【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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予算が出たよ

 それはもはや日常と化した書類仕事の後のお茶会。突拍子もないこと言いだすのはレメディオスに決まっている。味が分かるやつなのかは分からない彼女は、唇を茶で湿らせて舌を動かした。

 

 

「馬が欲しい」

「そうか……」

「馬が欲しい」

 

 

 そのセリフに対する反応は冷淡だった。いや、カルカとケラルトのあれは困惑というか、ねだり出した子どもに対する苦笑だ。

 それにしてもレメディオスの発言は予想できない。レメディオスは基本的に徒歩で戦う剣士であり、騎兵というわけでもない。もちろん騎乗しても戦えはするだろうが、これまでを考えても必須には感じない。

 

 

「それなら買えばいいんじゃないかな。給料でそこそこのが買えるだろう? ただし、最後まで世話しなさい」

 

 

 わざわざ宣言するまでもない。仮にも魔導国冒険者部門の最高ランクにあるのが“金鎖”だ。部門自体は赤字でも、カルカたちには十分な給料が出ている。スレイプニールでも買えるだろう。

 

 

「それにしてもなぜ、このタイミングで馬なのですか姉様? ほとんど使う機会ないですし」

「私は元々乗る機会自体少なかったですけれど。セシルさんは?」

「騎乗動物は召喚できる。黒っぽいでかいオオカミで馬じゃないけど、その辺の馬とは速度も強さも桁が違うやつ」

 

 

 セシルがそんなものを持っていたにも拘らず使っていないのは、機会がないからだ。仲間を乗せようにもレベル制限によって弾かれてしまう。

 大体、立体的な冒険には足を使うか、飛行(フライ)の方が都合がいい。飛行系の騎乗動物を取っておけば良かったとセシルも今になって思う。

 

 

「いや騎士といえば馬だと改めて思ったわけだ。大体にして不要なのはセシルがいる場面か、高低差がある場合のみだ。文明のあるところでは十分使える」

「もう騎士じゃないですけどね。出奔状態ですし、姉様は黒騎士?」

 

 

 黒騎士とは黒い騎士を指すのにも勿論使われるが、本来は主君を持たない騎士爵位持ちを意味する。と言ってもカルカがいるのでそれもまた違う気がしてしまう。

 

 

「生き物ですから世話も厩も要りますし、世話人も必要。現在の冒険者部門ではちょっと無理がありますね……私たちより、低位の冒険者の方が必要としそうですが……」

「レンタル部門から魂喰らい(ソウルイーター)でも借りるか?」

「いやだ! 明らかに悪役だし、即死のオーラでたまに死ぬだろう!?」

 

 

 魂喰らい(ソウルイーター)はアンデッドなので世話要らずだ。レベル四十程度もあるので、作業用として比較的人気のあるレンタルアンデッドだ。元々は伝説とされるようなモンスターだが、魔導国ができてからというものロバや農耕馬代わりにされている。

 即死のオーラを発動できるが、レベルの問題でセシルは死なないものの、現在のレメディオスでも十回に一回は死ぬだろう。あくまでレンタルなので対象に含まれてしまう可能性があった。

 

 

「ですが、見栄えのための馬はともかくとして、騎乗動物は必要な気がしてきました」

 

 

 カルカが言った通り、セシルもそんな気分になってきていた。これまでの任務では建前があったので、馬車に同乗したり、借りることが多かった。それは魔導国の人間だと示す必要に応じてのことである。

 セシルとしては単純な馬より、鷲馬(ヒポグリフ)翼竜(ワイバーン)のようなものを冒険者部門で飼育することが出来ればと思う。

 そうなれば飛行(フライ)の使えないチームでも広範囲の探索が可能となる。なおレメディオスのよく分からない欲望は無視だ。

 

 

「ううん。レイナース、帝国には鷲馬(ヒポグリフ)乗りで構成された部隊があったよな。おいくらぐらい?」

「ロイヤル・エア・ガードのことですね。皇帝直下の部隊ですから予算は潤沢ですし……まぁ皆様なら一頭ぐらいは買えるかと。人気が高いので競り合いになってしまいますから」

 

 

 レイナースが苦笑したように言う。“金鎖”では万事控えめだが、元々帝国四騎士である上に貴族の生まれなので情報通だ。

 結局は予算が壁になってしまう。なにしろ生き物だ。一回買ってしまえばそれで終わりではなく、死亡の可能性。飼育費用などが立ちふさがる。

 ……そろそろ予算問題は飽きた。どうにかするべきだ。

 

 

「ちょっと直接陳情に行ってくる」

 

 

 セシルは立ち上がり、冒険者組合を出て裏路地へと入っていく。路地は浮浪者などもおらず、ただの行き止まりとなっている。そこの壁にある小さな亀裂にシチセイを差し込むと転移門(ゲート)が開いた。プレイヤーであることを示すために、データクリスタルで構築されたアイテムを差し込むのだ。

 こうして転移門(ゲート)を潜ると小さな部屋へと出される。後はアインズが来るのを待つだけ。これは二人の間の取り決めであり、プレイヤーとして話をするために作られた。つまり、今回の使用は厳密にはルール違反だ。仕事の話を持ち込むのだから。

 

 しかし、セシルは本気で飽き飽きしていた。何事につけ予算の壁が立ちはだかり、結局全部処理するのは“金鎖”。しかも“金鎖”自体は旅をしようと思えば自給自足でいけるのだ。これで不満を抱かない方がどうかしているが……人質を取られているようなものなので自由は諦める他ない。

 ならば、せめて机の前に縛り付けるのは止めてほしい。それに功績がなければ、カルカたちの一時帰国という夢を要望する機会が与えられない。

 

 たっぷり数時間は待つことになったが、セシルは気にしない。元々時間つぶしに慣れているし、なにより王に会おうというのだから待つのは当然。ちょっと行ってくるでは済まなくなったあたりで骸骨の親玉が姿を現した。

 

 

「お疲れでーす」

「それに俺はどう返せばいいんだ? お疲れ様ですが? おつーか?」

「また懐かしい言葉だなおつー。乙とも言ったか。やはり気楽に話せるのはいいな。こっちがふむと呟いただけで、何か意味があると思われているからなー。王様になるのは止めておいた方がいいぞ。特に中途採用はな。ああ、そうそう冒険者部門の予算増額通ったぞ。俺も怒られるかな、とか思っていたんだが……」

 

 

 ……陳情する前に事態が終わってしまった。いや、喜ばしいことなのだが、ここに来た意味はなくなってしまった。

 

 

「丁度その辺どうなのかなって聞こうとしに来たんだが……」

「いや、冒険者計画は俺が発案したことだから、こっちもどう思われるかびくびくしていたんだが……話してみるとな」

 

 

 アインズの回想が始まる。それは事務的な仕事の最中ではなく、近況報告会のような仰々しい場で始まった。

 

 

『魔導国の冒険者こそが、真の冒険者であることを知らしめるため注力したいと思うのだが……』

『アインズ様が考えられたことなら間違いないですよ!』

『ぼ、僕もそう思います』

『御意』

『反論することなどありんせん……全てアインズ様の御心がままに……』

 

 

 そこまでは良かった。ナザリックこそ至高である階層守護者……現在では各部門の幹部でもある……たちはそろって賛意を示した。セバスも礼で返している。

 だがそこで、アルベドとデミウルゴスが笑って同胞たちを眺めた。

 

 

『ふふふ……なるほど、そういうことですか。確かにそれは大きな一手につながるだけでなく、あの者に対するカウンター足りえる。まさに一つで幾つもの成果をもぎ取ることが可能。流石は至高の御方。盤面の支配者に相応しい……』

『それに、私に任せられている仕事にも大きな進展が見込めるわ……貴方たちもアインズ様のお言葉を表面だけ聞いてはダメよ』

『さ、さすがはアルベドにデミウルゴス、よくぞ我が策を読み取ったな……』

 

 

 賛辞と笑い声で小さな議題が大きく幕を閉じた。時間は現在に戻ってくる。

 

 

「ということがあってな」

「いや……何か壮大な計画あるの? あの者ってのは俺のことだろうけど、滅茶苦茶警戒されてるな」

「無い。私の冒険者計画はあくまでロマンを求めてのことだからな。もちろんちょっと期待しているところはあるが……まぁ予算は確保した。あとは文官だったか?」

「それは街で仕事を探す亜人の移住者と、ユリ・アルファの孤児院から出た年長者でいけないか? 読み書きさえできれば、あとは最初を教えるだけで済むし、魔導国の亜人を受け入れるスタイルの宣伝になる」

「なるほど。お前、頭良いな」

 

 

 凄まじく底の浅い計画が、凄まじく秘密裏に進行している。所詮、通常のプレイヤーなどこんなものだった。

 

 

「それで、飛行騎乗動物が買える。もうこのあたりは調べきったし、飛行(フライ)の代わりになるものがないとな」

「なんだ、そんなことに金を使うのか。じゃあフロストドラゴン便……は部下に任してるんだった。ハズレドラゴンを呼ぶマジックアイテムを使うか?」

「ハズレドラゴン? なにそれ?」

「高レベルのドラゴンが当たりのガチャで散々出てきた、低レベルのドラゴンを召喚するアイテムだ。ハズレ中のハズレなら低レベルでも使えるし、俺も惜しくない」

「ぜひ下さい」

 

 

 こうして事態はあっさりと収束していった。

 

 エ・ランテルの外で呼び出されたドラゴンは見た目だけは立派だった。レッサー・ドレッドドラゴンという種類でレベルは低い。スケリトルドラゴンの基になったのではないかというほどだった。

 赤い体表に硬質に見える鱗を軋らせるが、召喚者が伏せるよう言うと素直に従った。セシルはその頭を撫でたが見た目に反して握ると潰れるので少し緊張した。

 

 

「で、なんでカルがここに? 単なる試運転だぞ」

「いえ、レメが企んでいたことを先にやってしまおうかと」

「? まぁいいや、じゃあ乗ってみるか」

 

 

 最初から騎乗モンスターとしてデザインされているのか、大きな鞍が首元に付けられていた。そこにまたがると、後ろにカルカも乗ってくる。

 

 

「さ、行きましょうか!」

 

 

 空を飛ぶ乗り物の不思議な感覚と一緒に、セシルの背にはカルカの体がぎゅうっと押し付けられた。




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