【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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晩餐会~煙

 入ってきた時も奇妙な都市と表現したが、セシルの目にはさらに奇妙な景色が広がっていた。

 ここは大リスタランの迎賓館だ。そして晩餐会でもある。

 人間種のものと違うのはダンスのスペースがないことで、そこを各種族の郷土料理が占めている。いわゆるビュッフェ形式だ。もっとも料理はその中で無難な物だけであろう。本当に各種族の料理が並んでいるなら他種の肉などが含まれてしまう。

 まぁ料理も面白いが、多くの亜人種が人間種の貴族服を身にまとっていることはさらに面白い。蛇身人(スネークマン)のように頭以外はスマートな体型ならば、そこまで違和感は無いが、体に尖った部分がある者などはいかにも窮屈そうだ。

 その点、魔導国の使者団はそれぞれオーダーメイドされた礼服を着用して、卒がない。さらにこの衣類は金属糸を編み込んであり、最低限の防具としても機能する。

 

 

「窮屈そうだな、蜥蜴人(リザードマン)たちは。種族的な格好ということで半裸じゃ駄目だったのかな」

「窮屈なのは私だ。預けた剣は咄嗟に出せるんだろうな?」

 

 

 タキシードを着たセシルの意味もない言葉に、ドレスを着たレメディオスが文句をつけるように返した。

 白と青を基調としたドレスは戦闘に全く向いていない。最後の抵抗なのか着付けの際にはコルセットを腹筋で引きちぎっていた。

 

 

「たまには良いじゃないか。それに似合っているぞ。綺麗だ」

「そっ、そうか? こういうのはカル様や妹にこそだな……」

「今日の花はお前だ。大体他の二人は入ってこれないし、となるとレイナースも付けて置かねばバランス悪いしな」

 

 

 毎度のことだが、カルカとケラルトは権力者と面識があり過ぎる。そのような理由でセシルとレメディオスが中で、他の三人は外での待機となっている。

 

 

「まぁ花と草と言っても、壁に張り付いている他無い。ここが一番見晴らしがきくしな……それと剣は今日極力出せないぞ。だから素手でも結構やれる俺達が中にいるわけだからな」

「……鎧姿で良かった聖騎士時代が懐かしい……」

 

 

 ここは交流の席で、帯剣などしていれば、この都市を信用していないことになる。

 ザリュースも同様で、キツそうな顔をしながら話を続けている。きっと同胞はこの美食が並ぶ席にいかなくて済んだと喜んでいるだろう。

 

 

「確かに護衛の必要があるのかという疑問は湧くがな。今日の花がレメなら、アレはなんというべきかな」

「宝石とか輝きだろう。率直に言えば、誘蛾の龕燈かなにかのようだが……」

 

 

 レメディオスに誰もちょっかいをかけてこない最大の理由が、視界に入る。今日の宴においてソリュシャン・イプシロンは絶好調だった。

 NPCとしてそうあるよう作り出された彼女の美貌は群を抜くものだ。偶然生まれた人間の美女など比較にもならなかった。さらにその肉感的な体躯は健康な男子を惹きつけてやまない。

 意外なことに人間種と似た美意識の亜人も多い。彼らはソリュシャンに群がり、情報や取引を吸い取られていく。まさに火に近づきすぎて死ぬ虫のようだ。

 

 その様を見ながら入れ込むことへの恐怖を学んでいた二人に一体の蛇身人(スネークマン)が近づいてきた。彼は煙管を出したと思ったら、残念そうに引っ込めた後葉巻箱を取り出した。

 

 

「一服どうだね? こんなところで楽しみもないのは疲れるだろう? ああ、それともお楽しみの最中だったのかな。それは悪いことをした」

 

 

 レメディオスとセシルは目線で言葉を交わし、護衛の任務をレメディオスに大きく割り当てた。護衛の気をそらしているうちに事を起こすのは基本中の基本だ。だが、この蛇身人(スネークマン)からはそうした悪意を感じ取れない。おそらくは罠ではないが、警戒だけはすべきだった。

 

 

「いただきます。連れは嗜まないので、ご容赦を……私は」

「魔導国のアダマンタイト級冒険者、セシル殿。それぐらいは知っているよ。私はラ・ヴァーリエという」

「それこそ、それぐらい知っていますよ。会えて光栄です都市長」

「都市長と言っても種族のパワーバランスの関係があるから王様とはいかないがね。まぁそのあたりも知っているようだが……こうして近くに来ると震えが来るな。君の前では全ての肩書は紙切れだ。おそらく魔導王陛下もそうした人物なのだろう」

 

 

 シガーカッターで互いに葉巻を切り、ふかしはじめる。ヴァーリエの方は手が震え、少し斜めになった。

 セシルは葉巻を燻らせながら、どこで葉巻などと出会ったであろうかと思い出せずにいた。それにしてもヴァーリエという人物は随分と多芸らしい。セシルにかかれば瞬きのうちに斬られると理解できるほどには、自身も武に優れている。

 蛇の顔と話すことにセシルは奇妙な感覚を覚えたが、この人物は()()()()であると理解した。何事にも器用な立ち回りができる存在。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ……ではないが、使節団のソリュシャンやザリュースではなく護衛の方に話しかけてくるあたりに、それがうかがえる。

 

 

「君の目から見て、この都市は魔導王陛下のお眼鏡に適うと思うかね?」

 

 

 セシルはどう返答しようか迷った。個人的な付き合いはともかく、自身は一介の所属員に過ぎない。だが、蛇特有の目には真剣さが含まれていたため、真面目に答えることにした。

 

 

「陛下にとっては目に適うでしょう。異形種を含まないという点以外は、都市国家連合と魔導国は近い形なのですから。ただ……」

 

 

 側近の意見があれば話が違ってくる。アインズ・ウール・ゴウンはNPCたちの期待に応えるよう動く。彼が大リスタランを良い都市だと思っても、皆が力で支配すべきと言えばそうするだろう。

 

 

「そうか……安全とは言えないか。答えてくれてありがとう。我々の今の立ち位置が改めて確認できた気がするよ。さて、私も騒ぎに加わってくるとするか」

 

 

 蛇身人(スネークマン)はするすると遠ざかっていく。そのあり方を見てセシルは狸……いや、まさに蛇だなと苦笑する。さっさと最適解を選んで、一番安全な場所に陣取るだろう。

 残った葉巻を吸い終わると二人の人物が近づいてきた。一人はレメディオス、一人はザリュースだ。蜥蜴人(リザードマン)が目を合わせて言う。

 

 

「まったく……代わってくれないか? 田舎ならともかく、都市のやり取りは私には難しすぎる」

「無理だ。まったく未知の勢力相手ならともかく、今回は正式な訪問だからな。ザリュース殿は亜人代表として魔導国の良いところを見せる、というのが期待されてるんだろう? 人間種に代わりは務まらないよ」

「大体、今回我らに依頼されたのは護衛だからな。そこを忘れてもらっては困る」

 

 

 レメディオスはザリュースにもつっけんどんな態度のままだ。ともかく今夜はこの調子で終わり、明日からの会談でソリュシャンが魔導国の態度を通達するだろう。今日のところはレメディオスのドレス姿が見れただけ良かったとセシルは現実逃避を決め込んだ。




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