「畜生、まるでニンジャじゃないか。デタラメだ。」
慣れない手つきで
ついさっき自分で見たことが信じられない。いくら命中率の低い拳銃とはいえ複数人の斉射を、生身の人間が『避けながら突っ込んできた』。それも遮蔽物に隠れて前進なんて甘いものではない。
文字通り、左右ときには上下に銃弾を回避していたのだ。
ボクの前にいた3人は「ワッザ⁉︎弾丸が当たらねぇ!」などと叫びつつ、接射も同然の距離で撃たれ、赤い液体を散らしながら倒れてしまった。
咄嗟のことだったが、ボクはスモークグレネードを転がし逃げてきた。一時的には逃げられたがやられるのも時間の問題だろう。さっきから廊下を通じて怒声と銃声の響きがこちらに近づいているのだ。
「ファーストってのはあんな化け物揃いなのか?だが、ただではやられんぞ。」
倒れた棚を動かしそこに死体を立てかけ、そして死体と棚の後ろに隠れ、銃口をピタリとドアの吹き飛んだ入り口に向け『彼女』がくるのを待つ。グレネードでも放り込まれればアウトだが、彼女たちの装備にはなかったはずだ。
いつしか銃声が止んでいた。もう全滅したのか?背中を冷や汗がつたう。まだだ、彼女たちは必ず部屋のクリアリングを行うだろう。そのときにせめて一撃でも入れられればいいのだが…。
どのくらいの時間が経ったのははわからない、しかしついに待っていたときが訪れたのだ。
入口の左右からジリジリと防弾仕様の学生鞄を盾にしつつこちらの様子を伺う赤とベージュの影、たしかカッティングパイという手法だったか。
まだだ、突入の後戻りできない瞬間を狙うのだ。慌てるな。
今だ!
交差する銃声、制服を赤く染めるリコリス、小さく悲鳴をあげ、うつ伏せに倒れ込む彼女の本来の制服の色は…
仕方ない、行くしかないようだ。ゆっくりと立ち上がり、まず倒れたリコリスの死亡を確認。そして…
「わあ、キミで最後かな?」
なっ?!ほとんど反射で発砲、しかし鞄防御、回避、回避、回避、弾切れ、嘘だろこの距離だぞ?!
最期の足掻きに手榴弾のピンを抜こうと空いた手を腰にのばす。しかし腕と脚に衝撃、視界が90度傾く。腕に銃弾、脚に足払いを受けたのだ。そして無様に転倒、そのまま眉間と胸を撃たれ、めでたく死体の仲間入りとなった。
「…テロリストの全滅を確認、状況終了。」
「はいはい死体の皆さん起きて起きて〜朝だよ〜。」
むぅ、起きるとするか。顔にベッタリとついたペイント弾を袖で拭い起きあがる。
部屋の中へ目をやると、死体とサードリコリスも起きて埃を払っていた。
ここは某所にあるDA関東本部の
改めてボクを倒したリコリスを見る。これが『歴代最強』のリコリスか、金色がかったボブカットの白髪が特徴の少女。さすがだ、噂どうり手も足も出なかった。
これが彼女、錦木千束との出会いだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「まあ、覚えてないよね。」
『リコリコ』の店内で再会した、当時と寸分変わらない制服の千束ちゃんはしばらく考え込むと、
「ああ!この間の自爆お兄さんだ!」
自爆は失敗したけど、妙な覚えられ方をしたな。
「二人とも顔見知りだったのね。」
一回会っただけだけどね。あと、その酒瓶に伸びた手はなんですか中原さん?千束ちゃんはその手をピシャリと叩き、
「ミズキ、仕、事、中、だぞ。…月岡さん『命大事に』ですよ。」
はいはい。
さて、仕事の邪魔をしては悪い、この辺にするか。ボクは3人に挨拶をして『closed』の札が掛かったドアを出た。