人工ダンジョン
その日、エ・ランテルの郊外で一つの行事が催された。それは魔導国の冒険者援助の一環、訓練所の創設を記念してのものだ。プレイヤーの故郷である世界における、新インフラの開始記念に良く似ている。記念の酒樽以外には飲食物は出ない。
式の最初には、金髪をおかっぱ頭にした
「え、ええっと、マーレ・ベロ・フィオーレです。この度は、い、偉大なるア……魔導王陛下のご意向により、この訓練施設が設けられることになりました。ここで経験を積み、栄えあるアインズ・ウール・ゴウン魔導国に貢献できるよう、が、頑張りましょう!」
その微笑ましい様子に招待客たちは相好を崩し、大きな拍手を送った。それから組合長であるアインザックと現場監督になるエルダーリッチと統括するマーレがテープカットをする奇怪な光景が繰り広げられた。
酒樽の蓋が割られ、振る舞われて儀式自体は終了となる。祭典とするには短すぎる、まさに単なる行事の一つである。
こうなった理由はいくつかあり、一部の施設はリ・エスティーゼ王国との折衝が開始されたあたりで既に稼働していたこと。それと魔導王アインズの予想より、冒険者が集まるのに時間がかかりすぎたことにある。
正直なところ、魔導国の冒険者組合は研究所じみた雰囲気が強くなってきており、他国のそれとは一線を画する。街道や人里に出没する魔物や賊は、魔導王のアンデッドによりほぼ駆逐されているからだ。
“未知を既知に変えること”がモットーの魔導国冒険者組合は調査と分析が主になってきている。もしくは選ばれた精鋭が大遠征を行い、大陸中央へと探索を行うか……両極端である。
この行事には“金鎖”も一部参加していた。レメディオスとセシルである。意外なことにレメディオスは冒険者たちの初期訓練である剣技の教官になっている。レメディオスはローブル聖王国の正式な剣技を修めている。エ・ランテルのベテラン剣士とともに正しい剣技を伝授するのだ。
セシルは表立っては存在しない“高レベルダンジョン”に関わっているので出席した。
この頃の“金鎖”は半ば幹部のような存在になっていて、自分たちが冒険に出る段階では無くなっている。もちろん危険地帯への探索には参加するつもりでいるが。
「それにしても結構敷地は広くなったな。地上に修練場、地下はダンジョンだから当然だが……レメ、新人たちは大丈夫なのか?」
「まぁ問題ない。聖王国は元々徴兵制があったからな。そのあたりの手管は洗練されている。最初から教えれば無駄な動きも修正しやすいからな……“初心者ダンジョン”に行けるぐらいには仕上げて見せるさ」
訓練用のダンジョンはナザリック地下大墳墓のポップモンスターや、アンデッドがスキルで召喚する魔物がうろついている。発案者がプレイヤーであることもあり、レベル十ごとに初心者、中級、上級と段階を踏んで作られた。この世界でレベル三十ともなると、一角の人物と言ってよく、“上級ダンジョン”まで行ける者がいるかは分からない。他の国を基準にすると、オリハルコン級冒険者ぐらいしか利用できないのではないかと思われる。
「人を使うのは苦手だから、俺はしばらく秘密のダンジョン通いか書類仕事だな」
「私は書類仕事は絶対にしない。妹に怒られるだけだからな!」
酒樽から枡で酒を汲んできて二人は乾杯した。チーンという音がしないのでなんとなく情けなかった。セシルは酒樽割とテープカットが同時に行われるのか疑問に思いながら、酒精を流し込む。
「あ、セシルさん。ダンジョンの次の利用可能日は十日後です」
「分かりました。デミウルゴスさんによろしくお伝えください」
マーレがとことこと走り寄って来て、連絡事項を伝えた。そして伝え終えるとさっさと引っ込んで行く。その動作は本当に伝えただけであり、そのことに関する感情は一切混じっていない。
「……なんて目をしやがる」
構成員として礼儀正しい返事をしたが、上下関係がなくとも自然とそうなったであろう。マーレという少年の目には自分の部下たちは映るだけのものだ。なまじ見た目が子どもなので、見る者が見れば異常さが際立つ。この訓練用のダンジョンで死者が出ても、感情に波は生まれないであろう。直接の監督官がエルダーリッチというアンデッドで良かったとセシルが思うほどに。
「お前の入るダンジョンに私は入れないのか?」
「馬鹿にするわけじゃないが、絶対に無理。武技の可能性を研究するためだけの場所でもあるから、容赦がない」
「私の剣が、私の手に余るというのもおかしな話だ」
セシルが入るダンジョンは魔将がスキルで呼び出した同族や、高レベル魔法で召喚されたモンスターが設置されている。推奨レベルは少なくとも八十台だ。流石に大切な存在を連れてはいけない。
「義理は果たしたし、街にでもくり出すか。最近は菓子の種類も増えてきたしな」
「……うん。そうだな。カル様とケラにもお土産は必要だ」
セシルとレメディオスは仲良く二人でエ・ランテルの中心へと足を踏み出した。反対方向に向かう修行者たちとすれ違いながら。
それは男三人組だ。彼らは揃って軽装で、それを選択したというより仕方なくそうしている趣があった。弓使いのコリン・イップ、
旧制度の下でも銅級冒険者であり、彼らは初心者ダンジョンで経験を積み上げるつもりだった。挑む時期はともかく、そういった意味では慎重と言えるかも知れないが……やはり時期尚早の感は否めない。
「今の見たかよ? アダマンタイト級冒険者だったぞ」
「そもそもアダマンタイトを見たことがないから、プレートを見ても分かんねぇよ。でもそうならあんな細っこい体でも成れるんだな。俺の方がそれっぽいぜ」
キーナンは力こぶを作ってみせた。彼は生まれ育った村では力自慢で通っていた。確かに体格が大きければ有利だが、まだ感覚的にレベルというものを理解していない。キーナンが腕相撲でもしようものなら、レメディオスどころかケラルトにすら余裕で負けるだろう。
まだ武器の威力に頼る段階のコリンや、
「俺らの未来の姿だ」
「まずは初心者ダンジョンを攻略することを忘れないようにな、貴様ら」
「ああ、こんな頼りない剣からは卒業しないとな」
各々勝手なことを言いながら初心者ダンジョンの入口に入っていく。その様子をいざという時の救出役である金級冒険者たちはため息混じりに見守っていた。
「賭けるか? 二階層に銅貨」
「大穴で三階層に一つ」
「じゃあ俺は一階層だな」
「馬鹿、お前。一階層は無いだろ。一応修練所出てるみたいだったからな。俺も三階層だ」
いずれも嘲りが見えていた。そう。戦闘と訓練では大きな差があるのだ。才の有無によって金級で止まってしまった彼らにもよく分かっている。それが理解できたのなら鉄級には成れるだろうが、初回は散々な目に遭うだろうと予想されていた。
キーナンたちはそれを現在進行系で味わっている。
矢という凶器が自分に向かって飛んでくる。それは途轍もない恐怖だった。
だが、それを行うのに多大な消耗をしてしまう。修練所の教官は寸止めしてくれるし、弓で直接撃ってきたりはしない。その違いだ。
「
必中の効果を持つ光弾が
誰のせいで手こずっただの、後衛の援護が足りなかったとか、そもそもキーナンが速攻を仕掛けてれば良かったなどなど一行は大喧嘩をしながら進んでいく。
アンデッドだらけの人工ダンジョンだが、これが結構様々な状況への対応力を養ってくれる。
ここからはゾンビ系なども出現するようになり、一階層でも出た敵は簡単な連携を取るようになる。そして人間の兵士より強い
記録は二階層。賭けは言い出しっぺの一人勝ちだ。
物理攻撃の効きが悪いアストラル系のモンスターが出る前に救出されたのは運が良い。こうして魔導国の冒険者たちは苦渋を舐めながら一人前になっていく。
ちなみに魔化された武器が必要な階層まで来ると、ルーン武器が格安で手に入るとか……
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