楽園異聞録 ~ Metaverse地上編外伝 作:μtos
★当作品はSEGA様の大人気アーケード音楽ゲーム『CHUNITHM』の二次創作作品です
★この物語には、版権オリキャラ、拡大解釈などなど、オリジナル要素が多量に含まれています
★原作とは違う年代/世界軸での物語です。なのでほぼオリキャラしか出てきません
★世界観の基礎基本は原作から引用していますが、数百年先の未来でのお話なのと、自己解釈や欲望をふんだんに使っているので殆ど独自の世界観で構成されています。原作知らなくてもほぼほぼ大丈夫……だと思います(一応めちゃくちゃにざっくりとした振り返りは入れています)
★作者自身の独自解釈や自由な発想、そして欲望の下、制作されています
★原作の書式や書き方をリスペクトして書いています。なのでみなさんがいつも読んでる小説やSSよりも特殊な構成です
★ぐ だ ぐ だ で す
★作者自身は原作であるSEGA様とは一切関係ありません。私は只のしがないチュウニズマーです
特に『版権オリキャラアレルギー』がある方は今すぐこのページから離れることをお勧めします。原作から引っ張ってきたゲストキャラはいますが、基本うちのオリキャラしか出てきません。心が寛容な人だけ、よろしくお願いします。
私は元々自分の想像を具現化することが苦手な人間です。
まだまだ発展途上なので、所々拙い部分や雑な部分があるかもしれません。
それでも見てくれるモノ好きな方だけ、コーヒーでも嗜みながらどうぞ。
【追加の注意点】
このフレーバーテキストは楽園異聞録の物語において、一番最初に執筆したものになります。あまつさえ、数年前の産物です。恐らく難解な仕上がりになっています。
当時のフレーバーテキストの形態に従い、11話制となっております。その他、至っていない点、設定が曖昧な点等もございますが、それでもいいという何でも許せる方はどうぞよろしくお願いします。
また、原作側の進行状況も当時に従っているので、あれとかあれとか、その時の憶測で考えた各要素もございます。ご了承ください。楽園異聞録は原作とはまるっきり別世界線なので、問題はないかとは思いますが……念のためにね。
【EPISODE1
『靖竜』「蒼い瞳を携えた美しき漆黒の機竜──私は彼に恋をした」──とある真人の古びた手記より】
名前:リントヴルム
種族:竜種(機械竜)
正式名称: 対終末用文明探索機構第6機(最終番)・『靖竜』リントヴルム
イメージ曲:光速神授説 - Divine Light of Myriad - / yoho
スキルシード:天地創造
▬ ▬ ▬ ▬年 ▬ ▬ 月 ▬ ▬日
これは遺書だ。
人は短命であり、何百年と生きることは出来ない。あいにく、私の身体ももう数日と持たなくなってきている。
せめてもの手向けに、この短き人生で私が体験してきた、ある出来事を記録しておこう……。
もう何年、何十年も前の出来事だ。
妖精族が復活し、再び混乱状態となってしまったばかりの地上。その遥か上空に突如出現した『それ』は、まるで何か探し物をしているかのように飛び回っていた。
影で形はよく見えないが、鳥にしては大きく、飛行機にしてはやや有機的な見た目をしているような感じだった。
――あれは生き物か? だとしたら一体何なのだろう……。
疑問に思った私は、彼の同行を追跡することにした。
そんなある日のことだった。
鉱石の研究をする為に私が洞窟内を探索している時、一際巨大なシルエットと邂逅した。その翼の形からして、あの謎の飛行物体なのではないかと思った。
これは貴重だと思い、バレないようにこっそり柱に隠れて観察してみると、その生き物の正体は巨大な蝙蝠や蜥蜴のようだった。
またじっくりと観察していると、『それ』はどうやら何か光るものを集めていて、武具や宝物、骨董品のようなものまで、何か光る欠片を拾っては自分の腹の中に収納していた。
その動きから、彼はただの生き物ではないと判断するに至った。
好奇心が奮い立ち、もっと近くで見てみようと思った私だが、不意につまづき、大きな音を出して転んでしまった。
頭上に重苦しい気配がのしかかってくる。
――不味い。喰われるかもしれない……。
そう思いながらもおそるおそる頭を上げると、蒼に煌めくなんとも美しい瞳を携えた魔物が、こちらをじっと見据えていた。
現代には生息していない筈の存在『竜種』。
その瞬間、私はその『いないはずのもの』に、不意にも惹かれてしまった。
【EPISODE2
終末の竜「まるで万物の行き先を決めるかのような存在を、メインフレームはずっと秘匿し続けていた」】
時は遡り――
――仮想世界メタヴァース・メインフレーム内にて。
このメタヴァースの管理者のひとりである僕『▆▆▆▆』は、その仕様書を見た時にドン引きしてしまった。世界の終末を止める為の道具を作るだなんて、到底たどり着けない領域にも程があるってもんでしょ。……まぁあの、開発を担当するのは僕じゃなくて別の仲間の方なんだけれども。
「はぁ〜……“あの人”はまぁこう、無茶なことを言い残して去っていく……」
「無茶なんて言わないの。私達世界の管理者でしょう? 押し付けられた分“やるしかない”のよ」
「……とは言ってもさぁ……」
なんやかんやあって結局僕も手伝うことになって、仲間であるシエルは趣旨を納得してもらおうと必死に説得を続けていた。
「こんなの一体誰が考えたの? どう考えても君達じゃないよね、ワイズマン、シエル……」
「私達が起動する以前の……『彼』の世代のプログラム達だろう。間違いない」
「あれやれこれやれって、ティフォンがうるさいのよ」
「またあの人か……」
僕が担う役割とは正反対の、兵器を鋳造する世界。
むしろ僕自身は土地を創造したり開拓したりする方が得意なのに、“こんなとこ”に呼び出されて“こんなもの”を見せられて……そりゃ混乱するに決まっているじゃないか。
「空想上の生物の紛い物を製造するとか頭イカれてると思うよ。君もそう思うでしょ? ブルー」
「おや、そうかい? 私は別にいいと思うのだけれどね」
「なんでさ」
「……▆▆▆▆、私はそういう君自身の口から“そのような言葉”が出てくるのが心外だがね」
隣にいた長身の青い野郎は「形に執着しても意味を成さない。それが私の返答だよ」と言って、その場をそそくさと去っていった。
まぁ彼の言う通りなのだろう。兵器は与えられた役割を果たすために在るものだ。どんな形であろうとも構わない。それが世の常だ。
「……はぁ。僕が形にいちいち拘っているのは、職業柄なのかな」
そう独りごちながらも、僕は長身野郎の後をついて行った。
*
メインフレームや統一政府が掲げる、『人類の救済』。
その一端である、救済/滅亡装置製造計画。
今までにも、人類を粛清する兵器、世界を創りなおす兵器など、様々なモノが製造されては地上に送られてきた。
その中で、決して誰にも知られず、最期まで起動することのなかった兵器群がある。
『対終末用文明探索機構』――
断絶の破壊神やオメガ・クィントゥスが属する『地上再生機構』とは違い、彼らは何れ来るであろう世界の脅威に備えて開発が計画された、防衛・戦闘・殲滅特化の兵器群である。統一政府の思想に反する悪性腫瘍が出現した時に、それをひとつ残らず排除する――所謂脅威に対するカウンターのような役割を持つ。
そして、人類が大きな過ちを犯した時に世界を全て浄化する力も――。
言わば滅亡装置そのものであり、諸管理者からは、彼らが暴走してしまえば現実世界をも巻き込む大崩壊が発生してしまう危険性があると予め指摘されていた。
その『大崩壊』を恐れていたメインフレームは『世界自身が己の終焉を望む刻』まで、コールドスリープ状態にしてその存在を封印していた。
しかし、統制主ティフォンが台頭し始めた時期。
何かの手違いか、彼らのうち一機が既に目を覚ましてしまっていた。
それが、彼らの中で一番最後に造られた『靖竜』リントヴルムである。
【EPISODE3
死にゆく世界 “『理想』を『現実』から守る――これがぼくの使命なんだ”】
はじまり。
くらやみのなかを、ただ意識だけが漂っている状態。
自分が何者なのかもわからず、ただふよふよと力なく浮いているような、そんな感じだった。
ふと、『目の前』に一寸の光が現れた。
それはどんどんおおきくなっていって、だんだんと自分を飲み込んでいった。
『目を覚ました』のは、広くて明るい、青と白と緑の『世界』。
自分にはなぜかそれが『人間という生き物が生きる世界』だということが認識できた。
最初は、ただ穏やかに『笑い』、『助け合い』、『誰もが手を取り合っていて対等』な世界が映し出されていた。それは自分を晴れやかな気持ちにさせてくれた。
しかしその直後、ビデオテープが早送りされるように、途端に景色は豹変した。
蒼をなくした黄昏の空に、白と黒が真っ赤に燃えるだけの、色のない世界。
ただ『悲しみ』、『激しく争い』、『なにもかもがぐちゃぐちゃになった』世界が映し出されていた。
後に、自分の『視界』に映し出されその映像が『世界』の『理想と現実』だと知った。
この世の森羅万象が争いをやめない限り、理想の世界は形成されない――
自分にはそれが実に不快極まりなく『気持ち悪い』光景だと思った。
こんな世界、一刻も早く『滅ぼしたい』と思った。
その時、自分の視界をまた光が覆った。
次に目を覚ましたのは、またまっくらな場所だった。
それでも、以前とはまた『何か』がちがっていた。
まるで、さっきまでただ傍観していた世界に今度は自分が降り立ったような感覚がした。
そして『“ぼく”は何者なのか』『ここでなにをすべきか』は不思議とわかっていた。
長い漂流から抜け出した影響なのか、少しまどろんでいるけれど、がんばって大きなからだを起こしてみる。
あたりを見渡すとそこやっぱりまっくらで、ただポツンポツンと、周囲に小さな光がほの暗く照らされているだけだった。
そのとなりには、ぼくの『おにいさま』と思しき竜たちが眠っていた。
……そう、ぼくは『竜』。
死にゆく世界に『理想』を贈るための装置。
安らかな世界を贈る装置。
――『靖竜』リントヴルム。
自身の存在意義を、ぼくはようやくここで理解した。
【EPISODE4
救いの鍵 “ぼくだって世界の切り札さ。殲滅以外にも、出来ることはある”】
目を覚ました滅亡装置は、ぼく一体だけだった。
ぼくたちは世界が自滅を望んだ時に呼応するように目を覚ます仕組みを施されているらしい。
何らかのエラーかバグか、もしくは『誰か』がぼくだけを起こしたのか……。
――本当に世界が死にたいと思っているのなら、なんでぼくだけ?
その原因は、未だにわからないままだった。
この世界は本当に今滅ぼすべき/守るべきなのか、そして目を覚ました原因を探るために、ぼくはこっそり外に出てみた。
大きな翼を広げ、『造られた』偽りの空に飛び立つ。
夢で見たものとは何か違う『まがいもの』の空だけど、飛び回る分に越したことはない。
暫く色々な世界を見て回っていると、あの時見たような穏やかな光景が、ぼくの視界にたくさん映し出された。
幸せそうに暮らしている人間達――ぼくにとっての『理想』の世界が、そこには体現されていた。
――この世界、本当に滅ぼす必要があるの?
もう僕の手が届かなくても人間達はここで平和に暮らしていけるんじゃないかな?
そう思っていた矢先だった。
遠くを見てみると、なにか不穏な澱みが世界を侵食しているのがわかった。
臆病だったぼくは驚いて、反射でその世界からすぐに抜け出してしまった。
――
――――
……気がつけば、ずいぶん遠くまで逃げてきた気がする。
またあの頃と変わらない、何もなくて闇だけが広がる場所。
あの澱みは、僕にはちょっと刺激が強すぎた。
超特急の速さで逃げてきたぼくは、少し羽を休めることにした。
地上に降り立ったら、なんだかちょっと眠くなってきた。
いいや、ここならだれにも見つかることはないだろうし、ちょっとだけ――
――
――――
――あぁ、愛しいリントヴルム。かわいいリントヴルム。ひとりぼっちのリントヴルム。かわいそうなリントヴルム。
あなただけ先に、目を覚ましてしまったのですね……。
この世界は如何でしたか。
幸せに満ち溢れていましたか。
それとも、幸せという名の欺瞞に満ち溢れていましたか。
でも、生まれたばかりのあなたには、そんな真偽の区別も出来ないでしょう。
けれど、この時代にあなたが目を覚ましたのも、きっと何か意味があるはず……。
ここよりもっと『相応しい』世界が『外側』には広がっています。
そこで『星』を集めなさい。
『聖なる神器』を探しなさい。
『変革の英雄』を捜しなさい。
そうすればきっと、あなたが『ここ』に生きている理由が、見つかるでしょう。
さあ、もう時間です。……飛びなさい。時空の竜・リントヴルム。
いずれあなたの力が、人類の為になることを、願っています。――
――
――――
目を覚ますと、急にまばゆい光がぼくの目を刺激してきた。
ゆっくりと瞼を開けると、そこにはぼくが今までいた世界とは明らかに違うものが映し出されていた。
あの時見たような蒼穹と、優しく包み込むような暖かな風。そして翆緑の草原が、どこまでも果てしなく続いていた。
――ここってもしかして……。
あの声が言っていた、『外側』の世界?
例の声は、ぼくが目を覚ました理由をここで探しなさいと語りかけてきた。
そして『星』、『聖なる神器』、『変革の英雄』の3つを集めなさいと……。
この3つがどういう意味を持つのかは、ぼくにはまだよくわからない。
でも『もしかしたらそうなのかもしれない』と思うことはある。
滅亡の決戦装置に与えられたもう1つの機能。それは、世界を救う『神器』を鋳造するための聖遺物を集める『集積』――
それが『星』を集めることを意味するのであれば、ぼくは世界の果てまでだって飛んで見せる。
そして漆黒の竜は、果てなく続く蒼穹へと飛び立った。
【EPISODE5
竜と真人「竜と縁を結んだ私は、この子のことをブルータスに紹介した」】
私『クリオ』がこの竜を最初に見つけたのは、とある名もない草原だった。……もう数十年も前の話だ。何処で見つけたのか鮮明な記憶は無い。
昼間の澄み渡った蒼空――日差しが暖かく、風も気持ちいい。穏やかな草原で空を眺めながら、私はこれからの世界について考え事をしていた。その時にふと大きな鳥のようなの影を見つけ、その瞬間から私はあの子を追いかけてみようと思い始めた。
かの竜のためなら、朝も昼も夜も観測を続け、世界中を縦横無尽に駆け回った。そして洞窟調査をしている最中に、私は初めて竜を間近で見た。
その碧眼は美しく、無機物で構成される洗礼されきった機械の身体は、私達とは生まれた所が違うのだということを、直感的に感じさせていた。
それから私は竜に恋をした。竜も私を受け入れ、旅を共にする相棒となった。
竜と過ごす時間はかけがえのないものとなり、心の底から気に入っていた私は、スカンディナヴィアに行って同胞であるブルータスさんについこの子を紹介してしまった。
「ブルータスさん、この子が集めた欠片を使えば、世界救えるかもしれませんよ。如何です?」
「ふむ……?」
彼自身もこの竜については興味津々だったようで、この子のことをじっと見ていた。
まるで何かを品定めするような凝視をはじめてから暫く経ったのち、ブルータスさんは何かに納得したように頷いた。そして、この竜を自身が取り仕切る組織である『テホム』の管理下に置き、それと同時に、竜が集めた欠片を収集して『対終末兵器』を開発する計画を立てた。
後に私は竜の調査と解析を終えたブルータスさんから、この竜の出自に関する話を色々と聞いた。
内部データを解析したところ、あの竜の名前は『リントヴルム』というらしい。最初に見たときからこの世界のモノではないなとは思っていたが、まさかメタヴァースのメインフレームが製造した殲滅装置が正体だとは完全に予想外だった。
しかし、リントヴルムが殲滅装置なのであれば、破壊行為しか行わないように設計されている筈だ。なぜ現実世界に迷い込み、なぜあのように物色していたのか……新たな疑問が次々と浮かぶ。
ブルータスさんにその見解を聞いてみようと、昼食の際に彼を誘い、自分が抱いている疑問について問いかけてみた。
「ああ、ちょうどよかったな。そのことに関して今日話そうと思っていたところなんだ」
リーダー自身もそのつもりだったようだ。安心安心。
彼は昼食中にリントヴルムの更なる詳細について自分なりの見解を語ってくれた。
どうやらこの竜には、対象を殲滅する機能の他、終末から世界を守るための神造兵器を構成するための聖遺物を集める――いわゆる『集積』する機能も持ち合わせているらしい。
つまるところ『世界の脅威に対抗するための兵器』というのが、この竜の正しい在り方なのではないかと、彼は言う。
「あくまで『世界の脅威に対抗するための兵器』だ。確かにあの竜は世界1つ滅ぼせる程の殲滅力を持ち合わせているけれど、彼にそれを振るうような凶暴性は見られなかった。……心優しいのだろうね。俺によくなついてくるし」
「……可愛い奴を拾っちまったもんですなあ」
「この世界にはいないとされていた伝説の代物を捕まえてくるなんて、俺たちはラッキーだったのかもしれないな」
「はは……そうですね。でも、捕まえたというのは少し違いますよ? 自分から勝手に私についてきたんですからね!?」
「そういえばよく懐かれる体質だもんなお前は! あっはは!」
「馬鹿にしないでください! 全く――」
――でもまぁ、あの子のこと、少しくらいは信頼しても良いのかもしれない。
繁栄したヌールランコロニーの市街を窓越しに、私たちはあの子に対して、様々な思いを馳せていた。
【EPISODE6
大誤算「馬鹿野郎。大馬鹿野郎だよ。君たちは」】
それ以来、ブルータス達はいずれ来るであろう世界の終末戦争に備えて神造兵器の鋳造に着手していた。リントヴルムには常時野外で活動させて引き続き聖遺物の回収を任せていた。古代遺跡等の発掘調査などにも彼を同行させ、周囲の探索を進めさせていた。
そうして、対終末用の神造兵器はここに完成した。リントヴルムが大きな功績を残してくれたことにより、約1年半という予想よりも短い期間でほぼ完璧な状態にまで持ち越せたのだ。
これまで様々な苦難に見舞われ、何度造ることを諦めようとも、ここまで持ってこれたのは最後まで信頼し寄り添ってくれたテホムの団員や幹部たちの働きのおかげだった。
しかし、ここで新たな問題が発生した。
――ある日。
所属不明の謎の旅団から、謎の機械竜を洞窟内で発見したという情報がばら撒かれた。
その竜とは、紛れもなくリントヴルムのことを指していた。
リントヴルムは外に出るときには基本的に透明化している為姿を認識することは出来ないが、人の気配がしない場所では基本的に透明化を切らしている。それが原因で、今回の事態を引き起こしてしまったのだろう。
こうしてリントヴルムの存在は全コロニーを騒がせることとなり、それはやがてペルセスコロニーの目にも留まった。
ペルセスコロニーは真人、帰還種、そして機械種にとって最大規模のコロニーであり、主要中枢都市としての役割を担っている――まさに聖地といっても過言ではないような場所だった。
ペルセスはかつてメタヴァースのメインフレームと深い繋がりを持っていたゆえ竜の存在も認知しており、その最終番が地上を飛び回っているという話を目の当たりにしたときにはコロニーの管理者達は大騒ぎし、混乱状態になったという。
リントヴルムが終末兵器であり、その危険性を知っていたペルセスコロニーは、衛士達に竜を捕縛して仮想世界に帰すように命じた。
衛士達は竜がコロニー上空を通過しようとしていたころに対空攻撃を仕掛け、そのうちの一撃が翼に命中。
「――――――!!」
驚いた竜はすぐさま撤退し、テホムの本部があるヌールランコロニーのもとに帰っていった。
――
――――
夕日を背に帰ってきた竜を、私は迎えに行った。
「おかえり。今日はなんだか早いじゃないか。どうかしたのかい?」
いつもは夜の19時くらいに帰ってくるはずのリントヴルムなのだが、今日は夕方という早めの時間帯に帰ってきていた。時間はきちんと守る子だから、なんだか珍しく感じた。
おまけに元気も無さそうだった。きっと何か変な目に遭遇してしまったのだろうと思っていたのだが……後にそれがとんでもないことに繋がっていただなんて、この頃の私は思ってもいなかった。
お疲れ様……よしよし。と頭を撫でながら、機体に損傷や傷がないかチェックしていると、翼にヒビが入っているのが目に留まった。
このままだと任務に支障をきたしてしまう。そして何よりリントヴルム本人が一番可哀想なので、私は早急にメンテナンスへと運んだ。仮想世界で造られた機竜といえど、神造兵器の鋳造で余った部品を使えば修理はできるらしい。この子は私たちにとって大切な家族だ。修理以外に選択肢なんてなかった。
ガラス越しにあの子の様子を見ていると、隣にはいつの間にかブルータスさんが立っていた。
「やあ、珍しいじゃないか。彼をメンテルームに運ぶなんて」
「あ、ブルータスさん。こんばんはです。……そちらも、あの子の様子を?」
「ああ……ちょっとね。同僚のオットカールからそれについて話を聞いて、どうしても心配で見にきたんだ。でも見たところ、大した被害はなさそうだね」
「安心しましたよ。まあ、誰からこんなことされたのかはわかりませんけど――」
「ボス、お客様です」
「……え? こんな時間に? いったい誰が……」
リントヴルムが修理されていく様子を見ながら話をしていると、突然彼の部下がやってきた。どうやらテホムにお客様が来たらしい。見たところアポなし突撃っぽいし、今日はなんだか予想外のことばかりだ。
部下から連絡を受けたブルータスさんはその『お客様』を出迎える為にそそくさとその場を後にするかと思いきや、彼は「君もついてきなさい」と私も同行するように言ってきた。
渋々ついて行った先には、引き締まった態度で眼鏡をいじっている男の人が、傲岸不遜な顔で私たちを出迎えてきた。
「私の名前はアリキーノ。テホムさん、躾のなっていないあなた達にほんの少し忠告をばと仰せ仕り、参りました」
【EPISODE7
対立「この竜が危険だって? そんなのわかってる。でも手放すわけにはいかないんだよ!」】
「……何用かな?」
「先程申し上げましたよね? 躾をしに来たと」
ブルータスさんについて行った先には、ペルセスコロニーから派遣された客人と思われるなんだか偉そうな男性『アリキーノ』が立っていた。
そして、ブルータスさんと彼との間に、バチバチと火花が散るような重苦しい空気が漂う。
それもそのはず、元々テホムとペルセスコロニーは、すごく仲が悪い。
だからこうなるのもいつものことだ。
「そうですね……彼をこちらに返していただきたく」
「ハハッ……何の真似だい?」
「あの竜のことですよ。もしかしたら、あなた方が飼い慣らしているものなのかと思いましてねぇ。少し様子を……」
……え? あの子を返せ? 危険だから? 終末兵器だから?
確かにあの子はメタヴァースから来た存在だ。それは無視できない事実である。
それでも、僕たちにとってあの子は大切に守らなければいけない存在だ。手放すわけにはいかない。
「何をする気だい? あの子に変なことするようなら、こっちが許さない」
「アッッハハハハハ!! それで仲良しこよしと自分たちの所有物にしてるつもりですか!」
「……チッ、テメェこの野郎……!」
ブルータスさんの抵抗に対し、アリキーノは上から目線で煽っていく。正直私もムカつくので言い返してやりたいくらいなのだが……。
火花がさらに勢いを増していく中、私は息をのみながら、二人の確執を見守ることしかできなかった。
何か……自分も何か言い返さないと……。
ここにいる以上、自分も何か言わないと……。
そんなことで焦っていると、ブルータスさんが(クリオ、お前からも何か言ってやれ)といった感じにチラチラと自分に視線を注いできた。
……ハハッ、ボスにそんなに見られてたら、もう自分もやるしかないじゃないですか――
「そのうるさい口を塞げ!!」
私は勇気を振り絞って心の内に溜まった鬱憤を一気に吐き出すような怒声を浴びせた。アリキーノは(コイツいきなり何言ってんだ)といった感じにドン引きしている。しかしすぐに眼鏡を弄り直し、あの上から目線の抑揚がついた喋り方で言葉を返してきた。
「……うるさいのはお互い様では? あなたも、あのイレギュラーも……揃いに揃って喧しい連中ばかりですねぇここは。あの竜を勝手に捕まえて道具にするのも、大方想像がつきますよ――」
「あの子は道具じゃない。私達人類守護機構『テホム』の、大切な一員……いや、家族です」
……そう、家族。
私達には世界を護り、平和な世の中を実現するという使命がある。
だから、どんな万物もみんな私達の『家族』なんだ。自分の私情の為に、理不尽に扱ったりはしない。
リントヴルム自身も、私達を信頼してくれている。あんなに可愛らしい子を使い捨てになんて絶対に絶対にしない。するもんか。
それなのに、アイツは、アリキーノは、あの子を『道具』と言った。
いくらメインフレームと繋がっているからといって、そんな腑抜けたことを言うのは言語同断だ。
「あの子は、私達を信頼しています。周辺地域には被害も無ければ焼け跡もありません。あの子はあなた達が思っているよりよっぽど立派で良い子なんです」
「ほう、なんと……」
アリキーノは余程おかしかったのだろうか。こみ上がってくる笑いを隠しきれていない。
「アッハハハハ!! あの破滅することしか能がない装置を『家族』!? いや~~傑作ですねぇ。その竜が持つ殲滅力も知らない癖に、絆だ家族だ友達だなんだと語る義務はありませんよ」
すると彼はタブレット端末を操作し、中空にホログラムのモニターを投影する。彼が見せたのは、メインフレームから取り寄せてきたと思しき、あの子の兄弟機の殲滅力テストの実験映像だった。
「ご覧下さい。これはあなた方が『家族』だなんだと謳っている竜の殲滅力ですよ」
瞬間、映像に映った竜は大きく口を開け、そこから大質量の光線が発射された。
衝撃が凄まじかったのだろう、砂嵐が5秒間画面を覆いつくしていた。そしてその砂嵐が止み、煙幕が晴れた後、竜の目の前に映し出されていた光景の有様を見て、私は絶句した。
「如何です? もっとも、これは初番機体のものですがね」
開いた口が塞がらなかった。
だって、竜の目前にある市街地全体が、天高く炎を上げて燃え上がっているのだ。
「ああ、街の方はご心配なく。これはあくまでシミュレーターでの出来事ですので」
私達を励まそうとにこやかに言っているが、これがそんなに"どうでもいい"ことなのだろうか。まったく嫌気がさす。
「これがあの竜の正体である『対終末用文明探索機構』の力です。そして我々の目的は、地上に被害が及ぶ前にあなた方からあの竜を奪い返し、電子の楽園へと帰すこと。本来ならばもっと素晴らしい力をお持ちでいらっしゃいますが、もしよろしければ――」
「もういい」
「はい? 今なんて――あ?」
瞬間、近くで銃声音が響く。
そして放たれた銃弾は、タブレット端末に命中した。
【EPISODE8
訣別の弾丸「リントヴルムは優しい子だ……それなのに、それでも尚、お前達はまだあの子をタダの殲滅装置だと言い張るのか?」】
撃ったのはブルータスさんだった。本来場内で発砲することは原則禁止されているが、目の前で見せられたモノに余程腹を立てたのだろう。彼の目は憤っている。
「あの――」
「大丈夫だ。1回くらいはいいだろ。俺リーダーなんだし」
口では平常心を保っているように思えるが、実際、彼は“マジ”の表情で視線の先に卑怯者を睨んでいる。対するアリキーノも、壊された端末をゆっくりと拾って回収し、不気味な笑いを浮かべた。自分の所有物を壊されたのだから、相手も相当怒っているのだろう。
「おやおや、私の特注品たる仕事道具を射抜かれてしまっては、元も子もない……」
「もういい。あの子が持つ力のことはよくわかった。だがよ――」
スチャッと銃を持ち直す。そして――
「それでもあの子は破壊するだけの道具じゃない! 破滅させるだけの存在じゃない!!」
テホムの責任者たる彼は、怒りの言葉をぶつけて叱りつけた。
「俺達を護るために、そして世界を護るために、必死になって小さな『星』を集めていたんだ……それなのに、お前達は優しいあの子を、そんな目でしか見られないのか……? 自分の知識だけで自慢げに語るんじゃねぇ!」
確かにあの子は滅亡装置だ。でも、滅ぼすことだけがあの子の取り柄ではない。
あの子には人類を愛する神聖な心がある。
滅亡を生む存在は皆自らに破滅願望を抱えているが、あの子はそれでも自分達に心を許し、穏やかに接してくれた。
それなのに、メインフレームと連携しているはずのお前達は、上辺の情報だけで判断して、「あの竜は危険だ」と大声で喧伝している。
あの子の本当の心を知りもしない癖に、よくも呑気に「手放せ」とか言えるんだな――
ブルータスさんが投げかけた言葉の中には、そんな思いが込められているような熱い気持ちを感じさせられた。
しかし卑怯者であるアリキーノはそんな言葉を他所に、ひとり不気味に笑う。
すると――
「――ああ、そうですか」
途端に興味をなくしたような言いぐさで嘲った。
「あなた方の考えは理解できました。これ以上何を言っても無駄なようですね」
その言葉に、さっきまでの威勢はない。まるですべてを諦めたように。
彼がくるりと後ろを向く。恐らく一旦退散するつもりなのだろうが、突然の退却に困惑した部下が彼に問いかける。
「あ、あの、アリキーノ様……もう終わりですか?」
「ええ、帰りますよ。帰るんです。もうこの人たちは“駄目”ですから」
「は、はあ……」
卑怯者はそうやって部下に指示を出し、この場から立ち去っていく。
そして、このまま去っていくのかと思いきや……ふと何かを思い出したのか、一度足を止めて私達の方に振り向いた。
「ああ、そうでした。もう完全に染まりきってしまったあなた達に、最後に1つだけ言っておきたいことがございまして」
「……なんだ?」
半信半疑で警戒しながらも、ブルータスさんは相手の言葉に耳を傾けようとする。
「あなたが言うように、あの竜はあなた方を“同胞”として見ているのでしょう。噂によれば、あの『星』とやらを集めて、何か施策していたとか……」
――コイツ……私達がやっていたことを知っていたのか?
確かに本部の海岸側には神造兵器の武装が随所に施されているけれど……。
「フフッ、あの存在はやはり可能性に満ちている……しかし、この世界に存在していること自体が危険であるというのは変わりません。いずれにせよ、地上の空を飛んでいるうちは、あなた方の間近であの竜の殲滅力が振るわれる日が、いつか必ず来ることでしょう……」
「……そんな覚悟、とっくに決めてあるさ」
なんだそんなことかと、テホムの責任者である彼は、鼻で笑って答えを返した。
「我々はそれまでに、何としても奴を帰さなければいけないのです……あなた方が腹を括っているとはいえ、後悔しても知りませんからね?」
卑怯者はそう言い残して、ペルセスコロニーへと帰っていった。
【EPISODE9
黒き機竜、墜ちる「これでお別れだなんて……まだ何も言ってないじゃないか……」】
あれからも緊張状態はまだ続いていた。
ペルセスの連中はしつこくネチネチとクレーマーの如く高頻度で訪ねてくるし、ブルータスさんやその配下である私達幹部もうんざりする程だった。
あの時。
例の眼鏡野郎は話を聞いて納得した様子で帰っていったが、我々の方針に納得したわけではなかった。
まぁ最初の頃よりかは大きな動きは見せていないにしても、本部の内部調査や幹部ひとりひとりに尋問を行わせるよう持ち掛けてきたのは、どうにもいただけなかった。
ブルータスさんは『これは我々に対する挑発行為だ』と認識し、幹部の一人からは『ペルセス側は密かに我々との戦争を誘発しているのではないか』という憶測がたっていた。
だからといって、戦争を起こすわけにはいかなかった。
私達人類守護機構『テホム』は世界全体の行く末を護る組織である。戦争は愚か、問題を力で解決することは、私達の企業理念に“原則”違反することであった。
それしか道が見いだせないのであれば仕方なく鞘から剣を抜き直ぐ様制圧に掛かるが、我々はあくまで極秘裏で計画を進める組織だ。表立って行動するというのは、容易いことではない。
あまつさえ、ペルセスコロニーと戦争を起こすということは、世界を巻き込む大戦争を再び起こすということ。世界を巻き込むということは、世界を滅ぼすことだ。
もう一度あの悲劇の幕を開くわけにはいかなかった我々は、沈黙を保つ他なかった。
その間にも、相手側の動きはどんどんエスカレートしていく。
ペルセス側はリントヴルムに関して恐怖を煽るような情報を拡散し、我々に対してもペルセスの信者からありもしない変な陰謀論のレッテルが貼られる等の散々な目に遭い、易々と外に顔を出せるようなような状況ではなくなっていった。
――
――――
夜。
心配だった私は今日は自室に戻らず、リントヴルムのハンガードックに行ってその様子を見に来ていた。
リントヴルムの側に寄り添い、その身体を撫でながら顔色を伺う。どうやら彼も自分がどうなってしまうのか怖くなっているようで、少しシュンとしている様子だった。
「ペルセスコロニーの連中が嫌なのかい? 大丈夫さ。私達が必ず君を守るから」
そう言って彼に優しく寄りかかって気を慰めた。少し落ち着いたのか、眠くなってきたみたいで気がついたら寝息を立てて寝てしまっていた。
「全く……可愛い奴だよ。本当に……」
そしたら自分も疲れがたまっていたのか、つられるように微睡み、そのまま力無く倒れ伏した。
――
――――
瞼の裏に光を感じ、ゆっくりと目を開ける。
気がついたら朝日の光が窓から差し込んでいる。きっとそのまま眠ってしまったのだろう。
しかし自分が目を覚ましたのは明らかに冷たい床の上だった。周囲を見てみると、寄りかかっていたリントヴルムの姿がいなくなっていることに気がついた。
(リントヴルム……? 一体何処に――)
すると、すぐそばにキラリと光るものが落ちているのが見えた。
それは、私があの子と初めて出会った時に、あの子の首に掛けた、サファイアの宝石だった。
(まさか――)
それを見た瞬間、私は察してしまった。
そして衝動に駆られるように、急いで身支度を整えて外に出た。
本部のゲートを出た先。
東の方角の空に、発煙の跡が残されているのが視認できた。恐らくペルセスコロニーの対空射撃のものだと思われる。
そしてそれは西へ向かって、2発、3発と発射されている。
その跡を辿って南西側を見ると…………灰色の煙が澄んだ蒼穹に昇っているのが見えた。
鼓動が早くなり、呼吸も荒くなっていく。
私は急いでブルータスさんのところへ報告しに行き、航空艇を出してもらうように部下に要請した。
【EPISODE10
またいつか “ありがとうお兄さん達。でもぼくはぼくだから、こうなるのもわかっていたんだ”】
人間達の世界で何が起きているのか、だいたいわかっていた。
きっとメインフレームの人たちがぼくのことを探しているんだ。そして仮想世界の中に帰らせて、もう一度眠らせようとしているんだろう。
ぼく自身、そんなものは願い下げだった。
右も左もわからないぼくに優しくしてくれた、お兄さんたちが好きだったから。
何なら持っている力であの人たちを追い出すことも可能だし、本来ならそうしたかった。
でも、お兄さん達はそれを止めた。
絶対ダメだって、ぼくが出ないようにしていた。
あばれることがないように。
傷つくことがないように。
そんなものは、無意味なのに。
だってぼくはイレギュラーなんだ。この世界にいてはいけない存在なんだ。
だからこうなるってわかってた。こうなる運命だった。最悪なことが起こってしまった。
でも大丈夫。それはお兄さんたちのせいじゃないよ。ぼくのせいなんだ。何も知らずに東の地に飛んで行ってしまった、ぼくのせいなんだ。
だから、行かなきゃ。
最果ての西の島には、聖なる剣が隠されている湖があるらしいね。
戦争をとめる、かみさまの剣。
ぼくはそれを取りにいかないと。
そうしたら、お兄さんたちはきっとよろこぶよね。
でもやっぱり、ぼくはもうだめみたい。
メインフレームの人たちは怒って、ぼくという存在そのものを力づくで捕まえようとしたみたい。
翼もなんだか重いし、首も心臓も熱い。
いたいよくるしいよつらいよ。
――あれ、ここどこだっけ。
ああ、間に合ったんだね。
ここが最果ての島の湖……。
きらきらしてて、きれいだなぁ――
――
――――
リントヴルムは西端の島にある『湖』付近に墜落した。
竜への攻撃を指示したのはアリキーノ――ではなく、なんと、彼と同じくペルセスコロニーに所属する別の幹部の青年だった。
青年はアリキーノの説得を押し退けて興奮気味に奇襲攻撃を指示し、竜を倒してしまった。
青年は遂に害虫を撃滅したと歓喜したが、アリキーノは青年を殴り、部下に指示を出して即刻牢屋に入れた。
自分の不本意ではあるが、竜の動きを封じたことは事実だ。
墜落を確認したアリキーノは部下達を引き連れて急いで航空艇を出し、西の島に出向いた。残骸を回収する為だ。
しかし、現地には先客がいた。
視線の先は濃い霧に覆われていてよく見えない。ただ、その間からは竜の亡骸を見て嘆き悲しむ金髪の青年と、目の前に映る残酷な現実にただただ呆然としている青い髪の青年の存在を、ちらちらとだが確認できた。
あの時張り合った、テホムの幹部達だ。
「ちっ……彼奴らですか。先客の立場を奪われましたね」
「どうなされますか?」
「この際、いっそ捕まえちゃった方がいいんじゃないすか?」
部下たちは宿敵だから、妨害者だからと彼らに手を出そうと提案してきたが、アリキーノはそんな彼らを無言で窘めた。
「……何ですか? あなた達もあの人と一緒の牢屋に入りたいと?」
「あ、いや、それは……」
この際、空気を読まずに卑怯な手を使うのはご法度である。
先程のような、本能で動く無能には決してなりたくない。
上司の心情を察した部下たちは大人しく口を噤んだ。
――メインフレームが所有していた兵器。
本来ならば、自分が回収して持ち帰る筈だった。
だというのに、先客が来てしまった。しかも、よりにもよって、一番厄介視していた相手に独占されてしまった。
「全く……私の負けです。そんなに大事なら、今回はお譲り致しましょう。私には別の仕事がございますので、そちらを優先させて頂きますね」
ここで邪魔に入ったとしても怒りで殺されるだけだろう。ああ、怖い怖い。
そう思ったアリキーノは、この場に着いて早々退散することを決断した。
再度艇を動かすと、インテークの強い風が濃い霧を払い、覆い隠されていた光景が徐々に露わになっていく。
靄がかかっていた場所には、灰色の煙を上げて横たわっている壊れた機竜。その背後には、きらきらと青に輝く大きな湖。正義を胸に戦った真人達が護り抜いてきた、周辺の美しい景色が露わになる。
それを窓越しに見ていたアリキーノであったが、竜の方をよく見ると、テホムの調査員らしき者達が残骸の腹部に群がっているのが確認できた。
(うむ……? 何でしょう、あれは……)
アリキーノは眼鏡を掛け直し、部下から手渡された双眼鏡を構えてよーく目を凝らす。
すると、その先には……ありえない――いや、ありえなさすぎる光景が映っていた。
(――ひぃ!?)
“見てしまった”彼は咄嗟に目を背ける。
その衝撃的な現象は、器の小さい卑怯者の背筋を凍らせるには十分なものだった。
「アリキーノ様、どうなされましたか?」
彼を心配した部下が声を掛ける。
しかし、アリキーノは恐怖で手が震えており、前すらまともに向けないほど怯えているような格好をしていた。
「はっはは……まさか……ね」
――――まさか、あの竜の中に……
人が、いたなんて――――
【EPISODE11
はじまり「はじまりはおわりを生み、おわりははじまりを生む」】
リントヴルムの墜落を確認したテホムの会員達は、急いで西の方角にあるブリテン島の湖の方に航空艇を回した。
到着した頃にはリントヴルムはもう息絶えており、同行していたクリオは泣き崩れ、ブルータスは言葉を無くしていた。
テホムらは竜の残骸を回収する為に身体を解体することを決断し、その作業は着々と進められていく。
その最中の出来事だった。
居合わせていた幹部の部下らが竜の腹部を回収しようとしたとき、その内部が発光し、胎動の如く脈打っているのが確認された。
この報告を受け取ったクリオは半信半疑ながらも、その腹部を解体して中身を確認するように命じた。
指示通り、帝王切開のように腹部を切り裂く。
その中に入っていたのは聖遺物――――ではなく、細身の子供だった。
年齢は精々14歳くらいだろうか。透き通った雪のような白い肌に銀色の髪を輝かせ、この世に存在しているとは思えないような、さながら妖精のように端正な外見を携えた少年が、そこには眠っていたのだ。
元来、リントヴルムの腹部は聖遺物を集積する為の部位である。
そのなかに人の形をした存在が眠っていたなんてありえないことだった。ましてや、リントヴルムが墜落する前日の夜にもこのようのものが存在しているという兆候は確認出来なかった。
「……私の願望でしかない“もしも”の話だけど、この子がリントヴルムの魂の容れ物なのだとしたら、もしかしたら――」
「ははっ、俺たちのこと本当に気に入っていたみたいだな。あの子」
つまり、これは『彼自身が発生させたもの』であり、そしてきっと『彼自身の願い』でもある。そうに違いない。それ以外ない。
リントヴルムに特に愛情を注いでいた2人の幹部は、そう考えた。
この少年を保護するべく、残骸の回収作業は急ピッチで進められた。
その後は本部の治療室に預けられ、しばらく様子見という判断が成された。
――
――――
竜が墜落してしばらく経過したある日。
集中治療室で眠っていた少年が目を覚ました。
クリオとブルータスは急いで少年の元を訪ねたが、彼は2人を見ても何の反応も示さなかった。
目を覚ました少年は、自分が何者なのかわからない状態だった。
テホムにいたという記憶も無く、自分の本当の名前も記憶から抜け落ちていた。
しかし、自分が普通の存在ではないということだけはわかっていた。
本来ならばここで“話”をすることも出来たのだが、クリオとブルータスは敢えて口を噤んだ。
それは、折角人間の身に生まれ変わったのだから、彼にはいろんな世界を見て、人間らしい生活をしてほしいという、二人からの『願い』のお返しだった。
少年から身体に異常は無いか一通り聞いたブルータスらは、とある一人の幹部に身元を預けることを決めた。
それは、遥か昔から血統を繋げてきたアン=ブラム家の人間だった。
今を生きる真人の中でも地位が高く、偉大な存在として自ら信頼を寄せていたブルータスは、幹部として身を置いているアン=ブラム家の人間に、少年の面倒をしばらく見てもらえないかと説得した。リーダーの望みを彼は快諾し、少年を引き取った。
それから150年の歳月が流れ――
少年は今も尚この世に生き、オーデンコロニーにて最強の戦士として名を馳せていた。
美しい容姿と風のように洗礼された剣舞は人々を魅了し、その存在は都市の壁を超えて密かに話題となっていた。
しかし“英雄”が誕生した今、その力がもう一度目を覚ます時は刻々と迫ってきている。
それは即ち、彼がもうじき全てを思い出す日が近いということを暗示するものだった。
――テホム本部の執務室。
青い髪を靡かせるひとりの若い青年が、夜空を眺めている。
その片手には、日に焼けて黄ばんだと思われる古い手記が握られていた。
(クリオ……アイツが何時ぞやに言い残していったこと、本当になっちまいそうで心配だよ)
かつての仲間たちがいなくなった後のテホムで一人生き残った青年は、窓越しに思いを馳せていた。
竜の魂を宿す少年『イオ・アン=ブラム』――
彼の行く末は、まだ誰も知る由もない。
――
――――
之より始まるは、世界の未来を賭けた、300年に一度の終末と継承の物語。
英雄の導きに呼応するように、十の星は穹に瞬く。
チュウニズム公式サイト→ https://chunithm.sega.jp/
チュウニズム非公式wiki→ https://wikiwiki.jp/chunithmwiki/
次回更新→わからん。時間ない。少なくとも来月は本家の更新の恐れがあるので無しです。
*
1月以内に更新できました。よかった(よかったのか???)
言うて地獄編の後半に差し掛かる次回の話も時間見つけられなくて全く進んでいないので、ここでいい一区切りになるのではないでしょうか。という言い訳……。
楽園異聞録は生きているうちに絶対に完結させる気だけはあるので、なんとか継続していく所存です。
てかこれ完結させたらとっとと二次オリ界隈からは撤収するまで考えています。嗜んでる人も少ないし、そろそろ大人にならないとあかんと思ったので……。
まあそう公言しても足を洗いきれないかもしれませんが(^^;)
一次創作で書きたいものもあるので、そっちのほうもその気になったら進めたいな。なんて考えてます。同人誌も作りたいネ……。
それでは、いつになるかわからないけどまた次回お会いしましょう。ばいばい