【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

103 / 155
偵察~トロールの街へ

 溶け込みの天幕(カモフラージュ・テント)の中から遠眼鏡でトロールの街を見張っているのは、レイナースだ。トロールの街はその体格もあって基本的に大きい。建物は全体的に丸っこく、赤レンガのような色をしている。門が開くと衛兵まで出てくる。

 人間の街そっくりな様子に笑いが浮かびそうになる。特にそれが人間より巨大で醜悪な生物がやっているとなれば、真似のようで滑稽にすら映る。

 だが、人間が亜人種に追いやられてきた歴史を考えれば、むしろ人間が彼らの真似をしているのだ。ただ彼らの手が細かい作業に向いてないので、野蛮に見えているだけである。

 

 トロールたちの服装は原色の貫頭衣か、革で作られた素朴な鎧だ。戦士階級と思われるものは巨大なメイスを背負ったりしている。帝国闘技場の武王のように専用に作られた鎧ではないが、だからといって鍛冶技術が無いと判断するのも早計か。

 暮らしぶりも悪く無いようで、人間と比較して蛮族などとは軽く呼べない。

 

 ……風が吹いてきた。トロールは嗅覚に優れる。ならばキャンプ地まで戻るべきだ。これだけは公平に判断できないと思いつつ、レイナースはトロールが女子供の肉を好むことに悪態をついた。風上に立ってしまえば、串焼き屋の肉のように連中の鼻を騒がすだろう。

 溶け込みの天幕(カモフラージュ・テント)を折りたたみ、急いでキャンプ地への道のりを進む。一般的なトロールならレイナースの敵ではないが、数で押し込まれたり、ウォートロールが出てきたらたまらない。チーム内で下っ端といえど、そんな貧乏くじはゴメンだった。

 

 

「おかえり、レイナース。連中はどうだった?」

「はぁ、なんというか……文明的ですわね。人間の朝と全く変わらない様子でしたわ……ただ、牧場は見つけられませんでした。食生活を考えれば牛か豚をどこかで大量に育てているはずですけれど」

 

 

 出迎えたセシルは薪を手に取り、握りつぶした。あまりの握力に折れずに細くなっている。感情が抜け落ちたような顔で、一言付け加える。

 レイナースはビクリと肩を上げた。

 

 

「あるいは人間牧場がな」

 

 

 これがレイナースが偵察に出ていた理由だ。セシルやレメディオスは圧倒的な強さを持つが、捕らえられている人間たちを見ればどうするか想像がつかない。

 駆け出して救出するなら良い方だろう。最悪の場合、トロールというトロールを斬り殺しにかかる。また性質(たち)の悪いことに、レメディオスはともかくセシルは国を相手取って戦える怪物中の怪物なので始末におえない。

 

 

「トロールたちは本当に人間を捕らえているのでしょうか?」

「カル様、ソレに関しては残念ながらほぼ確実でしょう」

 

 

 トロールが客をもてなす際に、最高の料理は人間の胎児だという。ならば外交上必ずストックがあるであろう。例えば人間の王族が夏に冷たいものが食べたいという時、氷室に厳重に保管されていた天然物の氷が出されるようなものだ。もっとも氷なら魔法で済ませてしまえるが。

 それに文明的ということは権力層や富裕層もいるはずだ。そういったトロールたちのために仕入れるルートか、自前の採集場があることは疑いない。

 

 ふむ、とアインザックは思考に耽った。現状、魔導国冒険者一行は目的を完璧に果たしつつある。街から外れてさえいれば、敵対生物に出会うこともない状況で、植生や地理を観察できるのだから当然だ。

 問題は【トロールの国】という文明と非友好的な状態で接触するからだ。血気盛んな若者たちのやり取りを一歩引いた視点で見られるアインザックは思考する。これがカルサナス都市国家連合のような国であったなら、魔導国の外交とぶつかる可能性があるため問題になる。

 ……だが、トロールの国との接触において、そんな気遣いが必要か? 別に我々は魔導国の旗を背負って行動しているわけではない。実際には背後につきまとうが、物質的にはただの冒険者だ。

 実際に接触すれば街の名も分かるし、人間種を別の場所へ移すことも可能になる。いや、そもそも見つからないようにできないだろうか。

 

 

「セシル君、そんなに気になるならやってみるかね」

 

 

 セシルは夜中に草原の端に立っていた。ここから街へと一歩踏み出せば、草の匂いが消えてトロールたちにバレてしまうだろう。

 そう考えて随分と狭い考えでいたことを自嘲した。いや、無意識に思いたがっていたのかもしれない。自分は普通の人間だと。皆と一緒に行動すべきだと型にはめていた。

 

 

「〈無臭(オーダレス)〉、〈透明化(インヴィジビリティ)〉、〈飛行(フライ)〉」

 

 

 セシルは魔法詠唱者(マジックキャスター)としては信仰系に入る。魔力系魔法は第三位階までしか行使できず完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)は使えない。

 だが第三位階までの力を使えば、限りなくそれに近いことができる。元々【ユグドラシル】において優れた魔法詠唱者(マジックキャスター)は魔法の効果を記憶して、低位の魔法を上手く使うものだ。

 

 飛行(フライ)を使って高高度まで上昇した後、急降下してセシルは城壁の端にとりついた。ここから先は注意が必要だ。

 

 

「〈静寂(サイレンス)〉」

 

 

 静寂(サイレンス)は信仰系魔法なので問題なく使える。問題はこれが一定範囲内の音を無差別に消す魔法のため、トロールに勘の良い者がいれば気付かれてしまうことだ。透明化しながらも城壁に降り立ったのは無音の範囲が街に及ばないようにするためだった。

 城壁の上にいるトロールはごくわずかだ。セシルは直刀を抜き、全力疾走を開始する。すれ違ったトロールは一瞬で切り分けられたハムのようになった。再生するまでどれほどかかるか分からない。セシルは一気に駆け抜けて、遠眼鏡で見ることができなかった街の後背を確認した。

 そこにあったのは乱雑な牧場と小麦畑。そして小麦畑の方には小屋があり、そこの前でトロールがあくびをしていた。そのトロールは自分が粉微塵と言えるまでに切り裂かれたと最後まで気付かなかっただろう。

 

 小屋の中にいたのは半裸の人間たちだった。

 

 




遅くなりました

魔法一覧見てると低位なのに便利そうなのが多いですよね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。