二本の聖剣を淀みなく走らせる。
時間差で飛んで来た球も、同時に迫って来ていた球も、すべてが消失した。
「これが…勇者…」
魔族も、人類も、圧倒的な力を目の当たりにして、戦闘中という事すら忘れてしまっていた。ただただ、次元の違う戦いを眺めていることしかできなかった。
ありえない速度で交わされる魔法と剣の押収。気づいたときには、周囲を囲っていた炎は消え去り、誰もいない土地は跡形もない程に荒らされてしまっていた。
そんな中、突如として謎の男が止まった。数え切れないほどの魔法を撃つのをやめ、勇者を静かに見つめている。
「なんだ?」
勇者は、その様子に不信感を抱き、立ち止まって聖剣を構え直し、警戒する。すると、男は手を上に向けた。
「【炎魔法 ファイヤーボム】」
空が、爆発する。誰もが言葉を失うほどの威力で、太陽が落ちて来たかのようだ。そうして、そんな魔法を使った男は、消えた。
「ここは任せたぞ!」
勇者は即座に転移魔法だと判断し、追いかけるように転移する。勇者だけが、謎の男から目を逸らさなかったのだ。それゆえに、どこへ行ったのかなんて丸わかりだ。そしてそれは、勇者、いや、ライガにとって、なによりも阻止したい場所であった。
「【転移 ココサ村】!」
ココサ村に辿り着くと、待っていたかのように謎の男が手を広げた。フードに手をかけて、勇者に明るい声をかける。
「また会ったな。勇者よ」
「…は?魔王?」
フードの下には、世界一憎らしい協力者の顔があった。
「フン!」
「は?危ないだろ!」
勇者のさりげなく殺意を込めた聖剣を、魔王は必死に魔剣で受け止めた。
「友達の生死がかかってんだよ殺すぞ!」
勇者にとっては、一分一秒が惜しく、どうにかしてニアとレイトを守りに行きたかったのだ。そこを邪魔されたわけだから、軽くキレている。
「それを言うなら、貴様のせいで魔族側の犠牲者も増えるのだ。退かすことはなんらおかしくないだろう」
魔王にとっても、予想していなかった勇者参戦に予定変更を余儀なくされたので邪魔されたような物である。
「チッ!じゃあ俺もう戻るから。じゃあな【転移 】」
「ならこの村を滅ぼすぞ?」
詠唱をやめ、勇者は、じっとりとした目で魔王を見つめる。そして、聖剣をとんとんと、魔王に見せつけるように叩いて、言った。
「なら、ここに入れてる捕虜はどうなるかな?」
「は?」
「ここに、さっきの戦場で俺の手によって退場させられた魔族がギッシリと詰まっているんだよ。お前はなんだ?王ともあろう男が国民を見捨てるのか?」
「…なんでそんなことをしているんだ?」
「決まっているだろ。人が死なないからだよ」
勇者は、戦場へ出るにあたって、どうすれば後に垣根が残らないか考えていた。そうして、思いついたのがこの方法だ。
聖剣には、物を入れられる力がある。特に、勇者とともに戦い抜いた旧聖剣は魔族を倒しレベルが上がり、勇者より圧倒的に弱い生き物に限るが、生き物ですら入れることができる。ちなみに以前入った魔族の家族によると、なにも覚えていないらしい。というか、聖剣に吸い込まれたかと思ったら、次の瞬間には遠く離れた場所で外に出されていたらしい。
というわけで、今回はすべての魔族を倒すふりをして、収容しているのだ。流石に、学園や他の生徒が殺そうとしているのには割り込めないが、それでも大多数の魔族がここに入っている。
「分かった。それでは、一度話し合うとしようか」
「…そうだな」
魔王と勇者は、間をとって話し合いをすることにした。