とにかく交渉相手に醜態を見せるのはマズイと思ったのか、魔導国一行は貴人の部屋に分けられた。その際、アインズが思わせぶりな態度で『これでは誰かが密談したいと思ったとき、困るのではないかな?』などと言ったので、二部屋用意された。魔導王だけの部屋とそれ以外にだ。
御身の無事が最優先と言うソリュシャンたちの発言もあって、門衛にアウラとソリュシャンが付いている。加えてアウラの魔獣が窓の外に配置されており、もう攻め込んだ者が気の毒なことになるだろう。
そして、毎度恒例のお茶会である。部屋に荷物を置いた瞬間にセシルは呼び出された。そうなるとは薄々思っていたが、本当にそうなった形だ。
「おつかれー」
「疲れてるのか傍目にはよく分からないな……」
セシルとアインズの関係はやや複雑だが、それがこの距離感を生み出しているのは前にも述べたことだ。私的な面に限れば知り合い以上友達未満。常につるんでいないクラスメイトといった感じだ。
また無駄に美々しいなコイツと思いながら、輝く装束を着たアインズの対面に腰を下ろす。骸骨は受ける印象は禍々しいが、大体どんな衣装も映えるものだ。
「またえげつないことを考えたな。カルサナス都市国家連合が一日で崩壊したぞ」
「そこまで行くかな? あっちもあっちで絆とか……こう、あるものじゃないか?」
無いよ! という言葉を飲み込むのにセシルは努力した。
仮にあったとしても、幾つかの都市が魔導国に付いた時点で、対魔導国希望の星である法国とは完全に分断された。もとより人類至上主義のスレイン法国と都市国家連合では、物理的にも心情的にも距離があるのだ。もはや大国として交渉する道は潰えた。
評議国はセシルも行ったことは無いのでよく分からないが、こちらも連携するには遠すぎる。バラバラになった都市では国力も差がついてしまった。軍事力ではツッコむ気も起きない。
「それならそれで、国一つ攻略できたわけだな」
「そろそろ直轄領を増やさないと、色々面倒だと思うぞ」
「俺にとってはそっちの方が面倒なんだよ!」
魔導国の領地はエ・ランテルのみだ。例えアンデッドの有効活用で国力も高いといっても、一般人は表面しか見ない。バハルス帝国からすればなんでこんな小さな国に従ってるの? となるわけだ。
現在、折衝を続けているリ・エスティーゼ王国も同様だろう。
「嫌でも二国から割譲される羽目になるから安心しろ。このままだと一都市が世界を統べる、妙な形になりかねないからなぁ。向こうから言ってくるだろ」
「お前は最終決定の判を押さないから苦労が分かってない。無いはずの胃がキリキリィっとするんだよ!」
「私は一部門の所属員ですから。はい」
「取ってつけたように敬語を使うな!」
ツッコミを入れたアインズだが、結構本気だったらしく沈静化が働いた。
しかし、実際に本拠地を大きく見せる必要があるのだ。なにせジルクニフを招待した一件でナザリック地下大墳墓は場所が割れている。
アインズにとってエ・ランテルなどナザリックに比べれば塵ほどの価値もないだろう。そこのみがアインズの弱点だ……ただし、以前ワーカーたちを侵入させる実験を見れば分かる通り、世界側もレベル百プレイヤーに匹敵する札が必要になるが。
「それはともかく……武技を習得したらしいな。こちらもデス・ナイトなどで実験を行ったが不可能だった。一体、どうやった?」
ソリュシャンが近くにいた以上、当然伝わっているわなとセシルは驚かなかった。方法を
それになんとなくだが、あの【世界への接続】はNPCには不可能だという奇妙な確信がセシルにはあった。アインズも
「だけど習得に時間がかかりすぎるのはネックだな。俺もあれだけ戦ってきて、使えるのは〈斬撃〉と〈貫通〉だけだ。現状ではスキルのほうが有用かつ有効だ」
「経験を積むだけの相手がいないか。そこはマーレに今、作らせている冒険者育成用のダンジョンが役に立つかもな。難易度を我々向けに作り上げれば良い」
「それはもう魔境じゃないかな……」
能力値を下げて経験値を上げるマジックアイテムを装備したとする。それでもセシルや階層守護者が利用するならレベル八十台のモンスターがうろつくことになる。
住宅街の地下で核爆弾を作っているようなものだ。アイテムかスキルによる召喚……ナザリックの魔将が近い……となるので忠誠心だけは本物なのが救いか。もし外に出て勝手をするようならそれだけで世界の危機だ。まぁセシルはそんな身であちらこちらに行ってるのだから、文句の言いようも無い。
「【大議論】の結果次第だが、お前の言う通りなら都市国家連合は攻略したことになる。それでも西と中央、それに果てなき東の地が残っている。はぁ……なんで俺、世界征服とか言っちゃったんだろう。なんでボソッと言ったことを皆覚えているんだろう……」
倫理に従って言えばコチラのほうが大悪人なのだが、なぜかアインズの側に悲哀が漂っている。いたたまれなくなってカップの紅茶に口を付ける。本当は珈琲の方が良かったが、渋みもたまには悪くないだろう。
「あれ? まだ温かい……」
「ああ、それな。帝国で開発されたマジックアイテムで、お茶が冷えないカップだ。ならば同じように冷えないポットは無いのかと聞いたら、蒸らす温度が重要とかで作らなかったらしい。ふむ……これはまさにアレだな。現状の我々のようなものだろう」
「断言しないと台無しだな」
「やかましい。そう、独自の物を作り出す弱者と、何も生み出せない強者というものだ。逆転の目は必ずある。ゆえに我々も生み出す強みを持つ必要があるのだ。すでに兆候は出ている。独自に発想するNPCたち、そして武技を習得したお前……」
確かに武技にはオリジナルのものがある。レイナースの〈重爆〉などがいい例だろう。その強みをアインズたちが持てば、敗北はさらに遠くなる。
それでも可能性がゼロにはならない世界がアインズを凶行に誘っていくのだろう。実際、間違いではない。思わぬ方法はあるだろうし、そもそもセシル自体がアインズに完全に忠実というわけではない。“金鎖”の立場のため尖兵となっている。
結局は同じ穴のムジナ。自分の大切なもののためだけに、他者を絶望させる。その点においてアインズとセシルの非道さに差は無い。
「一度エ・ランテルに帰還して冒険者部門を整理してから再び先槍となってもらう。まぁなんだ色々変わってるからな。大分混乱している。そこをだな……む?」
扉がノックされる。セシルはスッと立ち上がり、いかにも近衛でございとでもいうような立ち位置に付く。入れ、というアインズの言に扉からひょっこりと顔を出したのはアウラだった。
「アインズ様。都市国家連合の者がお話したいとのことですが……」
「会おう。少し待たせろ」
セシルは急いで茶器を片付けた。
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