【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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軍勢~エントマ

 さて、百人の救出者は帝国に受け入れてもらえるかと、セシルたちは疑問に思いながら一旦帝国へと戻り始めた。人数が人数なのでレイナースやアインザック、ラケシルも同行した。

 流石にこの人数は目立つ。追手がかかるかと思い、セシルは最後衛に付いていた。リーダーであるカルカたちが先導する形になる。

 しかし、トロールの姿は見えず。不可視化などを使用している可能性も考慮していたが、一向に襲撃は起きなかった。帝国の国境線付近でハゴの付けたトロールの戦士たちも引き返し、一息つこうと思っていた矢先のことだった。

 

 予想外に混乱は前から起こった。いつもの対トロールを意識した帝国軍師団以外の部隊が展開しており、それが理由となった。百人の元食糧たちの叫びが聞こえる。

 

 

「嘘つき!」

「やっぱり殺されるんじゃねぇかよぉ!」

「助けて! 助けて!」

 

 

 聞こえる声はそのあたりのもので、百人は逆流しようとした。これにはセシルも少し焦った。本当に危険が前にあるにせよ、錯乱したまま逃げてもまた死に向かうだけだ。

 

 

「シチセイ!」

 

 

 セシルは仕方なくスキルを使用する。それはセシルの持つ直刀から発動するスキルだ。シチセイという名から分かる通り特殊なデータクリスタルを使用したもの。あるいは丙子椒林剣といったアーティファクトの類は七星剣シリーズと呼ばれる。

 それらはあるスキルを共通して使用できるのだが、その効果はホクトセイクンという精神系魔法詠唱者(マジックキャスター)のNPCを召喚することができる。そのレベルはランクで上下するが、セシルのシチセイは伝説(レジェンド)級。レベル80台のホクトセイクンを召喚できる。ちなみに一点もののアーティファクトになるとレベル90以上の強力なホクトセイクンを呼び出せる。

 

 

『〈陽・土行・鎮星〉』

 

 

 セシルによって呼び出されたホクトセイクンが沈静化の精神系魔法を使用すると、暴徒化寸前の人々は表情が抜け落ちてその場に留まった。あまりのレベル差にやり過ぎた感があるが、仕方がない。

 

 前方にセシルは向かったが、これは混乱しても仕方がないという光景が広がっていた。

 それは軍勢だった。しかも生きているのは一番前に出ている将軍と思しき人物一人で、その背後には禍々しい瘴気が渦巻いているようだった。その構成は魂喰らい(ソウルイーター)に騎乗した死の騎士(デス・ナイト)死の騎兵(デス・キャバリエ)で合計200騎。それにトロールに対抗するためであろうデス・ウィザードとデス・プリーストが後方に控えている。

 帝国の属国化により人間と入れ替えられたアンデッド軍だ。これを見てしまえば、只人は逃げ惑って当然だろう。セシルも後方への警戒を捨てて、前の“金鎖”と合流する。

 

 

「これは……どういうことでしょうか」

「カル様、念の為お下がりを」

 

 

 カルカたちは一体ならば同格という力量のおかげか、顔面蒼白になってはいるが気絶したりはしていない。それでもセシルが合流すると露骨にホッとしている。

 考えたくはないが、“金鎖”に対する軍勢ではないかとも取れる。セシルであれば問題なく切り抜けられるが、一行全員を守りながらとなると群衆までは守りきれないだろう。

 人間種救出が魔導国の禁忌に触れたかと思い、将軍へと話しかけようとした時、和服に似た服装と動かない顔の少女が前に出てきた。

 

 

「はじめましてぇ。この度、帝国軍の督戦を命じられた、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータと申しますぅ」

 

 

 甘い声を奏でる少女だが、言ってることは物騒この上ない。要は帝国軍の将軍が指揮を断念したり、魔導国の意に沿わない場合は殺す気でいるのだ。

 帝国軍のアンデッドが元々魔導国産だと考えれば、実質エントマが指揮官のようなものだろう。将軍は帝国を代表して生贄にされたに過ぎない。

 

 

「よろしく……で良いのか? エントマ殿、我々はあくまで冒険者部門の者に過ぎないが……」

「はいぃ。いと高き至高の御方のご友人でありますればぁ。よろしくお願いいたしますぅ……ただ、他の方々については特に指示を受けておりませんので、ご注意をぉ。そのうえでアインズ様より、セシル様方には“好きにせよ”というお言葉を預かって参りましたぁ」

 

 

 エントマの表情は動かない。一見して人に近い形だからこそ、カルカたちも憎悪を表出していないが……セシルは自分も真っ当な人間種でないために看破する。この少女は人喰いだ。ただ、それをセシルの前で見せないぐらいの配慮はできる人材だ。

 そういった意味では、ある程度信頼して良い。最近はトロールとも交渉していたのだ。それに比べれば魔導国にもいたとして何の問題もない。あくまでセシルとしてはであり、レメディオスなどは意見が異なるだろうが。

 つまり……“金鎖”として引き続き活動を続けるだけだ。これは与えられた猶予期間。その時間の中でどれだけ引き取れるか。自分たちも魔導国に所属している身で競争の真似事になってしまうが、“金鎖”というのはそういうチームだ。

 

 この場で最も強者である立場として、セシルは質問を重ねていく。

 

 

「帝国を介した、侵略戦争ですか。本格的な侵攻はいつから?」

「ここにいる第八軍は早速出発させますが……人間の軍隊は準備に時間がかかって駄目ですねぇ。いくらか遅れてから来ますぅ」

 

 

 アンデッド軍による蹂躙後に、通常の軍隊が維持に回る。これといって捻りもないが、それを可能にするだけの能力値がアンデッドたちには備わっている。これまでにトロールの英雄とは出くわしていないが……エントマがいるのでそれも封じられるだろう。

 固くなっているレメディオスを見てそう思うセシル。エントマという少女はレメディオスと比較しても二、三枚上手だろう。仮に同程度の強者がいたとしても無理に勝つ必要もなく、いざとなれば逃げても良い。これから開かれる戦争の特権階級だ。

 

 

「では、そろそろ出発いたしましょうかぁ。失礼いたしますぅ」

 

 

 死者の軍団が一人の生者を追うように急き立てる様は、まさに地獄だ。将軍は結局一言も発さないまま、込み上げてくるものを吐かないように口を一文字に引きつらせて行く。

 

 

「レイナース、帝国軍はどれくらいでトロールの国に入ると思う?」

「はい、お師匠。兵糧の問題がありますからね。早くて……というか、早くしないといけないでしょうが……一週間はかかると思いますわ」

 

 

 一週間でどれだけ動けるか……しかし、小回りがきく分、混乱にも乗じれるはずである。流石にトロールまで救えはしないが。

 

 

「ぷはぁ! なんだ、あの化け物は!」

「そんなにですか、姉様?」

「ああまぁ、我が剣ほどではないが……魔導国の軍勢にはあの小さいのみたいなのがたくさんいるのか?」

「ああ。だから問題でもあるのだが……」

 

 

 完全に魔導国の味方でいる限り、問題はない。争いになればセシルとてNPCに群がられて危ういだろう。

 

 

「もっと上を狙ってみるか……?」

 

 

 冒険者を超えて、魔導国での地位を獲得する。そうすれば、あるいは……セシルは思い直す。いかんな、自身が無理をして、今ある幸せを軽視するような真似も、カルカたちの意にそぐわない。

 

 

「セシルさん、今はやれることをやりましょう」

「そうだな、カル。しかし、最近は迷ってばかりだ」

 

 

 かつての鉄面皮はどこへやら、苦い笑みが口角をわずかにあげた。




セシルの装備は後書きにしようかとも思いましたが、本文中に組み込むことにしました。
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