≪魔王視点≫
魔剣から溢れ出ていた光を浴びてから、私の体は自分の意思で動かなくなった。
『くっ…!なんだ?』
意識ははっきりしていて、地面を踏み締める感覚も視界も自身に伝わって来る。しかし、体は別の何かに動かされているらしく、私の意識に関係なく動いているようだ。もしこれが悪意のある何かだとすれば、私を慕っている物が被害を受ける。早くなんとかしないとまずい…。
四苦八苦したところで意味はなく、私の体は魔王城へ入って行った。まるで構造を把握しているかのようにすいすいと執務室までの最短ルートを通っていく。
「魔王様。お疲れ様です」
執務室へたどり着くと、リースが私を出迎えてくれていた。しかし、今の状態の私は言葉を発せないらしい。無言でリースの前を素通りして行った。
「魔王様…?」
疑問を抱いているリースを背にしながら、私の体は右手に魔力を集め始めた。
「お待ちください!魔王様!」
リースの静止の声なんてなかったかのように、私の体は魔法を発動すると、土で人を形作っていく。そしてそれが終わったとき、純白の光が私の体から出ていき、土の人形へ吸い込まれていった。同時に私の体の主導権は突如として私に戻ってくる。
崩れ落ちた体をリースが支えてくれる。そして私はすぐに私の体が作った異物を壊すため、魔法を放った。本気には程遠いが、魔王の魔力から生まれた魔法はかなりの威力を誇る。でもそれは、軽く振られた剣に弾かれた。
「あー悪い悪い。敵意はない」
そう声を発した土の人形。手には光輝く剣が握られている。その容姿を見て、リースが呟いた。
「勇者…」
「な…」
これが勇者。そんなはずがない。あれは魔剣から出てきている。それに、土の人形なのだから容姿は自由に決められるだろう。だからこそ、容姿は理由にはならない。可能性があるとするなら過去の魔王なはずだ。勇者が魔剣を生み出すなんてことはありえない。
「いやー。申し訳ないけど、今は話せること無いんだ。とりあえず、それは返して貰うな。もともとお前のじゃないし、お前も作れるだろうしな」
すぐさま勇者と呼ばれる化け物は私の腰にある魔剣を奪って、消えた。なんの抵抗も出来なかった。
「魔王様。今のは…?」
「分からない。が、すぐに勇者について調べろ。あの化け物が、あのような力をもつ存在が勇者であれば、国力のすべてをはたいてでもあれを殺さないといけない」
「かしこまりました」
もし本当に勇者であれば、私を殺すはず。それに、わざわざここまで来て、リースに存在をアピールする意味が分からない。なら違うと思いたいが、勇者でないのなら容姿を似せる意味がないような気がする。
「最悪、降伏だろうな」
勇者が二人。
ありえて欲しくない絶望の未来が来ないことを、私は願い続けていた。