死の軍団とはよく言ったものだ。帝国に置かれた魔導国の軍勢、そしてトロールの軍勢、両方に当てはまる。ただし前者は文字通りの死者の軍団なのに対し、後者は死へ導かれていくソレだ。
「ただ……まぁ仕方ないんだろうな。相性が悪すぎる」
魔法の遠眼鏡で遠くの様子をうかがっていたセシルは呟く。
それを覆したのが
明日には帝国の
「お師匠、トロールに動きがありましたわ」
「どうやらトロールの王は馬鹿ではなかったようだが……結果的に馬鹿をしたな」
レメディオスとレイナースという珍しい組み合わせに、報告を受ける。彼女たちが見張っていたのはトロールの首都だ。アンデッド軍団が攻めるほうが早いかと思ったが、意外に運が良かった。
この二人は戦闘に関しては頭が回る。レメディオスなぞ日頃との落差に、セシルを少し動揺させるほどだ。
「そうか。最後の仕事もできそうだな。カルたちと合流して、作戦を決めようか」
仮のキャンプ地に戻ってきたセシルたちをカルカたちが出迎える。既に準備は整えられ、あとは話し合うだけとなっている。二人の組合長は顔が強張っている。最後の戦いでは全員に役割があるのだ。最後……つまり首都に残された
「さてレメ、レイナースさん。まずは目にしたことをお話してください」
「カル様。私のことはどうか呼び捨てでお願いしますわ……トロールの首都から大出陣の様子が見受けられました。これまでの行動からトロールは軍勢を二千で分ける習慣があるようですが……見受けられた行軍は十にも分かれていました。つまり……総勢二万の動員ですわ」
二万という数を聞いて、一同からほぅ、という音が口から漏れた。帝国なら軍団二つの数だが、個体数がトロールはそれほど多くない。数として見ても単純に多いという印象を与えてくる。
「うぅむ。亜人種の王だが、果断と言ってよかろうな。大した割り切りの良さだ」
「あら、姉様が亜人を褒めるなんて珍しいですね」
「確かに業腹だが、認めるところは認めねば、勝てるものも勝てなくなるからな」
帝国のアンデッド軍団は数としては三百程度。軍団を一つずつぶつけても逐次投入とは馬鹿にされない数だが、トロールの王は敗北を真摯に受け止められるのだろう。一気に敵をすり潰すつもりで十倍の数を投じたのだ。
……根本的に質が違いすぎるということはあるが、それは知っている身だからこそ言えることだ。トロール王の判断は間違っていない。もっとも大軍で小勢にどうやって攻撃を加えるのか? そこには興味がある。
「しかし、王自らの姿は軍勢に確認できたのかね」
「トロールの王がどのような格好をしているのかは分かりかねますけれど、いるようには見受けられませんでしたわね」
「そうなると、王族と近衛ぐらいは残っていると見るべきだな」
アインザックとラケシルは思案顔になる。こっそりと忍んで終わらせることができなくなったのだから、当然だ。トロールの種族性からすると、王族が弱いということはないだろう。もちろん近衛もだ。
「戦闘班がバラけてしまいますね。セシルさん、あのホクトセイクンとかいう召喚術は救出班に回せますか?」
「それしかないか……代わりにラケシル組合長と俺が組んで、王族を巻き込んで大暴れする」
トロールのトドメに使う酸や炎を補う予定だったホクトセイクンを、ラケシルと入れ替える。土壇場での変更だが、これはこれで悪くない。救出班の戦力が大きく上がるためだ。
「その代わり、レメとレイナースの負担が大きくなるな……ウォートロールが出てきたら多少余裕があっても相手にしないよう」
「むしろ……もっと無理やりな方法の方が良いんじゃないでしょうか」
カルカが困ったような顔をしながら、提案する。方向性が違うとはいえ、彼女も知恵者だ。その意見は聞くに値する。
「ええと……まず、我々はトロールに対して恨みがあるわけでもなければ、現在の戦争に加担する必要もありません。だからセシルさんは“好きにしろ”なんて言われてるわけですし」
それは確かにその通り。少なくともトロール王の首をとって、喜ぶような趣味は一行にはない。だが、王族たちとの交戦を前提に、突撃・撹乱・救出・撤退と作戦を立てている。
「だから、別に戦闘班と救出班に分けなくても……全員で救出して、全員で護衛すればバランスを考慮する必要もなくなります」
「確かにソレも有りだな。問題は襲撃した際、人質を取られたりする場合がある。速度がより求められてしまうのが難点だが」
カルカの言う通りに運ぶには、既に人間の救出事件が知れ渡っていることが壁となる。ついでに城内の構造を知り尽くしている必要もある。
人質ごと攻撃して良いのならそれが最良ではあるだろう。
「駄目ですか……」
「いや、悪くはないんだ。あと一つ……そうか」
カルカの案なら確かに退路の確保のために、レメディオスとレイナースが兵士たちを相手にする必要はなくなる。そして、王の地位が高いならば。
「目には目を歯には歯をっていう言葉知っているか? こういうのはどうだろう……」
「ああ、なんとなくやりたいことが分かりました。確かにそれなら姉様とレイナースさんもこちらに来れますね」
汚れ仕事を任せないようにしてきたが、元の作戦でもセシルは玉座へと近づく予定だったのだ。むしろ慈悲かもしれないとケラルトは思った。それにこの男、実はこういうことが好きでやってるのではないかと、今更思った。
明けましておめでとうございます。
良ければ本年もよろしくお願いします。