【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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至高の始まり~セシル

 物事には何であれ壁というものが存在する。物理的な話というより概念的なものだ。初心者と中級者、中級者と上級者というように。

 例えば【ユグドラシル】というゲームではレベルが十離れていれば、勝ち目がないと一般的に言われていた。

 そこから不思議な繋がりを持ったこの世界でもそれは存在している。

 

 そこにセシルという男がやってしまったことの意味がある。限界であったはずのレベル百の壁。そこを武技の習得という、本来あり得ない方法で突破してしまった。それは二つの世界における戦闘者の、新たな境地であり、一種の完成への道。

 道のりは未だ遠いが、それを踏破したとき、あり得ない道筋が情勢に現れるかもしれない。

 

 

「使えるのは〈斬撃〉と〈貫通〉だけか。参照されているのは、あくまでこの世界における経験値に間違いはない。必死になる機会が無かった以上、〈要塞〉や〈加速〉が使えないのは納得しか無い」

「ブツブツと言っているところ悪いが、普通はいきなり武技が使えるようになったりはしないぞ」

「そう言うなレメ。再出発というところでな、相手役が欲しい。習得できるようになるには、木偶相手では足りないんだろう?」

「やらんよりはマシだが。藁人形相手、模擬試合、実戦の順に覚醒していくのは確かだな」

 

 

 闘技場の中央でセシルは直刀を弄りながら、レメディオスと語り合う。

 何しろ武技に関して言えば、レメディオスやレイナースの方がかなりの先達だ。この分野において、セシルは彼女たちの弟子と言って良い。そして、訓練の段ではどちらも師匠役だ。

 

 刀を鞘に収めると、木の棒を手に取りセシルは立ち上がる。訓練を続けるつもりなのだが、今日打ち込んでくれるレメディオスは気色悪そうに腕をさすった。

 

 

「お前には悪いんだが、この視線の多さは何とかならんのか?」

「まぁ、それこそ気持ちは分かるが……仕事をおろそかにするわけにもいかないだろう」

 

 

 この闘技場は先日コネリエが行われた場所だ。ここ最近、ステージに立つのは“金鎖”の面々のみ。そしてそれを観察するのは各都市から駆けつけてきた者たち。

 大リスタランが屈辱的な条件をすすんで飲み下すきっかけとなった、その原因たる戦力を確認しに来ている。既に模擬戦を申し出て、敗北する気はない。

 セシルが当然に最も注目されているが、レメディオスたちもアダマンタイト級冒険者。十分にこの世界の強者足り得るのでそちらも見られている。

 

 

「レイナースは来れないか。二人を相手にするのが一番なんだが」

「私では不足などとは言わないな?」

「言わんよ。これもある種のデートだな」

「……い、いいから始めるぞ」

 

 

 レメディオスは以前手に入れた伝説の十二剣の一つ、コランデュラムを構える。装備の差はできるだけ訓練になるようにだ。

 剛剣が振るわれる。レメディオスは〈剛撃〉を主体とするパワーファイターだ。その一撃は重い。たとえ軽く受け止められるものでも、現在のセシルにはそれが理解できる。あくまでレベル差により軽重がひっくり返っているだけであり、武技の冴えの差は圧倒的だ。

 オリジナルの武技が存在するように、戦闘方法は個性の発露だ。理屈に従っていうなら、セシルは軽戦士(フェンサー)としての戦い方を確立すべきだが、ここはあえて受け止める。無論、〈要塞〉などの防御系武技の習得を目指してのことだ。

 

 セシルは明確に自分の特性をどう伸ばすかが見えている。ユグドラシル時代ならスキルツリーというやつだが、この世界に結びついた現在ではもっと曖昧かつ難しいものだ。

 ゆえにまず土台を作る。〈要塞〉〈加速〉〈能力向上〉は最低限習得しておきたい。防御と回避の経験を積んでいく。

 

 レメディオスは改めてセシルの化け物ぶりを理解させられていた。相手は木の棒で、こちらは魔化されている剣なのに撃ち合いが成立している。観戦している者たちのざわめきが聞こえた。

 しかも、セシルはこれから武技を習得するところであって、特殊な効果は何もない。いや、この調子だともっとも単純な武技である〈斬撃〉だけでこちらは即死するだろう。あくまで防戦の修練を積みたいセシルにレメディオスは付き合わされている。

 

 ただ……どこか()()()と双方が感じている。セシルの強さが圧倒的な点は変わらないが、武技の習得以降何かが変わったように思えるのだ。

 

 

「棒ぐらいは折らせてもらうぞ! 〈剛撃〉!」

「っと、流石に避けさせてもらうよ!」

 

 

 これまでのセシルの強さは()()()のものだった。隔絶した強さでも、ふわふわと浮き世離れしていて同じ剣技に思えなかった。そしてセシル自身もその強さを誇る様子が見られなかった。

 だが、今は違う。はるか遠いことには変わらずとも、地に足がついたようだ。そして合わせるように、訓練の度にその動きが洗練されていく。

 

 

「訓練兵に戻ったか? 稽古ならつけ慣れているぞ!」

「よろしくお願いしますよ。レメ教官」

 

 

 言葉と同時に距離を取るためにセシルが横薙ぎに払う。ただの棒の一閃が、凪いだ湖面の如しだ。もとより自力があるため、周辺国家で恐れられたレメディオスの動きを完璧に模倣してみせる。

 ステータス任せではない領域で一合ごとに強くなる。自分の動きだったため、レメディオスも回避を間に合わせたが、その動きも糧にされるだろう。

 恐らく武技の習得も常軌を逸した早さになるはず。だからこそレメディオスは楽しい。自分の手で至高の剣士が誕生していくのだから、誰だって病みつきになると思える。

 

 

「さて、まだまだ続けたいが……仕事もしないといけないのが辛いところだな。レメ、振りかぶったコースに放つぞ」

「! 〈能力超向上〉……! 〈流水加速〉……!」

 

 

 それでも世界は時間を無限にはくれないから、大きく取った距離を使ってパフォーマンスを見せることとなる。セシルは木の棒を素人丸出しのように掲げて……

 

 

「〈斬撃〉!」

 

 

 瞬間、闘技場が裂けた。

 剣撃を飛ばす〈空斬〉系の武技ではない。ただ単に威力が高すぎて衝撃波が遠くまで飛んだに過ぎない。

 

 カルサナス都市国家連合の人々は、ただの人間が空間を両断する様を見せつけられた。彼らはこれから考えなければならない。こんな連中がいる国との付き合い方を。




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