【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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売り買い~リグリット

 十三英雄。それはおとぎ話となった存在であり、不老のセシルからしても中々に古い者たちだ。かつて現れた【魔神】という存在と戦って封印するという偉業を成した。

 世界を巻き込んでの戦いであったゆえに、人間だけでなくあらゆる種族の英傑たちが集った集団。もっと言えば、十三人ですらなかったそうだが。

 大方、人間種の国では政治的な問題で亜人の英雄などは外されたのであろうと、セシルは考えた。彼の故郷で鉄板ネタであった【五人いるのに四天王】を想起させる。

 

 その一人である“死者使い”リグリット・ベルスー・カウラウを名乗る老婆がじっくりと指輪を見分している。それは既に自分の持ち物なのだが、プレイヤーを知る存在をどうするかということでセシルも観察を兼ねて見張っている。

 セシルもカルカも、彼女が本人であると確信できない。そうなるとリグリットは二百歳を超える存在になってしまうからだが……それより歳上であるセシルが言えることではない。

 

 指輪を取り返してからリグリットの案内で場所を変え、少し暗い酒場兼宿屋に移動する。相手に場所を決めさせるのはいささか不用心だが、店内は一定の秩序が保たれているように見えた。

 

 やがて老婆は懐かしげな声を発した。

 

 

「間違いないね。リーダーの持っていた指輪だよ。大したことはなく、使い道もないって言ってたっけね」

「と、言うとリーダーはプレイヤーだったのか。それにしては使い道がないというのも妙だが」

 

 

 確かに鉄の指輪は大した効果は持たせられない。下級の装備品であり、データクリスタルを多く組み込むことが不可能だからだ。だが逆に言えば一つ二つの効果は持たせられる。アインズやセシルにとっては無益なアイテムでも、この世界の住人にとってはそうでもない。

 レイナースにとっては有益な装備にできると思ったから、セシルも手に入れたのだ。

 

 

「これを競り落とした額の倍で譲って貰えないかね?」

「断る。これを有用に使う手段を俺は持っているからな。逆に問わせてもらえば、あんたがこれを手に入れてどうするつもりだ。見たところあんたはプレイヤーじゃないな」

 

 

 正確に言えば見たものだけでなく、発音なども含めての推測だった。プレイヤーについての知識は持っているが、それが意味するところは半分程度の理解。例えばプレイヤーが異界の住人ということは知っていても、そこがどんな場所かどんな状況だったかは知らない。そんなところだろう。

 

 リグリットはシワを歪ませて、不快感を表明した。それこそ物語に出てくる魔女の婆さんといった雰囲気を醸し出す。

 

 

「無粋なことを聞くね。正直に言えばわしではこれを使えんし、もっと良いものを持っている。それでもね、この老いぼれにも思い出ってのがあるんだよ。実際、これが欲しいと思ったのも……出くわしたことすらたまたまさ。アンタにあったのは別の要件だからね」

 

 

 セシルは参ったな……という風に顔をしかめさせた。彼はこういった話には弱いのだ。それこそアインズに言われたように人間種としての判断に引きずられているというほどに。

 それを見越したようにカルカは微笑んでセシルを見守っている。俺はそれほどお人好しではないんだが、そう思いつつセシルはため息をついた。

 

 

「はぁ……代わりに剣か槍を寄越せ。貴重な品物なら情報だけでも構わん。それが対価だ」

「それこそわしがため息をつきたいよ。本来、魔導国にいるアンタらに物を託すのは気が引けるんだよ。仕方ないね。本来の目的にも答えてくれるなら、代わりの品を出そう。国はともかく、アンタら自体は邪悪な者じゃあなさそうだからね」

「……何が聞きたい?」

「アンタの持つ武器と、ぎるど武器、ああ、それに強化鎧のことじゃな」

 

 

 セシルの顔が今度は困惑した。なんだってそんなことを知りたがるのか分からないし……口調からすると、伝聞のように感じる。それに詳しくないことも多い。

 

 

「俺の剣はこのシチセイだ。ほら」

 

 

 驚いたことにセシルは愛刀を台の上に置いた。あまりに雑な扱いにリグリットは微妙な顔をしたが、手に取ろうとして理由が分かった。確かに柄をしっかりと掴んだはずなのに、つるりと手からスっぽ抜けたのだ。

 その瞬間、店の客の一人がシチセイに飛びついたが、これも握ることは出来なかった。店内で盗みを働こうとした男は、他の客にボコボコに殴られ蹴られて宿の外に放り出された。

 

 

「適性と能力値の不足だ。婆さん、あんた魔法詠唱者(マジックキャスター)だろ? まぁ剣を持つ魔法詠唱者(マジックキャスター)がいないわけではないが、専用の調整か別の方法が必要になるからな」

 

 

 セシルとて日頃はあっさりと愛刀を渡したりはしないが、周囲に所持可能な者がいないからこその行為だ。もっとも、アインズが見ていたのならため息をついてたしなめたであろうが。

 

 

「年寄をからかうんじゃないよ。それで、これはどれくらいの武器なんだい?」

「使い手が俺と同格なら中々ってところかな。一番質のいい武器からは少し落ちる」

 

 

 シチセイは伝説級(レジェンド)神器級(ゴッズ)には届かない。それでも計算された作りをしているため、ユグドラシル時代でも恥ずかしくない一品だ。

 そもそも神器級(ゴッズ)で全身を固めているアインズの方がおかしいのだ。セシルの神器級(ゴッズ)装備はネックレスだけであるが、一つも持っていないプレイヤーさえ珍しくなかったのだ。

 

 ……セシルはシチセイの細かい性能は誰にも喋っていない。手堅い性能ではあるが、対策など取られたくないからだ。それでもかなりの情報を渡しているつもりである。

 これでは現物を貰わなければ割に合わない。

 

 

「ふむぅ……ではぎるど武器については?」

「知らん。というかギルド武器が何なのか、わかってないだろ」

 

 

 ここまで来ると、リグリットが誰かの遣いで来ているのは確定している。その人物は対プレイヤーを想定していると考えられた。

 

 もっともギルド武器については本当に知らないとしか言えないのである。アインズ・ウール・ゴウンの物は部外者ゆえ、当然知らない。

 セシル自身については拠点であった〈翠晶の森〉は一緒に転移してきていない。仮に転移してきており、どこかにあるとしてもギルド長ではないセシルには使用することは不可能だ。

 

 

「強化鎧についてもなぁ……使ってた人も近くにいなかった。魔導国が持っているかもな」

 

 

 多分、パワードスーツのことを指して強化鎧と言っているのだろう。初心者救済用を目的として導入されたものの時期が被っておらず、セシルは装備したこともなかった。

 

 

「情報はほとんど無しかね……」

「というかユグドラシルでは情報は秘匿されるものだったからな。言っておくが俺は本気で知らんぞ」

 

 

 知識の量としてはそれこそ魔導王が一番だろう。こうしてセシルはシチセイを所有していること以外、話さずに終わった。

 

 

「残念な結果だったが、情報というのはそんなものだろう? さて、指輪と合わせて、何を対価にしてくれる?」

「ふむ……お前さんに託すのも良いじゃろう。伝説の十二剣の一つ、コランデュラムと指輪を交換しよう。炎と水を両立させた剣じゃ」

 

 

 セシルが手に取って鞘から抜いてみると、透けた刀身がやや曲線を描く剣だった。性能もそう悪くはなさそうである。

 ……レメディオスの持っていた剣は四大聖剣だったはずだ。そこに今度は伝説の十二剣。なんだかありがたみが無くなってくるような気がしてきたセシルだった。

 

 

「さて……わしはもう行くよ。敵にならんことを祈っている」

「ああ。こちらとしても知人を切りたくはない」

 

 

 来たときと同じくあっさりと伝説の英雄は去っていった。

 

 

「私はなんだか置いてけぼりでしたね」

「すまなかったな。だが、レメにはいい土産ができたな。後は槍だが……地道に探すしかないか」

 

 

 それにしても、と今まで入っていた酒場を見上げる。古びてはいるが、しっかりとした造り。だが、どこか後ろ暗いところがあった。

 

 

「【歌う林檎亭】か。変な名前」

 

 

 セシルはそれきり、プレイヤーを探っている者がいることと、十三英雄にプレイヤーがいたことを報告しなければならないなと考え始めた。

 唯一明かしたシチセイの存在が後に災いになるとは思っても見なかった。




ちょっとスランプ気味なので無理やり更新しました。
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伝説の十二剣はWEB版からの捏造です。
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