【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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組合の受付嬢

 クソ、私が何でこんな目に。そう心の中で思った瞬間に、それを表に出そうとしないよう口を手で覆った。この人物の名はクレマンティーヌ。元ズーラーノーンの高弟が一人であり、さらに元を辿ればスレイン法国特殊部隊に在籍していた女であり……現在、魔導国冒険者組合の受付嬢をしている。

 

 

「へへへ……すいませんね、レイナースさん。いつも手伝って貰って」

「良いのですわ。体のことで不自由をするのには、私も思うところがありますから」

 

 

 本当はもっと強めに言おうとしたのだが、口をついて出たのは卑屈な言葉。まるで体と精神が一致しないようで、クレマンティーヌは不快感を覚えた。

 彼女は本来もっと勝気……というより傲慢な人間だった。自分より強い相手の前でも不敵さを装ってきたぐらいだ。それがこんな風になったのは皮肉にも同じ屋根の下で働く人物に捕らえられて、ナザリックへと送られたからである。

 

 

「クレマンティーヌさん! 今日、夕飯一緒にどうですか!?」

「ひぃっ!」

「……受付嬢に仕事以外の話題は厳禁です。大丈夫かしら、クレマンティーヌさん」

「ああ、ありがとうございます……」

 

 

 私に声をかけたければせめてアダマンタイトになってから言えよ。それが内心だったが、大きな声をかけられると飛び出たのは情けない悲鳴だった。

 

 ……魔導国は重罪人を実験に使う。従順な態度で収監されていたクレマンティーヌは死刑こそ宣告されなかったが……いっそされていた方が楽だったかも知れない。

 特殊な来歴が伴う彼女はナザリック五大最悪の一つ拷問官による尋問が待っていた。拷問に対する訓練は受けているし、半生から痛みには強いと高を括っていられたのはわずかな間だけだった。

 

 まず抵抗できない魔法で脳の情報を吸い出された。実はここでもう少しクレマンティーヌが深いことを映像として知っていたら、この時点で法国と魔導国の全面戦争になっていたかもしれない。

 そしてなぜかそこから拷問が始まった。順序がおかしいだろうと思うが、記憶している主観的映像と情報のすり合わせなのでナザリックにとっては矛盾はない。というよりどっちだろうと良かったのやも。

 

 

(あの拷問官のなめくじのような姿……忘れられるわけがない)

 

 

 クレマンティーヌが痛みに強いところを見せると、知りもしない魔法で感覚を異常に鋭敏化させられた。いつもなら鼻で笑っていたであろう爪を剝がされる痛みが、地獄の炎もかくやという痛みに増幅された。針で突かれるだけで、体に大穴をあけられたようだ。

 少し遊んでやろうという意気はこの時点で消失済み。彼女は自分の身が一番可愛いのだ。知っている情報は思い出せるだけ吐いた。ここでケイ・セケ・コゥクの名前を失念していたのが、命を繋げたとも知らずに。

 

 次は武技に関する情報を引き出された。と言っても拷問中よりはずっとマシだったと言える。蜥蜴人(リザードマン)や奇妙な人語を解する魔物に自分の全力を披露するだけで良かったから。人類種至上主義の法国で育ったクレマンティーヌだったが、ひねくれているのもあって蜥蜴人(リザードマン)たちの真剣さに好感が持てるようになっていった。

 その後は自分では絶対勝てないような化け物を相手に戦わせられたり、何か頭の中を弄られたり。

 

 それからも拷問官は不定期にやってきては、適当に痛めつけられた。一般人が拷問を受けるとこういった感じかということを心に流し込まれていく。

 特に穴という穴にとげの付いた棒を差し込まれるのは、心を削られる。そんな作業の中、耳元にねちっこく、そして甘やかに囁かれる。

 

 

「あなた、素直でとっても良い子ねぇん。そんなあなたにだけ教えるけど、あなたの刑期がすぐ終わる方法があるのよぉん。内容は簡単で“恐怖公”っていう人のお部屋に一時間いるだけ。とっても短いでしょう?」

「なんでも喋ります。なんでもします」

「あぁん。あなた、顔は不細工だけど反省の色が見えることは良いことよねぇ。殺してはならないってアインズ様に言われているし。しっかりと反省するのよぉ」

 

 

 “恐怖公”が何なのかは知らないが、これ以上のことは避けたい。もう人影が見えるだけで拷問官ではないかと疑うようになっていた。それが一時間で終わるなど、これ以上の取引は無いように思える。

 そして、刑期をまっとうする。その間に行われたことはくどくど述べる必要はない。ただ鋭敏化した状態で一時間というのは、発狂しなかったのが不思議なことだった。

 

 釈放されてから気付いたが、クレマンティーヌは拷問の際に施された鋭敏化の効果がそのままだった。また、白昼の屋外でも自分に近づいてくる者が、拷問官のように見える。視界の隅に黒い影が見えると、アレでは無いかと背筋が凍る。

 もはや戦士を続けられる体では無い。これからどうやって生きていけば良いというのか?

 

 庇護者が必要だ。それもあの恐怖から身を守ってくれる程の。

 思い当たる節は一つしかない。憎くて恐ろしい、男が一人。返還された装備からトロフィーの冒険者プレートを残らず外す。

 襲撃者が怯えてくれるかもしれないスティレットはわざと外に出して、フードを目深に被る……本人は気付いていないが恐怖から腰が引けて老婆のような姿勢だ。

 ローブを引きずりながら、エ・ランテルの一角へと向かった。探していた建物の中に入る。居並ぶ人影に怯えつつ受付カウンターへと向かう。幸い今の魔導国冒険者は数が少ない。年かさの受付に口を利く。

 

 

「すいません、私はクレマンティーヌと言いまして……セシルさんの紹介で参りました。私でもできるお仕事があると聞いて……」

(ちょっとー。アイツに捕まったせいで体ガタガタなんだけど、責任とってよねー……あれ?)

 

 

 心の中で思ったことと、出力される言動が違っていた。心では余裕綽々の態度だが、肉体は金持ちに侍る小商いのように必死で頷いている。

 

 

「セシルさんの? ……少々お待ちください」

「へへ、お願いします」

(早くしてよねー、というかアイツちゃんと覚えてるかしら)

 

 

『クレマンティーヌ? なんであいつがここで出てくるんだ? いや、知らないやつじゃないから会おう。手数をかけた』

(よしよしーちゃんと繋がったわね。予想通り甘ちゃんだわ)

 

 

 受付の中年女が降りてくる。アダマンタイト級冒険者の客だということで、下にも置かない態度だ。

 

 

「お待たせしました! お会いになるそうで、応接室にご案内します」

(そうよー、この私、クレマンティーヌ様が足を運んだんだから、へりくだって当然よねー)

「へへへ、すいませんね。それでは続かせて貰います……」

 

 

 クレマンティーヌが応接室に入ると、懐かしい顔が出迎えた。捕まえて、長い期間自分を監視していたセシルとレメディオスだった。

 

 

「久しぶりだが……もう刑期が終わったのか? 早くないか、あのア……魔導王陛下にしては」

(そのために何度死にかけたと思ってるんだクソが。いや、今も死にかけなんだよ!)

「へへへ、セシル様の口利きで死刑になることもなく……なんとか……」

「?? おい、セシル。なにかコイツ変じゃないか? 捕まっていた時にもこっちを脅してきた奴とは思えん」

(なら、てめぇもあの部屋入ってみろよ! 体験してねぇから言えるんだ!)

 

 

 そう内心で毒づいても口はへらへらと笑いを浮かべている。現在のクレマンティーヌは心と肉体が乖離しているのだ。そして、それをコントロールする術をクレマンティーヌは持たない。

 

 

「改心しました。ですが、現在、私は後ろ盾が無い状態でして……セシル様とレメディオス様に保護して頂きたいんです。今の私はその……戦うことをやめまして」

(この状態でズーラーノーンの刺客とか来たらどうするんだよ! 頼むよー化け物。私を守れ)

「簡単には信じられんが……セシルがいる以上は暴れたりもできんだろうし、ズーラーノーンの幹部をおびき寄せる餌にもなるか」

「しかし、戦えないやつをどう扱うか……あ、そういえば受付嬢さん。魔導国にはついていけないようなことを言ってたな。しかし、こいつが受付嬢か……」

「なんでもします! お願いします!」

(死んでたまるか! 意地でも生き延びてやる!)

 

 

 セシルはうーん、と考え込んでから、他人に任せることにした。

 

 

「まぁ口利きはするから支部長が良いというなら、俺たちがいるときは守るよ」

「ありがとうございます!」

(よっしゃー! あとはこの肉体をどうにかできれば……!)

 

 

 こうしてクレマンティーヌは二面性のある受付嬢として、冒険者部門に加入することになったのだ。クレマンティーヌはゴキブリを見て、ひぃっと声をあげてレイナースに助けを求めた。




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クレマンティーヌの影が薄いとあったので急ごしらえ!
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