【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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オークション~老婆

 バハルス帝国の帝都アーウィンタール。その街の劇場によく似た施設にセシルとカルカはいた。

 セシルが装備をインベントリに入れて、二人共貴人のような格好をしている。ここではこれが普通の格好だ。当然、整然と並んだ座席に座った人々も同じような格好をしており、財布の中身が豊かであることを示している。中には粛清を上手く逃れた貴族もいれば、セシルたちと同じように擬態した冒険者もいるだろう。

 

 そんな人物たちが集まっているここは、オークション会場だった。

 様々な品物が運び込まれ、オークショニアがその価値を朗々と説明しては競りにかけていく。今もただのガラス細工にしか見えない代物が、家屋と同等の値段で取引されて客は熱狂している。

 だが、セシルはつまらなそうな顔をしている。そんな彼を、審美眼があるカルカは困ったように微笑んで見ていた。

 

 

「今のは百年前に名工として知られていた職人の品で、大変貴重なものなんですよ。花を活けると、その花弁に合わせて輝きを変えたように見えるんです。聖王国の城にも一つありました」

「……知ってる。マチューの花瓶だ。俺の世界にあった万華鏡っていうのを参考に作ったんだよ。よくもまぁ俺の説明から再現できるなと感心した。だから実質あいつの発明だった……あいつは世界に広がっていくことを目指していたんだが、高級品扱いか」

 

 

 セシルに審美眼は無いし、歴史的価値にいたってはもっとよく分からない。良いな、と思った品が安値で売り飛ばされたりして若干ふてくされていたのだ。

 ただ心動かされた品があろうと、この場では自重する。今回の目的はレメディオスとレイナースの装備だ。レメディオスはレベルの上昇に伴って、聖剣サファルリシアが若干見合わなくなってきた。レイナースは全体的に四騎士時代より低位の装備になっている。

 セシルの持ち物にはもうレベル制限が低い装備は無い。

 魔導国に戻れば立場を乱用してナザリックの鍛冶長に作ってもらうという手もあるが……できるだけやりたくないのがセシルの内心である。

 

 ただまぁカルカとのデートのようなものでもある。機嫌を無理やり上昇させて、セシルはこの場を楽しむことにした。ふっと微笑んで目を合わせる。

 

 

「レメの聖剣は四大聖剣の一つなんだろう? 他の剣がこういうところに流れて来ることはあるのかな」

「ど、どうでしょう? 他の三本は正剣、清剣、生剣と呼ばれていますが……流石に持ち主が手放すとは思えませんね。所有者自体不明ですが……あっ剣が出てきましたよ」

 

 

 うねった刀身を持ち、色は黒の剣だ。オークショニアが声を張り上げる。

 

 

「今度は今回の目玉! 山小人(ドワーフ)が二百年前に作り上げた逸品! 残念ながら工房名は調べがつきませんでしたが……四つものルーンが刻まれた神秘なる剣! 所有者の前に氷の盾を形成するなど様々な効果が、鋭い切れ味と共にあなたの身を守るでしょう!」

「どうですか、アレは?」

「ううん、まさかコレもアイツの宣伝じゃないだろうな……? あぁ、近くで見ないと細かいところは分からないが……レメの聖剣より一枚以上落ちる気がするな」

 

 

 道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)が使えない身としては、セシルも勘で答えるしかない。効果としては中々面白い気もするが……始まった競りにセシルも参加しない。結局最後は冒険者らしき、顔に傷のある男が競り落とした。アダマンタイト級冒険者でも相当な金額だ。

 

 

「今のが目玉ということは、これ以上良いものは出ないかな?」

「少なくとも剣に関しては期待できませんね。槍や護符が出品されるのを待ちますか? 現状、レイナースさんの装備に期待しても良いと思いますが」

「いつもならすぐに出てるところだが……久々にカルと一緒だからな。見世物を楽しむことにするか」

「あ……ぅ……」

 

 

 セシルの発言に真っ赤な顔で応えるカルカ。好意を伝えることの少ないセシルだが、伝えるときには飾らない。一度会ったぐらいでは良いところの分からない男であるが、長く付き合えば中々の女たらしだ。椅子の肘置きに乗せられた手がぎゅっと繋がれる。

 

 

「つ、次も剣みたいですねっ」

「ああ……初心者には手頃だが、今のレメにはな……カルの顔を見ていた方が面白い」

「……からかってますね?」

「嘘は言ってないがな。その反応でよく前の立場が務まったもんだ」

 

 

 セシルは頭を軽く叩かれたが、握った手はそのままだった。

 

 その後は芸術品が続いて、カルカの解説とともに時間が流れていく。こうもオークションに出される品に欠かないのは、二度続いた政変によって没落した貴族が多いからだ。当然ながら生きていくのに必要ない物から売りに出される。属国化した後も帝国は金回りが良すぎる(・・・・)のだろう。

 そんな時間が過ぎていく中、一つの無骨な指輪が競りにかけられた。確かに見事な細工が彫り込まれているが、材質は鉄にしか見えない。時間を稼ぐための【賑やかし】の品だろうと誰もが思っているようだった。

 オークショニアの懸命な大声に、セシルは黙って手を挙げた。

 

 オークション会場から出たセシルは安値で買い叩いた指輪をまじまじと見つめ、光に当てたりして観察していた。それは確かに単なる鉄でできていた。

 

 

「あ、あの……セシルさん、まさかその指輪を私に……」

「間違いない……!」

 

 

 え? とカルカは間抜けな声を出した。一方でセシルは少し興奮している。この何ともない鉄の指輪の正体、それは……

 

 

「これはユグドラシルの指輪! しかもデータクリスタルを組み込んでいない器の状態だ……!」

「ゆぐどらしる?」

「ここではない別の世界の……あー、俺が元いた世界で作られた物だよ。材質がアイアンだから、入れられるデータクリスタルは一個か二個だろうが……自由に効果が作れる!」

 

 

 できるだけ装備などは自分たちで獲得していきたい。それは冒険者としてのセシルのスタンスだ。魔導国に所属している身なので完全には不可能だが、このような思いがけない出会いがあると嬉しくなる。

 

 

「さて……何の効果を付けるかな。連携重視で伝言(メッセージ)に似た効果を付与するか? 状態異常に対する耐性は他の装備でも補えるから……」

 

 

 カルカが残念そうにため息をもらす横で、セシルは旧知の仲にでも出会ったように思考に没頭していた。が、いきなり後ろを振り返り、インベントリからシチセイを取り出した。

 それに応じるかのように雑踏の中から一人のローブ姿が抜け出してくる。

 

 

「これは驚いたね。わしの友達にもそう簡単に気付かれたことはないんじゃが……」

「集団の中にあった大きめの気配がいきなり消えたんだ。警戒するのは基本中の基本だ。完全な不可知化なんてものもあるんだから」

 

 

 セシルはカルカを背に隠す。相対した感覚ではカルカには多少危険な相手だった。それはセシルにはそうでもないことを意味していたが、油断はできない。

 ローブのフードが下ろされる。背筋はしっかりと伸びているが、老婆だった。

 

 

「そう警戒せんでくれんかね。わしはリグリット。多少、理由があってね。あんたが競り落とした指輪が欲しいんだよ。ぷれいやーの戦士?」

「あんたは……」

 

 

 何者か、という言葉を発する前にカルカが背後から答えを喋った。

 

 

「まさか、十三英雄の一人……リグリット・ベルスー・カウラウ!? 生きているなんて……」

 

 

 その言葉に老婆は大笑して返事とした。あいにくとセシルにとっては馴染みの名だったが、見境なく暴れる性質でもないらしいと思いつつ直刀は構えたままだった。




ちなみにセシルは神器級の装備を一つ持っています
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