bae(PSYCHO-PASS)   作:鈴夢

5 / 5
印象・日の入り

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

後ろ髪引かれる思いで、施設を後にする2人。

 

 

 

そして向かう先は、狡噛兄妹が住まう海辺の家へ。

約10年ぶりに、宜野座は訪れるのであった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

「アイツは?さっき戻ってきてるとか……」

 

リビングに無造作に置かれた、恐らくは狡噛の私物。先程、施設でも"帰ってきてる"と口にしていた舞白。

どうやら、久しぶりに帰ってきている様子だった。

 

「朝、出る時は居たんだけど…、出掛けたのかな。」

 

コトン、とアイスコーヒーをテーブルに置く。

宜野座はそれにそっと口をつけ、久しぶりに訪れた家を見回す。

 

舞白お気に入りの本棚、並べられた写真、カーテンもラグもあの頃と何も変わっていない。

 

本はやたら増えたようで、テーブルや床の一角に積み重ねられていた。

 

「霜月もたまに来てるんだろう?アイツが言ってた、図書館みたいだって」

 

「図書館なんて大袈裟。…まあ確かに多いけど……」

 

舞白も自分にカフェオレを作ると、宜野座の対面側へと座る。この部屋に宜野座が居る光景が懐かしくて、思わずニヤニヤとしてしまう。

 

「…またこうやって、ここで一緒にコーヒーを飲んでるなんて。なんか笑っちゃう……」

 

「懐かしいな。……昔なんて、こんなに小さくて……」

 

自身の手で、幼い頃の舞白の背丈を表す。

 

「"ノブ兄、ノブ兄。おままごとしよう?

もう帰っちゃうの〜?"って……可愛かったな」

 

「小さい頃から、ノブ兄はもう1人のお兄ちゃんだったから。お兄ちゃんに甘えられなかった分、全部ぶつけてた気がする……」

 

遊びに来る度に、遊べ遊べとせがんでは困らせていた記憶。でもそれに嫌な顔せずに付き合ってくれていたのは、紛れもなく宜野座だった。

 

「お兄ちゃんが大変だった時も、ほとんど来てくれてたもんね?私が1人にならないようにって。一緒にご飯食べてくれたり、眠るまでそばにいてくれたり。」

 

ふふふっと思い出しながらカフェオレに口をつける。すっかり大人になってしまった舞白、そして同じく歳を重ねた宜野座。あの頃を思い出すと、お互いに、寂しい気持ちを彷彿させる。

 

そうこう話していると、ぐぅっと鳴り響く舞白のお腹。ふと時計に目をやると14時手前を指していた。

 

「そろそろお昼ご飯食べようよ?もちろん、オートサーバーじゃないもので……」

 

椅子から立ち上がり、キッチンへと向かう。舞白の表情を読み取る限り、何か作っていたんだろうと察す。なにやら、嬉しそうにニヤニヤとしていた。

 

キッチンの小鍋に火をかけると、室内に良い香りが漂う。その匂いに覚えがあった。

 

 

「昨日、残業もなかったし、帰ってきてカレー作ったの。お兄ちゃんと。」

 

昔から大好物だという、兄手製のカレー。小さい頃は何かある度にいつも食べていた気がする。"あの2人"が、キッチンで肩を並べて料理をする姿が目に浮かぶ。年月は経ったとしても、2人は兄妹。いつまでも仲が良い2人を容易に想像できる。

 

 

「ニンジンは食えるようになったか?」

 

「……嫌い」

 

「好き嫌いはダメだ、少しは食えよ」

 

「私もう子供じゃないから!食べるよ、少しくらいなら……」

 

と、いいつつも器には一欠片のみしかニンジンを入れず。相変わらずの子供のような行動に、思わず宜野座は笑みを零す。

 

テーブルに並べられた昼食。

くだらない、他愛のない、どうでもいいジョークで笑い合える。この瞬間が愛おしい。失いたくない時間だった。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

過ぎ去っていく愛おしい時間。

2人でソファで肩を並べ、読書をする時間も、急に観たいと言い出した映画を見て涙する舞白、それをクスクスと笑う宜野座。買ってきたケーキを嬉しそうに口に運ぶその姿、ひとつひとつが、その空間を包み込む心地よい潮風も。過ぎ去って欲しくないと思えば思うほど、あっという間に過ぎていく。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

美しい夕日、あと少しで日の入り。

 

2人は浜辺へと移動すれば、水平線を横目に散歩していた。2人の間に少し空いた空間。昔はこの間にダイムの姿があった。

 

 

「今度はダイムも連れて来ようよ?……あんまり長い時間散歩は出来ないだろうけど……」

 

「あいつも歳をとったからな。…でも、またこの海を見せたい」

 

すっかり老犬となったダイム。今は公安局ビル内の宜野座の部屋で穏やかな日々を過ごしていた。昔のように、やんちゃに飛びかかることはなくなったダイムの姿を見ると、少し寂しい気もしていた。

 

 

 

「しかし、やっぱりいいなこの場所は。毎日この景色が見れるなんてな」

 

 

 

 

そう言い放つ宜野座の横顔を眺める。

すると、昔の光景そのままが脳裏へと思い出される。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「「毎日この景色が見れて羨ましいよ」」

 

あの時と同じ光景。

 

幼い舞白が口にする言葉は……

 

 

 

「「毎日海が見れて楽しいよ!

大きくなってもあのお家にずっといたいんだ!

それでいつか大きいワンちゃんを飼って

かっこいい王子様と暮らすの……」」

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

横顔から視線を逸らせると、足元へと目を向ける。

 

 

「……王子様かあ…」

 

 

その場に立ち止まると、宜野座は不思議そうに舞白を見つめる。

 

「何か言ったか?」

 

「……ううん、なんでもないよ?

ちょっと入ろうかな〜」

 

その場でサンダルを脱ぎ捨て、海へと向かって歩き出す。

ひんやりと冷たい海水に足が包まれ、気持ちのいい潮風に包まれる舞白。

 

 

「コケるなよ?それに、さっき服を汚して着替えたばかりなんだから……」

 

「汚したわけじゃないし、あれは事故だよ?」

 

舞白は珍しく、花柄のミニ丈のワンピースを着ていた。先程まで着ていたTシャツとデニム……、映画を見て感極まった舞白は傍らに置いていたコーヒーに気づかず、派手に零してしまったのだった。

 

「たまにはいいでしょ、こーいう服も?もう何年も前の服だけど……」

 

ワンピースの裾をぎゅっと掴み、少し恥ずかしそうな舞白の姿。今目の前にいる人物が、まさか外務省の人間だとは誰も思わないだろう。ただの無邪気で可愛らしい少女が目の前にいた。

 

刹那、宜野座はデバイスを操作し、その瞬間を写真に収める。突然の事に舞白は慌てた様子で、宜野座に駆け寄る。

 

「ちょっと!何勝手に撮ってるの!」

 

「霜月に送ってやる。あいつも、いつもお前に撮られっぱなしでさすがに可哀想だからな」

 

「美佳ちゃんには見られたくない……この姿は……」

 

デバイスに触れ削除しようとするも、腕を上げられてしまえばさすがに届かない。むぅっと口を尖らせれば、必死に手を伸ばす。

 

「……ッ……ズルい……高身長……」

 

「と言っても、お前と数十cmしか変わらないだろうが」

 

ぐーーーっと手を伸ばすも届かない。

 

「……このっ……、……ヒッ!!」

 

不意に視線を腕ではなく目の前の宜野座に向けると、あまりの至近距離に、思わず気の抜けたような悲鳴をあげれば慌てて体を離す。整った綺麗な顔立ちの相手に、何を今更驚いてしまったのかは自分でも謎だったが、急に恥ずかしく感じてしまっていた。

 

 

「意外と諦めが早いな?」

 

「……いいよ別に!美佳ちゃんに送っても〜」

 

やけにドキドキと心音が脈打つ。もう写真なんてどうでも良くなっていた。それよりも、心臓の音を落ち着かせようと必死になる。

 

やけに顔を合わせない舞白。

ニヤッと宜野座は怪しげに、面白がるように笑みを零せば、舞白の腕を引っ張り、自身の胸の中へと抱き寄せる。

 

 

「〜〜〜〜っ!!!!」

 

ふわっと香る、宜野座の匂いに、力強さに、さらに心拍音は大きく、間隔は早くなっていく。その様子に気づいていた宜野座は、離すつもりはサラサラ無い様子。

 

「ちょっ……ノブ兄……」

 

「いいだろう?それに今更……っ!」

 

ヒョイッと軽々と舞白を抱き上げ、面白がるようにその表情を下から伺う。

 

「……皆見てるから……」

 

シーズン的にも、海岸には何組かのカップルの姿がチラホラと見える。まるで幼子を抱き上げるような姿に、舞白は手で顔を覆う。

 

 

「…お前さえ、生きてくれれば俺はそれでいい」

 

「……何言ってるんだか……」

 

手で覆っていた顔を向ければ、突然の言葉にクスクスと笑みを向け、宜野座を見下ろす。

 

 

「そんなの、私も思ってるに決まってるでしょ」

 

ぎゅっと宜野座の頬を抓ると、そっと顔を近づけようとする2人。

しかし、何かに気づいた様子の舞白は、顔を上げると一点を見つめる。

 

 

 

「……お兄ちゃん」

 

タバコを片手に、こちらの様子を見ていたであろう兄の姿が目に入る。その言葉に気づいた宜野座は、バツが悪そうに表情を固くする。

 

「……狡噛………」

 

 

「邪魔したか?」

 

携帯灰皿へとタバコを押し付け。2人に近寄る。その表情は薄く笑みを浮かべているような、僅かに口角を上げている様子だった。

 

 

「家にいないから、もしかして……、と思ってな。邪魔するつもりはなかったが?」

 

舞白は砂浜に足を降ろすと、手を後ろに組み、兄の顔をのぞき込む。

 

「覗き見なんて、お兄ちゃん悪趣味〜」

 

「覗き見したつもりはない。たまたま2人を探してただけだ」

 

ふふふん、と嬉しそうな様子の舞白。久しぶりのツーショットを目の前にして、まるで昔のように、3人で過ごした時を思い出す。

 

 

「……それならそれで連絡を入れればよかっただろう」

 

「なんだ?邪魔したからって怒るなよ、ギノ」

 

「お前……」

 

いつもの様に言い合う2人。

すると舞白は2人に手を伸ばす。

 

左手を狡噛に、右手を宜野座に。

それぞれの手をぎゅっと握りしめて、2人へ笑みを向ける。

 

「もー……久しぶりに3人揃ったんだし、喧嘩はなし!」

 

2人の手を引くと、3人で浜辺を歩き出す。

 

強面の男に挟まれた白髪の女の子。

周りから見ると、なかなかシュールな光景に、視線を感じる宜野座は徐に目を伏せる。

 

「ったく……」

 

「なに恥ずかしがってるんだよギノ。さっきは舞白に……」

 

「その先を口にしたら、お前をぶっ飛ばす」

 

「だから、喧嘩しないでよ、お兄ちゃん達……」

 

相変わらずの様子に呆れ顔の舞白。すると地平線に沈んでいく夕日に目を向ける。オレンジ色に染まっていく世界。その美しい光景に目を輝かせる。

 

「見て!夕日!」

 

舞白の目線の先に、つられるように2人も目を向ける。穏やかな波の音に、潮風、潮の香り。夕日に照らされる2人の横顔を交互に見ると、さらに強くぎゅっと手を握りしめる。

 

 

「……お兄ちゃん、ノブ兄。ずっとそばに居てね。忘れないでね。」

 

唐突な言葉、2人は不思議そうに舞白を見つめる。

その表情はどこか悲しげで、切なそうに地平線へと視線は向けられたままだった。

 

 

すると、狡噛と宜野座は手を離すと拳を作る。

 

「当たり前だ」

 

「何があっても、俺たちが一緒だ」

 

その言葉に安堵する舞白。両手で拳を作り、それぞれの拳をぶつけ合う。

 

その景色は、なんら昔と変わらない、3人の姿。いつまでも3人で、それぞれ立場は違えど固く結ばれたその絆は、いつか全て消えてなくなってしまうとしても、忘れることは無い。

 

静かに、陽が沈んでいく。

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、何この写真?」

 

 

休憩中、狡噛はタバコを吸いながら、先日こっそりと撮っていた写真をぼんやりと見ていた。それを、背後からひょこっと顔を覗かせる花城も目に写す。

 

 

「悪くないだろう?」

 

「……って……よく見たら舞白じゃない?で、相手の男は……どこかで見た事あるわね……」

 

夕日に照らされる2人の姿が写る写真。

宜野座が舞白を抱き上げ、地平線を拝見に見つめ合う2人。

 

 

「……あー、思い出したわ。一係の執行官の宜野座……」

 

その人物が誰だか判明すると、花城は驚いた表情を向ける。

 

 

「この2人って、そういう関係だったの?」

 

「どう見てもそういう関係だろう?」

 

「へぇ〜、お兄さんとしては複雑じゃない?可愛い妹が取られちゃった感じ。しかも、仲の良い昔からの友達に……」

 

「いや、それが意外とそうでもない。むしろ安心してるよ。」

 

昔からの友人、そして最愛の妹。

写真に写る2人の表情を見ると、狡噛も思わず表情を綻ばせていた。

 

 

 

┈┈┈┈┈"bae"┈┈[完]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

bae

 

before anyone elseの頭文字をとってできた言葉で、スラングの1つです。

 

恋人を意味する場合で使う際には「一番大切な恋愛対象」という意味で使われるそうです。愛しい人、など。

 

友人との間で使う際は「最高の友達」Me and baeのように使われます。

 

大切な家族を相手に使用されることもある言葉のようで、舞白、征陸、狡噛、そして宜野座、それぞれの大切な相手に使えるスラングで良いな〜と思い題名にしました。

 

ちなみに短編の前作の「sis」は、女性同士のバディの意味を持ったり、あれもスラングです。

 

 

それぞれのサブタイトルは有名な作家、モネの作品名です。油絵で有名ですよね。そういうことです。

ちなみに1話目は題名変えました、フェルメールとモネをかけようと思ったんですけど、話しの内容を少し変えたためモネに統一しました、、笑

 

活動報告にも書いたように、Cö shu Nieの"miracle"をイメージして書いてみました。ぜひ聴いて見てください、メロディーラインも歌詞も泣けます、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。