リコリス・リコイル 〜雑草にだって花は咲く〜   作:シコウ

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家宅捜索(後)

 ただの不用心か、はたまたリコリスたちへの信頼のあらわれか、鍵の掛かっていないドアは抵抗もなくスムーズに開いた。

 リコリスたちの予想に反して、乱雑な書斎とは対象的に、私室は片付いていた。

 

 ベットとその隣には小さな机と私用とおぼしきノートPC、壁際には本棚とクローゼット、本棚には様々なジャンルの本、具体的にはライトノベルから商法便覧、はてには管理人が読めるかはわからないが中国語版聖書すらも収められていた。

 

 そして最も目を引くのは壁にかけられた三丁の銃、ボルトアクション式ライフルが1丁、リボルバー式と自動式の拳銃が1丁ずつ、リコリスたちが知る由もないが、それぞれ二式テラ銃、コルトM1851、モーゼルC96という銃だ。おそらく管理人の趣味のものだろう。

 

 「意外とすっきりしてますね。」

 

 たきなはそんな感想を述べた。

 

 「そうだね。よいしょ、っと。」

 

 サードのリコリスは壁にかけられたライフルを手に取り弄り回すと、

 

 「これはモデルガンか。ほかのもそれっぽいな。しっかし、つっきーがガンマニアだったとは。」

 

 「圭さん普段からあんなの(コルト・ウッズマン)吊ってますよね。ちょっと古いのが好きなのかも。」

 

 管理人が制式採用の銃を持っていなかったことをたきなは思い出した。

 本部には『ボクは非力なので22口径の銃を使わせてもらいたい』などと言っているが、実際のところこんな理由があったようだ。

 

 「前に、本部の武器庫で員数外のもの漁ってる変な奴がいるって聞いてたけど、まさかけーちゃんだったとは。」

 

 「抜かないからって趣味優先ね。さて、次はここだ。」

 

 ライフルを壁に戻し、クローゼットの中を開けるとそこには、拳銃などの貴重品をしまうための金庫と、服はいつも着ている黒のスーツとグレーのシャツの替えが数着、めったに締めないネクタイが数本、あとはDA支給の黒い防弾コートと作業着程度のものだった。

 

 「あまり他の服着てるの見たことないな~、とは思ってたけどこんなにレパートリーが貧弱とは…。」

 

 「私達も似たようなものでは?」

 

 「うっ…。」

 

 実際、制服以外の私服をリコリスたちはあまり持たない。外出のさいは銃を携行することが多く、もし出先で銃などを使用して一般人に目撃された場合、制服を着ていないと協力機関(警察など)への説明が面倒になるからだ。

 

 サードのリコリスは話をそらすように、

 

 「茶色のコートは着ていったみたいね、今日は暖かいのに天気予報見なかったのかな?」

 

 窓の外のまだ蕾の桜に目線を向けつつ、クローゼットの扉を閉めた。そして、

 

 「さ~て、本日のメイン、ベットの下と行きますか~!」

 

 「ベットの下?」

 

 たきなは、そんなところに何が?とでも言いたそうな顔をして聞き返した。

 

 「男の人の大事なものってのは、ベットの下と相場が決まっているのよ。さ~て、ナニが出てくるかな。」

 

 リコリスが四つん這いになってベットの下から引きずり出したのは一つの段ボール箱、

 

 「中身は、ノートに、カバン、後は…なにこれ…。」

 

 期待はずれだったことに肩を落としつつも、中身を調べていたが、何かを見つけた。

 それは黒い革製の二つ折りの手帳、上半分に顔写真と階級と氏名、下半分には旭日章のついた、警察手帳だった。

 写真は短髪の黒縁眼鏡を掛けた仏頂面の青年、管理人だった。氏名は『結月 蛍』、普段名乗っている『月岡 圭』ではなかった。

 

 「思ったよりヤバいもの出てきちゃったな〜、まさかつっきー警官だったとは。」

 

 「いや、違うみたいですよ。」

 

 一緒に入っていたノートのページをめくっていたたきなは、あるページを開き、リコリスに渡した。

 

 「どういうこと?」

 

 そこには『結月 蛍』の経歴や趣味、嗜好などが書き連ねられていた。それは詳細な『設定資料集』だった。

 リコリスはそれを読み、

 

 「なるほど、警察に潜り込もうってわけか、これはこれでバレたらヤバいぞ~これは。」

 

 彼女たちは知らなかったが、これはDAと警察側の取引の結果だった。警察内部に自由に動かせる駒が欲しいDAと、DAの活動支援やもみ消しを外部に投げたい警察の交渉の結果だった。

 本人は『ちょっと仕事が多すぎやしませんか?』などと文句を垂れたが、結局はこうだ。

 

 「さて、色々わかったことだし、この辺にしておきますか。」

 

 段ボール箱を元通りベットの下へ収め、部屋を来る前と同じ状態に片付けようとした矢先、書斎の電話機が鳴った。突然のことにリコリスたちの間に緊張がはしる。

 数コールの後に一人のリコリスが電話を取った。

 

 「はい、月岡設計事務所です。」

 

 『もしもし?月岡だけど、悪いけど牛乳ってまだ冷蔵庫にあったっけ?』

 

 掛けてきたのは管理人だった。

 

 「少ないですね、あ~あとケチャップもなかったような…ちょっと見てきます。」

 

 電話に出たリコリスは子機を持ち、キッチンへと向かった。やり取りを見ていたリコリスは胸をなでおろし、片付けを始める。

 

 「ねえ、たきなつっきーの声ってどう思う?」

 

 サードのリコリスが問いかけた。

 

 「圭さんの声ですか?まあ、女性っぽいなとは思いますけど。電話だと特に。」

 

 変声期などとっくに過ぎてはいるが、管理人はよく間違えられる。会社員時代には電話でしか話したことがない相手から初対面のときに『月岡さんはどこに?』『私ですが。』というやり取りも何度かあったようだ。

 

 「だよねー。初めて来たリコリスは大抵驚くんだ。さて、こんなもんか撤収、撤収。」

 

 部屋を復元した二人はドアを閉め、管理人の私室と書斎をあとにした。仕事机の上のファイルスタンドにつけられた銀のフクロウを模したピンバッジなどには気付かないまま…。

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