【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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日常の鍛錬

 体力がいくらあろうと気力には限界があるものだ。これに対応するステータスはないので、圧倒的強者であろうとも疲労は避けられない。

 それは今、机に突っ伏しているセシルが証明している。むしろカルカとケラルトの方がまだ立つ余裕があった。

 とうとうエ・ランテル周辺の報告書が完成したのだ。宴会の一つでも催していいぐらいの難行とさえ感じられたが、気晴らしよりもサラリーマンよろしくベッドに倒れこみたい。

 

 

「終わったな……一つの街の周辺でこれか」

「ふふふ、お疲れ様です。提出もお願いしてよろしいでしょうか?」

 

 

 カルカが労わりつつ、仕事を追加してくるという真似をしてのけた。セシルはとりあえずもう一度突っ伏す真似をしてみたものの、机から離れることができるのでそう悪くは思っていない。

 

 カルカとケラルトは前職の経験から疲れても、それを表に出さないという特技がある。王様や団長もなるもんじゃないなと、結論づけてセシルは顔を上げた。

 

 

「折角だ。色々と要望を出したいな。何かあるか」

「それこそ、文官や上司を設置したりときちんと一部門の形にして欲しい以外にないでしょーに」

「でもエルダーリッチは嫌なんだろ。いや俺もあんまり話し合わないというか、連中かなり無口だからな」

 

 

 冒険者部門は元々あった冒険者組合を利用して設立されたため、人間種で構成されている。そのためアンデッドに対する忌避感を覚える者が大半。おまけにそのアンデッドは大抵の場合、自分たちより強い。例外は“金鎖”ぐらいだろう。

 

 

「慢性的な人材不足……それもピラミッド型というよりタワー型だな」

「ぴらみっど?」

「三角形の陵墓のこと」

 

 

 現在の冒険者部門はアダマンタイト級一組、ミスリル級一組、金級三組に他は銅という歪な形をしている。そのため大口の依頼で“金鎖”が動く時以外は臨時収入が無い。完全に予算に縛られているし、予算は当然に部門の規模通りだ。

 予算の増額を申請したいところだが、最近は大きな功績も無し。アインズはユグドラシル金貨を大量に持っているが、この世界での財貨の扱いにはかなり慎重だ。

 

 

「訓練所出身者から芽が出るまでもたせられればいいが……」

「期待薄ですねー。舞台も舞台裏もそろって足りない。安定してなければ登録者も増えない。ないない尽くしとはまさにこのこと」

「今、滞在している“四武器”とか勧誘したいのにな」

 

 

 ため息をつきながらセシルは席を立った。報告書を提出し、陳情するために。本来組合長の仕事で、“金鎖”のリーダーでもないセシルは貧乏くじを引かされた気分になった。会長(アインズ)と親交があるだけ大分マシなのだろうか。

 外に出たセシルは訓練所の方角を羨ましそうに眺める。時間があればさらに武技を習得できるかもしれないのだ。〈要塞〉を習得したので次は〈加速〉や〈回避〉でも覚えたい。

 

 到着した市長邸ではアインズは留守であることが分かり、ごく普通に報告と陳情となってしまった。まぁ仕方がない。あまりアインズ頼りになるのは良くないことだ。

 はて、いつの間にかアインズと距離を置いているのだろう。そう気付いたセシルだったが、アインズはアンデッドに、自分は上古人(エルダーヒューマン)に引っ張られているのだろうと納得した。

 

 

「まぁ暇ができたと思えばいいか」

 

 

 営業先で契約が取れなかったサラリーマンの気分になりながら、セシルは郊外へと向かった。郊外にある人工ダンジョン。そこでさらに隠し……というか実質セシルしか使えないダンジョンへと足を踏み入れる。

 腰の棒を入り口に置いて、代わりに鎖が付いた首輪を受け取る。この首輪はレベルを下げる効果があり、レベル上げに使われるものだ。カンストしているセシルに経験値的な意味は無いが、武技を習得するのが早まることを期待してのことである。

 

 中に入るといきなり業火を人型に押し込めたような魔将が待ち構えている。ナザリックにいる魔将がスキルで呼び出した同族だ。レベルは八十四のため、セシルも首輪をしていれば全力で戦うことができる。

 

 皮肉にもその魔将は“金鎖”の仲間たちの故郷を襲った存在と同じなのだが、セシルに知る機会があるはずもなかった。

 

 

「これより模擬戦闘を開始する」

「よし……来い」

 

 

 魔将は高い知性を持ち、会話も可能だ。

 厳かな宣言に対してセシルはシチセイを握りしめて、フェンシングのような構えを取る。レベルが下がった状態で、武技を使って戦う……かなりいい勝負になるはずだ。

 

 憤怒の魔将(イビルロード・ラース)という魔将は魔法を扱えるものの、ステータス的には戦士系に近い。武技を学ぶには絶好の相手だ。

 

 

「〈貫通〉!」

 

 

 先手必勝。セシルが素早い体さばきで直刀を突き出す。衝撃波まで出ているが、相手は腐っても魔将。直接の当たりを狙う。

 相手が体にまとった炎のオーラが皮膚をじりじりと焦がすが、セシルは気にしない。直刀は見事に相手の腹に大穴をあけた。魔将はそれを受けても、同じように知らぬとばかりに剛腕を振り下ろす。

 

 

「〈要塞〉!」

 

 

 覚えたばかりの武技で咄嗟に防いで見せる。人の胴体よりも太い腕が細い刀に完全に止められている光景は、冗談のようだった。

 基本的な武技ですらプレイヤーが使えば段違いの効果を見せる。今やセシルはまさしく人間大の要塞だ。ここからさらに〈重要塞〉、〈不落要塞〉と習得していけばどうなるか……

 

 元々ユグドラシルでは戦士職のトップクラスは現実の運動神経が関係していたが、実際にこの世界で生きているセシルの動きは研ぎ澄ませてその域に到達しつつある。

 

 いくら世界への接続を果たしたといっても……いや、だからこそセシルはレベル百の壁は突破できないだろう。更なる高みへと至るには新しい武技が必要だ。セシルは自分を追い詰めるように、次第に習得のためにわざと不利な回避をしたり走って見せる。

 レベルを低下させている身では、同格を相手にしているに等しい。それでも余裕なのは命の保証がある装備を所持しているからだが……息苦しさは確実に発生する。

 魔将の熱で体が熱い。わざとギリギリでよけた巨腕は視覚を圧迫する。それでも今のセシルは強くなりたいと願っている。

 

 もし同じプレイヤー相手に圧倒的なアドバンテージを確保することに成功すれば……セシルは大事な人たちを故郷に帰らせるよう交渉できるかもしれない。

 そのためだけにセシルはわざわざ苦労をしている。そこに隠遁者の姿は無かった。

 

 




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