【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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完成~セシル

 大リスタランの選手たちが戦闘不能に陥ったことは、目を凝らさなくとも誰にでも分かった。観客たちは戦士ではない。それでも自都市を代表する選手たちが弱いわけではないことは、知識として知っている。

 楽しみにしていたコネリエがごくわずかな時間で終わったこと。しかも相手はたった一人で終幕させたことが理解できるようになるまで、いくらかの時間が必要だった。それは審判やスタッフにしても同じことだ。大リスタランの選手たちが痙攣している中で弱々しく、のろのろと魔導国が勝利したことが伝えられた。

 

 

「お前の言葉を疑っていた訳では無いが……信じたくは無かった。なんだ、アレは。剣を帯びているのに、素手で選手団を蹴散らして……しかも魔法まで使えるのか。あんなやつらが幾人もいるというのなら……軍隊の意味など無い」

「私はこの結果を知っていた。だが、それでも……実際に見るのではこうも違うのだな」

 

 

 ラ・ヴァーリエは煙管を出しては引っ込めている。狙い通りにことが運んだのだ。一服したくもなるが、自身も鍛えているラ・ヴァーリエはセシルの強さに敬意を通り越して、虚無になりそうだった。

 貴賓席では居並ぶ各種族の代表者が、ソリュシャンを怯えたように見ている。当のソリュシャンはつまらなそうに爪を弄るポーズなど取っていた。

 

 格が違いすぎる。国と国との関係は多種多様な要素で優劣が決まるが、その中で軍事力が飛び抜け過ぎていて比べるのも馬鹿らしい。各代表者たちはそれを受け入れた。何としても大リスタランだけでも生き残るために。

 

 こうして大リスタランは魔導国の要求を修正することなく、条約を締結した。

 

 日が明けて、セシルは窓際で陽光を浴びながら外を羨ましげに見ながらボヤく。

 

 

「さて、こうなってしまうと観光どころではないな。俺が道を歩くと、それこそ化け物扱いされるし……近隣の調査も大リスタラン側が我先にと差し出してるから冒険者稼業もできない」

 

 

 “金鎖”はあてがわれた宿泊施設にこもりっぱなしとなっていた。他の使節団員は蜥蜴人(リザードマン)がソリュシャンの随行員として動いている。人間の兵たちは格好を変えれば特に違和感なく動けるため、それぞれ思うように過ごしているようだ。

 セシルは珍しく気晴らしにでも行きたい気分だった。これまでもマッチポンプの戦いは幾度も行ってきた。力が遥か格下の敵を蹂躙もした。

 だが、昨日の競技は茶番だ。命を奪わずに屈辱感だけを与える。そこのところがどうにも収まりが悪い。

 

 

「セシルさんほど、優しい方はそうそう居られませんのにね」

「優しいやつはそもそも殴ったりしない」

 

 

 カルカから茶の入ったカップを受け取り、口を湿らせる。思えば“金鎖”が誰一人欠けずに揃っているのも珍しい。大抵、一人は何かの依頼に出ているのが常だった。

 

 

「それにしても全ての都市でこれを行うつもりは無いでしょうね? いくらなんでも煽りすぎです。追い詰められたネズミが噛んでくるどころか、パレードを行いますよ」

「まぁ魔導国が都市国家連合のどこまで欲しいかは、聞かされて無いからな」

 

 

 髪をポニーテールにしているケラルトが本のページをめくりながら言う。読んでいる本は【大議論・討論録六】とかいう本で、セシルどころかカルカでも興味は無いに違いない。

 

 

「ぐぬぬぬ……」

「あの、やり直します?」

 

 

 意外なことにレメディオスが椅子に座っている。チェスをレイナースと指しているのだが、結果は想像しやすい。聖騎士団長だった者が盤上遊戯で弱くていいのかと思われるが、かつてのレメディオスは周辺国家でも指折りの戦士だったので許されていた。それに少数の指揮は悪くないとセシルもケラルトから聞いている。

 

 まぁ戦士が暇なのは良いことだと、セシルは静かに瞑想を始めた。武技習得のための試みは時間に余裕があるときにすべきだ。

 修行には程遠いこの空気の中、〈幽体離脱(アストラル・プロジェクション)〉を起動させて意識を手放そうとするが……前回はこの方法で手応えは感じたものの【世界への接続】には至っていない。ぼうっと他の面々を見る。セシルが位階魔法を使う時同様、彼女たちは武技を自然に使っているはず。

 あと一つ何かが必要だ。【喪心】のバッドステータスだけでは不足。ならば、そうだ。自分が、この世界の住人になってしまえば良いのだ。

 

 信仰系幻術〈狂信(ファナティシズム)〉。本来は一種のバーサク状態になる代わりに、怯みやノックバックに対する耐性を得る魔法だ。これを自分にかける。ただし、自分はこの世界の住人であると強く願う。

 セシルが知る由もないが、こうした試みはアインズが捕らえた捕虜を相手に実験していた。

 

 

(あ……)

 

 

 それは大きなカーテンに包まれているようだった。()()()()。ここは大いなる大地。仮初めの世界とは違う、本来の自分の居場所。けれど何かに引っ張られているような感覚がして、不快になる。そちら側はもう壊れているのだから意味が無い。

 戻る手段はあるけれど、戻ってしまえばそこでお終いだと分かっている。そう。()()()()()()。自分が根付いているのは、世界を覆うものの先。セシルは自分が一本の樹になったような気がした。そうして二つの世界にまたがった奇形樹は完成した。

 

 

「……あれ?」

 

 

 セシルは気付けばベッドの上だった。ベッドの横の椅子にはカルカが船を漕ぎながら座っている。起こさないように起き上がってカーテンをめくれば真っ暗だった。

 長い時間眠っていたようだが、セシルは絶好調のような気がしている。

 

 

「カル……カル……」

 

 

 言葉さえ、今までとは違う力を持っているようだ。〈狂信(ファナティシズム)〉はもう解除されているが、気分は変わらなかった。

 何度目かの軽い呼びかけでカルカは目覚め、目尻に涙を溜めながら抱きついてきた。

 

 

「セシルさん!」

「おお、心配かけたな。何時間ぐらい気を失っていた?」

「何時間? もうすぐ三日目ですよ!」

「そんなに。悪かったな。何か言ってから試すべきだった」

 

 

 この後セシルは、レメディオスには訓練兵に戻してやると言われながら胸ぐらを掴まれたり、ケラルトに呆れられたりしたが、レイナースのおかしなモノを見る目が一番こたえた。

 

 そして朝がやってくる。セシルは訓練用の人型藁に向かって言った。

 

 

「〈斬撃〉」

 




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