【一区切り】レメディオスソード   作:傀儡兵C

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釣られた魚たち

 問題の貴族が住む屋敷はそれほど立派ではなかった。セシルが聞いた話では子爵ということだったが、男爵の方がまだマトモな屋敷に住んでいるだろう。

 ティラと打ち合わせて、潜入する手はずを整える。身体能力任せではない隠密行動ではセシルよりティラの方が手馴れている。

 

 

「表向き、王国はまだ魔導国の属国じゃない。中に入って、不正の証拠や奴隷を見つけてから本格的に活動する」

「そういうのは確かにティラの方が上手いだろうな。しかし、なんで悪徳貴族は律儀に書面を残すのかねぇ。理解に苦しむ」

「あ、あえてリスクを共有することで、裏切らないようにするんですよ。それに裏も結局は社会ですから……」

 

 

 ちょっと考えれば分かることでしょー、という声がセシルにも聞こえた気がした。クレマンティーヌは現状、無理やり連れまわすのに向いていない。だがズーラーノーンの幹部が報復に来るための大事な餌だ。館にはティラだけが入って、セシルはクレマンティーヌを見ておく。

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

 

 そう言うとティラの姿がかき消えた。忍者のスキルだろう。ユグドラシルではレベル六十以上の高位職だったが、どういうわけかティラはそのジョブになっている。ハンゾウたちによって鍛えられているとはいえ、そこまでのレベルではないとセシルは考えている。

 

 

「不可視化と移動を兼ねたスキル……なんだったかな。それにしても不可視化は場所が分かっていても、混乱しそうになるが注意しないとな。そこのアンタもそう思うだろう?」

「え……」

 

 

 寂れた地にある屋敷だ。敷地のすぐそばに林が広がっている。そこにある一本の木にセシルは注目していた。クレマンティーヌも遅まきながら気付いたらしく、慌ててスティレットを抜いて、それを盾のように構えた。

 

 

「ほう気付いていたか。イジャニーヤのティラさえいなければ問題ないと思っていたが……久しいなクレマンティーヌ、我ら高弟から裏切り者が出るとはな」

「いや、色を変えて景色と一体化してただけじゃないか。そのぐらいならスキルも武技も要らん。知り合いかクレマンティーヌ?」

「あー、はい。マッテオっていうやつです。本当に久しぶりねぇ。基本的に顔なんて合わせないし……今の私なら楽勝と思ってるんだろうけど、早々簡単にいかないわよー。っていうか無理。へへ……じゃあお願いします」

「何かキャラが変わってきてるな……」

 

 

 そう言うとクレマンティーヌはセシルの後ろにしっかりと隠れた。卑屈になったと思われていたが、頭の中身がささやくことを口にしたのだ。それだけセシルの力量を信頼している証であるということであり、コバンザメのような現在のクレマンティーヌを表している。

 

 

「ふん。ズーラーノーン十二高弟が一人、マッテオだ。クレマンティーヌの盾にされて可哀そうにな。名前ぐらいは聞いておいてやろうか」

「どうも、セシルです。さっさと終わらせようか」

 

 

 セシルがゆっくりとシチセイを抜いている間に、マッテオは勝利を確信した。マッテオの武器は武器の展開の速さだ。マッテオはフェンサーであると同時に、念動(サイコキネシス)の類まれな使い手だ。白い金属の杭を相手の周囲に高速で展開して、逃げ場のない状況に置くのが必殺の陣形。

 彼を前にゆったりと動くなど自殺行為に他ならない。事実、セシルの周囲には杭が展開を完了して、一気に突き刺さらんとした。

 

 

「遅い相手などこのようなものよ……次はお前だクレマンティーヌ。ゆっくりと一本一本突き刺してやろう」

「……ゆっくりと動くのは良くないんじゃなかったか?」

「何!?」

 

 

 白の鉄杭は確かにセシルに向かっていた。だが、その一本たりとも肌に届いていない。

 

 

「〈要塞〉……なんだが、このレベルだと単純に防具で止まったかもしれなくて、効果が分からんな」

「馬鹿な! 私の念動(サイコキネシス)を単なる〈要塞〉で……」

「はい。ご苦労様」

 

 

 続けて言おうとした言葉が何か分かる前に、シチセイがマッテオの首を切り落とした。あまりに速く切り落とされた首は血を吹き出すまでにしばらくの時間を要した。

 

 

「武技だと目立ってしまうから通常攻撃だ。手加減したのは許してくれ」

 

 

 マッテオは反転した視界が途切れるまで何が起こったか、理解できなかっただろう。ただ自分の技が通じなかった驚きで止まっていた。

 

 一方その頃……エ・ランテルではレメディオスたち“金鎖”はじりじりとした気分を味わっていた。セシルが出発してからまだ数日だというのに、こらえ性がない。

 それも仕方ないのだ。彼女たちはセシルがあまり女性の誘惑を断らないことを知っている。正直なところ、レイナースと関係を持っていないことを不思議に思ってるぐらいだ。

 

 

「ぐぬぅ……ズーラーノーンめ。攻めてくるなら攻めるとはっきりして欲しいものだ」

「姉様、何人攻めてくるか分からないんですから仕方ないですよ。個人的にはこの組合の戦力の無さを責めたいところですが……」

「いや、申し訳ない。ズーラーノーンと言えば、英雄人外の領域に踏み込んだ者もいると聞く。我らだけでは……」

「まぁまぁ、モックナックさんたちは仕方ありませんよ。私たちの代わりに外回りしてくださってますし」

 

 

 魔導国の冒険者で実力があると言えるのは“金鎖”と“虹”ぐらいしかいない。他国から移籍してくる者もまだ少ない。やはりアンデッドの治める国というのは、まだまだ抵抗があるのだろう。

 ただ意外にも国内からは成り手が多かった。他の冒険者と違って一攫千金には遠いが、一定の給金が支給されることから安定した職業になっている。

 

 

「亜人の冒険者もある程度まではすぐ上がれますが……下の充実ぶりに対して上が少なすぎますね。まぁそう簡単にミスリル級以上が誕生するわけもないですか」

「元はと言えば、あのズーラーノーンの女を雇うからこういうことになるのだ……クーデリカとウレイリカは無事なんだろうな」

「ユリ・アルファと死の騎士(デス・ナイト)がいる以上、あちらの方が安全かもしれませんよ」

 

 

 今日は受付嬢をしているレイナースが苦笑交じりに言う。彼女は以前、ナザリックを訪れた際に死の騎士(デス・ナイト)とユリ・アルファを見ている。死の騎士(デス・ナイト)ですら視界から逃げたかったのに、戦闘メイド相手に何かできる気がしない。

 とはいえ、いずれ孤児院から出ることになる上に、ユリが常に張り付いているわけにもいかないだろう。ついでに言えば邪悪な存在であるズーラーノーンを滅ぼすことは良いことのように思える。

 

 

「まぁ戦闘的に言えばお師匠は心配ないですわね。御三方が気にしている私的な関係についてはわかりませんが」

「そ、そんなことは気にしていないぞ。うむ、私は心が広いからな」

「気にしてますねぇ、姉様。私は素直に心配ですが。また人を拾ってきそうな気がしてなりません」

「まぁセシルさんは最近、ちょっと様子が変わりましたね。以前はもう少し冷徹な方でしたが……良いことなのですが、それで何か無理をしないかという点では、私も心配です」

 

 

 カルカが締めくくるようにそう言った。女っ気の多さについてはもう諦めている。セシルの向かうところ、女性あり。今回も情報収集のために王国の“蒼の薔薇”と接触するだろう。

 そう考えている最中にレメディオスがもたれていた柱から身を起こす。

 

 

「ケラ、ちゃんと記録を取っていてくれ。抜剣の罪でこちらが処罰されても面倒だからな」

「レメ、どうしまし……」

 

 

 カルカが聞こうとした瞬間に扉がわずかに開いた。そこから一陣の風が吹き起り、鋼が激突する音が響き渡った。レメディオスの聖剣とつばぜり合いを演じている相手は人間ではなかった。まるでスライムのように体をうねらせながら布の塊があるだけだ。

 

 

「見たことのない亜人だな。まったく、これでは私を置いていって正解ということになるだろうが!」

 

 

 モックナックが既に下級冒険者たちを上階に避難させ始めており、下には侵入者と“金鎖”がいるだけだ。

 

 

「ジュウニ、コウテイがヒトリィィ、オシェイィィィ」

()()()()、まともに名乗れるようになってから来い! “金鎖”のレメが相手だ!」

 

 

 オシェイは体をよじってつばぜり合いから抜け出して、仕切り直した。わずかな接触でレメディオスは黒い布に隠れているのは剣だと判断していた。

 

 

「ふん。忌々しいがかなりやるな」

 

 

 現在のレメディオスに近い実力だ。彼女はそう判断しながらも、いささかの恐怖も覚えなかった。心配なのはクレマンティーヌがいないと知って、相手が逃げ出そうとするかどうかだけだ。

 

 

「来い。稽古を付けてやろう」

 

 

 良い刺激だと思いながら、レメディオスは不敵な笑みで再度の突撃を迎え撃つ。

 英雄の領域にある者同士の戦いが始まった。




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敵が名乗るのはメタ的な事情です
全員アインズ様に馬鹿判定されてしまう…!
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