≪魔王視点≫
化け物との遭遇を終えてから、私は強気の行動がしづらくなってしまった。もし大軍を派遣して、そこにあれが現れれば終わり。だからこそ、慎重な行動をとっていたが、そろそろ苦しくなっていた。
軍が足りずに敗戦が増えて、もう国民の不満も限界だ。そろそろ強気に出ないといけない。
幸いにもこれまであれが活動したという報告はない。勇者とも違う事は私自ら確認した。それでも、勇者の力は既に無視できない程にまで膨れ上がっていたのだが。
私の目の前には、多くの魔族が集まっている。彼等はすべて囮であり主力。我々の集められる限り最大の数を誇っている。そして、私の護衛部隊含め我等が魔王軍精鋭部隊が今回の作戦の要だ。主力を相手している間に大きく回り人類の軍の主力を挟み込む。ついでに勇者の故郷を燃やして、士気を落とすことも兼ねている。
今回の作戦は、勇者の初陣に合わせている。ここで勝つことが出来たなら、勇者という希望を信じることが出来なくなってしまうだろう。当然こちらが負ければおしまいだ。私への信頼は消え去ることだろう。つまり、これは実質最終決戦のような者。失敗は許されない。
「リース。任せたぞ」
「魔王様の名を汚すことがないよう、命に変えてでも成功させます」
「ああ」
精鋭部隊の総大将はリースに任せる事にした。リースは元魔王軍精鋭部隊であり、信頼が厚い。指示通り動いてくれるはずだ。
「しかし、魔王様。ほんとによろしいのでしょうか?」
「当然だ。ここで勝てなければ、どうせ私は死ぬ。それに、勇者は私にしか相手は出来ない。私が見た限り、リースですら時間稼ぎが限界だろう」
「それはそうですが…」
なにやら弱気になっているようだが、リースには本当に我等の作戦の成否がかかっている。弱気になられては困るのだ。
「リース。お前には私たちの未来がかかっている。そう弱気になるな。これまでの業務に比べれば、遥かにマシなはずだ」
「…確かにそうですね。まあそれはともかく、魔王様。魔王様が死なれてしまってはおしまいです。我々を切り捨ててでも、必ず生き残ってください」
強い信念を感じさせるような瞳でリースはそう言った。
「分かっている。わざわざ死にに行くつもりはない」
「そうではなくてですね。私たちをすべて見捨てでも、お逃げくださいという意味です」
我が同胞を見捨てるつもりはないが、リースはゆずらなさそうなので適当に流しておく。
さあ、最後の戦いだ。魔族の未来を賭けた、余りにも大きな賭けだ。ここで、私は全力を尽くさないといけない。
「これが、私の魔剣だ」
「勇者の聖剣に対抗出来る、私の全力だ!」
我々は、最後の戦場へ我々は歩み始めた。