大リスタランを出発した一行は、途中でカルクサーナスとグランウィッツの権力者と合流しながらペポ・アロへと向かった。この二つの都市は素通りで、セシルはやや勿体ない気がした。
グランウィッツの代表は人間種だったが、カルクサーナスの代表は金属でできたゴーレムのようだった。といっても人形を連想するように角は滑らかで、あくまで表皮に光沢が付いているだけらしい。相変わらず異形種と亜人種の区別はよくつかない。
ペポ・アロは壮麗な都市だった。人間の美意識を
「綺麗な場所だな。ただの観光目的で来れたのなら良かったが……カルは来たことがあるのか?」
「いいえ、流石にここまで国の奥には……平等に回ることなど不可能でしたから、玄関口の大リスタランまででした。ですが、公務で訪れれば景色を楽しむこともできなかったでしょうし、今の立場で来ることができてよかったです」
「そうか……カルクサーナスとグランウィッツも素通りだった。思えば、勿体ないことばかりしている。次は仕事で無いときに、この国を訪れてみよう」
「……はいっ!」
カルカとセシルは一瞬だけ手を繋いで、微笑み合う。仕事中でもこれぐらいは許されても良いはずだと。
ちなみにセシルとカルカはソリュシャンの馬車の右手側にいる。逆にはカストディオ姉妹がいて、先頭にレイナースという具合だ。カルカにとっては役得だったのかもしれない。
「これはまた……」
セシルはたどり着いた議場を見上げて感嘆の声をあげた。崖を彫り込んで作ったもので、まさしく
馬車から要人たちが降り、馬車は引き渡される。“金鎖”も何日かぶりに全員揃って、ソリュシャンとザリュースの護衛に付くことができた。もっともソリュシャン・イプシロンに護衛が必要かどうかは意見の分かれるところだろうが。
「レメ。何も無いと思うけど一応警戒を頼むよ」
「ふふっ。武技初心者だものな。〈危険感知〉。〈可能性知覚〉……まぁこちらが警戒されているから分かりにくいが、敵意と呼べるぐらいの感覚は無いな」
「その類はどうやって習得したら良いんだろうな……ソリュシャン殿。件の人材が送られてくるまでは貴方を重点的に守りますよ」
「……任せます」
「ではザリュース殿にはレイナースとケラを。ソリュシャン殿にはレメとカルを。俺は一番前で盾になる……でいいか? カル?」
「よろしいかと。それに議場というからには使者のお二人が分断される可能性自体、低いと思われます」
一行は視線とざわめきを浴びながら議場内へと、進んでいく。議場内は大理石のような白に近い色の岩でできており、凄まじい閉塞感があった。やがて広い円形の部屋に入る。石の椅子と台が立ち並び、セシルはかつていた世界の講堂を思い出した。
人間種の文官の案内でソリュシャンとザリュースは席につく。護衛であるセシルたちも事前に決めた通りの配置に立った。流石に随員の分の椅子までは無いらしい。他の
それにしても、各種族の代表者が集うだけあって議場は人種の見本市と化している。これだけの種族が対等に話し合うなどできるのか。疑問だなと思っていたセシルの腕をレメディオスの肘が突いた。
「あそこにいる二人……結構できるぞ」
「中心部にいるあいつらか。俺はそこまで細かく分からんが……」
「お前を基準にするんじゃない。私も断言はできないが、カルサナスには“勇者”と“闇騎士”という強者がいると聞いたことがある。多分、あの二人のことだろう」
視線の先には黒尽くめの甲冑姿と、人間種の剣士がいた。レメディオスが言うのだから、恐らくは彼女と同程度の格にあるのだろう。
流石にセシルからすると強敵という感覚は無いが、護衛対象がいるなら話は別だ。注意を払っておく必要があるだろう。
「争うよりは武技とか教わりたいが……俺たちにできるのはここまでだな。ケラが議論に参加するなら話は別だがね。少なくとも俺はこれ以上役に立たない」
「いえ、セシルさんの方が役に立ちますよ。うっふっふ」
いつも通りの笑い声を響かせてケラルトが意味深なことを言う。セシルは【大議論】という言葉を聞いて、ケラルトのような人種こそ役に立つと思ったのだが。
「大リスタランで議事録を読みましたが……議論は議論なのですが、アレはまぁなんと言いますか」
ケラルトが続きを言い出そうとした時、ガベルの音が鳴り静かに【大議論】が始まった。いつの間にか全員が着席し終わっていた。
それからしばらくして――
「なるほど。こういうことか」
前方から飛んできたインク瓶をレイナースがキャッチした。セシルもどうやってか寄ってきた密談希望者の列をさばくのに忙しい。その集団に向かって投げられたカップはレメディオスが取ったが、中身はぶちまけられた。
「我々も敗北するまでは抗ったから、気持ちは理解できるが……ここまで激しくはなかったぞ」
「俗に言う議会の嵐というやつですね」
ザリュースが感慨深く首を振り、ケラルトが楽しげに応じた。
経緯としては魔導国が提示してきた不平等条約で一部の参加者が青筋を立て、そこから属国化を提案してきた代表者が現れて半分ほどの人数がぶち切れた。
「貴様らは魔に魅入られたか! あのようなアンデッドが支配する国の傘下に入ろうなどと!」
「バハルス帝国のときは及び腰だったくせに! 今更勇気が湧いてきたのか!」
「地図も見れないのか! 魔導国がその気になれば我々は貿易の道を一切断たれるのだぞ!」
「すげぇな、あの鹿っぽい人。石の椅子を投げたぞ」
最後はセシルである。
当たり前のことだが、貿易に限ってもなんとか好条件で話を進めたいであろう。そこに属国化まで加わると、愛国心を発揮する者も出てくる。ラ・ヴァーリエのように自都市だけでなく、連合をこそ愛する者も当然いる。
そんな高尚な理屈がなくとも、とにかくなんでもいいから反対という人物までいれば結果はこの通りの混沌だ。
「で、これをどうにかできる人は来るんでしょうね? ソリュシャン殿」
「ええ。もう来られたようです」
ソリュシャンの視線を追うと、空中に
その時、中央の議長席のあたりに大音量で降り立った何者か。
「騒々しいな……」
「アインズ様に即座にひれ伏すこともできない愚かものたちの国ですから、仕方ないですよ」
そこには豪奢なローブに包まれた骸骨姿と、
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