【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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大リスタラン~交渉

 晩餐会から一夜明け、本格的な交渉が始まった。

 会場となった会議室には部屋の端から端までとどきそうな長机が置かれ、その上に白いテーブルクロスがかけられている。

 

 これでは反対側に座っている人間の言葉など、聞こえないのではないか? そう思ったセシルだったが、口には出さなかった。

 席はこちら側とあちら側と言った感じだ。こちら側の(・・・・)上座にはソリュシャン・イプシロンが座り、蜥蜴人(リザードマン)と人間の護衛から見栄えの良い者が何名か座っている。セシルとレメディオスはソリュシャンの後ろに立って控えて護衛として沈黙していた。。

 ()()()()には都市長の蛇身人(スネークマン)、ラ・ヴァーリエが座り、多くの亜人種が席を占めている。意外なことに特別親しそうに都市長近くに椅子を動かしているのは人間種だった。晩餐会にも出ていなかったロスカナ・ドゥドゥシィだ。

 

 

「では、これから我が魔導国とカルサナス都市国家連合の交渉を始めましょう」

「我が国で宣言をそちらから出されては立つ瀬がないな。それに今回の交渉は連合というよりはこの大リスタランが相手となる。謂わば事前交渉の類だよ、ソリュシャン殿」

 

 

 ムカデに人をくっつけたような亜人種が苦笑混じりに言う。彼は百足人(センチピース)という少数種族の代表だ。この都市では十パーセントにも満たない種族だが、だからといって譲れる立場にはない。加えて都市国家連合には彼の種族が多く住む都市もあるのだ。魔導国に対して有利な点は残らず潰して置きたい種族だ。

 

 

「あなた方が本当にそれでよいのなら構いませんよ。そこの貴方、書類を配るよう」

「はっ!」

 

 

 護衛から出された人間が抱えて持つのは、セシルにとっては懐かしい、書類をまとめるバインダーだった。いや、それ魔導国しか使って無いだろうというのはこの際無視だ。

 当然ながらこの時点で、各国が想像するであろう交渉とはかけ離れている。魔導国は書類を押し付けてきたのだ。どちらが有利かを競う前に行われたそれは、魔導国が完全に上であると主張していた。

 

 

「それが、我らがアインズ・ウール・ゴウン魔導国がそちらに対する要求です」

「なんだコレは……ふざけるな!」

 

 

 紙を読み進めるごとに大リスタランの代表たちから、非難の声があがる。まぁ当然の反応だろう。書いてあるのは基本的な国交条約なのだが、その全てが魔導国有利に設定されているのだから。

 大リスタランの代表たちは昨日まで、今回の交渉を歓迎していたのだ。話半分にせよ魔導国は圧倒的な武力を持つ巨人だ。それがわざわざ自分たちの位置まで降りてきたと、そう思っていた。

 新しい国との交流である。人の行き来なども含めれば、五分近くの契約で損はない。それどころか得とさえ言えただろう。アンデッドを労働力とできる魔導国との取引は、全てがこれまでより安価になる。そうソロバンを弾いていいた者を責めることはできない。

 

 非難の対象は当然、ソリュシャンに行くが、彼女は扇子で口元を隠したまま一切動じない。その下で動揺を隠しているのではなく、ソリュシャンは笑っていた。

 個人としても集団としても、ソリュシャンはナザリック外の存在を見下している。彼女が有能なのはそれを悟られず、情報を軽視しないからだ。

 

 

「……えげつないな」

「納得はしていないが、聖王国は支援を受ける側で良かったんだろうな……」

 

 

 ボソボソと後ろの護衛二人は話す。普通条件はすり合わすものだが、書面にして配るなどいかにも悪辣だ。それで決定という意思を明確にしている。これ以上悪くはなっても良くはならないと、そう言っているようだ。

 そしてセシルとレメディオスも、この場で魔導国の“武力”を示す存在として巻き込まれているのだから笑えない。セシルは居心地悪くなりながら、果たしてあいつ(アインズ)にこういった手段を取れるような迂遠さはあっただろうかと考えた。

 

 一方、ラ・ヴァーリエはこの場で少数派の考えをしていた。悪くない、むしろ良い方の提案だ。所詮、世の中は武力と抑止力、あとは大義名分といったところだ。正直なところヴァーリエは無条件でひれ伏せとさえ言われると思っていた。

 魔導国と戦って勝てないのはもちろん、それどころか地理的に、魔導国側の属国であるバハルス帝国すら抜けない。文字通り勝負にすらならないのだ。

 商売的に見ても、完全に新規の相手だ。欲をかかなければ細やかな利益すら見込める。

 

 

「おい、話がうますぎないか?」

「……気付いたか。だが、これはおそらく……」

 

 

 ロスカナもヴァーリエと同じ少数派の考えだったらしい。そして、当然の疑問にたどり着く。一見、そうは見えないが大リスタランにとって都合が良すぎるのだ。ヴァーリエの人気は下がるだろうが、そこはどうでもいい。このような手管を用いるとなれば、大リスタランを用いて何かが始まるのだろう。

 

 

「話がまとまらないようですわね。一旦休憩なさっては?」

「ありがたく、そうさせてもらうよソリュシャン殿。少しばかり煙が恋しくなった」

 

 

 ヴァーリエは苦笑しながら、ソリュシャンの手の上で踊った。そして覚悟もできた。おそらく、代表の中で賢い者がいたことを見抜かれている。全ては大リスタランのために。

 

 

「ただ……我々大リスタランはこの案を大変、興味深く思っている。そのことは分かっていただきたい」

 

 

 本当ならば、この時点で了承したほうが良いのだろう。だが、反対している代表者たちもこの大リスタランのためを思っているのだ。

 何とか彼らを説得して、納得してもらいたい。そのためには何か切っ掛けが必要だ。別室で煙を燻らせながら、ヴァーリエは考える。

 

 

「駄目だ。あの条件に怒っている代表者の数のほうが多い。思っていたよりは理解してくれるやつが多かったのは救いだが……過半数は取れない」

「彼らは魔導国との力量差を測れていない。魔導国の戦果が余りにも多すぎて、現実感を奪っている」

 

 

 どうすれば分かってもらえるのか……そこまで考えて、ヴァーリエは思いついた。要は彼らが魔導国の武力を実感してくれればいいのだ。

 アレならば誰もが見たがるだろうと、民衆すら納得させられる。ヴェーリエは一日の猶予を求めてソリュシャンへ頭を下げに行った。

 




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