夜、魔王城に二人の人間と三人の魔族が集められた。
「…えー。言われるがままに来たのはいいんだが…、これは?」
勇者の視線の先には姉妹であろう二人の魔族と、ベッドの上でパジャマ姿で爆睡する聖女がいる。
「私がばれたので、これを機に大きく動こうと思う」
「いやでも、リュアにはなにも言ってないんだけど…。しかも覚えているだろ?こいつ、普通に魔族殺せるぞ」
「ひっ!」
小さい方の魔族が軽く飛び跳ねる。
「その時は私か勇者が止めればいいだろう。というか、枕元に立って結構強引に連れてきたのに起きていないのはなんなんだ?」
「いや、学園結構きついから。この前なんて100対1させられたんだぜ…?ふへ、ふへへへへへ」
「え」
なぜか顔を真っ青にする小さい方の魔族。
「そ、そうか…。しかし、それは勇者だからだろう?安心するといい。メルよ」
そんなやり取りに、勇者は首を傾げている。聖女は寝ている。
「…勇者よ。食事はとったか?」
「ん、ああ。つっても四時間前くらいだけどな」
「そうか。ではそこの奴が起きるまでなにかつまむとしよう。そうだな…。少し待っていてくれ」
「いや、ちょっ」
魔王が立ち上がり、部屋を出ていく。
部屋には、勇者と聖女と魔王の側近1と2が取り残された。爆睡聖女はともかく、勇者も魔族姉妹も警戒をしないわけにはいかず、かといって協力するということだけはわかっているので黙るのも気まずいと言うことで、勇者が会話の口火を切った。
「俺は勇者。勇者ライガだ。よろしく」
しばしの沈黙の後、大きい方の魔族が立ち上がる。
「私はリースと申します。魔王様の側近をやらせて頂いているものです。…メル」
「ひゃいっ!え、えっと、リースの妹のメルと申しますす!よろしくおにゃがいします!」
「お、おう。別にとったりくったりしないから力抜け?な?」
「ひゃいっ!」
自己紹介が終わり、部屋が沈黙で包まれるも、魔王が帰ってくる様子はない。沈黙に耐え兼ねて、今度はメルが話しはじめる。
「え、えっと。勇者様は学園に行かれておられるのですよね。学園について教えてください!」
「お、おう。あー魔族側にあるかは知らないけど、簡単に言うと兵士育成施設だよ。戦争で、魔族に勝つためにいろいろな事を教えられるんだ。もし似たようなのがあるなら、人類に勝つためとかになるんだろうな」
「た、たいへんですか…?」
「そりゃ大変だけど…というかそんな事聞い「いぎゃあああああああああああああ」リュア!?」
メルと話していると、突如寝ていたリュアが絶叫をあげた。目をかっぴらいたかと思えば、すぐに倒れるようにベッドに戻り、苦しそうな顔をして唸っている。その横にはリースが立っていて、右手から紫色の光を出し、リュアの頭に当てている。
「何をしている!」
少し色が暗い聖剣を構えて、リュアとリースの間に勇者が割り込む。勇者が放出した殺意にメルは怯え、リースは涼しい顔で受け流し、口を開いた。
「別になにもしていませんよ。ただただ悪夢を見せただけです。こうすれば起きるでしょう」
「もっとあっただろう!揺さぶって起こすとか!というか、せめて俺には言え!」
リースと勇者の視線がぶつかり、いつちぎれてもおかしくない緊張の糸が張り詰める。そんな中、呑気な声が部屋に響く。
「ん~?らいがぁ?おはよ~おやすみぃ~zzz」
「「寝るな!」」
「うぇっ」
突然の大声に涙目になるメル。
「同じ事を言うな!そもそもお前は魔王の側近だろ!独断で動いてんじゃねえ!」
「勇者が仲間の管理をしっかりとしていないのが悪いのでしょう?というか、なんですぐに起こさないのですか?わざわざ魔王様に気を遣わせて。ふざけているのですか?」
ぎゃいぎゃいと言い合いをする魔王の側近と勇者二人。
「済まない。時間は少しかかってしまったが、これならメルも食べられるだろう」
選びに選び抜いたお菓子を持って戻ってきた魔王。
リースと勇者を止め、メルをお菓子でなだめ、起きたら起きたで騒ぎ暴れるリュアを椅子に拘束した時には全員が疲れきっていた。