまに郊外で食う料理は美味いっスよね~!」
オーナーと仲睦まじくやり取りを交わす4人の若者。
そんな中、カロンだけが浮かない顔をしているのをバージルは見た。
「あの、カロンさん……どうかしましたか?」
「あぁいや、ちょっとね……」
「ん……?」
バージルが首を傾げる。
するとカロンは静かにカトラリーを置いて、一言呟いた。
「みんな……今は早くここを出た方が、いい気がするんだ」
「……え?」
その一言で、場の空気が豹変した。
4人は一斉にカロンの方に顔を向ける。
ハンニバルの思考も、一瞬止まった。
もしかしたら敵が近くにいるかもしれないと察したのは、その一言が放たれたほんの一瞬だった。
「え、ちょっと待って、今更何を――」
「いや、違うな……逃げよう。今すぐ逃げよう。食うとこ早く食ってここから離れよう」
「は? でも近くにドミネイターはいないって――」
その瞬間。
パオルの言葉を遮るように、二階から大きな爆発音が響いた。
爆発音と共に、建物全体がほんの少し揺れる。
それが、カロンが昨晩から感じていた嫌な予感そのものだった。
「さぁはやく、ここから出るよ!」
「あーマジかよ! やっとどっかに泊まってゆっくりできると思ったのにー!」
「あ゛ー!? なんだ今の爆発音は! カロンの姉さん、こりゃ一体何の騒ぎだい!?」
「オーナーちゃん、昨日は泊めてくれてありがと。飯、美味かったぜ! これは代金だ。それじゃ急いでるんでこの辺で!」
「おい! ちょっと待ちやがれこのアマ――って、行っちまったか……」
カロンはチャランと代金を手渡しし、四人を連れて急いで外へと出ていってしまった。
「畜生! ここらへんの連中は俺の店を何回ぶっ壊しやがる!?」
誰もいなくなった食堂には、オーナーの怒鳴り声が空虚に響いていた。
――
――――
「さぁみんな! はやく荷物積んで、行くよ!」
「あーちょっと待ってってば! タンマタンマ!」
「甘ったれたこと言うなよフラン……さ、急いだ急いだ!」
「ふぇ~んお兄ちゃんの意地悪!」
こうして一行が急いで出発する準備を整えている最中、先ほど爆発した箇所がふとハンニバルの視界に留まった。
その瞬間、全てを察した。
この街のどこかに、敵が潜伏していたんだと。
そして、カロンさんが昨日から気分を悪くしていたのも、そのうちの誰かと遭遇したのかもしれなかったんだ、と。
爆破地点は、ハンニバル達が泊まっていた部屋だった。
「ほら! なに突っ立ってるんだい。早く乗りな!」
「あ……はい!」
カロンの一言に急かされるまま、ハンニバルは車に乗り込む。
そして一行を乗せた車は、被害を受けることなく無事にモスールコロニーを出発した。
追手から逃げるように、カロンは急いで車を走らせる。
(あー畜生……なんであの時放っておいたんだか! あたしのアンポンタ――ッ!? やばい追いつかれる!)
見てしまった。
肉眼では確認しきれないが、運転席側のバックミラーが、数秒早く僅かに捉えていた。
カロンの車を後ろから追いかけてくる、黒光りした車を。
「……ん? お兄ちゃん、なんか追いかけてきてない?」
「え、マ? ――って、ホントじゃん! カロンさん、ちょっとこれヤバヤバなんじゃ――」
「あーあーちゃんと気づいていらっしゃいますよ……っと!」
追手が目視できるまで距離を縮めると、カロンはアクセルを踏んで車のスピードを上げた。
速度はぐんぐんと上がっていく。
「さーて……腕の見せ所がやってきたね」
「へ? あの、カロンさん、何をする――」
「ハンくん達! ぶっ飛ばされないように、しっかり捕まってなよ!」
「え? って、うわぁーーー!!!」
次の瞬間、カロンは一気にアクセルを全開で踏み、スピードを一気に上げた。
「ひょお~~~! すっげ~! これこそまさにカーチェイスってやつ!?」
「吐くんじゃないよ! あたしの愛車だからね」
物凄いスピードに興奮するパオル。追い縋ろうとする黒い車から逃げるカロン。
そして彼女が車のスピードを上げると、向こう側も負けじとタダでさえ速いスピードを更に上げてきた。
前方を走っているカロンの車は、間もなくトンネルの内部に差し掛かるところまで来た。
ここまで両者一歩も譲らぬ熾烈な戦いを繰り広げてきたが、トンネル内に入ると相手の車が今までの比ではない速度でカロンの車に迫ってきた。
「チィ! クッソ……これじゃあ流石にかわしきれないか?」
カロンの方もある程度以上のスピードを出しているものの、それ以上出してしまうと今度こそ乗客が吹き飛んでしまう。
自分一人だけならまだしも、乗客数名を乗せてカーチェイスを続行するには無理があった。
そうこう考え込んでいるうちにも、追手は近づいている。
気づけば運転席の窓を開けて、拳銃をこちら側に向けていた。妨害する気なのだろう。
(あ……)
――そうだ。これだ。
相手が妨害してくるなら、こっちだって――。
その相手側の行動が、カロンを突き動かした。
「パオルくん、フランちゃん! ちょっといいかい?」
「おいっす。なんスか」
「アンタ達兄妹の力、ちょっくら貸してくれないかい?」
カロンはラウィニア兄妹の2人の名前を呼び、現状を説明した。
「へぇ~、そういうコト……フフッ、お兄ちゃん。これは……」
「あぁ……オレ達が――やるしかないよな!」
「――やるしかないよね!」
言葉を合わせた2人。
すると洗礼された動きで武器を取り出し、窓から身を乗り出して後方にいる車へ向かって迎撃した。
「すげぇ……」
「流石は奪還派中枢都市所属の衛士なだけはあるな……」
「フンフフーン! このパオル様をなめてもらっちゃあ困るぜ!」
「これがウチらのお仕事だもの! ハンくん達のことは、ウチらが守ってあげるぅ!」
息ぴったりに連携を取り合う兄妹。
ハンニバルとバージルは、そんな2人の姿に見入っていた。
兄妹の迎撃が功を成したのか、気づけば黒い車は徐々に速度を落としていた。
フランチェスカは、その隙を見逃さなかった。
「お兄ちゃん、エンジン! あたしはタイヤやるから!」
「了解ー!」
隙を見破ったフランチェスカは、兄にエンジンへの攻撃を要請する。
銃弾をモロに受けたタイヤはパンク。ボンネットには穴が開き、今にも空きそうなくらいに緩くなった。
黒い車の速度が急激に落ちていく。
「ありがとうお二人さん! それじゃ、こっちも必殺技、決めちゃいますかね!」
カロンは握っていたハンドルにあるとあるスイッチを押すと、なんとマフラーのある部位からミサイルが発射された。
黒い車はミサイル攻撃をもろに受け、エンジンを故障させて爆発、炎上した。
「Bye~♪ 冥府でまた会おうぜ」
勝利を確信したカロンは口笛を吹いて別れの賛辞を口にした。
――と、そう思っていたのもつかの間だった。
「……ねぇ、カロンさん」
「お? なんだいハンくん」
「俺、まだこれで終わりじゃない気がするんですけど……」
「そういえば、なんか聞こえてくるような気がする――ッス!?」
「パオルくんまで、一体どうし――あ!?」
「ちゃんカロ、早くスピード上げて! 早く!」
「あーーー!! もうなんなんだいこんな時に~!」
黒い車が燃える、真っ赤な炎。
その爆風を突き破るように、中からもう一台――銀色の車が、物凄いスピードを上げながらこちらを目がけて飛び出してきた。
―――――――――――――――――――――――――
8.白と黒の影「まさか昨日のあの子が追跡者だったなんてね……。まぁ教会の連中と合流したお陰で、なんとか助かったけどな」
―――――――――――――――――――――――――
燃えあがる車の中から出てきたもう一台の銀色の車。その車は黒い車以上の速度でカロン達の前に接近してきていた。
あれが恐らく“本命”なのだろう。と、カロンは密かに察した。
引き続きパオルとフランチェスカの兄妹に迎撃を任せていたものの、こちらの銃弾を全て弾いてしまい、結果的に大きな妨害にはなりえていなかった。
「ねぇちゃんカロ~! あの車、ウチらの弾全部弾くんだけど~! やーばーいー!」
「あ~畜生! このままじゃ絶対追いつかれる! どうすりゃいいんだい全く!」
銀の車には、徹底した防弾コーティングが施されていた。
一見普通の車に見えるが、内部やコーティングは戦闘用にカスタマイズされているのだろう。
そうこうしているうちにも、隙を取られてしまったカロンは逃げ切ることが出来ず、遂にはすぐ隣を取られてしまった。
「あ? なんだお前――ッ!?」
「お兄ちゃん!」
車は、パオルのすぐ横の位置を取った。
呆気を取られたパオルは、丸眼鏡を光らせる運転手と思しき男に、銃を持っている方の腕を強く捕まれてしまう。
「グッ……離、せ……!」
必死の抵抗を試みるも、今にも腕が折られそうな程の握力に締め付けられていて成す術もない。
それを見たカロンは車を左側に移動させて距離を取ろうと考えたが、それではパオルが道連れにされてしまう。
では、どうすればいいか……。
脳内で様々な考えが交錯している最中のことだった。
カロンの車がようやくトンネルを抜け出し、ダフークコロニーの入口付近までやってきたのだ。
(おっしゃ! 今だ……!)
瞬間、パオルは片脚を上げ――。
「おーら、よ!」
運転手目掛けて一発蹴りをかました。
相手は妨害を受けた衝撃でコントロールが効かなくなった車と共に突き飛ばされ、岩壁にぶつかって故障し、内側から爆発した。
それを見たカロンはドリフトでブレーキを掛けて車を止め、運転席から降りて銀の車が炎上していることを確認する。四人も彼女に続いて車を降りていった。
「ハハッ! 少しはやるじゃないかい伊達男」
「お兄ちゃん、かっこよかったよ!」
「エヘヘ……それほどでもないっスよ……」
カロンや妹から褒められたパオルは、照れ臭そうな顔をして頭を掻いた。
「いや、待って……」
「ん? どうしたのバージル」
すると、バージルが何かを察した様子を見せた。
「どうして……」
「え? あ……」
明らかに焦っているバージルの顔を見て、ハンニバルは彼が見ている方角に目を向けた。
「なん、で……」
「……は?」
「え、ちょ……」
「ヤバくね……?」
一同が、燃えあがる炎の中から何か人影が見えているのを確認した。
「なんでアイツ、まだ生きてるんだい……!?」
炎を薙ぎ払い、中から人影がその正体を現す。
その姿を認識した瞬間、カロンの脳内で昨日の記憶が早送りのように駆け抜けていく。
そこで、察してしまった。
銀の車の運転手の正体は、自分が市場ですれ違った丸眼鏡の青年と酷似していた――いやむしろ、その正体こそがその青年だったのだ。
「嘘だろ……昨日の違和感の正体は、アンタだったのかい……」
カロンが震えた小さな声で呟くと、青年がおもむろに口を開く。
「私(わたくし)はビスコンティ家のスカベンジャー。御主人様の命で、あなたがたを処分しに参りました」
「……狙いは何だい?」
機械音声のような抑揚で喋る青年に対し、カロンが慎重な面持ちで問いただす。
青年は、ハンニバルの方をそっと指さした。
「え……? 俺?」
「アンタ、やっぱりドミネイターの――」
「御主人様から、赤い髪の若い見た目の男を見つけたら殺すようにと言われ、仰せつかりました」
カロンの言葉を遮るように淡々と答えると、青年はゆっくりと、スナイパーライフルを一行に向かって構える。割れた丸眼鏡の隙間からは、殺意に満ちた瞳がハンニバルを捉えていた。
その瞳を見てしまったハンニバルは、背中をなぞられたような悪寒を感じ、その場で動けなくなってしまう。
「ハンくん! ――ちょっとアンタ! 片手でデカいライフル構えて、いきなり何の真似をする気だい!?」
「それでは皆様、さようなら――」
ハンニバルの異変を感じたカロンは、丸眼鏡の青年に攻撃を止めろと呼びかけるも、向こう側は聞く耳を持っていない。
説得する間もなく、その引き金が引かれる――次の瞬間だった。
「お待ち!」
後ろの方から、青年の声が聞こえた。
そして大きな銃声が鳴り響き、青年が持っていたスナイパーライフルは手元から離れて後方に突き飛ばされた。
しかし、そんな事態に遭遇したとて、丸眼鏡の男は右手を投げ出されたまま動揺もせず、表情も何ひとつ微動だにしない。
「ソイツらはオレ様達の獲物だよ!」
別の青年の声も聞こえる。
一行の後方から聞こえる声は、どうやら二人分のものだと思われる。
「ヘイ、カウボーイ! お縄につきたくなきゃ大人しく巣へ帰りな!」
「……」
丸眼鏡の男は、先程の銃弾の正体を確認しようと一行の後ろを確認する。
すると、その人影の正体に気が付いて動揺したのか、その瞳がほんの少しだけ見開かれた。
「チッ……」
何かを察したのか、青年は舌打ちをし、羽織っていた上着を翻して姿を消した。
丸眼鏡の男が颯爽と姿を消したのを見届けた後、一行は後ろを振り返る。
目の前にある大きな岩の上には、白と黒の人影。そしてその向こう側には、夕日を背に輝く銀の 飛行艇――エアロクラフトの姿が見えた。
高台に突っ立っている2人は、向こうが自分達に気がついたことを確認すると、岩の上から飛び降りて一行の元へと駆け寄ってきた。
「はぁ……いやはや、俺達が間に合ってよかったよ」
「なんか喧しいなぁと思って来てみたら、案の定ドンパチ騒いでいたとはね」
一行の前に現れたのは、2人の青年だった。
一方は白い髪に金の瞳を持ち、もう一方は黒い髪に着崩した司祭服を身に纏った青年だった。
「ハンニバル・アリギエリって奴は……もしかしてお前さんかい?」
「え? はい、そうですけど……」
「へぇ……なるほどね」
黒い髪の青年はハンニバルを認識すると、少しにやりと微笑んで自己紹介を始めた。
「オレ様はカト、白いコイツはマルコだ」
「……ベルトラン・マルコ。よろしく頼んます」
「オレ様達はヴァチカンを本拠地とする組織『糾弾教会』から派遣されてきた衛士さ。今後ともよろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします……」
カトとマルコ。
彼らこそがソルデルロがハンニバルに話をした、糾弾教会の衛士だった。
パオルとフランチェスカの兄妹とは異なる雰囲気を放つ2人を前にして、ハンニバルは少し緊張気味に挨拶を返した。
全員一通り自己紹介をし終えると、ハンニバル一行はエアロクラフトに向かう準備を進めるため車に戻っていった。
カト達2人にも自分達の所有する車両がある為、それぞれ別の車でエアロクラフトまで向かうこととなった。
「オレ様達は姐さんの後ろついてくんで、お気になさらず結構です」
「わかったよ。ありがとさん」
カトは「それではまた後ほど」と言って、そそくさと自分の車両へと戻っていった。
「やれやれ……どいつもこいつも、今の世代の若い子達は変わった連中ばっかりだねぇ」
車に戻っていくカトを、カロンは車窓から見届けてひとつ呟く。その顔は、若者達の様子に呆れつつも、そんな状況を面白がっているかのように微笑んでいた。
「さて、そんな悠長にやってらんないね。さっさと車動かさないと、後ろにいる付き人さんが動けなくなっちまう」
カロンはハンドルを握り、エアロクラフトが駐機しているコロニーの湖付近を目指して、再び相棒を動かした。
「さぁて、みんな! これからやること山積みだよ。張り切って行こうじゃないか!」
その向こうにあるモスールコロニーの夕日は、湖を鏡面として煌々と輝いていた。
チュウニズム公式サイト→ https://chunithm.sega.jp/
次回更新→8月。2話分仕込みがあるので8月はなんとか更新できそうかな。9月と10月は本家の更新が来そうなのでありません。
*
5ヶ月ぶりの更新です。放っておいてもあれなので一旦非公開にしてました。申し訳ありません……。
8月は予定通りにうp出来そうなのでよろしくお願いします。
今回はストーリーの所々にいろんなネタを仕込んでみました。だから何って話ですが(^^;)
今までは、ハードウェアの起動段階のようなものに過ぎません。次回は仙星十天の『月天』さんの話になりますが、むしろそこからが本番みたいなものなので、今までのおもんない話はこれでおしまい……だと思いたいね(自信ない顔)
【補足・追記】
何故今の(比較的)平和な時代になってまた戦争が起こっているのかというのには、世界観的なきちんとした理由があります。
いつか詳しくお話しできたらなと考えています。
そんなに長く引きずっててもくどいだけなので、地獄編が終わるまで何処かでお話出来るように努力します……。