リコリス・リコイル 〜雑草にだって花は咲く〜   作:シコウ

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社会科見学と脱線事故

 乗ってきたバイクを店の脇の駐輪場にとめ、ドアを開ける。

 

 「どうも~。」

 

 近くに用事があったので『喫茶リコリコ』に顔を出した。アイドルタイムの店内には客はゼロ、カウンターの隅では、いつも通り中原さんが『ゼクツィ』片手に昼間から酒を煽っていた。この人の肝臓一体どうなってんだ?

 

 「涼しい〜、文明の利器は偉大ですね~。」

 

 夏でもジャケットが脱げない仕事なので、冷房の有り難みに浸っていると、奥からミカさんが顔を見せた。

 

 「いらっしゃい月岡くん。」

 

 そう言うとまた奥へ引っ込んでしまった。その後ろに一瞬金髪の小学生くらいの少女が見えたような…。あの子リコリコの制服を着ていたということは店員…でいいのかな?

 

 「バイクとは珍しい。暑苦しい格好してるわね。」

 

 「コレ吊ってるもんなんで脱げないんですよ。」

 

 一応薄手の素材の夏用ジャケットなんですがね、ノーネクタイの分だけましだと思いたい。脇の膨らみを撫でつつカウンター席に座る。

 

 「ボクよりリコリスたちのほうが暑くないですか?」

 

 彼女たちの夏服は、冬服を半袖にしただけのように見える。せめて上だけでも脱げばいいのに。

 

 「あんた、アレは上下一体でしょーが、それに中に防弾繊維仕込んでるから必要なのよ。」

 

 ああ、そうだった。小口径の拳銃弾程度しか防げないがそんな機能も付いてるんだっけな、あの制服。毎日見ているはずなのに忘れていた。

 

 「制服で思い出したけど、あの2人が居ませんね、今日の作戦に参加中ですか?」

 

 「2人は休みよ、今日の作戦?」

 

 「地下鉄数編成借り上げて、構内で大掃除するっていうやつですよ。」

 

 テロを地下鉄駅構内で行おうとする連中を、一網打尽にしようという作戦だ。地下なら一般人の目にも付きにくいし、ダイヤ調整をする鉄道会社には悪いが、借りた車両でリコリスの移動もスムーズというわけだ。

 

 各所の防犯カメラの映像などをリアルタイムで解析するラジアータの指示の下、都内の地上と地下ではリコリスたちがチームごとに散らばって行動中のはずだ。ラジアータが不審人物を捕捉次第、周辺を封鎖、リコリスを急行させ交戦、撤収は地下鉄を使うかバスで回収するか状況次第だそうだ。

 

 「それでボクは車両基地までの引率と、撤収支援役なんですよ、ほら。聞いてませんか?」

 

 鞄から『アイギス女子学園御一行様』と書かれた小旗と『弦巻観光』の名札と腕章を出して、中原さんに見せる。これで車両基地では社会科見学、駅では修学旅行生の団体に見えるだろう。

 

 「へえ、ウチはそういうの(殺し)はやってないから聞いてないわね。」

 

 それにここは半分本部から独立しているようなものだし、と中原さんは付け加えた。

 

 「つっきーはなんでここに?」

 

 「このエリアが担当でして、この辺りで待機できそうな場所というとリコリコでいいかなと思いましてね。」

 

 都内は広い、ボクの担当エリアで作戦があるとは限らないだろう。何もなければ旧電波塔でも観光して帰ろうかと思っている。

 

 10年前の電波塔事件で傾いてしまったが、日本の鋼構造建築技術の結晶であり、今では平和の象徴と呼ばれる塔をぜひ近くで見たいのだ。それに傾いた塔の補強工事の跡も見学したい。元の勤め先(セーリン)の先輩によれば、あれの補強工事のドタバタで映画が一本作れるそうだ。

 

 「で、ご注文は?ここは喫茶店よ。」

 

 おっと、メニューを見ると煎茶とどら焼きがあったのでそれにした。やはりあんこには緑茶が良く合うだろう。

 

 「ところで中原さん、さっき奥にいた子は…」

 

 と言いかけたときポケットのスマホが鳴った。相手は…司令部だ、お仕事の出番が来たらしい。

 

 「はい、月岡です。…北押上駅、…すぐ向かいます。」

 

 「すみませんどら焼きキャンセルで。」

 

 そう中原さんに声を掛け、スマホをポケットに放り込み店を飛び出た。今回どら焼きはお預けのようだ。

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