【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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第一村人~ウーゴ

 自分より一回り以上大きい相手の肩に乗り、首に直刀を突きつけながら、セシルはいい天気だなとかのんびりと構えていた。

 

 首に凶器を突きつけられている方はたまったものではない。人間に比べれば大きく巨人(ジャイアント)というほど大きくはない彼はトロールという種族の者だった。

 最初人間の小さな群れを発見した時、トロールは運が良いと思った。人は美味で食いでがあるが、数があまり増えないため口にする機会は少ない。大きな戦でもあれば大量に収穫できるが、臆病な人間たちは防御を固めて小賢しく抵抗する。彼も最後に味わってからもう何ヶ月も経つ。

 だから迷わずにその群れ目指して、正面から襲いかかった。人間は弱い。力も心もだ。逃げ出されたら困ると思っていたほどだった。

 

 

「お……お前たち、人間ではない?」

「俺に関してはまぁ正解。だけど他の奴らは人間で、お前ぐらいなら軽く殺せる連中だ」

 

 

 襲いかかった相手が迎え撃った時は、笑ってさえいた。それも突き出した拳を同じ拳で吹き飛ばされるまでだった。その後のことは思い返したくもないらしい。トロールが持つ不死身の再生能力だが、痛覚はあるのだ。ひき肉にされた時のことなど誰だって覚えておきたくない。

 その後ご丁寧に再生が終わるまで待って、現在に至る。周囲を炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)に取り囲まれた上に、肩には怪物が乗っているのはトロールにとっては悪夢のようだった。

 

 

「お前らと違って、俺達にお前を食う趣味はない。ゆえに痛い目に会いたくなければ素直に答えるだけで良い。だからまず聞きたい……お前の名前は?」

「う、ウーゴだ。ン・ラのウーゴ」

「……ン・ラというのはお前の出身地か? それとも身分か?」

「す、住んでいる場所だ」

「そうか。よろしくウーゴ。俺はセシルという」

「お、思ったより普通の名前だ。それだけ強いのに……」

 

 

 トロールには短い方が勇敢な名前という風習がある。ウォートロールともなれば名前が一文字というのも珍しくはない。その理屈でいうとウーゴというのは実に平凡な名前なのかもしれない。

 ウーゴが喋ったことは素早くケラルトが紙に書きつけていく。これだけの会話だが、社会構造や街の名など有用なことが山程ある。特に戦争を仕掛ける訳では無いが、街の場所や名前を調べて大まかな地図を作るのが目標だ。

 

 

「では、ウーゴ。色々なことを話そう。とりとめもないことでも一向に構わない。とりあえず……そうだな。人間以外は何を食べて生きているんだ? 人間は常食するには不向き過ぎる」

「う……牛や豚。肉なら何でも……」

「やはり、そうか。なら、肉でも食いながら今日はとことん付き合ってもらうぞ?」

 

 

 ウーゴはその夜、人間たちに取り囲まれて過ごすことになった。当然、逃げようと試みたがセシルを除いても人間の側が強かったため上手くいかない。人間というのは弱い食い物だという常識は、散々に踏み砕かれた。

 幸運だったのはウーゴがまだ年若く、彼の側からも徐々に好奇心が出てきたところである。ある意味で彼もまた【最近の若いものは】と呼ばれるような存在だったのだろう。

 ただ、レメディオスだけは嫌悪を隠そうともせず、他の者に近づけようともしなかったのはウーゴにも困ったことだった。結局、話が進むのは怪物たるセシルと、年老いた組合長たちだけだった。

 

 

「ふーむ、これは……思っていたよりずっと社会性があるぞ。とりあえず【ン】というのが彼らにとって街の称号だというのが分かったのは前進だな」

「だが、魔法に関してはさっぱり……というより使うのを好まないようだな。知識はあって、防衛手段は用意しているようだが……」

「俺たちからしてみれば人間の方が良くわからないぞ。なぜそんなに街や村が発展していて弱いのだ? お前たちは違うようだが……」

 

 

 一人で干し肉を三人分かじりながらウーゴは呻くように言った。誇りあるトロールとして、この状況はどうかと思わないでもないが、同時に強者には礼儀を払うべきだとも思っている。

 確かに強弱を語れば人間は弱い……だが、同時に例外も存在する。ということをどう説明すれば良いのか男三人は悩んだ。

 

 

「人数が多いから? 色んな職業につけるやつも出てくるし、鍛えれば人間にも強いやつは出てくる。お前たちトロールだって、強いやつもいれば弱いやつもいるんじゃないのか?」

「それに街があるということは家を建てる者もいるはずだ」

「確かにそうだな……人間も俺たちも変わらない? いや、だが人間は俺たちを食わないよな」

「「「食わない、食わない」」」

 

 

 食うものと食われるものという関係は変わらない。だが、それはトロールからの視点だ。人間からすればわざわざトロールの国へと進軍したりはしない。襲ってくるのを防ぐだけだ。

 ウーゴは多くのことを語った。幼少時からどうやって生きてきたか、それに知る限りの街の位置まで喋った。これは種族に対する裏切りではないかと悩みつつも……相手は人間ではなく、自分たちより強い新しい種族なのだと己を誤魔化して。

 

 翌日、ウーゴは解放された。殺されなかったことを喜べば良いのか。死んでも戦うべきだったか。懊悩しつつ一行のキャンプを離れていった。

 

 

「レメ、よく我慢したな。偉い、偉い」

「子ども扱いはやめろ。だが、放してよかったのか? アレも【人喰い】であることに変わりはない。それにこれから出会ったトロールは殺すのだろう?」

「さて……自分でもよく分からん。実際に食っているところを見ないと、憎しみを燃やすのは難しいだけかもしれん。許可をくれたカルはどう思う?」

 

 

 朝の準備をしていたカルカに話を振る。朝日が反射して金髪が輪を作っている。彼女は第0位階魔法で水を溜めているところだった。しばし、桶に水を流しながら過去に思いをはせている。

 

 

「情が移った相手ぐらい、生かして良いのではないかと。それすらしなくなっては、私たちも人間らしくなくなってしまいます。聖王国では亜人種との揉め事が日常茶飯事でしたが、私もそれが平和的に解決しないかと願っていたこともあります」

「うっふっふ。ですが逃がした彼がいずれ人を食らうことがあれば……それもまたセシルさんの責任かもしれませんね。まぁ立場が逆転でもしない限り、種族単位でわかり合うことはないでしょう。ですが、個人間ではひょっとすると……種がまかれたということもあるかと」

 

 

 ケラルトも話に加わった。彼女の言はいつも正しいが、この時はわずかな期待が混ざった。

 結局は最後になってみないと分からないということか。魔導国もここに攻め入る気は当分ないだろう。いずれ責任を取って、ビーストマンの国のように殺戮の限りを尽くさなければならないかもしれない。そう考えながらセシルはレイナースとの稽古に頭を切り替えた。




トロールは名前3文字くらいが平民ではないだろうか
それとも期待を込めて1文字だらけになるのか
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