「いらなかったかなぁ…天気予報見とけばよかった。」
そんなことを呟きつつ、脱いだコートを丸めて抱え、目的のものが見える場所を探して歩く。
今日は珍しく外での仕事だ。DA関連の仕事がないときは元勤め先や他のところの下請けのようなことをやっている。今はその打ち合わせの帰り道というわけだ。
急いで帰る必要もないので、秋ごろには開業するという延空木と、解体の噂がある旧電波塔でも写真に収めようかと、いいスポットを探して歩き回っていたら暑くなってしまった。桜の開花もこの分だともう近いだろう。
「ここ、いいかもしれないな」
思わず足を止めたのは大通りから少し入ったところにある一軒の喫茶店の前だった。和洋折衷の外観をもつおしゃれな喫茶店だ。早朝から始まり中途半端な時間に打ち合わせが終わったので、何か軽く食べたいと思った、普段はチェーン店ばかりに行ってしまうが、たまにはいいかもしれない。
「らっしゃいませ〜」
ん、どこかで聞いたような声だな?
「あら〜、つっきーじゃないの〜」
「な、中原さん、なんでにここに?!まさかついにクビになっ…」ゴンッ
言い切る前にお盆で叩かれた。ひどい。
「なっとらんわい、失礼な。こっちが本業よ。」
「ってことはここが?」
「そ、『喫茶リコリコ』私の職場よ。知らずに来たの?」
言われてみれば、正式にはDAをもう辞めているポジションだと前に本人から聞いたことがあるような気がする。
たしか『孤児を集めて殺し屋を育てるようなキモい組織が嫌になった』とかいってたな。
しかし、310支部…
ランチ営業が終わり、お客さんがいなくなったタイミングで中原さんが話しかけてきた。
「最近どう?仕事は慣れた?」
まあ、特に問題はないことや、最近京都から新しいリコリスを迎えたことを話すと、
「女の子に囲まれた生活はさぞ華やかでしょうね。羨ましいわ〜。」
そうかな?ボクが高校生の時は男女比率1:8という凄まじい学校にいたので、今更中高生程度のリコリスたちにどうということはない。それに歳下に興味はない。
「ほとんど女子校じゃんそれ、ところで、今仕事中なの?」
ボクのジャケットの脇の下の膨らみに目線を向けつつ聞いてきた。さすがは腐っても元DA情報部、吊っている拳銃に気づくとは鋭い。肯定の返事をしつつ軽く膨らみをなでると、
「相変わらずコルトのウッズマン使ってるの?かさばらない?」
「22口径で反動が少ないから扱いやすいですし、それに、どうせ使わないから多少趣味に走ってもいいでしょう?」
昔読んだ小説の、二輪車で旅をする少女のサイドアームの銃のモデルなのだ。DAの余剰武器保管庫で見つけて以来、ボクは『森の人』と呼んで大切にしている。
後方支援要員のボクがこれを抜く時は、切羽詰まった状況でありほとんど作戦失敗のようなものだ。そんなことが起きないよう祈りたい。射撃も格闘もリコリスに比べれば素人同然、到底本職に敵うとは思っていない。
「ふ〜ん、仕事と趣味の両立ね。そういえば、ここもあの二人の趣味みたいなものね。」
あの二人?
「たっだいま〜」「ミズキ、留守番ご苦労さん」
『closed』の札が下がった扉を開けてきたのは、赤い制服のリコリスと、紫の和装の男性だった。