【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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冒険者部門の仕事

 冒険者組合のかつての組合長室。今では幹部の仕事場になったそこで、セシルとケラルトは積み上げられた書類の山に挟まれながら、向かい合っていた。

 

 

「今日はケラとデートか」

「うっふっふ。たっぷり夜までですね」

 

 

 二人が作っているのは報告書だ。現場で使われている粗末な紙に記された情報を、ナザリックで使用される上質な紙に清書していく。それだけなら楽なのだが、情報を取捨選択してまとめていく作業を経て、それを書き写すのだ。二度同じことを書く作業はあまりにも精神的負担をかけてくる。

 結果として分担作業になった。最初に文章をまとめるのはセシルが、清書するのはケラルトがやっていく。間違いを気付いてくれ、神官団団長であったことから字がきれいなケラルトの長所を活かしている。

 

 

「カルがいれば、もうちょっと楽だったのにな。俺にはこういう作業は不向きだ」

「早速浮気ですか。カル様に今日の仕事を全部押し付けたから、ようやくこの山に取りかかれるんでしょーに。姉様は……姉様だから仕方ないですね」

 

 

 レメディオスは昔から、その手の作業は聖騎士団団長であった頃から副団長と妹に丸投げしていた。信じられない指揮官である。今、彼女は冒険者修練所の剣技教官というお題目を得て、脱出する方便としていた。

 タチの悪いことに捕まえても役に立つかも怪しい。

 

 聖王女として報告の難しさを知るカルカも動員したいところだが、ケラルトの言う通り下の階で細々とした作業を処理している。既に作業を支えてくれているので、その希望は叶わない。

 

 

「レイナースは?」

「一階でクレマンティーヌさんの手伝いをしていますよー。まぁ彼女のことですから、ああもびくびくしている人を放ってはおけないんでしょう。いざという時に手伝ってもらう感じで、温存です」

 

 

 帝国の牢屋では物怖じしなかったクレマンティーヌが、あのような状態になったのは一体なぜだろうか? 十中八九は魔導国における拷問のせいだろうが、セシルは最近その手の話題に嫌悪感を持つようになった。

 エ・ランテルにおいては幸いにも重犯罪者は出ていないが、最低限守られ無ければいけないものもあるだろうと思うのだ。

 隠遁者として生活していた自分がなぜこのようなことを思うのか。肉体に精神が引っ張られるというものだろうかと考えていても答えは出ない。

 

 

「絵、上手いな……この報告者。どう写そう……」

 

 

 話を元に戻すと、このような作業が発生したのはエ・ランテル近郊の情報が完全に揃ったからである。雑草にまで名が付けられ、薬効なども調べ尽くされた結果が、この書類の山だ。

 定期的にまとめられていれば、ここまでにはならなかっただろう。だが、“金鎖”の存在が大きすぎた。そして“金鎖”は性質上遠征が多い。結果として、アインザックがたまにやるぐらいとなってしまったのだ。

 

 

「冒険者の習性はそうそう変わりませんね。好奇心は多少上がったようですが、それでも現場仕事を好む。机にかじりつくのは仕事じゃないとでも思っているのでしょう」

「文官を正式に雇うか? それとも、そういう冒険者チームを育てるか?」

「どちらにせよ予算が必要で、そのためには陳情書を書く必要があるんですけどね。そして、それをするのは誰でしょーう?」

 

 

 揃ってため息をつく二人。魔導国はアンデッドが統べる街とあって奇妙な雰囲気ではあるが、同時に静かな活気がある国だ。だがそれでも、正式に魔導国に所属するのは敬遠される。だからといって仕事が無い者を雇うのは難しい。孤児の類は意外にも、孤児院を魔導国が作ってしまった。

 先のことを考えながら黙々と作業をしていると、少し騒がしい音が響いて来た。

 

 

「喧嘩か? 得物を抜く事態になったら組合から犯罪者が出てしまうな。ちょっと行ってくる」

「こうして我々は問題を解決する集団になってしまうわけですね」

 

 

 エ・ランテルにおいて正当防衛以外の抜刀などは重罪だ。セシルたちも街にいる間は武器をインベントリにしまって、木の棒を腰にさしている。もっともセシルが木の棒で殴れば、それなりの戦士でも死んでしまうが、それでも丸腰よりは威圧感で解決できる。

 

 階段を降りると、見慣れないパーティが受付にいるのが目に入った。白髪の女戦士と桃色の髪をした女神官、それと黒髪の軽戦士か何かと、魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 それにしても彼らより強いであろうクレマンティーヌが、頭を下げている光景はなんとなく滑稽だった。

 

 

「どうした? もめ事か?」

「ああ、お師匠。初めてのケースなので、呼びに行こうと思っていたところでした」

「すいません、すいません!」

「いや、クレマンティーヌが謝ることでもないだろう。察するにそちらの見たことがない、冒険者パーティと関りがあるんだろう。加入申請には見えないからな」

 

 

 すると、白髪の女戦士が前に出た。しっかりとした鎧を着こんでいて、珍しいことに片手斧を装備している。

 

 

「ようやく話ができそうな人物が出てきたな。私はスカマ・エルベロ。王国の冒険者“四武器”のリーダーをしている。現状を説明すると、エ・ランテルの近くの薬草収集に来たので、こちらの冒険者組合に仁義を通そうとしたところ、ここで活動できない可能性が浮上してきたわけだ」

「ああ……なるほど。国をまたいでの依頼。しかも、こちらの冒険者は国家所属だからな。基本的に相容れない形になる。今後の課題として法整備をするのはあとにして……とりあえずうちの冒険者を代行として依頼を代わりに完遂させる。報酬については王国と魔導国で最終調整するが、貴方たちは通常通り報酬を受け取るといい。依頼内容を詳しく教えてくれ」

「……なんというか、ただ働きのようで落ち着かない処置に思えるのだが。それに失礼だが、貴方にそこまでの権限があるのか?」

「本来は無い。裏技だ」

 

 

 裏技と言って通じるのだろうかと、少し場違いな疑問をセシルは浮かべた。もちろん、裏技とはアインズに直接話を持っていくことである。冒険者部門はマーレが少しばかり関わっているものの、基本的に推進者はアインズだ。よって押し付ける。

 

 

「とりあえず客間を用意する。詳しい話を聞かなければならないしな」

「冒険者が冒険者の管理をしているのか……」

「まぁ体制が変わって間もないしね。これもいつまで持つやら」

 

 

 セシルはアダマンタイトのプレートを指でぐるぐると回した。そのうちグリーンライトクリスタル級とかヒヒイロカネ級とか出てくるんじゃないだろうか。

 

 

「ところでぇ、魔導国の冒険者に若い子はいないの?」

「修練所と孤児院にちょっといるが……なぜそんなことを?」

「いやぁ。ちょっとした好奇心で」

 

 

 桃色の髪をした神官が聞いたことはセシルにはさっぱりわからなかった。“四武器”がミスリル級だということを聞き取り、同じミスリル級の“虹”を動かすことに決まった。

 目標の植物は製作中の図鑑ですぐに採集地が分かり、モックナックたちはその日のうちに出発した。

 

 

「王国がとりあえず魔導国に下手(したて)に出てくれていて助かったな」

 

 

 セシルは執務室に戻り、ボヤいた。もしかすると、他国から移籍してくる冒険者もこれから出てくるのだろうか? これまで魔導国の冒険者チームは出ていく方が多かった。だから修練所や人工ダンジョンで育てる方針になっているわけだが。そこを考えると正式な役職をさっさと決めて欲しいのが皆の本音だった。

 

 

「図鑑もさっそく役に立ちましたね。少しだけ報告書作りに身が入ります」

「少しか……少しだな。ただケラがいてくれると、俺も気が休まる。特に書類仕事はな。頼れる感じが安心させてくれる」

「うっふっふ。褒めてもお茶と茶菓子しか出ませんよ。なんと手作りです」

「出るのかよ! こういうところも他のやつとは違うよな……隠れて作るあたりが」

「今度は私が作り方を教えましょう」

「その前に書類の作り方だな……」

 

 

 セシルとケラルトは最初の会話通り、深夜まで一緒にいた。




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