【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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移動~【大議論】へ

 大リスタランでの生活は大変に充実したものであった。武技を習得したセシルと、それに併せて鍛錬するレメディオスとレイナース。落ち着いて知識を吸収できる時間を得たカルカとケラルト。

 大リスタラン自体は各都市から訪れる特使を相手にするのに忙しいらしいが、それは今回の任務とは関係ないため“金鎖”にとっては貴重な時期だった。

 忙しくしているのはソリュシャンとザリュースぐらいのものだ。ザリュースには気の毒だが、ソリュシャンはナザリックのためならいくら忙しくても問題ない。むしろ仕事が増えて嬉しい手合いだ。

 ただ、そんな時間は無限には湧いてこないもので……

 

 

「移動するのか。その会議をするのにわざわざ」

「【大議論】……の第二次です。ここ大リスタランは既に親魔導国と見なされているので、公平を期すためとのこと。山小人(ドワーフ)が主要部族であるペポ・アロで行われるようです。人間種と亜人種双方に配慮した結果。といったところでしょう」

 

 

 ソリュシャンが決定事項を伝えるように話す。彼女からすれば都市国家連合程度が、魔導国を振り回すのが不快なのだろう。

 【大議論】……ケラルトが読んでいた本に書かれたものであり、カルサナス都市国家連合を現在の形にした出来事だ。都市国家連合はそれほどに対魔導国を意識しているということだろう。

 それも無理からぬことだ。直接の原因としては、隣接しているバハルス帝国が魔導国の属国となっていることが大きいだろう。

 セシルも魔導国の武威を示すのに一役かっている。そのためにコネリエもどきに出場し、鍛錬を人目につくところでやっているのだから。

 

 

「仕事とあらば、問題ない。だけど連中が属国化なんかを求めて来た時、ソリュシャン殿にそれほどの権限があるのか? 一応、国家の代表ではあるけど」

「確かに。そこは〈伝言(メッセージ)〉で確認を取りました。そこで相応しい人材が送られてくることになりました。もっとも相手の出方次第ですから、誰が来るかなどは教えられませんでしたが」

「了解した。引き払う準備をしよう。出発は?」

「明後日の朝となります」

 

 

 こうして、セシルたちもまた引っ越しの準備を始めることにした。ソリュシャンは“金鎖”にさほど興味がないので、告げるだけ告げたら去っていった。なんというか非常にわかりやすい人物である。貴重な戦力で有能な人材と思っていても、至高の系譜でない以上は媚びへつらうことなどしない。

 

 

「カル、指示を頼む」

「では、ケラとレイナースさんは荷物のまとめを。レメは万が一に備えて、使節団の護衛をお願いします。セシルさんは……」

「俺は壊した闘技場の整備に参加してくるよ。終わるかは知らんが、印象は違うだろう」

 

 

 どの道、荷物は全員でかかるほど多くない。それならば立つ鳥跡を濁さずというものだ。そう思い、セシルは闘技場へと向かった。

 

 武技を取得するべく鍛錬を重ねた闘技場には、少しばかりの思い入れがあったようだ。セシルはこのところ、こうした感情を自然と受け止めていた。“この世界と”接続した影響だろうか、自分は異物であるという感覚がすっぽりと抜け落ちた。

 

 闘技場にはまだ先日の〈斬撃〉の跡が残っていた。自身が行ったことであるし、作業者たちに混じって働くことにする。

 

 

「鋤借りるぞ」

「旦那がやるような仕事じゃないですよ。というか若干気まずいっす」

 

 

 人足はセシルと距離を置こうとしている。その態度はいっそ清々しい。彼らにとって、身分が上の人間は同胞ではなく、興じていることも関係ない。

 

 

「まぁ俺にも事情があってね。悪いが、さっさと終わらせさせてもらう」

 

 

 セシルは盛り上がった土で穴を埋め始めた。だが、その速度が尋常ではない。まるで百人の人間がいるかのように進行していく。セシルはこの工事をきっかり一日で終わらせた。その異常さも語り継がれるように。

 

 こうして一行は移動の準備を整えた。これから起こる【大議論】でも出番があるとは思えないから気楽なものだ。

 

 

「大リスタランの土産とか買えなかったな」

「ええと……実は空き時間を使って見に行ったりもしたのですが……」

「お師匠。人間が食べるべきでないものもあるのだと、実感しましたわ」

「そうか……まぁ蛇身人(スネークマン)の街だしな……次のペポ・アロではそのあたり期待できそうだ……魔導国は山小人(ドワーフ)の国と交流があるが、俺たちには縁がなかったからな。酒ばかりだとレメが不安だが」

「む、私とて仕事の最中はわきまえている。依頼が護衛であることを忘れたことはない」

 

 

 竜王国での行動を見るに信用できないなと思うセシル。そこにスルスルと大リスタラン都市長ラ・ヴァーリエが、体をうねらせてやってきた。

 

 

「その護衛の対象に含まれることになったよ。よろしく頼む……それとペポ・アロの特産品はその通り、火酒と干物だよ。強い酒は嫌いではないが、あそこまで強いと少々体に悪い気がしてくる」

「それはまた……仲間には飲み過ぎ無いよう注意しておきます」

 

 

 【大議論】にはラ・ヴァーリエ自身が出向くようだ。ペポ・アロは山に近い場所に位置するため、道中幾つかの都市を通ることになる。その度に権力者が増えていくと思うと、憂鬱になる。当たり前だが権力者というのは一癖も二癖もあるのが普通だ。自都市の立ち位置をわきまえている、ラ・ヴァーリエのような人物は希少だろう。

 

 

「ここに来たのは純粋に挨拶でもある。詮索はしない……魔導国との関係があるからね。なので顔を見せてくれないだろうか、カルカ・ベサーレス様。ケラルト・カストディオ殿」

 

 

 その言葉にレメディオスが剣を握ったが、セシルはそれを押し留めた。この蛇身人(スネークマン)は憶測などでなく、きっちりと調べた上で発言しているのだろう。ならば彼が親魔導国側に立っていると信じたほうが良い。

 

 

「挨拶もしなかった無礼を許してくれると嬉しいのですが……なにせ先代の都市長とは面識がありましたので」

「うっふっふ。国を離れている理由については推測でお願いします」

 

 

 カルカとケラルトが兜を外す。美しい長髪が元の位置に戻り、その顔を空気にさらした。それを見てラ・ヴァーリエは含み笑う。

 

 

「こちらこそ失礼を。私としては魔導国の方針に逆らう気はありませんので、ローブル聖王国での活動にしても深入りする気もまた同様。ただ……魔導国自体とだけでなく、あなた方“金鎖”とも親しく接していきたいだけです。なにかご入用の際は相談していただけると嬉しいですな。それだけの価値がある」

「秘密の共有ですか。玉座にあった頃からそうでしたが、駆け引きは慣れませんね」

「それに……誼を通じておきたいのはセシルさんだけでは? 最悪の場合、隠したナイフになり得るのは彼だけですからねぇ……うっふっふ」

 

 

 ラ・ヴァーリエは笑みを苦笑に変えた。そうできたなら、どれだけ安心できるか。大リスタランだけでなく各都市にもできることは、戦いの場をなんとか交渉だけに押し留めておけるかに限られる。

 利益を求めた瞬間終わる。文字通りの綱渡りだ。【大議論】などと言うが結論へ至るための口論に過ぎない。

 

 

「ナイフを持っていることを見咎められたら、どうなるかね? そのようなことは考えたくもない」

 

 

 話は終わったというように、ラ・ヴァーリエはソリュシャンたちの馬車へと戻っていった。

 前方からレイナースが出発の声を出す。“金鎖”は全員でその周囲を固める。馬車が速度を出したとしても、“金鎖”は二本の足でそれに追いつける。

 

 この集団を襲うものなど居はしないが……もしいたとしたら一国を滅ぼした者として名を残すだろう。

 

 こうしてセシルたちはペポ・アロへと向かった。

 

 

 




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