≪魔王視点≫
「これは…」
積み上げられた書類の一つが目に止まった。
内容は戦場にどの部隊を送るかという物であり、本来なら特別気にするような事ではない。しかし、それは違った。私は、それを覚えていた。
簡潔に言うと、この戦場では両部隊が壊滅した。初めは、かなり魔族側が押していたのだが、学園の生徒が参戦すると一気に押し返され、最後には魔族側の自爆魔法によって、全員死んだ。
生き残った魔族からの報告では、やけに強い学園の生徒と思われる人物が一人いたらしくその人物に殆どがやられたようだ。後からしてみれば、ここでその化け物と言えるような生徒を倒せたのはよかった。しかし、こちらも手痛い痛手を負ったのだ。
「どうするか…」
放っておけば、その人物はどこまでの戦力となるのか分からない。おそらく、これ以上ないくらいの不安要素となるはずだ。しかし、ここで犠牲が出ると分かっているのに軍を出すというのも気が引ける。
「…よし。リース。少しいいか?」
≪勇者視点≫
実戦は、学園の生徒が戦争に駆り出される事を言う。目的は戦場に慣れるというものだが、兵士の一人として扱われるので普通に死ぬ。それに、経験が足りないまま戦場に放り込まれるので他の兵士より死にやすい。一応、これをくぐり抜けた生徒は確かに強くなる。実力が大幅アップ!と、なるわけではないが判断やメンタルと言った様々な分野で成長が見られるのだ。とはいえ、死にたい人なんてこの学園にはいないので、最も嫌われている制度だ。
それが、二刀流のクラスに回って来たのである。
「本当にすまないが、いますぐ用意をしてくれ。明日の早朝出発だ。逃げようとしているものもいるかもしれないが、もう無理だ。どこにいても発見され、転移でここに集合させられる。だから、諦めて遺書とか諸々の準備をするように」
そんな、絶望的な事を教師は伝えると、教室を出て行った。
それを確認すると、ニアとレイトがこちらへとよって来た。
「大変な事に、なった」
「そうだね。これは、気合いを入れていかないとね」
「おう。じゃあ俺はちょっと準備してくるわ」
そう言って二人から離れ、部屋に戻り考えた。
「魔族を、殺すのか…」
参加は絶対であり、俺は勇者として、人類の希望として、活躍をしないといけない。でもそれは、友好への道を遠ざけてしまうのではないだろうか。
そして、今回の実戦で分かっていることが一つある。
何もしなければ、おそらくレイトは死ぬ。
初めからおかしいとは思っていたのだ。なぜ、俺よりも剣の使い方が上手いレイトを俺が知らなかったのか。こんなにも強いのなら知らないわけが無いはず。それはなぜか。簡単だ。俺が戦場に出る頃には、こいつはとっくに死んでいたのだ。
確か、この時期の学園にそんな話があった気がする。英雄が、魔族の将軍の一人を倒したとかなんとか。それが、レイトなのだろう。
多分、俺がやれば、レイトが死なない未来へと導ける。それは、本当に正しいのだろうか?
「…よし」
二本の聖剣を腰に下げて、俺は立ち上がった。