【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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薄皮一枚~将軍

 第八軍の将軍ステファノはタフな男だった。それでも顔が引きつっているが、彼以外の者なら恐怖でとっくに頭を抱え込んでうずくまってしまっていただろう。そして、魔導国の目付役に首をすげ替えられていたはずだ。

 かつては1万の軍勢を背に責任感と共にはちきれんばかりの誇りを感じていた身が、今となってはこのざまだ。背にいるのは亡者の軍勢、数はかつてと比べるまでもないが、同時にその暴威は衰えるどころか跳ね上がっている。

 皇帝が魔導国の指示に従って作ったこの軍勢に、ステファノが配置されたのは左遷ではなく期待の表れ、というのがまた笑えない。要は自分を容易く殺せる連中の先頭を切る度胸があると認められているのだ。

 

 

「(だが、まだ最悪ではない。敵は亜人たちであって自国の人間ではないのだから)」

 

 

 魔導国から派遣されてきた督戦官の耳に入らないように、心中だけで己を慰める。奇妙な表情の変わらない、変わった格好の少女。彼女は王国と聖王国で猛威をふるった魔皇ヤルダバオトの傘下にいた悪魔だと、噂には聞いている。見かけで判断するのは愚かなことだ。督戦官は少なくとも自分などより遥かに強いのだ。そうステファノは重ねて自分に言い聞かせる。

 

 そんな彼でも渋々と認めざるを得ないこともあった。それはアンデッドというのはこの上なく、軍隊に向いているということだ。

 なにせ締め付けるまでもなく、命令は絶対遵守。帝国から異国の地まで歩かせても文句の一つも出ない。三時間毎の休止はステファノのためにあるというほどだ。質は均一で、更には極上の戦闘能力。

 まさに軍人が理想とする夢物語。完璧な軍団だ。

 

 

「督戦官殿はいつも何か食べておられるな? 貴官の風習か何かで?」

「んんー。お腹いっぱいにしてきたんですけどねぇ。結構遠くて、お肉をぉ」

「ははっ……左様ですか」

 

 

 どこを見ているかわからないが、そばにいる少女に会話を振ってみた。ともかく見かけは人に近いし、これまで何の横暴も加えてこないからだったが、()()肉かを頭に思い浮かべてしまっただけ損だった。

 願わくば、彼女がトロールの肉で満足できることを四大神に祈った。死の騎兵(デス・キャバリエ)に話しかけたほうがマシだったろう。善悪の差こそあれど騎士道精神という共通の認識がある。バハルス帝国で死の騎兵(デス・キャバリエ)がよくレンタルされるのはそのあたりに理由があるに違いない。

 

 さて、そんな数日を過ごしたステファノの目にもトロールの軍団が見える日がやってきた。トロールの国に国軍という概念こそないものの、戦士階級というものが存在する。だから、待ち構える敵軍に将軍は一つため息をもらした。

 

 

「予想通り、単純な横陣だな。数は二千といったところか」

「予想してたんですかぁ?」

「ああ、はい。督戦官殿。彼らは個人の武勇を重んじる……ゆえに一定の規律を与えるなら分かりやすい形になる……集団戦の演習などしていないのなら命令が単純に伝わる形にせざるを得ないのですよ」

「ふぅん」

 

 

 とはいえ通常のトロールすら金級冒険者と同等なのだ。それが四桁いるとなれば十分過ぎるぐらいに脅威だ。ステファノは自軍を見てみる。数は十分の一。それで敵陣を粉砕しろと言われれば、そいつに罵詈雑言を投げつけて良いはずだ。どこのおとぎ話なのかと。

 だが、ステファノは自信を持って前を向いた。間違いなく大丈夫だ。なぜなら自分の軍勢の方が怖い。

 トロールだぞ? 人間より倍近く大きく、鈍器を手にした彼らは森林すら残骸に変えるだろう。そう反論を考えてみても、だから何なのだ? という答えしか帰ってこない。

 

 まぁ唯一、懸念があるとすれば死の騎士(デス・ナイト)の扱いだ。『あいつを倒せ』などという命令を与えれば日が変わろうとそいつの死体を切り刻んでいる。だから分かりやすい程度に大雑把な指示を出さなければならない。

 

 

死の騎兵(デス・キャバリエ)を前に、鋒矢の陣、敵軍をぶち破った後左右に別れて包囲。死の騎士(デス・ナイト)は敵の左翼と右翼の敵を殺せ」

「将軍はぁ後ろに下がりましょうかぁ」

「足手まといになるに違いないからな……」

 

 

 ステファノが出した指示は教科書通り。だからこそ将軍として、やや興奮している。理想の撃滅方法であり、これを達成したのは歴史に名高い偉人程度しかいない。

 戦争という名の虐殺が始まった。

 

 中央のトロールは王国や帝国の未開地で見られる同種とは、文明の進歩が段違いだ。全員が金属製のメイスを持ち、革で丁寧に作られた鎧を着ている。横陣の弱点も承知の上だが、個体差が大きい種族なのでそうしているだけだ。

 彼らの強さは怒涛の攻めにある。横に広がった戦士たちが押し寄せるのは、津波のようなものだった。さらに再生力が高い彼らは多少の傷なら、少し後方に下がっていれば元通り。再び波となって敵を襲う。人間とは根本的に違うのだ。

 

 しかし、この戦いではトロールが強いということがより凄惨な結果を生んだ。何の冗談だろう。津波はそのど真ん中を容易くぶち抜かれた。名前のとおりに矢のようだったが、矢が津波を神話よろしく引き裂いたのだ。

 理不尽はまだ続く。予想外の出来事にも臆せず、死の騎士(デス・ナイト)とぶつかりあったトロールたちは壁にぶち当たったようにあっさりと盾で弾かれた。さらに魂喰らい(ソウルイーター)の『魂喰らい』で()()()、屍を晒す。死ぬまでの間に必死にメイスを叩きつけるトロールたちは、半端に強いために長く苦しんだ。

 

 さらに死の騎兵(デス・キャバリエ)が倒した成果を完璧にするべく、デス・ウィザードとデス・プリーストから火や酸がばら撒かれていく。逃げ場もなく、死にかけのまま肉塊に留められるトロールは復活と瀕死を繰り返し続けた。

 死の騎士(デス・ナイト)が直接殺せないことから、死骸を使役されることがなかったことが唯一の救いだった。

 戦いは最後の肉塊が焼かれるまで続いた。その間、トロールはその強さと数ゆえにひたすら苦しみ続けた。

 

 戦場跡でトロールの死骸から腕を一本引きちぎったエントマは、それをがじりと齧る。

 

 

「……脂っこおぃ」

 

 

 その言葉がトロールの第一陣の全滅を宣言する一言だった。エントマは千切った腕を投げ捨てる。

 ステファノは地獄の後の光景で、おかしくなったように気味の悪い微笑をたたえていた。あれだけいたトロールですら魔導国のアンデッドの薄皮一枚剥げなかったのだ。采配や士気など何の役にも立たない次元。魔導国がある地域の将来が見えるようだった。

 

 




五十倍ぐらいオーバーキルだと思う
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