【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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コネリエ~レベル差

 五年に一度開かれる競技大会の目玉、コネリエ。その模擬戦というのは実は存在はするのだが、衆目に晒されないものだった。というのも一般的な競技と違い、()()()()訓練の要素のほうが強いためだ。

 なにせ四十年前に失態を演じた都市が、未だに無能の代名詞扱いされているのだ。勝てばもちろん誉れではあるが、それ以上に失敗してはいけない競技と運営側は考えている。

 

 だから、練習試合が公開で行われると聞いて民衆は、喜び半分不安半分といったバランスではあるものの色めき立つ。五年に一度どこかの都市で行われる競技。いくら人気だといっても見に行けない人々が多数を占めるのは当然だ。物理的な距離と生活が間に立ちふさがる。

 

 

「コネリエが見れるなんてな。店があるから、競技大会にはいつも行けないもんだったが……」

「しかし、大リスタランの相手は魔導国っていうじゃないか。大丈夫なのか? アンデッドが治める国だ。どんな化け物が出てきてもおかしくはねぇ」

 

 

 亜人種と人間たちが噂話を飛び交わす。不安も大きいようだが、概ね期待に満ちていた。自分たちが戦う訳では無いし、観客もまた平和の戦旗によって守られる。異形種への不安は、同時に怪物に立ち向かう英雄的光景を煽るスパイスとなっていた。

 

 会場は正規の競技大会が行われる建物と同じものが使われる。帝国の闘技場と違い、長方形を描いていて戦場も同様。戦場は戦同様とでも言うべきか、土を土台に岩などの障害物もあった。遮蔽物として利用するためだろう。

 今、そこでは念入りに整備を行う者たちが行き交っている。練習試合とはいえ、失敗は許されない。急遽決まったこの事態に係員たちは若干呪詛を垂らしながら忙しく動き回っている。

 ラ・ヴァーリエとロスカナはそれらに内心で謝罪しながら、しかし表面上はゆったりと貴賓席から見守る。

 

 

「この試合の思惑を考えれば、とても見てはいられないな。彼らは勝敗が決まっていないものを求めているのだから。果たして平和の戦旗のフィールドが保つかどうか……兵を盾にしてでも観客席に被害がいかないよう手配せねば」

「それはともかく、魔導国は本当に圧勝するんだろうな? さもなければ民衆も代表者も条約に納得しないぞ」

 

 

 ラ・ヴァーリエは煙管から煙を吸い込み、口の中で味わいながら一人の男を思い返していた。彼のような存在は魔導国にどれほどいるのだろう?

 

 

「彼らは当然、私たちの意図を読む。そして思いを汲み取ってくれるだろう。あの男が出てくれば、それだけで茶番になる。選手たちの精神に対して、後で何らかの治療を施さねばならぬかもな」

 

 

 祝宴で言葉を交わした怪物。ただ、その人柄は魔導国に似つかわしくないほどに()()だった。少なくとも命を奪ったりはしないはずだ。

 平和の戦旗は内部の生命を守り、同時に戦火を外に出さない檻だが……その限界を誰も知らない。アダマンタイト級冒険者でも破壊は不可能なはずだ。だが、はずなどという言葉が出てくる時点でラ・ヴァーリエも既に認めていた。そんな保証はどこにもないのだと。

 

 

「命だけは奪わずに済ませてもらいたいものだ」

 

 

 煙管の火を落とすと、貴賓席に各種族の代表者が現れ……最後にソリュシャンがラ・ヴァーリエの横の席に座った。観客たちの声があがる。大リスタランの選手たちの入場に湧いているのだ。槍を持った蛇身人(スネークマン)百足人(センチピース)、そして人間種の魔法詠唱者(マジックキャスター)

 大リスタランの代表選手たちはその体の特徴を活かし、堅実に戦うことで知られている。蛇身人(スネークマン)は障害物の間をすり抜けるように動き回り、槍のリーチで戦場をかき乱す。敵が真っ先に狙うであろう魔法詠唱者(マジックキャスター)百足人(センチピース)が守る……百足人(センチピース)の甲殻は魔化したフルプレートアーマーにすら匹敵すると言われている。

 特に凄いのは第三位階魔法が使える魔法詠唱者(マジックキャスター)が五人も用意されていることであり、彼らの強力な魔法が決定打となるのだ。突き抜けた個がいない代わりに、バランスの良さで対抗するチームと言えた。

 

 

「ソリュシャン殿……昨夜は楽しめたかな?」

「ええ。彼も楽しんでくれたようで、()()()はしゃいでいるようですよ」

「そうか……それは良かった」

 

 

 ラ・ヴァーリエは安堵すると同時に、内心で自分たちの選手に対して頭を下げた。意図は正確に伝わったのだ。

 観客の歓声は終わりざわめきが満ちていく。魔導国の戦士たちの入場だ。

 ザリュースを含めて蜥蜴人(リザードマン)が五人、そして……セシルを先頭に人間兵が残りを占める。思っていたよりも禍々しさがないことに観客たちは安堵しつつも、困惑を隠せない。

 異様なのは陣形だ。前にセシル一人が出て他の兵たちは得物を地面に打ち付けて鼓舞するだけ。見物人たちはこの意味をこれから知ることになるのだ。

 

 審判が開始の旗を振り下ろした。

 

 瞬間、前衛の蛇身人(スネークマン)が爆ぜた。爆ぜるというのはあくまで形容だった。単にセシルに()()()()蛇身人(スネークマン)が、後衛を巻き込んで結界まで叩き飛ばされた……それだけのこと。

 

 

「このぐらいかな……いや強く殴りすぎたか?」

 

 

 モンクなどの素手を武器とする職業や、頑強な亜人種と異形種以外にとって素手は()()()()()()()()として計算される。悲しいかな……つまりこの光景こそがレベル百と良くてレベル二十台の差であった。刀を抜くと殺してしまうのだ。

 そのまま残りの前衛にも裏拳が叩き込まれて、同じように吹き飛んだ。もし視えるものがいたら分かるだろう。セシルの徒手空拳は素人丸出しだった。本当にただ力任せに腕を振っているだけである。

 吹き飛ばされた先に後衛がいるため、護衛の百足人(センチピース)が雄叫びとともに前に出た。その姿を見てセシルは……少し力を込めた。

 

 

「あ……すまない」

 

 

 百足人(センチピース)の甲殻が、小エビのそれのように砕け、ヒビが入っていく。まぁどちらにせよ彼らも吹き飛ぶので問題は無いが。その傷が一生物にならないようセシルは祈った。

 

 

「〈飛行(フライ)〉で射程外から対応するぞ!」

 

 

 残った魔法詠唱者(マジックキャスター)たちは独力で対応すべく空を舞った。だが、その判断が正しかったのかどうか、後衛のリーダー格は飛んだ後で迷った。皮肉にも〈平和の戦旗〉のシールドにより飛べる高さに限界があったのだ。

 それでも結構な高さである。大丈夫なはずだ。あの化け物でもジャンプして追撃などできないし、しないだろう。

 そう考えて各々が〈火球(ファイヤーボール)〉や〈電撃球(エレクトロ・スフィア)〉で地上を狙い撃とうとするが、地上の獲物はただ待ってはいなかった。

 

 

「〈飛行(フライ)〉」

「……は?」

 

 

 そう。待ってはくれなかった。あれほどの身体能力を持ちながら、あろうことか魔法で同じ高度まで上がってきた。火の球が、雷の球が放たれる。それをセシルは遅いと言わんばかりに、ゆらりと躱して一人ひとりを小突いて地面に叩き落とした。

 

 観客も貴賓席も声がない。そもそも正確に見えていたのはソリュシャンぐらいだ。コネリエという集団競技はたった一人によって喜劇へと格下げされた。

 




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