今回の魔導国の行動は戦争を考えたものではない。少なくとも当面の間は、国交を開いて様子を見るつもりだった。そのため、亜人が多いカルサナス都市国家連合に対して、
もちろん、亜人だけの国家ではないため、そちらにも配慮して護衛として人間の騎兵を加えていた。
ソリュシャン・イプシロンはかつて帝国の貴族として行動していたことがあり、帝国と魔導国の融和を象徴するような配置になっている。
つまりは全てポーズだ。威圧が目的でない国ならば、どこでも同じように考えるだろう。
騎兵たちは輝く
確かにアンデッドに支配される現状を恐れる民が魔導国には、多いだろう。だが同時に一定数の者はまさに魔に魅入られるがごとく、街を練り歩くアンデッドの強大さに憧れた。
それら謂わば志願兵たちの望みに、魔導国は驚くほどの真っ当さで応えた。冒険者用に設立途中だった、訓練用のダンジョンで鍛え上げたのだ。
短時間の促成だったが、彼らは帝国の騎士に勝るとも劣らない兵に仕上がった。装備も一文字か二文字かではあるが、ルーンで魔化された装備だ。人間も厚遇しているという、良いアピールになるだろう。
彼らはただの
「さてさて、護衛が必要な顔ぶれには見えないが……アイツは何を懸念してるのやら」
セシルは一人、考えを巡らす。アインズが彼の部下が信奉しているように圧倒的智者ではないと知っている数少ない人間の身ではあるが、だからこそ逆に考えが読めない。
これだけの兵が揃っているなら、経験上大抵の敵からは少なくとも逃げられるだろう。“金鎖”を使う意味は限られてくる。なにせ使節団にはソリュシャン・イプシロンがいる。彼女はセシルを除いた“金鎖”の面々よりも強いだろう。
冒険者が必要な場面があるのか、レベル百のセシルを付けておきたいのか……おそらく考えている内にとりあえずついて行かせようとなったのが真相であろう。アインズは世に言われているような神算鬼謀など持ち合わせていないが、石橋を叩いて渡るような面は持っている。カルサナス都市国家連合にプレイヤーに関連する何かがあるとした場合、そしてそれが敵意あるものであったなら、派遣した大事な
そこでセシルだ。友人ではあるが、かつての仲間たちほど大事ではない。死亡した場合、プレイヤーの蘇生実験にもなる。実に都合の良い友人関係もあったものだが、それをセシルも承知済みのため成り立ってしまう。
「お師匠。出発の準備が整ったそうですわ。予定通り、馬車にはカル様が乗っています。それにしても私だけ馬を借りるというのはどうかと思いますわ……」
「騎乗して警護したことあるのは、お前さんだけだからねぇ。ケラと連携して上手くやってくれ。前方はレメが、最後尾には俺が残る」
「あの……ソリュシャン殿が最初は護衛を必要としないという話でしたけれど、本当でして?」
「動きからして
セシルが気付いたのは単にレベルから来る動体視力だ。そうでなくてもある程度の実力で、観察眼を兼ね備えていれば気付くかもしれない。ソリュシャンという美女の表情や動きには、微細なブレがある。
流石にソリュシャンがスライムということまで確信しているわけではないが、人間種に化けられる異形種だろうとあたりをつけている。その手の種族はユグドラシルには多かった。
「というわけでリーダーのカルには馬車に乗ってもらう。見栄えとしてもその方が良いのもあるけど……五人でできる配分なんて、そう多くは無いからな。指揮とかに関してはむしろお前さんに期待したいんだが……」
「四騎士は陛下のお側にはべることの方が多いのですけれど、期待されているのなら善処しますわ」
むしろ、皇帝の護衛であったレイナースの方が一行を上手く誘導できるだろう。この使節団の人数はそれほど多くもなく、少なくもない。これが軍の戦いになれば、意外なことにレメディオスが頼れるのだが、今回の彼女は前方の強者役だ。
代表三人を乗せた馬車を中心に
カルサナス都市国家連合に着く直前にレメディオスは後ろに引っ込む。自分だと友好的に振る舞えないと分かっているからだ。これは何もレメディオスの亜人嫌いのみが原因ではなく、聖王国の最精鋭を率いてきた彼女はどうしても発言が高圧的になってしまうのだ。
大体、今回の“金鎖”は護衛だ。物事をどうこうする権利など無い。
「道中、見事に何もなかったな」
「帝国の版図内ではもう人を襲うようなモンスターは駆逐されているし、賊の類が襲うには人数が多すぎるものな」
レメディオスとセシルは久しぶりに並んで歩きながら、大リスタランという都市の門でザリュースが名乗りをあげるのを眺めていた。
「レメ。あれ、なんていう種族だ? なんか頭が蛇っぽいが」
「
絶対、何も考えていなかったと思う。その言葉を飲み込んで、セシルは門前のやり取りを見守ることにした。
ソリュシャンとカルカも馬車から降りて、新しく現れた人間種と会話し始めた。事前に文の一つでも届けていたのか、会話はそこまで長くならなかった。
一行は再び前進を始め、都市の門を潜った。
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勝手に亜人種作ろうかな…