大リスタランは奇妙な都市だった。まとめるなら湿地の上に建てられた都市、とそう言えるだろう。水気の多い場所は
この地の
「とはいえ、そんな簡単なことでもないのですよ。日頃が穏やかなので反動がある、とでも言いましょうか。一度なにかの拍子に火が点くと種族ごとにがっしりと団結して、梃子でも動かない。まぁ内戦にならないあたりは、同じ共同体という意識があるようで、助かります」
「我々もかつては部族ごとに固まっていたから、少しは理解できるぞラ・ナル殿。今は魔導国の傘下に入って一致団結したがな、戦に負けてかえって絆ができるとは奇妙なことだ」
ラ・ナルと名乗った
二人と後に続く
「いやはや、魔導国には美しく有能な方が多いのですね。これでは私は同輩に恨まれてしまいますなぁ」
「まぁ、お上手なこと」
ドレス姿のソリュシャンが扇子で口元を隠して笑う。もし、強者が見れば分かったであろうが目が笑っていない。人間の応接役は最初からソリュシャンたちの外見を持ち上げてばかりだ。当然“金鎖”も気付いている。
相手をいい気分にさせるのも確かに手管の一つだろうが、彼はそれしか話していない。これが裏にある何かを隠したいがため、というのなら評価できただろうが、本気でそう思っているようだ。これでは実りあるやり取りは行えないな、とそう判断するしか無い。
有能と評したのなら外交向きの話題でもすればいい。実際、ソリュシャンはそういったことに長けているし、“金鎖”もレメディオス以外はそうだ。折角の事前会談の機会を逃している現状に女性陣一同はため息しか出てこない。
しかし、上の立場の者にとっては逆にギリギリまで歓迎していないことを表したつもりだった。失礼には当たらないように有能なラ・ナルと、無能な善人を当てこそすれ、盛大なパレードも行っていない。
「武力こそ真の力だな。彼らがやってきたという事実だけで、民は卒倒しかねない。まぁ私も気絶して良いものならしたいがね。君はどうだ?」
「いきなり軍隊じゃないだけマシって思ってるよ。あとはいかにこの地に魅力を抱かせないようにして、さっさと次の都市に行ってもらう方策を考えているね。考えているだけだが」
もっとも高い場所にある建造物から、
使節団が来るまでにもう少し時間はあるだろう。ヴァーリエは煙管を加えて一服し始めた、遠眼鏡から目を離したロスカナがとがめるような目でそれを見やる。ヴァーリエはよほど心臓に毛が生えているのか、目線を上向きにしながら呟き出した。
「魔導国の動きはわけがわからない。バハルス帝国を属国にし、リ・エスティーゼ王国もそうするよう調整中だ。覇道こそが望みに見えるが、一方でローブル聖王国とは友好国のままだ。まぁ少数勢力は積極的に取り込んでいるようだが……今度は我らがカルサナス都市国家連合にお越しだ。征服か属国化するのと友好国にする場合の基準が分からないだろう?」
「魔導王はアンデッドだ。我々とは価値観が違っても、おかしくはない。ただ……」
「ただ、なんだい?」
「気がおかしくなったと思われるかも知れないが、魔導国と魔導王の間には齟齬がある気がするんだよ。正直なところ、武力を誇示されたら逆らえない差があるのに、それがアレだ」
都市国家連合に配慮した使節団に、アンデッドのニオイは一切ない。まるで殴りたいのに、殴らないようなチグハグさを感じる。前者と後者のどちらが魔導王で魔導国の思惑なのかは分からないが……どちらかが極力、事態を大きくしたくないようにさえ見えた。
「とりあえず、この大リスタランは魔導国と友好的な通商関係でも結べれば良い。彼らは少なくとも、いきなり殴りかかりたいわけではないようだからね」
「ここを橋頭堡として都市国家連合を蚕食するつもりかもしれないぞ」
「なら尚更だ。橋頭堡、実に結構。少なくとも我々はあちらに付けるし、他の都市から何を言われても真っ先に接触された事実がある。充分にコウモリになれる」
これがカルサナス都市国家連合の弱点だ。都市とは言うが実際には小国家の集まりであり、一体感は当然薄い。なにせ構成する種族すら都市ごとに異なるのだから、ローブル聖王国の北部と南部による関係よりも溝は深い。名物の競技大会も本来は種族間のわだかまりを解消するためだ。
とにかく交渉の余地を探すしか無い。望むものが完全に引き出しの中にあるなら、無敵の敵国は味方にすらなり得る。
一方の相方はそれこそが楽観視ではないかと思う。対案がないので口には出せないが、魔導国を甘く見ている気がする。魔導国は
ロスカナはさっさと白旗をあげた帝国と、法国との間にある距離に対して内心で罵倒を浴びせた。
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