この世界の結末は?   作:ありくい

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勇者が求めた結果

 

「勇者。私は主戦場の方を見ておく」

 

「おう」

 

魔王は、膠着状態に陥ることが分かりきっている戦場より、まだ動きがある主戦場を選んだ。実際、この戦場でリースが負けることはなく、リュアは勇者が助けるので、やることもない。それであれば自身の動きを見て、反省できる主戦場の方がいいという考えなのだろう。

 

「気を詰めすぎるなよ。余裕を持たねば、肝心な所は成功しても、全体では失敗するぞ」

 

いざという時のため、片時もリュアから目を離さない勇者に対してそう忠告すると、魔王は去っていった。

 

ちなみに、勇者の知っている世界では、リュアが死ぬのは後半年後と言われている。それ程までにリュアという少女が率いた軍は、人類を守りきったのである。本来では有り得ない。しかし、聖女という肩書を持ち、勇者を常に間近で見てきた彼女だからこそ、起こせた奇跡といえる。

 

壁を作り、その壁を機転に反撃する。負傷すればすぐに戻り、聖女の癒しと激励を受け前に出る。守られる者達は何層も壁を構築して、壁が崩れたときの予防線を貼る。そうして、格上相手との戦いで膠着させる。

 

当然、魔王軍も馬鹿ではない。彼等は相手の動きを見た瞬間から、搦め手を使いだした。塹壕を掘り、魔法が当たらないようにしながら先に進む。別働隊に命令して大きく迂回させ、背後から叩く。補給を断つ。様々な方法を試し、そのうちのいくつかは成功した。しかし、成果をあげたとは言いづらい。

 

まず、食料に至ってはあれは村内で簡潔してしまっていた。冬前であり、すべての家が冬を越す分の食料を溜め込んでいたのだ。よって、外からの物資を断ったところで、兵糧攻めとはいかず、武器の枯渇も、そもそも武器なんてあまり使っていなかったから、特別苦しいことはなかった。

 

塹壕は魔法を避けることには成功したが、結局壁の近くに行った所で聖女の障壁を破れるはずがなく、意味はなかった。

 

迂回は失敗だ。迂回するための通り道とした森には、余りにも多くの魔獣が住み着いていた。流石にそこを突っ切る頃には、兵は半分以上は死ぬだろうと結論が出たので、実行すらしていない。

 

気づいた頃には、魔王の物資が切れかけていた。

 

そこで、魔王軍は博打とも取れる選択肢をとった。それは、一斉突撃。

 

守りは捨て、全員で攻めきるという戦略を全否定するような戦いだ。戦略のない戦いでは、単純に、力が強い方が勝つ。本来、魔王軍にとっては壁で相手の勢力がわからないため、どちらが強いか分からない。よって、この選択肢は愚策とも言える。それでも、魔王軍はそれを決行し、成功を収めた。

 

さあ、時が来た。

 

勇者は、最も信頼に値する聖剣を腰に添えて戦場を俯瞰的に観察する。勇者の中には獣王もいるので、勇者が見逃した情報も勇者に教えてくれる。

 

「さぁ。こい」

 

勘が囁く。今だと。

 

「待てええええ!!勇者ぁぁぁぁ!!!!」

 

魔王の叫び声をバックに、勇者は音速を超える速さで移動する。その目には、リースの放った魔法が目の前にあり、希望を信じ、涙を流しながら笑みを浮かべるリュアが映る。バチバチと、傍から見れば強力そうに見えるそれは、ただ攻撃を弾き、土煙を起こすだけの見せ掛けだ。

 

救えなかったリュアを思い出し、勇者の目には涙が浮かぶ。そうして、人を守り、誰も傷付けない聖剣は────

 

「リュアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

光の速度を出す勇者の、誰かを守るために人を傷付ける聖剣と交差して、大きく弾かれた。

 


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