大リスタランの貴賓館に泊まることになった一同だが、突然ソリュシャン・イプシロンによって広部屋に集められた。貴賓館は人間と亜人の違いに配慮して、東棟と西棟に分けられており、
皆を集めたソリュシャンも不承不承といった態度だ。いや、困惑しているのか。予想外の出来事にややイラつきを見せていた。
「明日、私たちはコネリエという競技に参加することになりそうです」
「コネリエ?」
聞き慣れない言葉にセシルは首を傾げた。木の名前にありそうだなと、ごく表層的な感想だった。
そんな様子のセシルに仕方がないと言ったようなポーズを取って、ケラルトが口を開く。
「コネリエというのはカルサナス都市国家連合の都市間で行われる競技大会……その目玉です。それぞれが十人を選出して、〈平和の戦旗〉というマジックアイテムのフィールド内で戦う競技ですね。これ一つで都市の評価が上下するという程の人気ぶりです」
「ほー、バハルス帝国の闘技場とはまた違うのかな」
「言われてみれば、
ケラルトはセシルが物を知らない時、実に嬉しそうだ。“金鎖”の中でも頭脳を担当しているという自負があるのだろう。
セシルも解説で概ね理解できた。血生臭くはならないが、ルールの中で行われることで人気を博す。要はスポーツの上位リーグのようなものだ。人は闘争を求めるが、血ばかりみたいわけではないということだろう。
周囲の
「しかし、昨日聞いた限りでは競技大会は五年に一度しか開かれないはずだが……」
「ラ・ヴァーリエ都市長からの要請です。練習試合のような形にすると……」
ソリュシャンの顔が険しくなった。彼女からすればとっとと魔導国の条件を飲めというのが本音だ。ナザリック至上主義のNPCたちにとっては、今回の条約は過剰なほど慈悲に満ちているものだからだ。
実際、軍事力を比較して見れば、その通りではある。占領しない意図が主たるアインズにあるだろうと思って、ソリュシャンは従っている。
この手の問題に対して知識を持つのはカルカだ。彼女はその知識の一端を披露するべく語りだす。
「おそらくラ・ヴァーリエ都市長としては魔導国の条件を飲みたいのでしょう。ですが、不利な条件をあっさりと飲み込むことに抵抗がある層が思ったより多かった。そこで謂わば模擬戦争であるコネリエで魔導国の力を、代表者と衆目にさらして納得させる。それが狙いかと」
カルカの聖王女としての経験だ。あと少し見せてくれれば、譲ってくれれば、求めてくれれば。そんな思いは国家運営をしていれば山程あったのだ。カルカは為政者としては善良すぎたため、特にそういった機会は多かった。
「なるほど。カルは頼りになるな」
「えへへっ。まぁ今となっては苦い思い出です」
「しかし、そうなると些か厄介ですね……」
「何がだ? 要は勝てば良いんだろう?」
“金鎖”の面々は仲良く話し始めたが、ここでもケラルトは水をさした。レメディオスの言うことも当たっているのだ。そう、勝てば良い。それは絶対条件だし、都市長側もそう思っている。
ソリュシャンはそれを受けて、頭が痛いとでも言うように額を揉んだ……奇妙に深く食い込んでいる。
「問題はどの程度勝てば正解か、ですね」
「それは圧倒的にですわ。向こうの都市長が望んでいるのも、それでしょう?」
レイナースの言葉ももっともだが、パフォーマンスというものがある。
「ええ、圧倒的な勝利というのは前提条件。しかし、観客がいるので素人が見物として楽しめる程度に手加減するのか。それとも本気を見せつけるのか。どちらが良いでしょうね」
「あー、勝つだけならソリュシャン殿一人で良いものな」
これまでの経験上、レメディオス以上の戦士というのは相手側から出てこないだろう。この世界の強者の基準も幅広いが、レイナースで優秀、レメディオスで上澄みといったところだろうとセシルは計算する。もちろんセシルが世界中を見て回ったわけではないので、あっさり覆る前提ではある。
「こう言ってはなんですが、交渉が上手くいっても魔導国に人気が出ることはないでしょう。不平等条約というものですし。同じ亜人種と人間が共存する国としても、異形種やアンデッドまで含んでいる以上、親近感が出るわけではない。私としては民衆受けは無視してひたすら圧勝に一票入れますね」
ケラルトがズバズバと結論を述べたが、納得いく話ではあった。
セシルも自身を省みて好かれる要素が無いように思える。強力な力を持ちながら、ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”に勝てないから迎合している風見鶏。そこで突き進めるようなら、聖王国に戻っているだろう。
まぁセシルについての事情はともかく、アンデッドが玉座に座る国というのはやはり抵抗あるはずだ。
「当然、自国を応援する民衆に冷水を浴びせるわけですわね」
「しかし、そうするとどうしたものか。一応は一国の精鋭を殺さないようにしないといけないわけだ。圧倒しつつとなると我々
レイナースとザリュースの言葉に部屋の中は冷えていった。呑気に冷水を浴びせるという言葉はここにもあるんだな、などと考えていたセシルは突然に視線が集まるのを感じた。
「なんで全員、俺を見ている?」
「手加減しつつ、圧倒的な強さを見せつけ、観戦者に冷水を浴びせる。それが可能な人がそこにいるからです」
「待て待て、ルール上良いのか? 俺は冒険者だぞ!」
「魔導国の冒険者は国に所属している者たちです。実際、未知の勢力と接して戦争になった場合、魔導国が介入するという保証があるでしょう? その逆です」
「ソリュシャン殿じゃ駄目なのか?」
「それも考えましたけれど、私はどちらかといえば暗殺者です。観客から見た場合、どことなく卑怯な印象を受けるでしょう」
セシルの反論はソリュシャンの口撃にことごとく鎮められていく。“金鎖”のメンバーは気の毒そうな顔をしつつ、誰も助けてはくれなかった。
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